生きててよかった 第1部 「生きててよかった」
Episode-01 【ジレンマの生み出した絶望】








冴えない奴。

それがあいつに対する私の第一印象だったわね。





苦労してパイロットに選ばれたわけじゃない。

格好悪いし、ネクラだし。

つまんない男ね。

バカ。まさにバカシンジ。

人との付き合い方を全然知らない奴。



そのくせシンクロ率と戦果だけは私以上‥‥嫌な奴。



だからか、ミサトも加持さんもネルフのみんなも、あんな冴えない奴を一番大事にして。

何かもう、とにかくムカつく男だった。







だけど、あいつとはこの何カ月か、一緒に戦い、一緒に暮らした。

一瞬とは言え、心を重ねて敵を倒した。

浅間山の火口の中、死にそうだった私を助けてくれた。

他にも楽しい事が無かったと言ったら嘘になる‥なるんだけど‥‥。




だからかもしれない、あいつが気になった。

認めたくなかったけど。

イライラを感じるくらいに、あいつをを気にしていたと思う、一時期の私は。





でも、優しくしてくれると思わせておいて、私を大事にしてくれるには

ほど遠かったから‥‥最後には幻滅させられて‥‥。



“してないよ、途中でやめただけだよ!!”

“エッチ痴漢変態しんじらんな〜い!”



         “私だって、胸だけ暖めれば、少しはオッパイが大きくなるのかな?”

         “そ、そんなの、聞かれたっわかんないよ!”

         “つまんない男‥‥”





        “ねえ、シンジ、キスしよう”

             “‥‥‥”

       “鼻息がこそばゆいから、息しないで”





ホンット、一番最低のタイプよ。

私が近づいても、あいつは目をそらすばかりで。

私が何かしようとしても、どうでもよさそうな顔するばっかりで。





勢いでしちゃったキス。

確か‥‥加持さんがミサトとヨリを戻しているって気づいた夜。



緊張しまくりのあいつの顔が目に浮かぶ。

私だって、初めてだったのに、すんごくドキドキしてたのに、

シンジからは何もしてくれなかった。

だから、私から無理矢理するしかなかった。





でも、そのとき唇から伝わって来たものは、

雑誌で書いあるような“甘いときめき”でも“幸せな気分”でもなく、

ただ生暖かい、嫌な嫌な感触だけだったのよ。



上手く表現できないけど、とにかく不快で悔しくて悲しくて‥‥

何度もうがいをしたの、覚えている。





あの時、はっきり判った。



あいつも周りの奴等と同じだって事、私をちゃんと見てなかったって事がね。

色々してくれたけど、結局本気で私を見てくれなかったのよ。



少なくとも、大切な人としては見てくれてなかった、間違いない。

曖昧なままにしておきたかっただけなのよ、どうでもいい存在にしたかったのよ。

私を子供扱いする加持さんや、私を煙たがるミサトと同じね。





あいつにとって私は、代わりの効く人間、ミサトやファーストとおんなじ、

ううん、ひょっとしたらそれ以下かもしれないってね。



実際、ファーストと仲良さそうにしてる所も、いっぱい見た事あるし‥‥。



あんなバカシンジでも、見てくれたら少しは気持ちよかったかもしれないのに‥。

不器用でもいいから肩を抱いてくれたら、きっと嬉しかったのに‥。







嫌な奴!

だから、イチバン嫌な奴よ!

私を好きじゃないなら放っておけばいいのに、中途半端に優しくして、

助けて私の心を揺さぶって!



‥‥そのくせ私を追い抜いて、何でもないような顔でいつも過ごして。

‥‥私の心の痛み、何にも、ホントに何にも気づいてくれなくて。







私が最後に戦った時だって!

意地悪な大人達が私をどう扱おうと、鈴原の時みたいに頑張ってくれることを‥‥

‥認めたくはないんだけど‥‥私は心のどこかで待っていたかもしれないのに。





でも、あの時シンジは助けてくれなかった上‥‥。



何が『よかったね』よ!

成す術も持たないまま、エントリープラグの中で汚され続けた事、知ってる癖に!

なんにもしてくれなかった癖に!!



あいつ、ファーストの時は助けに向かったのに私の時は来なかった。

あいつにとっても、あんな奴にとっても、私の価値って

ファースト以下なのね。







だからきっと、エヴァに乗れない今の私なんて、

誰から見てもホントに何の価値もない‥‥。








「綺麗な空‥‥」





一体、いつになったら死が訪れてくれるんだろう。





エヴァが動かなかったあの日から、もうだいぶ経つと思う‥‥。

人間って、結構丈夫に出来てるものね‥‥。









ずっと一人。


一人で死のう。

一番ラクだもん。





寂しいけど、すごく寂しいけど、死んでしまえば

誰かに傷つけられる事もないし、悲しい思いもしなくて済むよね。

一人で寂しいより、もっと寂しい辛さ‥感じる事はなくなるから。



疲れた‥もう私は、何もかもおしまい‥。







「あと何回、朝が来るのかな‥‥」



「しつこいわね、私の体‥‥」







みんなに一生懸命見て貰おうと必死で‥‥挙げ句の果てに、このザマ‥。



バカシンジの、ネルフの、ミサトの、加持さんの‥‥‥

結局、誰の一番にもなれなかった私は‥‥あんなに一生懸命だったのに

一人の私は‥‥。






  『みんなが大事にしてくれるわ!だから、寂しくなんかないの!!』



これも嘘だったって事、今まで知らなかった私。

バカは私。







そうよ、使い捨てだったのよ、私。



みんなにとって、ただの道具だったのよ、私。



エヴァを操るための“部品”だって気づかずに、その事で得意がっていた私って、

ホント、ただのピエロだった。





それ以外に、なんにも私、誉められたこと無いから‥私には、何も残っていない。



実際、ほら。

弐号機にさえ乗れない今、私なんか誰も見向きもしない。



ネルフの大人達も、ミサトも、シンジも、誰も‥‥。

こうやって私が逃げ出したっていうのに、まだ探しに来てくれない‥‥

あいつら、きっと私の事なんて心配でも何でもないんだろうな。









「シンクロ率ゼロ、セカンドチルドレンたる資格無し」

「もう、私のいる理由もないわ」



「誰も私のこと、見てくれないもの」

「私の生きてく、理由もないわ」





ああ、今日も嫌なこと考えてばかり。

早く死んで、楽になりたい‥‥。








ガタン



 『惣流 アスカ ラングレー だな』









          ‥‥‥そっか、私‥死なせてもらえないんだ‥‥。




                          →to be continued








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