生きててよかった 外伝5 「管弦楽同好会」
Episode-04 【第四楽章:ラルゲット】








 みんなが紙コップを手に、席を立った。

 三年生にとって最後の打ち上げが、始まる。



 「‥文化祭、おつかれさまでした!乾杯!!」
 「「かんぱーい!!」」


 真田部長の乾杯を合図に、みんなが一斉に動き始める。

 “三年生と色々と話せる最後の時間になるかもしれない。”
 そう思った私は、自分に楽器の教えてくれた人の所に足を運んだ。




 「アスカ、フルートパートは一人になっちゃうけどしっかりね。
  もう、充分上手くなったから、心配しなくてもいいと思うけど‥。」

 「うん。
  先輩、泣かないでよ。
  せっかくの美人が台無しじゃないですか。」

 「あ、うん。でも、もうお終いだと思ったらね。
  3年間が、こんなに短いと思わなかった。」


 全部で六人いる三年生の中で涙を見せたのは、この人だけだった。

 この人は美人で優しいけど、絶対に泣かない強い人だと私は思っていたのに‥‥
 いつもは私より数段大人びて見えた先輩も、今は子供のように俯いている。


 「生駒先輩、またOBとして来てくださいね。夏の合宿の時とか。」

 「でも私、志望校が熊本大だから、もう、滅多に来れないよ。」

 「‥先輩‥‥」

 悲しそうな顔をしている先輩を相手に、
 私は何も言うことができないでいる。



 何とかしてあげたい、何か言ってあげたい。
 だけど、気の利いた言葉ひとつ見つからない。



 人の為に何かをしてあげたくてもできない歯がゆさ、
 見ている事しかできない悔しさ‥‥。

 自分が何も言えない子供だという事を、私は思い知らされた。



 「生駒先輩、そんな事言わなくても‥」

 「生駒、そんなに悲しむなよ、な。まだ卒業まで時間もあるし。
  ほら、惣流さんが困ってるじゃないか。」

 「真田クンは、平気なの?」

 「平気じゃないさ、でも今日までみんな精一杯だったから、
  後悔だけはしてない。」

 「うん。」

 突然やってきた真田さんが私の隣にやってきたので、私は
 その場を離れてシンジ達が騒いでいるほうに向かった。


 ううん、シンジの所に逃げ出したのかもしれない。



 結局‥‥その夜私は、最後まで先輩に何もできなかった。

 入部してからずっと、最後まで、何もできないまま、
 ただ、先輩を見送るだけだった。




   *         *         *


 それから半年後、熊本県の生駒さんから、私宛に一通の封筒が届いた。

 淡い緑色の便せんには、近況や高校時代の思い出について、色々と綴られていた。


 先輩が真田さんとその後つきあい始めた事を、私ははじめて知った。
 そして、卒業の時、遠距離恋愛が恐くて別れた事や、今は忘れようと
 色々やっているという事も。


 近況は、芳しくないようだった。
 志望大学に合格はしたものの、熊本の熱さに体が慣れず、
 いつも体がだるいみたいだ。
 学校も最近は週に一度行くか行かないかで、
 最近はローソンでバイトばかりやっているという。



 そして、最後の一行。

 妙に薄い字で書かれた「それでも私は幸せでした。だけど、アスカと碇君は、
 絶対に私達みたいにならないでね。」という一文を読んだとき、
 私はもう一度先輩に会って、出来ることなら恩返ししたいと、心の底から思った。



----------------------------------------------------------------------------


 演奏会が終わった次の日。

 それでも不思議と楽器が吹きたくなって、シンジと一緒に音楽室へ急ぐ。

 先輩達はいなくなっちゃったけど、友達はみんな残っているから、
 きっと大丈夫、私はやっていける。

 今日は、何からやろうかな?


