シンジとの再会から3週間後。

 アスカはシンジの病室に毎日通い詰めては主治医を心配させていたものの。

 逆にそれが効率的なリハビリとなって、彼女は急速に病状を改善させていった。

 痩せこけていたその顔は元の美しさを次第に取り戻し、日常生活に

 耐えるだけの体力も徐々に回復しつつあった。


 この日、九〇一病室にはアスカの他に、ヒカリとトウジ、
 それから青葉の四人が来ている。


 今日はアスカの退院の日である。


 Episode-06 【惣流 アスカです!よろしく!】



  狭い病室の中、三人の中学生達はせっせと荷物をまとめていた。
 ヒカリとトウジの二人と、今日までこの病室の主だったアスカの三人である。
 アスカ自身も今では殆ど体調を取り戻しており、率先して荷造りに参加していた。

「私、これから一人暮らしでも大丈夫かな?」
 荷物をまとめながら、アスカがぼそりと呟いた。

 声にヒカリが振り向き、トウジも段ボールに本を詰める作業を中断する。

「大丈夫、大丈夫よ。
 相談したいときはとにかく私の携帯電話していいから。
 それに、いざとなったら御殿場と第三新東京市なら、電車ですぐでしょ?」
 そこまで一気に喋って、ヒカリはアスカの顔をじーっと覗いた。
 ちょっと暗い表情だったアスカの顔が、明るくなったような気がする。


「そうね。じゃ、遠慮なく頼らせてもらうから。かけすぎるかもね!」
「うん、そうしてね」
 アスカの表情をそっとを確認すると、黙ってトウジは仕事を再開した。


  病室にはアスカの私有物がほとんどなかったので、退院のための片づけは
 30分程度であっけなく終わった。ちょうどその時に青葉が迎えに来たので、
 シンジや医師達への挨拶もそこそこに、四人は付属病院を出た。

 アスカの3ヶ月の入院生活は、こうして終わった。



   *        *        *



        『次は、韮崎、韮崎でございます』



  御殿場方面に向かう特急のワンボックスシートをまるまる一つ占拠して、
 アスカ達は移動していた。窓側にトウジとヒカリが、そして通路側に青葉と
 アスカがそれぞれ向かい合わせになる格好で座っている。
 トウジとヒカリは窓の外の風景を見ながら車内販売のお弁当を仲良く食べ、
 アスカはというと、そんな二人を横目でチラリチラリと見ながら、青葉が話す
 これからの生活についての説明を受けていた。

「‥‥次は、監視についてだ。アスカは、エヴァのパイロットだったからさ、
 まだ高レベルの監視がついてるんだ。現に、こうやって俺と話している所も、
 諜報員に盗聴されていると思って間違いない。プライバシーを侵害する
 ようなことはまずないと思うけど、これから先、何か嫌な思いをする事が
 あるかもしれない。そこの所は、我慢して欲しい。ま、文句は俺に言って
 くれればいいけど。」

「わかってるわ。監視なんて小さい頃からだし、私、気にならないから。」

 緑茶のアルミ缶をちゃぷちゃぷ揺らしながら、アスカは涼しく答えた。
 この事を説得することが一番の難題だと思っていた青葉は、アスカの
 その様子を見て心からほっとした。

“そういえば5才の時からチルドレンだったの、忘れてたなぁ。あとは‥
 通帳と、IDと、注意事項だけか‥”

 手元の黒い手帳に目を落とし、話す内容を再確認した後、
 青葉は再び口を開いた。

「ああ、それと、ネルフから出る退職金そのほかについてだけど、甲州銀行に
 アスカの名義でもう全額預金してある。孤児育英補助金とか、政府の一時
 見舞金とかも全部そこに振り込まれるように手続きしておいた。
 これが通帳とカード。
 それなりの額だから、心配だったら分割してもいいかもな。」
 そう言って青葉はアスカに真新しい通帳とカードを手渡した。
 受け取るアスカは、一通りそれらに目を通し、ふう、と軽く溜息をついた。

 5歳の時からの換算で、賠償金なども含めて総額2億3千万新円。

 苦しみ、悶え、瀕死にまでおいつめられた少女に対する、それが報酬だった。

 それをアスカがどう感じているか。
 青葉はなんとなくアスカの今の気持ちが解るような気がした。


「で、最後に、これも重要なことなんだけど、
 あのゼーレの残党がまだ国内にもかなり残っているかもしれないんだ。
 襲われて命を落としたネルフ職員もいるくらいで、まだ油断ならない。

