Welcome to the (匿名希望) world.

He has to show you their “happines” and
wants to express the splendor of life through this story.

Please read the second story “open my heart”.

Sohryu Asuka in heart of (匿名希望).

1997. Jul.




open my heart (1)    





Episode-01【それによって、何かが変わった少女】


 ‥‥やっぱり、まだ生きてる。


 ここはどこだろう?
 私はどれだけ眠っていたんだろう?


 私が意識を取り戻したのは、見知らぬ病室のベッドの上だった。

 ブラインドを降ろしていない窓の外からは、強い西日が差し込んでいた。
 しゃわしゃわと五月蠅すぎるセミの声が、自分がちゃんと生きていることを
 私に実感させてくれる。今日もきっと、暑い日だったんだろう。


 「う〜ん‥‥」


 ずっと目を閉じていたためか、私は外の景色の眩しさに軽いめまいを覚えた。

 頭は、まだぼぉっとしている。

 薄く開けた目で、私はゆっくりと室内を見回してみた。



 それは、よくある病室の風景。

 白いカーテン、ステンレスの水差し、パイプ椅子、
 白くて低い天井、やけに小さなテレビ。無個性で無意味な品々に囲まれている。


 そんなモノクロの風景の中に、私の目にぱっと浮かび上がるものがあった。

 何だろう……ああ、千羽鶴ね。
 千羽鶴? でも誰が?

 たくさんの鶴が連なった房の根元を見てみると、白くて大きな短冊がついていた。

 そこには
 「アスカがはやく元気になりますように 洞木」
 と書いてあった。

 ヒカリからだ。

 ありがとう。
 嬉しい。こんな私の為に‥‥。



 トントン

 その時、ドアをノックする音がした。

 誰だろう。


 「うっ!痛ッ!!」

 ドアの方を急いで振り向こうとして、私は思いっきりチューブに
 首を引っ張られた。首筋に走る、刺すような痛みに顔をしかめる。

 ハッとして自分の体を見てみると。
 今まで気づかなかったのが不思議なくらい、自分の体には色々なものを
 取り付けられていた。赤や白の導線の電極、太いのやら細いのやら、
 いろいろな太さのカテーテル。よく見たら、枕元にも得体のしれない
 医療機器がいっぱい並んでる。

 無事だったとはいえ、やっぱり無傷ではなかった事を再認識させられた。



 カチャ


 ややあって、ドアが開いた。

 廊下から入ってきたのは、ケンスケだった。
 私の方を見て、呆けた顔で瞬きを繰り返している。


「ア、アスカ!起きたの?」
「ケンスケじゃない。ねえ、ここ、どこなの?」


 私の質問を無視して「ちょっと待ってて」とだけ言い残して、
 大急ぎでケンスケは病室を出ていった。

 ドアの向こうから、「みんな〜!起きたぞ〜!!アスカが起きたぞ〜!!」
 という叫び声が聞こえてくる。


 ここ、病院だから静かにしないとおこられるわよ、ケンスケ。
 何故か、そんな事を静かに思った。



    *         *         *



 私が目を醒まして、もうすぐ二週間になる。
 明日からは、病室の外を歩いてもいいって言われて、ちょっと嬉しい。

 左目のほうは‥‥寝ている間に完治していた。
 あの時、もうダメだと思っていたけど、実際には結膜が傷ついただけで、
 割と簡単に再生できたらしい。
 体の方も、手術は無事に済んで内蔵の再生も進んでいるらしかった。
 今でも時々おなかが痛むけど、それは薬がよく効いている証拠だから
 安心していいって、担当の河田先生が言ってたなぁ。

 今のペースなら、あと一ヶ月くらいで私は退院できるって。
 退院‥‥。
 でも、その後はどうするのかな?
 ミサトの家も、今度の戦いで壊れちゃったって話だし‥‥。
 ま、いっか。どうせミサトとはもう二度と一緒に住みたくないし。