 「惣流、碇、またお揃いで登場か!そんなにベタベタしててよく熱くないよなぁ。」

 「見せつけちゃって!キーッ!!」

 「ご、ごめん‥」
 「何シンジったら謝ってるのよ、これは不可抗力なのよ不可抗力!
  ユースケ達が、ひがむのは無理ないけど、俗に言う赤い糸って奴よ。」


 ひとしきりのバカ話の後、私達は楽器を取り出して練習をはじめた。




 「さあ、今日もがんばろっと。」


 早く上手になりたいから、今日もぎりぎりまでやろう。
 随分綺麗な音が出るようになったけど、まだまだ先輩には遠いし。


 曲を吹く時は感情を込めて。だけど、練習の時は、辛くても耐えること、
 周りに合わせなきゃいけない時は合わせること。

 管弦楽は、気持ちだけじゃどうにもならないからね。
 技術も要るし、協調性が無ければ合奏なんて出来はしない。


 音楽をやる上で大切な、もう一つな要素――自分らしさを表現する事――
 については、私は個性が強いから、元々大丈夫だと思う‥‥。




 「アスカ、今日もがんばってるね。」

 隣のシンジが手を休めて、私に話しかけてくる。

 彼の額にも、僅かに汗が滲んでいた。


 「仕方ないじゃん、もう先輩がいないから、フルート吹けるの私だけだもん。
  みんなの足を引っ張るのは、絶対イヤだからね。」

 「大丈夫、アスカは一生懸命やってるから、誰も文句なんて言わないよ。」

 「そういう問題じゃないわ。ほら、アンサンブルコンテストの地方予選も近いし、
  私がやらないと。」

 「あんまり無茶しちゃダメだよ。」

 「うん。」

 短い会話が、私を力づける。

 次の舞台まで、あと一月ちょっと。

 先輩が抜けてできた穴は、私が必ず埋める。

 埋めなきゃいけない。

 誰も、私の代わりにフルートを吹ける人間は、このサークルにはいないのだから、
 私がやらないと‥‥。



-----------------------------------------------------------------------------





 「な、なんだか怪しい雰囲気やな‥」
 「とにかく、客席入りましょ。」

 「ああ。」

 第二新東京市の一角にある長野県立文化会館、その大ホールには
 沢山の学生が集まっている。


 あちこちの高校の制服姿に加えて、通路に溢れる大小の楽器ケース。
 やたらと見かける演奏者に比べて、不思議と空席の目立つシート‥‥。

 これまで音楽とは全く縁のない生活を送ってきた鈴原トウジと洞木ヒカリの
 二人の目には、それは一種異様なうつる世界。

 だが、この雰囲気こそが、毎年のアンサンブルコンテストの常なのである。



 『‥‥では、これより、全日本アンサンブルコンテスト長野県予選・
  学生の部を始めます。』

 まばらな拍手の中を白髪の代表者が退場し、
 最初の演奏グループが舞台に進む。


 客席が、急に静かになった。



 『プログラム一番‥‥
  長野県立岩村田高校管弦楽部 管弦楽五重奏‥‥』

 「はじまるようやな。」
 「普通のコンサートと、随分雰囲気違うね。」

 「ああ‥‥コンクールやからな‥それにしても、お客さん、少ないなぁ。」
 「だけど、あんなおっきいステージの上に友達が乗るのよ、なんか、嘘みたいね。」

 「そういや、あいつらは何番目や?」

 「次みたいよ。アスカ、大丈夫かなぁ。」

 「あいつはシンジと違って、ここゆう時の度胸はあるから心配いらん。」

 「だけど、風邪引いてるみたいなのよ。
  微熱がどうのって、昨日電話で。」

 「ホントか?フルートゆうたら呼吸が大事な‥あっ!始まりおった!」
 小声で話し合う二人を咎めるように、
 ちょうどその時調弦の音がホールに響いた。


 まだあれこれ話したい気持ちを我慢して
 二人は口を噤み、ホールを満たしはじめたメロディに耳を傾けた。


----------------------------------------------------------------------------







