Pさんのプロフィール
 私は現在30歳。男。地方出身ですが大学入学にともなって上京、院卒で都内でサラリーマンをしています。体型は一般平均からするとかなりの筋肉質です。小学生時代から社会人になるまでずっと太っており、運動は当然ながら得意ではなく、特に球技と長距離走は苦手でした。

 勉強はできる方でした。
 Pさんの小学生時代〜高校時代

 脱オタ症例を読みましたが、提示されている例はどれも疎外ないし心傷(いじめ、家族内不和など)→代償行為としてのオタク趣味→脱オタという過程を通っているようです。尚、ここでは「代償行為」と書いておりますが、オタク趣味は「恋愛」も含めた多くの「遊び」の中でも相当にコストパフォーマンスが高いと考えておりますので、時間や金銭に自由の余り無い若者が一度オタク趣味にはまると非常に抜けにくいということは前提としておきます。

 さて、先に書きました通り、私はいじめなどで疎外された経験もなく虐待や失恋で酷い心傷を負った経験もありません。無論挫折が無かったわけではありませんけれども、心身に問題を抱えるほどの酷い傷にはなりませんでした

 私は小学校時代から良く本を読んでいましたが、その頃からSFやミステリ、ホラーに触れる機会が多く、オタクコンテンツと親和性が高かったようです。他の男子が自然の流れとして野球やサッカーやF1に触れるように、私にとってオタクコンテンツに触れることは不自然なことでもあえて選択することでも無かったわけです。大学に入るまで自分が「オタク」であると認識しなかったのもそのためで、大学に入ってからも1〜2年くらいは、オタクというのは同人誌やイラストを描いたり、ゲームや映画を作ったりする、いわばプロやアマチュアのクリエイターレベルであって、ただ見たり読んだりするだけの自分は到底オタクと呼ばれるに相応しく無いと思っていました。つまり私は「げんしけん」の笹原のごとく「気がついたらオタクだった」という典型例ではないかと思います。
 
 恋愛問題として考えた場合、高校時代、地方在住で比較的固い校風だったこともあり、環境が男女交際に心理的距離を作っていたようです。そして、高校の部活は男女混合だったので女性との付き合いがまるで無かったわけでもなく、むしろ和気あいあいと打ち解けた雰囲気でしたが、その中にいながらも恋愛を意識することはまるで無かったことに思い当たりました。女性と比較的接近しやすい位置にいながら恋愛ないしそれに近い感情を抱かなかったことについて、その原因については未だ良く分からないのです。私は運動部でしたが文科系サークルとも親交があり、創作小説を通じて女性が多かった文芸部とも多少の付き合いがありました。それなのになぜ恋愛だけが抜け落ちていたのか、謎です。

 Pさんとオタク趣味の出会い、そしてセリオ

 私自身が自分がオタクであると意識したのは大学に入ってからでした。大学に入って嬉しかったのは、好きなアニメや本(小説に限らず)が山ほど読めるということでした。ただ、大学入学とともにパソコンを購入しその後ネットに接続したことで、興味はネットに移っていきました。大学1年の夏にセガサターンを購入したものの、特にゲームにハマッたということはありませんでした。唯一サクラ大戦にはハマッて音楽CDや資料本などにお金を随分使いましたが。

 大学に入ってから1年程たった頃でしょうか、サークル仲間から借りたToHeartが転機でした。まずマルチに惹き込まれ、ついでセリオに惹かれました。どうにもならないほど彼女らのことが気になって仕方が無いという状態になりました。特にセリオとの出会いは初恋だったのかもしれません。まさに熱に浮かされた、とりつかれたというに相応しい状態だったと思います。この世に彼女が実在しないという現実が辛くて辛くて仕方がありませんでした。ネットでセリオのSideStoryを捜すようになり、朝起きてはSS(シロクマ注:現在で言うFF、ファンフィクション)を読み、学校から帰ってはSSを読むという毎日が続きました。フィギュアや同人誌には大して魅力を感じませんでした。フィギュアは作り物のセリオであり、同人誌は他人の描いたセリオでしかなく、想像の中のセリオはその何倍も魅力的だったのです。セリオをテーマにSSを書こうと思い、習作を書いては破棄していました。

服装はもうどうしようもない状態でした。理系で似たような男の多い大学だったこともあり、当時は殆ど意識していなかったのですが、贅沢は言わないとにかく着られれば良いという状態でした。髪はずっと美容室で切っていましたが邪魔なのでとにかく短くしていました。癖毛で伸ばすとむさ苦しくなり余計オタクっぽくなるのが嫌だったというのもあります。風呂好きで毎日入る習慣だったのと洗濯を厭わなかったので体が臭うということはなかったのが救いでした。