‥今日まで、私を知っている人達が私を支え、励まし続けてくれた。

 昔のこととか、ママの事とかを思い出して、時々自棄を起こしそうになる
 ダメな私を、慰めたり、叱ったりしてくれた。

 元々仲の良かったクラスメート達が、第三新東京市から随分距離が
 あるはずなのに何度も来てくれた事が、私にはとっても嬉しかった。




 洞木ヒカリ。彼女は、私の一番大切な友達。

 ヒカリが来るときは、大抵トウジを連れてくる。
 そして、病院のまずい食事に飽きた私に、お手製のお弁当を食べさせてくれるの。

 主治医の先生には「患者さんはお腹がわるいんだから、そういうことは
 絶対やめて欲しい」って止められてるけど、ヒカリのお弁当と病院食じゃね。
 どうにも我慢できないわよ。

 すごく順調に回復しているためか、最近は先生も見て見ぬふりをしてくれてる。
 ありがたいことね。

 そういえば、日本に来て以来、いろんな意味で彼女に助けてもらってばかりの
 ような気がする。
 
 転校してきたときも。エヴァに乗ってた頃も。
 『どうでもいいわよ』って思ってた、あの頃も。

 私、感謝しなきゃおかしいし、なんで感謝してなかったのか、不思議なくらい。
 退院したら、今度はヒカリの力になってあげたい。
 あげなきゃならない。
 こんな私に、何ができるかな?

 でも、いつもトウジにベタベタなのはちょっと、ね。
 お似合いなのはもう分かったからさ、ちょっとぐらいは遠慮してくれる?
 私だって、そういうの羨ましいんだから。

 ‥いいなぁ、素直な性格。


 あっ、でも。

 昔はヒカリも全然素直じゃなかったのわよね。
 う〜。
 なんだか差をつけられてる気がする。



 で、ヒカリと一緒の鈴原トウジ。フォースチルドレン。
 顔もファッションも超ダサだけど、中身は間違いなくいい男。

 ヒカリの彼氏(??)で、今は私の仲のいい友達、ってとこかな。

 でも私、入院して初めて再会したとき、
 すごい剣幕でトウジを追い返してしまったのよね。

 彼が何の訓練も受けていないのにフォースチルドレンに選ばれたから?
 とっても仲のいい父親と妹がいたから?
 死にかけてた私を、何ひとつ助けてくれなかったから?

 なんでトウジをなじったのか、今でも私はよく思い出せない。
 とにかく、私は何の考えも無しに思わず彼を口汚く罵っていたの。


 そのとき、うつむいたまま何も言わずに帰っていった彼の後ろ姿が
 忘れられない。あの時は、さすがの私も“しまった”と思ったわ。


 で、少し後からやって来たヒカリに思いっきりぶたれたのよね。

 あんなに怒ったヒカリは、前にも後にも見たことがない。

 涙ながらに、ヒカリは彼の事を教えてくれた。

 トウジが「事件」で家族全員を失って一人ぼっちになった事と、
 右足を失って義足になっていた事を、私はその時初めて知った。

 そのとき私は、自分が情けなくて仕方なかった。


 今は、彼ともうまくやっている。
 でも、まだきちんと謝ってない。
 どうしても謝ることができない。

 ごめんね、トウジ。
 私、今も心の貧しい女のまま。



 あと、相田ケンスケ。ケンスケは毎日ここに来てくれた。

 “サードインパクト未遂事件事件”の影響で学校が休校になっているのに
 つけこんで、ケンスケは第二新東京の父親のアパートに泊まり込んで、
 毎日ハッキング三昧の日々を送っているらしい。

 そんなわけで、ヒカリとトウジが来ない日にも、一番近くに住んでいる
 ケンスケはちょくちょくやってきてくれる。

 綺麗なカーネーションを窓際の花瓶にさしてくれたのも、
 ベッドの側のパイプイスにネコの座布団を用意してくれたのも、
 ヒカリじゃなくて彼だった。
 私には、ケンスケのそういう所がとても新鮮に感じられたし、
 最初のうちはむしろ戸惑いさえ覚えた。
 前までは、ケンスケと言えばエヴァの機密のことやシンジの事でしか
 私に話しかけてこなかったもんね。

