生きててよかった 外伝6 「KENSUKE」
Episode-02 【或る日常の断片】








 【2018. 12/12】[或る日常の断片]





 6.現代:二つのインパクトを超えて(教科書P.140〜149)


  【参考】サードインパクトにおける損失に関する調査結果について

  サードインパクトにおける人的物的損失は、セカンドインパクトに比べれば
  遙かに少ないと予想されるが、我が国においては特に爆心地が箱根であった事も    
  あって、それでも相当の損害があったと推定されている。
  損失の規模を算定する事には困難だが、ここではその概観についてまとめてみた。


  1.爆発及び爆心地について

   サードインパクトに伴って発生した爆発の爆心地は、
  北緯35度11分・東経139度0分付近と推定されている。
  一連の爆発に伴い、新芦ノ湖は相模灘と繋がり、最大で水深二千メートルの
  三日月状の湾を形成した。 (→図1)

  さらに、湾の最深部より半径15キロメートル内の鉄筋コンクリートの
  建造物が倒壊、半径30キロメートル以内の一般家屋が全壊し、
  半径50キロメートル以内の60%の一般家屋が全半壊した。

  実際には、爆発に伴って発生した衝撃波の広がりは地形の影響を大きく受け、
  三島・沼津・富士市方面においては前述の範囲にわたって被害が
  認められたものの、小田原方面においてはあまり被害は見られない。 (→図2)


  2.地軸変化・粉塵による気候変動

  最大高度約30万メートルにまで昇ったエアロゾルは、現在も
  成層圏を中心に滞留しており、今日の世界的な平均気温低下の
  要因となっている。粉塵による気候変動の規模は、平成21年の
  有珠山大噴火によるものの約20倍程度と考えられている。 (→図4)

  さらに、爆発による衝撃によって地軸の大きな変動が見られ、
  セカンドインパクトによって大きく変動した地軸は、これよって
  西暦1800年頃の地軸の傾きに酷似した状態に補正された。
  この地軸の『正常化』によって20世紀以前の世界気候が完全に回復するかは
  現在の所不明であるが、我が国においては徐々に四季が戻りつつあると
  されている。


  3.物的損害

  第一項で述べた爆発に伴う広い範囲の損壊に加え、「空白の一週間」の間に
  全国で発生した火災・事故・暴動・略奪及び各種管理不十分等の影響に
  よって我が国で発生した損害は、金額にして200兆新円を超えると
  言われている(補足:この数字は、他の先進国のGDP相対損失率と
  比較して約1.5倍)。特に、爆発による損失には壊滅的なものがあり、
  該当地域総資産の70%以上が失われたと考えられている。

  さらに、ネルフ本部の壊滅・エヴァンゲリオン11体の喪失等を
  考慮に入れると、その損害額は600兆新円を超えるものと推測される。

  このほか、地軸変動・寒冷化がこれから各産業に与える影響には、
  計り知れないものがある。


  4.人的損害

  サードインパクトにおける人的損失の大きな特徴は、『補完』によって
  LCL化したまま戻らない人間が出現したという事である。
  餓死・事故死したもの以外に、日本全体で約二百万人、総人口の3%が失われた。
  また、内務省の素早い対応にも関わらず、約四万人が餓死・事故死し、全国で
  二万人以上が殺人事件によって死亡。七万人以上が傷害・暴行などの被害に
  遭ったと推測されている。

  なお、LCLより人間が復帰する現象は、旧第三新東京をはじめとする
  世界各所で現在でも見られ、最終的にはLCL化によって失われた
  全ての人間が復帰するとする学説も存在する。(→図5)










 「‥‥ということで、セカンドインパクト前の世界人口は70億、
  その後が32億、現在は30億、よく覚えとくように。」


 “はぁ、新しい資料集も読むところなくなったし‥”
 “この先生の授業、退屈だし。”

 「では、次の問題‥‥」


 ちょうどそんな時だった。ノートパソコンのディスプレイに着信の
 マークが現れたのは。

 “誰だろう‥”

 ピッ


 from FZP02102
 (ケンスケ、今、暇でしょ?)

 “なんだ、アスカか。”

 表示されたニフティIDは、間違いなくアスカのものだ。
 ちょうど退屈していた身にとっては、この上なくありがたいお誘いである。

 俺は、先生の目を気にしながらキーを叩き始めた。


 to FZP02102
 (何だ?そういうお前も暇なんだろ。何の用?)

 from FZP02102
 (用なんてないよ。とにかく暇で暇で。(^^;)


 「‥‥‥で、あるからして‥‥イスラエルという国は、事実上消滅し‥‥」


 to FZP02102
 (こんなアホらしい授業、俺も聞いてらんない。(-.-#)

 from FZP02102
 (ええ。せっかくだから、無駄話しよっ。)

 to FZP02102
 (お約束のシンジ様じゃないのは何故?)