「アスカの場合は監視が強力な分、逆に安全だとは思うけど、それでも
 家の戸締まりとか、自分に出来るような事はは厳重にやってくれ。これは、
 チルドレンだった鈴原君やチルドレン候補だった洞木さんも、他人事じゃないぞ。」

「はい」
「わかっとります」

「えーと、これで全部かな。何か、もっと聞きたいことはあるかい?」

「うん、だいたい分かったわ。」



     『まもなく 御殿場  御殿場です  お降りの方は……』


「あっ、降りなきゃ。」
「えらい、はよう着くもんやなぁ」


 午後3時きっかりに到着。
 アスカが新しい街へとやってきた。

 入居手続きや大雑把な荷物の整理を済ませた後、アスカの狭い新居で
 四人は夕食をとり、彼らは11時くらいまであれこれと話し合った。

 そして、ヒカリとトウジ、青葉が帰ると、既に睡魔に
 襲われていたアスカはすぐにベッドに潜り込んだ……。




   *       *       *



 プルルル プツッ


 アスカ‥アスカ‥

 遠くから誰かが呼んでいるような気がする‥誰だろう。


『アスカ、どうせ寝てるんでしょ!!いい加減起きなさい!
 ねえ、アスカ!』


 「しまった!!」

 私は、慌ててベッドから飛び起きた。

 枕元の携帯電話から、ヒカリの声がキンキン聞こえてくる。

「も、もしもし、ゴメン、ヒカリ。」

『もう、学校間に合わなくても知らないんだから!』

 そう言われて、目覚まし時計を見てみると‥‥7時50分!!

 うわ〜〜!!間に合わない!!

「あ、その、ごめんね」
『さあさあ、急いで急いで!!』

 ケータイを、机の上に置いたまま、私は大慌てで学校に行く支度を始めた。

 顔を洗って、服を着替えて…
 髪にブラシをかけて…と。

『アスカ、八時よ!こっちは時間だから、もう切るね!』

 プツッ

 ああ、切れちゃった!!
 ……それにしても、電話で喋りっぱなしだったけど、
 ヒカリのほうは学校行く準備、大丈夫なのかな?

 ‥って、なに余計なこと考えてるのよ!!
 時間ないのに!!

 パンをくわえたまま、私は自分のワンルームマンションを勢いよく飛び出した。

 学校までは一本道って聞いてたから、まあ、迷う事なんてどのみちないわよね。
 それにしても、新しい学校って、どんな感じかなぁ。

 こういうのって、楽しみだけど、ちょっと不安なのよね。



       *      *      *


 キーンコーンカーンコーン



  三年C組のその日の朝礼の時間は、先生が外国人転校生を連れてくる
 ということで、教室はいつも以上にざわついていた‥‥。

「おい、転校生ってどんな奴か知ってるか?」
「さあ?帰国子女らしいんだけどね。ハーフってやつかな?」
「しらねー。イイ感じの娘だといいんだけどなぁ。」


ガラガラ


「起立、礼、着席」

「皆さん、今日はまず、転校生を紹介します。では、惣流さん、どうぞ。」


 私は、担任の先生に促されて、教室のドアを開けて教室に入った。

「おぉ」という間抜けな男共の声が聞こえる。
 ふふん、やっぱり私は ビ ジ ン なのよ!!

 というわけで、何も言わずに黒板に自分の名前を筆記体で書いて、
 お得意スマイル。

 どう?
 私、やっぱりかわいい?


 で、最後に大きな声で自己紹介!

 「惣流 アスカです! よろしく!!」

                           to be continued



 こんばんは、シロクマです。

 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。m(__)m

 アスカは御殿場市の学校に転校。前にも触れたとおり、
 シンジもそうなるでしょう。ヒカリとトウジ、それからケンスケは
 今は休校中の第三新東京市第一中学校に今後も登校。
 というのが設定ですが。

 をを、俺は何を書いているんだろう。

 とにかく、どうもです。 ではでは。

 2004年注;擬音をそのまま半角カナで書くのやめて欲しい。厨っぽい。
 それと、それぞれの場面の出だし、妙に不自然な癖がついているっぽ。
 この辺りの構成力がなんともこなれていない感じがして、初々しい。
 懐かしいなぁ、ここ。EOEの超直前に書いていた場所です。






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