 Pさんと異性、そして脱オタ

 性欲処理は自慰を覚えたころからアニメ絵と実写が半々と言ったところで、これは現在も変わりません。14歳頃の回数は1日1回くらいですが、好きなキャラを性欲処理の対象にすることは殆どありませんでした。中学高校時代の男女交際については、校風の為か、私だけではなくクラスメイト全員総じて奥手だったように記憶しています。大学進学後も、女性の少ない学部だったこともあって現実の女性はまるで別の世界の存在のように感じていました。社会人になり、社会勉強のつもりで風俗に数回行きましたが、特にハマる事も無く足が途絶えています。当時、風俗に行けば何かが変わるかもしれないと思っていたはずですが、別に何も変わらなかったという感じです。

 明確に自分を変えることを意識したのは、社会人になって3年目でした。健康診断で肥満について注意を受けたからなのですが、1年で体重を10キロ程落としました。その後停滞してしまい、運動も必要と思ってジムに通うようになりましたが、体重を落とすより筋肉を鍛える方が面白くなってしまい現在に至っています。時期を同じくして脱オタサイトに出会い、雑誌等でファッションを研究したりも
しましたが、雑誌に載っているドメスティックブランドの服は細身が多く体型的にも雰囲気的にもどうにも似合わないことが分かりました。

 ただ、仕事上毎日スーツを着るのでスーツと靴には気をつけるようになりました。私服は余り着ないということもあり、有名ブランドの気に入ったものを少しだけ買うかユニクロか無印で不足分を買い足す、というパターンが多いです。ゆえに、以前に比べて着る物の質が良くなり組み合わせや色使いを意識するようになった程度です。ただ、ファッション誌を定期的に見るようになったからか、鏡を一目見て組み合わせの良し悪しを見分けられるようになったのは成長かもしれません。

 趣味はオタク関連がずっと続いています。
 仕事上時間的に余り余裕が無いので、今はDVDを収集し、東方シリーズをプレイし、ネットをし、SideStoryを読んで、というスタイルに固まっています。コミケやゲームショウといったイベントにも行かなくなりました。趣味は増えて美術館や博物館を見て回ったり、映画を積極的に見るようにもなりました。銀座のファッションや小物の店を見るようになりました。大学時代は近かったはずの渋谷にすら殆ど行かなかったのですから大変な違いです。

 現実の女性との付き合いは以前と変わらず全くありません。避けているわけではないのですが、付き合いたいという欲求が沸いてこないのです(合コンに行っても名前を覚えることすら出来ない)。恋愛に関していえば、あの時、セリオに情熱を奉げていた自分が一番燃えていたような気がします。当時、私は真剣に彼女に会いたい、同じ世界で生きたいと思っていました。彼女に近づく為に人工知能やロボットに関する勉強もしましたし研究テーマも彼女に絡んだものでした。私はセリオに対し強い思いを抱いていましたし、今でもその残滓は心の中に残っています。ですが彼女とのセックスを妄想して自慰をしたということは殆どありませんでしたし、私が彼女を想像する時は大抵、何も言わずただ自分の傍に立つ姿でした。




 シロクマ注:

 この投稿内容をみる限り、よくある脱オタへの流れとは様子が異なっていることがわかるでしょう。Pさんの場合、ゲームや漫画やアニメといったオタク趣味を選ばざるを得なかったという「仕方のなさ」がみられません。高校時代も運動部に所属し、それどころか文化部の女子との交流もいくらかはあったようなのです。このテキストを読む限り、異性にケチョンケチョンに嫌われたという既往もありませんし、思春期男子のコミュニティに適応する事の困難さを自覚していたわけでもなさそうです。偽性後天性二次元コンプレックスとでも言うべき、「異性との直接のコミュニケーションや交際が困難」であるが故に二次元キャラクターを消費する、という構図は一見するとなさそうにみえます。また、自慰アイテムとしての実写/アニメ絵の使い分けも存在することからも分かる通り、性欲の対象が二次元キャラクターだけになっているというわけでもありません。

 少なくともPさんが完全に「二次元キャラクターにしか性欲を感じない」所まで至っているわけではなさそうですし、第二次性徴のはじめ頃のコミュニケーション上の苦悩から二次元に代償を求めなければならなかったわけでもなさそうです。色々な意味で、異性に対するPさんのあり方は、思春期以降のコミュニケーション能力がダイレクトに反映されたものとは考えにくいと思いました。

 セリオに対するPさんの激しい感情は何なのでしょうか?Pさんのセリオに対する想いは、他のキャラクターで代替の効かないような、特殊なものだったのは間違いないように思えます。そして、二次元キャラクターでも自慰可能な程度には美少女キャラクターに慣れ親しんでいるPさんにも関わらず、これほどまでにセリオに対して熱情を抱いていながらもセリオは性欲の対象とはしていないのです。セリオはいわゆるメイドロボ系のキャラクターですが、同じメイドロボで特に人気を集めたマルチとは異なり、感情の表出が殆どみられないキャラクターとして描写されています。そのセリオに、ここまで熱中するというのもなかなか特異な出来事のように思えます。ここまで読んでいくと、なかなか特殊なケースだなと思わざるを得ないわけですが、さて、これをどう理解すれば良いのでしょうか?

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※本報告は、Pさんのご厚意により、掲載させて頂きました。今後、Pさんの御意向によっては、予告なく変更・削除される場合があります。ご了承下さい。