・社会人になってからのDさん


 ソフトウェア技術者として就職することになります。同期で入ってくる新人は、営業職やコンサル職もあって本当にモテそうなタイプ、つまりファッションセンスが良く女性に対するコミニュケーションスキルの高い人もいました。この頃には女性に対するコミュニケーションスキルがないというコンプレックスはほぼ無くなっていたので、これまでの大学時代のコンピュータ学科の雰囲気とは違い、いろいろな人がいて面白いなあと思えるようになっていました。この時期にほぼ脱オタが完了したと思います。その後紆余曲折ありましたが、僕を完全に脱オタさせてくれた女性と結婚して現在にいたります。現在ファッションは結婚してしまいましたのでかなり落ち着いてしまっていますが、「おじさん」と呼ばれないようにするという意識は常に持っています。自分が趣味が良いと思える所にお金をかけるのは楽しいことだなと思えるようになっていますので、ブランドもののスーツやバックを買うことも余り躊躇しません。飯の種になったオタク趣味であるコンピュータもファッションセンスを考えてマッキントッシュをつかうようになりました。

 その後、子供の父親となり、じつはオタク的趣味も徐々に復活しています。つまり一緒に子供の好きなアニメを見たりゲームを一緒にしてあげたりという感じです。僕はオタク的趣味を特に小学生の間までに、できるだけふさわしい年齢までに経験するというのは悪いことだと思っていません。僕は小学生の頃までにそういうものにあまりふれたことがなく、逆に中学以降で傾倒しすぎたのではないかなと思っています。親は男女のコミュニケーションを身につける思春期以降にオタク趣味に傾倒させないようにする必要があるのかもしれないと今考えています。またファッションという考え方は親の考え方の影響が大きく、小さい頃からの積み重ねも大きな要素と考えていますので、かなり意識的に子供に感性を磨かせようとしています。




 ・コンピュータ業界とオタクに関するDさんの私見

 コンピュータ業界とオタクは親和性の高いものとされる見解をしばしば見ることがあります。これは、人間とのコミニケーションがとれなくてもコンピュータとのコミュニケーションがとれれば優秀であるという考え方と、この業界が人的集約産業で頭数が必要であるという側面からこれまで妥当な見解であったと考えています。

 確かにコンピュータとのコミュニケーションは特殊なコミュニケーションであり、人的コミュニケーションが得意な人間が得意である才能とは全く異質なものです。コミュニケーション方法の異質さから思考方法もかなり違うため、コンピュータ業界では技術的観点と営業的(政治的)観点という二つの観点で問題をとらえる傾向があります。人間間のコミュニケーションスキルが低くても技術的に解決出来れば、その人は優秀であるということが出来る業界ですが、営業的(政治的)な問題を得意とするコミュニケーションスキルの高い人間と一対にならないと効果的でないことは言うまでもありません。

 また人的集約産業であるため、コミュニケーションスキルが低くても雇わざるを得ないという側面もあることを見逃さないでください。

 現在この業界は新規のテクノロジーの開発がほぼ一巡し、テクノロジー側の発展は停滞期に入ろうとしています。現在は「プロジェクトを効率よく運営するか?」「効率的なマーケティングを行いうまく製品を売っていくか?」という部分が発展している状態だと考えています。つまりこれまでオタク的なコミュニケーションスキルの欠如した人間の活躍する場面は総じて減っていく傾向にあると考えています。

 このためコンピュータ業界にとっては、オタクは極めてマーケティングターゲットしやすい消費者としてとらえても、業界の中に人材として取り込む傾向は縮小するのではないかと予想しています。







 Dさん、貴重な経験談ありがとうございました。

 服飾面でいかにシャチホコばったところで、モテる男性や異性を前にしてオドオドするようでは話になりません。脱オタの目的となるのは、オドオドしたファッションオタクになることではなく、誰ともある程度のコミュニケーションがとれるようになる事でしょうから、様々な人達との出会いを面白いと思えるようになった事こそが、Dさんの“脱オタ”が完了した証と言えるかもしれません。もしコミュニケーションスキルの乏しいオタクのままだったら、こうはいかなかった事でしょう。彼ら彼女らを前にして、ドキドキキョロキョロといったところが関の山で、“おもしろいなぁ”なんて余裕をかましていられないんじゃないでしょうか。

 子育てにおいてオタク趣味をどうするのか?どのぐらいの時期にどのぐらいの距離でオタク趣味と付き合うのが“無益というよりは有益”なのでしょうか?私個人は、まだどれぐらいまでが適切だという結論を出せずにいます――その子の素養やその子を巡る環境、オタク趣味の内容などによってまちまちでしょうし、何がどこで子供の為になるのかは見えにくいですから――しかし、小さい頃に過剰に遊びを制限され(特にオタク趣味)、中学校以降にオタク趣味がブレイクした人達が、どこまでも深いオタク井戸に落ちがちな傾向は、私も認めるところです(注:ただ、これは中学以降にオタク趣味に耽溺した事が問題の種ではなく、中学以前までに制約の多いorコミュニケーション上の不利を強いられた事が問題の種である可能性について十分検討しておかなければなりません)思春期までの抑圧や思春期前期の挫折→オタク趣味への耽溺という流れは、あまりにも多くのオタク達にみうけられる生育歴です。時代が流れて1980年代や1990年代の子供社会とは大分変わっているところはあるでしょうが、変わらない部分もある筈。同じ遠回りを子供にはさせたくないというDさんの気持ちが伝わってきます。

 コンピュータ業界の話もそうですが、オタクを巡る状況は時代の流れとともに変化しています。小さい頃にスーパーマリオドラクエ123ZZガンダム(敢えてZガンダムにしていない理由はお察し)が入り口になり、その後セーラームーン同級生2エヴァあたりでオタク魂を爆発させた世代も、もういい歳にさしかかっているわけで、今後は“子育てとオタク趣味”についての議論も要請されるようになってくるかもしれませんね。そういや、コミケでよくパパオタクとママオタクにコスプレさせられたさくらちゃんや小狼くんなんかを見かけますが、こういった子供がディープなオタクになっていくのか、コミュニケーションスキルがどうなっていくのかも全く分かっていません。結婚した・出来たオタクに関しても、結婚しない・出来ないオタクに関しても、歳をとってどうなっていくのか検証したいところです。


 ※本報告は、Dさんのご厚意により、掲載させて頂きました。今後、Dさんの御意向によっては、予告なく変更・削除される場合があります。ご了承下さい。