 けど、最近はそんなケンスケの思いやりにありがとうって言えるように
 なってきたのよ。

 嬉しいじゃない、こんな私のためにいろいろしてくれるって。

 私、彼のどこを今まで見ていたんだろう。
 やっぱり、自分しか見てなかったって事なのかな。
 シンジやミサト、他の人達についても、何も見てなかったのかもしれない。


 ‥‥だから、あの時の気持ちも、ひょっとしたら本物かもしれない。
  気絶したシンジにキスなんて、絶対変だったって思いたいけど、
  あの時、私はキスして‥‥気持ちいいって思ってた‥‥。


 ヒカリやケンスケも、あいつのことは何も聞いてないといっていたけど。

 ま、そのことを考えるのはよそう。



 そしてネルフの人達も、ベッドから動けない私を見舞ってくれた。

 マヤさんと青葉さん、それから日向さんが来てくれたっけ。

 マヤさんと青葉さんは大抵二人でやってくる。
 二人が一年以上前から付き合っていたことを知ったのは、ごく最近のこと。

 二人ともまだ怪我が治ってないみたいだけど、いつも明るい表情で、
 見ていて眩しいくらい。今をとても楽しんでるのがわかる。
 日向さんは、昨日になって初めてやってきた。
 何でも、まだまだ仕事をたくさん抱えてて、忙しくてしようがないらしい。

 青葉さんとマヤさんが割と暇そうにしてるのに、なんで日向さんは
 忙しそうなんだろう?
 昨日も、お祝いの言葉を言って、2、3分で帰っちゃった。
 疲れた顔色してたけど、仕事が今の生き甲斐だって言ってたなぁ。


 ‥‥そういえばミサトは私の所に一度も来ていないわね。
 殺したって死ぬ女じゃないから、生きてるはずなんだけど。
 きっと、怪我でもして入院してるんじゃないかな?

 あのミサトが死ぬなんて‥そんなことあるわけないもんね。
 決して、好きになれる相手じゃないけど。あいつの命令で、
 私は死にかけたんだもんね。

 そこまで考えて、ちらりと窓に目をやった。

 少し欠けた綺麗な月が見える。
 青白い月……。



 そう、結局あのふたりはどうなったのかな?

 シンジもそうだけど、ファーストも最後の最後に私を助けてくれた。
 私を死の底から、絶望の淵から拾い上げてくれた二人。

 この前、二人のことをマヤさんに聞いてみたけど、話を逸らすばかりで、
 結局彼女はなにも答えてくれなかった。

 その時、マヤさんの顔がサッと暗くなったのを私は覚えている。

 だから、私も深く問い詰めることが出来なかった。
 もし帰ってくるのが聞きたくない答えだったら、耐えられそうにない。
 あの二人を全部好きってわけじゃない。むしろ嫌いかもしれないけど‥‥
 自分を救ってくれたからね。やっぱり気になるのよね‥‥。


 そういえば来週、には冬月副司令(ううん、今は司令か)、がやってくる。
 私にいろんな事を伝えるために、らしい。
 きっと、その時にあのふたりのことも聞けると思うし、聞かなきゃいけない。

 ファースト、今どこにいるの?生きてるの?
 私、あんたに謝らなきゃならない。あんたにありがとうって言いたい。
 あんたを好きにはなれそうにないけど、それくらいはしたい。

 シンジ、お願いだから生きていて。
 私、ちゃんと話をしてみたい。
 あんたが別に好きじゃないって、ちゃんと確かめたい。
 私があんたを気にしてるなんて‥‥あり得ない‥‥あり得ない‥‥。



 “ん? もう10時?”
 時計を見て、私は布団に潜り込んだ。

 もう寝なきゃ。
 少しでも早く退院できるように。
 少しでもはやく元気になるように。

 そうでしょママ?
 じゃ、おやすみなさい。
                          to be continued




 【作者のひとこと】

 ここから、本編になります。アスカの成長物語のつもりです。
 大好きなアスカの為に書きました。つたない文章ですが、よろしければ
 読んでやってください。後半になるほど、アスカ一人称の割合が増えます。
 ではでは。

 2004年注:「ではでは」じゃねぇっ!このアスカ馬鹿オタクがぁ!
 save your lifeを改変していてやる気まんまんになったが、この第一話&後書きを
 読んでイタタタ...。もう見てられません。





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