 from FZP02102
 (ほれ、前見て前見て。)

 to FZP02102
 (なるほどね、熟睡してやがる。)


 from FZP02102
 (あいつったら、すぐに涎垂らすから、きっとベトベトよ、教科書。)

 to FZP02102
 (けなしているようで、一言一言に愛情がこもってやがる。クーッ!(>_<))

 from FZP02102
 (うるさいっ!覚えてらっしゃい!!{怒})

 to FZP02102
 (ひー、怖い怖い。)


 「‥‥というわけで、次の問題、愛川君、答えて下さい。」

 「はい、サイザル麻。」


 from FZP02102
 (そうだ。ねえ、今のうちにちょっと聞いていい?)

 to FZP02102
 (何?)

 from FZP02102
 (男の子って、クリスマスにどういうものを貰ったら嬉しいの?)

 to FZP02102
 (うーん、人それぞれだと思うよ。というか、聞きたいのはシンジが
  何を欲しがっているのかでしょ?)

 from FZP02102
 ((*..*)> ポリポリ)

 to FZP02102
 (そういえばあいつ、電子メトロノームを無くしたとか何とか言ってたような‥)


 「そうですね、アフリカ中東部といえば、サイザル麻を忘れてはいけません。
  愛川君、よくできました。では、次の問題‥‥」


 from FZP02102
 (サンキュー!ケンスケ!!(^^)
  それ、超ナイス!!)

 to FZP02102
 (役に立った?そりゃよかった。)

 from FZP02102
 (ところで、ケンスケは女の子からどんなものを貰いたいの?
  一応、参考までに。)

 to FZP02102
 (20世紀製の、タミヤのプラモデル。[爆])

 from FZP02102
 (ヲタク〜!!よるなさわるな〜!!)



 「では、次の問題、相田君。」



 to FZP02102
 (も、もちろん冗談だよ。(^^;;
  やっぱり、自分が好きな女の子がくれるものだったら、何でも嬉しいと思うな。)

 from FZP02102
 (ホント?)

 to FZP02102
 (アスカ〜、俺にもくれ〜!!{バカ})

 from FZP02102
 (チロルチョコならいいわよ。クス)


 「相田君‥‥」


 to FZP02102
 (あ〜あ、女かぁ‥つくづく無縁だなぁ。まあ、いっか。)

 from FZP02102
 (さっさと彼女つくりなさいよ。今じゃ、あんたも結構イイ線いってると
  思うからさぁ、がんばればすぐよ。)

 to FZP02102
 (はぁ‥‥簡単に言ってくれちゃって。)

 from FZP02102
 (あっやばっ!そっちに先生来てるわよ!
  切るね。バイバイ!!)

 ピッ

 “あっ‥切られた‥なんで?”




 突然アスカのほうから回線を切断された事を怪訝に思いながら、顔を
 起こすと‥‥。


 「相田‥君‥‥‥」

 目の前に、鬼のような顔をした先生が立っていた。

 「な、なんでしょうか‥‥」

 先生は、不気味に唇を震わせながら、「誰とお話してたのかな?」
 と猫なで声で聞いてくる。

 言い訳や架空の通信相手をあれこれ考えながら、アスカのほうにちらりと視線を
 逸らすと、案の定、彼女は観音様を拝むような格好で俺に向かって
 手をすり合わせている。


 “アスカの奴‥‥仕方ないなぁ‥‥”


 「‥‥ネットのほうでチャットやってました。すいません。」
 「ふむ‥正直でよろしい。とりあえず、授業が終わるまで、
  廊下で立っとれ。」


 幸い、先生は俺の嘘を疑おうともしなかった。
 内心ホッと胸をなで下ろしながら、言われるままに廊下に出た。
 時計を見ると、授業の終わりまで、あと20分はある。
 ああ、うんざりだ。

 俺は、ドアの向こうからくぐもって聞こえてくる先生の声を聞きながら、
 「いい奴だな、俺って」と小さく呟いた。



      *           *           *


 授業が終わって教室に戻ると、アスカが俺の所に走ってきた。


 「ありがとう、ケンスケ!!」
 「おごって。」

 「な、何?」
 ギクッとするアスカに、間髪入れずに続ける。
 こっちも、ボランティアでやってるわけじゃないからな。

 「今度、喫茶店で、好きなものおごってもらうから。」
 「あ゛。」

 「じゃ、ごちそうさま。」
 「し、仕方ないわね‥判ったわよ。借りは、返すわ。」

 ぶつぶつと毒づきながら、アスカはシンジの所に戻っていく。
 しかし、おごって貰う約束をして貰ったのに、あまり嬉しくはなかった。
 もっと、何か別の事をお願いしたほうが良かったような気がしてならない。

 何を頼めばよかったのだろう?
 ちょっと損した気分を俺は味わった。





                          →to be continued








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