生きててよかった 第1部 「生きててよかった」
Episode-06 【母の胸の中で】








      「いき‥て‥る」








 いつの間にか、エヴァの中に乗っていた。

 ううん、乗せられていた。





 薬のせいかな。

 すごく気持ち悪い。





 でも、なんで私が?



 私なんて要らないのに。

 エヴァに乗れない私なんて、誰も要らないのに。

 私の事なんて、誰も要らないのに‥。







 ドォオン



 「ギャッ!!!アアッ!!‥‥ッ!!」



 突然の爆発のせいで、エントリープラグの天井に頭を打った。

 痛みを感じて叫ぶ自分に、僅かな驚きを感じていた。



 「‥‥っ!!」



 「!!!!」



 続く、爆発。



 恐い。

 イヤ!死ぬのはやっぱり恐い。

 このまま死にたくない。



 生きたくないけど、死ぬのは‥それでも恐い!!!





 「しぬのは‥いや」









 「しぬのは‥いや」



 『生きなさい』



 誰?誰の声?





 「しぬのは‥イヤ」

     『死んではダメよ』

「しぬのは‥イヤ」 

  『生きなさい』





 生きなさい?

 私が?

 死んではダメなの?



 なんだろう?懐かしい声‥。







        「しぬのは‥イヤ」 『死んではダメよ』





     「しぬのは‥イヤ」   『殺さないわ』 「しぬのは‥イヤ」



       『一緒に死んでちょうだい』   「しぬのは‥イヤ」

    『まだ‥死なせないわ』  「しぬのは‥イヤ」  『まだ、死んではダメよ』

   「しぬのは‥イヤ」  『まだ、生きていなさい』 「しぬのは‥イヤ」

      『死んでちょうだい一緒に!』  「しぬのは‥イヤ」 『死なせないわ』

    「しぬのは‥イヤ」『死んではダメよ!』

   「しぬのは‥イヤ」 「しぬのは‥イヤ」  『生きなさい!』 「しぬのは‥イヤ」

      「しぬのは‥イヤ」  『死んではダメよ!』 「しぬのは‥イヤ」

    「しぬのは‥イヤ」「しぬのは‥イヤ」 「しぬのは‥イヤ」「しぬのはイヤ」

     「しぬのはイヤ」「しぬのはイヤ」「しぬのはイヤ」「しぬのはイヤ」







       「‥死ぬのは‥‥イヤァアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」











 ああ、頭に、イメージが流れ込んでくる‥‥





 私だ‥‥。ちっちゃかった頃の‥まだ、泣くことを知っていた頃の、私だ‥。



 「まま‥‥ここにいたのね‥‥」





 ママ‥‥ママだ‥‥!!!

 ママがいる!ママ、笑ってる!!





 光の中、ママが私に手を差し伸べていた。

 優しかった頃のママだ‥。

 私を愛してくれたママだ‥‥。





 ママ、ずっと一緒だったのね。

 ずっと、エヴァの中で私を見てたのね。



 生きてたんだね、ママ。



 これからは、いつまでも一緒だよね、一緒にいてくれるよね、ママ!!!





            『そうよ、だから生きるのよ‥‥』



               「ママッ!!!」







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 迷いは無かった。



 全ては生きるために。

 今を生き残るために。



 私とママの命を脅かす目の前の敵を倒し、生き残ることよ!





 機体が軽い!

 もう、自分の体そのもののように感じられる。



 エヴァ弐号機は‥ううん、ママの心を持った巨人は、私の手足。

 ママと私は、これからは一緒。





 「ママ、ママ、わかったわ!!ATフィールドの意味!!」



 「私を、見てくれてる!!」



 「私を、護ってくれてる!!」



 ATフィールド、心の壁‥‥。

 今は、その意味がわかる。



 私を、人を形作り、守り、お互いを認識させるもの‥それが、ATフィールド!



 私を守ってくれる‥。

 私の心を守ってくれるの‥‥‥。





 「ずっと、ずっと一緒だったのね、ママ!!!」



 『そうよ。だから、生きて』





“う、うわ〜〜〜!!!”

“た、退避、退避〜〜!!!”

“悪魔か!?”



 知らない男達の声が聞こえたけど、気になるもんか!

 降り懸かる火の粉は、払いのけるのが当たり前だもん!



「うりゃぁああああああ!!!!!!」





 私は、それらに人間が乗っている事も忘れて、刃向かう全てを破壊し尽くした。



 『生きるのよ』

 『死んではダメよ』



 ママの声がする。

 だから、どんな攻撃だって恐くはない。



 “ケーブルだっ!奴の電源ケーブルっ!そこに集中すればいい!”





 あっ!



 ケーブルが切られた。

 いそがなきゃ‥‥。



 「撤退、撤退〜〜!!!」

 「航空隊、陸上部隊の退避を支援せよ!!」

 「保ちません!保ちませんよ!!!」



 あと5分、いそがなきゃ‥‥。



 『生きなさい』

 『死んではダメよ』



 うん、わかってる、ママ。

 絶対、生き残るから。

 ママと一緒にね。



 「アンビリカルケーブルがなくたって!」



 「こちとらには一万二千枚の特殊装甲と」

 「ATフィールドがあるんだから!!」





 飛んでくる戦闘機をたたき落とし、戦車を踏みつぶす。



 対要塞用の大型ミサイルも、ATフィールドのお陰で恐くないわ。



 痛みも、全然感じない!





 落としても落としても出てくる戦闘機の群、だけどっ!!





 「負けてらんないのよ!」



 「あんた達なんかに!!!」



 群がる戦闘機を、しゃにむに壊した。

 自分とママの力に、どこか酔いしれていたかもしれない。





 と、諦めてくれたのだろうか、あれほど押し寄せてきた敵が、

 突然潮のように退き始めた。





 「ママ!みんな、逃げてくわよ!!」



 内蔵電源はあと4分。

 もう、大丈夫ね。



 『頑張ったわね、アスカ』







 でも、それは早合点だった。

 数秒後、私は空から降りてくる白い悪魔に気がつき、

 視線を釘付けにされたのだ。





 「‥‥‥エヴァシリーズ、完成していたの?」





                          →to be continued








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