生きててよかった 外伝6 「KENSUKE」
Episode-07 【絶望】
【2019. 12/19】[絶望]
アスカに会えない。
会う勇気がない。
向こうも向こうで気まずいのだろう、彼女が俺のクラスを訪ねて来る事も
絶えて久しい。
おそらく何も知らないシンジだけが、俺を心配して何度も来てくれた。
無邪気な顔で労りの言葉をかけてくれるシンジに顔を合わせるという作業…。
俺にとって、これ以上辛く、疲れる事は他に無かった。
「ケンスケ、元気出してよ‥‥」
一度など、その言葉に思わず殴ってやりそうになった事もある。
あれは確か、トウジとシンジが話していた時の事だった。
トウジの質問攻めに会ったシンジが、アスカと初体験を済ませた事を
恥ずかしそうに打ち明けた時‥‥。
[こいつさえいなければ、俺だって!]
そんな事を考える自分を、祝福ではなく嫉妬を選んだ弱い自分を恥じた。
付き合ってから4年目だから、むしろ奥手と言っていい二人なのに。
愛し合う友人達のその行為を、むしろ祝福してやるべき立場なのに。
腐った事を考えていた自分と、疑う事を知らぬ目でアスカを
一生守ると言い張る友人とのギャップに、その日の俺は、家に帰って荒れに荒れた。
他にも色々あった。
トウジと殴り合いになった事や、担任のほうから親父に電話をかけられた事とか。
センター模試の点数も、去年と比べると随分下がってしまった。
嫉妬、妄想、欲望、恋心‥‥。
俺は、壊れている。
駄目だ、これじゃ終わりだ。
何も、手につかない。
空しい。
何をやっていても空しいばかりだ。
特に、クラスの女子達が恋愛談義に華を咲かせているのを
耳にしたり、腕を組んで歩くカップルを街で見かけたとき、
その思いは最高潮に達する。
そして、そんな自分が情けなくも思えるが、結局どうする事もできない。
心の中で指をくわえ、地団駄を踏み、身悶えするほか、今の俺には
何も出来ないのだ。
‥もう、ホームページは畳もうと思う。
あれだけ魅力的に思えた創作活動も、そういえば随分やってない。
沢山の人に誉められる事や、やはり沢山のプロまがいの人達に
自分の作品を評価される事、それが全てだった俺だが、今は、
それが何の価値も持っていないように思えてならないのだ。
俺の心を彼らが知ったら、お前は狂っていると指摘するだろうか。
ああ、少なくとも、世間の目から見たら間違いなくそういうものだろうから、
狂っていると言うだろう。
届かぬ恋に狂っている俺を、嘲る事さえあるかもしれない。
だけど。
それでもいい。
俺の作った戦闘機のスケールモデルやホームページが、
誰にも見向きもされなくなってもいいんだ。
人に評価される為のホームページ哲学なんて、もう糞食らえだ。
キチガイと言われてもいいんだ。
叶わぬ夢だと知っているけど、俺は、アスカに好かれたい、今はそれだけなんだ。
誰も俺の周りからいなくなってもいい、シンジにもトウジにも殴られてもいい、
アスカを、この手で抱きしめたい。
誰のアスカでもなく、俺のアスカになって欲しい。
誰も俺を見てくれなくなる事と引き替えでもいい、あいつに、俺だけを見て欲しい。
それが、今の俺の願い全てだ。
‥‥だが、それは‥‥。
アスカはもう、俺の気持ちを知っている。
そしてアスカは、今もシンジだけを精いっぱい見つめている。
‥‥俺は、アスカのそんな懸命で素直で、いたいけな姿が好きでたまらない‥
‥だから‥‥‥俺の好きで仕方のないアスカは‥どんな事があっても‥
俺のほうは向いてくれない‥わかっているんだ‥‥。
そうなんだよな。
仮にアスカが俺のほうを振り向いてくれたとしても、それはもう、
俺の好きなアスカじゃない。俺が好きなのは、一途なアスカだ。
だからダメなんだ。
俺は、絶対にアスカを抱きしめる事はできない。
何も、俺には出来ない。
どうすることも。
もう、終わっている。
楽になりたい。
振られてしまいたい。
楽になりたい‥‥。
【2019. 12/24】[悲しき決断]
ダメだ!
おかしくなりそうだ!
このままでは、俺は、本当に狂ってしまう。
好きだ、アスカ好きだ。
会いたい、声が聞きたい。
だけど‥‥何より‥‥あの頃に帰りたい。
勉強もホームページも手につかないまま、悶々と日々を送る事にも
いい加減疲れた。
楽になろう。もう、やめよう。
俺は、友達を失いたくないけど、もう、限界だ。
言ってしまおう。
アスカに全て打ち明けて‥‥‥
‥‥そうだ‥
‥振ってもらえばいいんだよ‥‥‥。
そうすれば‥‥。
→to be continued
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