 「おい、さっきの風邪の話、ホンマかいな?」

 最初の団体の演奏が終わるや、二人の会話が再開される。

 「ええ。だけど、代わりの人がいないって。
  あの同好会でフルート吹けるの、アスカだけみたいだし。」

 「そやけど二年と三年の先輩がおるって、ゆうとったで。」

 「二人ともやめちゃったんだって。それで、アスカ一人じゃ人手が
  足りなくて、吹奏楽部から応援まで呼んで‥それでもぎりぎりの人数なのよ。」

 「ホンマか‥あいつも、大変やなぁ。」

  高いホールの天井を見上げながら、トウジはふう、と大きく息を吐いた。


 『続いて、プログラム二番
  長野県立深想高校管弦楽同好会
  管弦楽九重奏 J.S.バッハ作曲 ブランデンブルク協奏曲 
  第四番ト長調より 第三楽章』

 パチパチパチパチパチ

 まばらな拍手に続いて、制服姿の九人の演奏者が袖から出てきた。

 緑のネクタイに白いカッターシャツの男子生徒と、
 白いブラウスに緑のスカートの女子生徒、合計九人。

 時代遅れと評判の悪い制服も今は気にせず、
 皆、背筋を伸ばして堂々と入場してくる。

 その中から二人が馴染みの人物を見つけるのに、時間はかからなかった。



 「ほ、ホンマにあいつらや!こうやって見ると、格好ええなぁ‥‥」

 「羨ましいわね。」

 「惣流、風邪のほうはどうなんやろ‥‥」

 「‥‥‥!?」

 半円形に並ぶ奏者の中、栗毛の少女を見つめるヒカリは、
 すぐに彼女の様子がおかしい事に気づいた。

 僅かにうつむき加減で客席を向いているアスカが、肩で息をしているのだ。
 スポットライトを浴びているにも関わらず、顔色もいつになく黒っぽい。


 「どうした、ヒカリ?なんか気づいたか?」

 「アスカ、肩で息してる‥あんなので、ちゃんと演奏できるの?」
 トウジに名前で呼ばれた事にも反応しないで、ヒカリは舞台を見つめ続けている。


 「あいつ、そんなに体調悪いんか‥‥」
 二人の心配を余所に、調弦が始まった。

 辛そうにチューニングを始める友人の姿を凝視しながら、
 ヒカリは演奏が無事に終わってくれる事を心から祈った。



------------------------------------------------------------------------



 深想高校管弦楽同好会の演奏が終わり、30分が経過した。
 他の演奏者とともに観客席に現れた栗毛の友人の姿に、
 ヒカリは言葉を詰まらせた。


 シンジや他の仲間達に囲まれる彼女を遠目で見ながら、
 ヒカリは先ほどの演奏を、思い返す‥‥。





‥最悪のコンディションの中、それでも最後までアスカは必死だった。

 それは、誰の目にも明らかだった。


 だが、曲中に出てきたフルートのソロや旋律は、どれも流麗な
 演奏というにはあまりにほど遠く‥‥
 他の楽器が主旋律のフレーズにおいても、彼女がミスを繰り返しては
 足を引っぱっていた事を、ヒカリは記憶している。


 素人の自分が解るくらいのミスだ。おそらく、審査員にはもっと沢山の失敗や
 問題点を指摘されるのだろうとヒカリは思った。



 「惣流‥‥あいつ‥‥」

 「‥‥。」

 「ヒカリ、お前、何かしてやれへんのか。」

 「‥‥今は、碇君達がそばにいるから、やめとくわ。
  だけど、明日、会ったときに何か言ってみる。」

 「ああ、頼む。」


 “最近のアスカは責任感も出てきたけど‥‥でも、まだ‥‥”

 ヒカリは、栗毛の友人の明るさの影に潜む、
 本当の弱さと脆さを、よく知っている数少ない人物の一人である。



 「鈴原君は信じてくれないかもしれないけど、あの娘、すごく繊細で
  傷つきやすいのよ。」


 中学校時代、精神崩壊を起こす寸前のアスカが彼女の脳裏に浮かぶ。
 冷たい周囲を、無力な自分を責めていた、あの頃のアスカ。

 “アスカは、よくがんばったと思うもの‥‥”



 そんな言葉をかけたら、また彼女は泣き出してしまうような気がしてならない。

 ヒカリは、友人にかけるべき優しい言葉を見いだせず、途方に暮れた。



----------------------------------------------------------------------------


 「私が、いけなかったんです。風邪をひいたとか、熱があるとか、
  そんなの言い訳です。金賞を取れなかったのは、
  みんな、私のせいです。皆さん、すいませんでした。」


 どれだけ責められても、仕方のない事を私はしてしまった。
 みんなが頑張って目指してきたものを、私が出来なかったばっかりに、
 全て台無しにしてしまった。


 「気にしないで、アスカ。こういう事も、あるわよ。」
 「あんなに練習してたお前の事を、誰も責めたりはしないさ。
  だから、もうそんな事言うな。」

 いつもはきついツッコミばかりのカズミが、
 練習中は厳しいユースケが、私を慰めていた。

 だからこそ、私は、自分が、悔しい。
 みんなの努力をブチ壊した自分が、悔しい。

 そして、慰めにもたれかかりそうな自分が、今もゴホゴホ咳を
 している自分が、許せない。



 「みんな〜、審査員の総評、届いたよ。」

 二年生の代表者が、総評の書かれたメモを持ってこっちに走ってきた。

 やだな。

 だけど、みんなの視線が集まって‥

 「じゃあ、読むぞ。どれどれ‥‥個人個人のレベルの高さを感じさせる、
  高級なアンサンブルだったと思います。間奏部のバイオリンソロも、
  華やかさが前に出た、見事なものでした。惜しむらくは、フルート奏者が
  著しく体調を損ねていたために、全体的なハーモニーの本来の姿を聞き取る
  ことが出来なかった点です。次の機会には、フルメンバー完全な状態での
  演奏を是非聴かせて欲しいものです。 ‥‥以上だ。みんな、お疲れさま。」




 「やっぱり、私がみんな悪かったんだ‥‥」

 客観的で正しい総評に、じわりと目が滲んだ。


 この場で自分が泣くことが、とても周りに迷惑な事は判っていた。

 けど、私は自分をコントロールすることが、できなかった。


  *        *        *


 私とシンジは打ち上げを辞退し、家に帰った。

 『熱があるのは私だけなんだから、シンジは打ち上げに出なさいよ』って
  言ったんだけど、彼は“家には誰もいないから”と言って、
  私に付き添う意志を曲げようとしなかった。


 カズミやトシオ、ユースケ達も、言うことは同じ。
 私について帰るように、シンジに何度も繰り返していたのを覚えている。



 「さ、アスカ、もう着いたから。」

 「う、うん‥‥」


 玄関のキーロックを外し、よろよろと靴を脱ぎにかかる。

 体が重い。
 楽器をはじめ、荷物はみんなシンジに持って貰っているんだけど、
 それでも重い。体が鉛になったみたい。


 「さ、布団ひくから、ちょっと待ってて。」

 「う、うん‥‥。」

 シンジが押入を開くのを眺めながら、冷たい畳の上に腰を下ろした。
 そのとき、私の目の前がフッと暗くなり‥‥そのまま私は気を失った。



------------------------------------------------------------------------------







  「‥‥あれ?」

 見慣れた白い天井が、私の目覚めを待っていた。

 体にかかる布団が重い。
 いつの間にか、寝かされていたみたいね。


 確か、フラフラしながら家に帰って、シンジが布団をひいてくれるのを
 見ていて‥‥ああ、その時に意識をなくしちゃったんだ、私。


 それにしても、息が熱い。
 肺にカイロが入ってるみたい。
 足や肩の関節が悲鳴をあげている。

 そのくせ背筋だけははすごく寒い。
 頭が重くて、心臓の拍動に合わせてズキズキ痛む。

 ほとんど最悪ね‥‥。



 トントン

 「アスカ、入るよ。
  あ、目、覚ましたんだ。」

 シンジが部屋の中に入ってきた。
 でも、首を起こして顔を見る元気もない。


 「体のほうは?」

 「‥すごくつらい。」

 「顔、まだ赤いね‥‥。」

 私が首を曲げるのが辛いと知ったのか、不意にシンジの顔が
 私の視界いっぱいに入ってきた。

 心配と不安が入り交じった、中学生の頃みたいな瞳で、
 私を見つめている。


 「寝かせてくれたんだね。ありがと。」

 「何か、食べたいものとかない?」

 「‥‥‥なんにもいらない。」


 「じゃ、ちょっと、熱計るから、口を開けて。」

 「うん。」

 体温計をくわえて待つこと、約一分‥。




 ピーッ

 「9度6分もあるや‥‥どうしよう。」

 シンジの言葉に、思わず溜息が漏れた。
 熱っぽさを帯びた自分の吐息が、自分のものじゃないみたい。



 熱があって辛い上に、昼間の出来事の事が思い出される。

 昼間も今も、私は何もできないまま、ただ、優しい友達や
 先輩、シンジに迷惑ばっかりかけてきた自分。


 体も辛いけど、それだけじゃない。


 私は、こんな自分が、嫌い。
 前と違って周りは好きだけど、こんな自分は嫌い。
 もう、このまま熱さで溶けて、消えてしまいたい。


 「僕、お医者さん呼んでくる。」

 「でも、こんな時間には、どこのお医者さんもやってないわよ。
  それに、一晩寝れば、良くなるかもしれないし。」

 「そんな‥‥」


 「シンジ、あんまり無理しないで。
  シンジが風邪ひいたら大変だし、私、これ以上迷惑かけたくないし。」

 「何言ってんだよ!迷惑だなんて、全然思ってないよ、僕。」

 「だって‥‥」

 「迷惑だなんて、絶対に思わないよ。風邪をアスカから貰ってアスカが治るなら、
  うつされてもいいくらいだよ。」


 私の目をしっかり見つめながら、僅かに早口でそう言ってくれた。

 少し、怒ったような、真剣な、でも優しい、茶色いふたつの瞳。


 「シンジ‥‥」

 「何?」


 「シンジって、ホントに私のことが好きなんだね。」

 「当たり前だよ。アスカがいなくなるのも、アスカが悲しい顔してるのも、
  アスカが苦しむのも、イヤなんだよ。」「いつも言ってるけど、
  ホントにアスカが、好きなんだ。だから、何でもする。してあげたいんだ。」



 「‥‥‥ばかね、シンジ。」

 「そうかもね。だけど‥‥」
 「でも、私も、おんなじくらいばかかも。」


 「そっか‥‥アスカも、おんなじなの?」

 「‥‥うん。」



 「じゃあ、僕のお願い聞いてくれる?」

 「何?」

 「今日は、もう寝ること。
  それと、風邪が治ったら‥また僕らと一緒に、音楽やろう。
  みんな、アスカが元気になってくれるのを、待ってるから。」


 「‥‥。」

 「アスカ、返事は?」


 「‥‥うん。」

 喉を絞るような声しか出なかったけど、何とか私は頷き、
 うつぶせになってシンジから視線を逸らした。

 体以上に目が熱い。
 みっともないものが、目から溢れはじめた。



 「やだ、こっち見ないであっち行って。」



 だけど、シンジはいなくなるどころか、私の顔を両手で無理矢理掴んで‥

 「なっなにすんの‥」

 私の唇を奪った。







 「アスカは、僕なんかには勿体ないくらい、いい娘だよ。」

 「‥‥どういう意味?」


 「そういう意味。
  アスカ、お茶、入れてくるね。」

 それ以上は何も答えず、シンジが部屋を出ていく。


 唇に残る、キスの柔らかな感触。

 体のほうは相変わらず熱かったり寒かったりだけど、
 涙だけは止まっていた。





                          →to be continued








戻る   抜ける   進む