こんにちは、匿名希望です。 またまたSSの続きをアップします。

 っつうわけで、よろしければ読んで下さい。


 舞台は前の話の一ヶ月後。
 冬月さんの用意した新居の玄関から始まります。

 これ、17話とセットかな??
 いんや。セットだ。


 でわでわ始めます。





 Episode-16【森の中のチルドレン】


 ピンポーン


  朝八時、いつもと同じ時間にインターホンの音が響き、ちょっと遅れて
「「はぁ〜い」」という元気のいい男女の声が真新しいドアの内側から
 聞こえてきた。ヒカリがそっと玄関を開けると‥‥‥いつものように、
 シンジとアスカが並んで靴を履いているところだった。
 第一中学校の制服がよく似合ういつものアスカと、自己主張の少ない格好の
 いつものシンジ。


 「おはよう、アスカ、碇君」


 「おはよ、ヒカリ」
 「おはよう、洞木さん」

 「おはよさん。
  しかしお前ら、そうやって並んで靴はいてるトコ、よう飽きへんなぁ」


 「鈴原!」

  ヒカリのきつい声にもかかわらず、茶化すトウジの目が笑ったままである。
 反省の様子は全然見られない。


 「だ、だからちがうって言ってるじゃないか!トウジ!これは‥‥」
 「なんや、何がどう違うかゆうてみい」

 「だ、だからさ‥‥」

  しつこいトウジを相手に、いつものように顔を真っ赤にしてシンジは
 必死の弁明を試みるが、今日もうまい言い訳が思いつかないようだ。

  そしてアスカのほうはというと‥。
 靴をさっさと履き終わると、彼女はトウジのほうに向きなおり
 元気いっぱいに反撃を開始した。

「あ〜ら、悪いわねぇ〜、ラブラブで。
 彼女の事を大事に出来ないあんたとは
 違うのよ、優しいシンちゃんは。
 あ〜あ、ヒカリちゃんて、いっつも可哀想〜!!」

 素直さを最大の武器に、つかさず形勢を逆転させて
 トウジのかゆい所を突く様が、シンジにはうらやましくて仕方がない。

「お、お、お前らのは、ただベタベタしとるだけやないか!」

 ブザマにうろたえるトウジ。

「フン!あんた、まだそんな事しか言えないの?
 情熱とか愛とかってものを分からない男って、すっごく哀れね!
 ま、同情なんてしてあげないけど。」


「な、なんやて!?ゆうたな、この男ボケが!」

「トウジ、アスカはそんなんじゃないと思うよ、本当に優しいし」

「シンジまで!お前、なにぬかしとるんや!
 すっかり骨抜きやな、シンジ!」

  アスカは余裕たっぷりの表情でトウジを眺めやっている。
 恋人を悪く言われてちょっと不機嫌なシンジ。
 そんなシンジのフォローに、トウジがますます腹を立てている。

 ヒカリはというと‥‥

「アスカ!鈴原!!碇君!!
 朝っぱらからバカやってないで、ほら学校学校!!」


      ‥‥顔を真っ赤にして怒っていた。



「ごめん、委員長」
「すまんな、委員長」
「ごめんね、ヒカリ」

「…もうっ!三人とも!知らないっ!」

 誰も、謝る相手が間違っていることに気付かない。


「ねぇシンジ、お弁当持った?」

「持ったよ、アスカも忘れてないよね?」

「うん!今日も一緒に食べようね。じゃ、行こ!」



「ケッ!朝っぱらから見せつけおって!」

「す〜ずはら〜!!!!!!」

「はいっ!!!」


「さあさあ、三人とも、出発よ!」

 ヒカリに押されるようにして、三人のチルドレン達は玄関を後にした。




  アスカ達の家から山の中腹に立っている木造校舎への一番の
 近道は、殆どが森の中を縫うように走る、細いじゃり道だった。
 その緩やかな登り坂の道を、彼らは二十分ほどかけて毎日歩いている。

  道をトンネル状に覆う樹木の枝々、少ししっとりと冷たい空気、
 遠くほうから聞こえてくる河の音――都会人が羨むようなこの美しい
 緑と水の世界も、ここに暮らし始めて一ヶ月が経ったアスカ達に
 とっては、もはや日常の一部となっていた。

  所々に朝日のカーテンが降り注ぎ、うっすらと朝霧が漂う静かな
 森の中、二組のカップルは焦るでもなくゆっくりと歩いていた。
 しっかりと手を繋ぎ、無言で寄り添うシンジとアスカ。
 やはり何も話さずに、でも、ちょっと距離を置いて歩くトウジとヒカリ。
 シンジ達の家を出て暫くのこのひととき、彼らは彼らだけの幸せを
 静かに満喫するのが常だった。

 やがて‥‥学校への道のりを半分くらい過ぎた辺りで。

 「そういえば、お前らがこっちに引っ越してきて、
 そろそろ一ヶ月か、早いもんやな」
 今日も最初に話を切りだしたのはトウジで、


 「そうだね、あっと言う間だよ、本当に」
 それに答えたのもシンジだった。


 男ふたりの声を皮切りに、かしましい朝の会話が始まった。
 鳥のさえずりに混じって、森の中にチルドレン達の声が響きわたる。

 「時の流れが速く感じられるのは‥‥やっぱり楽しいからよね」
 「そや。惣流、お前、いつ見てもホンマ幸せそうやからな」

 「そ、そりゃ、だってね…」

 「アスカだけじゃなくて、私も、かな‥‥鈴原 君‥」

 「‥‥な、なに言うんや‥」
 「ごっ、ごめんね」

 「ヒカリって、まだまだ可愛いわね〜。」

 「アスカっ!!!もうっ!いい加減にしてよ!そういうの!
  そ、そうそう、それよりもさ、
  今日の模試、アスカ、自信あるの?」

 「私はどうせ国語以外は余裕よ。それよりも鈴原よ、
  あんた、ホント大丈夫なの?」

 「わ、わしか?まあ‥‥ぽちぽち、やな」

 「みんなで同じ高校行くって約束したでしょ?あんたも
  ちゃんとやってよね!!
  そうそう、シンジのほうは私が教育したんだから、
  当然バッチリよね〜〜!」


 「ねえ、アスカ、そんなに僕、できないと思うよ」

 「自信持ちなさいよ、シンジ。すごくがんばってたんだし。
  私の教育効果を実証する時が遂に来たのよ」

 「は、ははは‥‥」

  そこまで話したところで森がいったん途切れ、歩く四人の頭上に
 きれいな青空が広がった。

  そこは、深い森の中の小さな広場だった。
 右手のほうには蓮を浮かべた静かな池が緑色の水を湛え、
 その反対側に広がる狭い田んぼに目をやると、いつものように、
 モノサシトンボ達がせわしなく飛び回っている。
 夕方、学校帰りにアスカとシンジがしばしば道草する場所だ。
 池の畔に二人で座って、アスカがシンジの耳を噛むところをヒカリ達に
 見つかって、大騒動になったこともある。

  そんな甘い思い出を景色の中に見て、シンジは大切な事を思い出した。
 ‘もうすぐ12月なんだ’と言う事を。


「そういえば、もうすぐだね、アスカ」

「シンジ‥‥知ってたんだ‥」

「何や、生理か?」

 バキッ
 バキキッ

「‥‥‥あんたって最低!!」
「そういう冗談は女の子に言っちゃいけないのよ!!!」

「す、すいません‥‥」

 ヒカリとアスカの渾身の力のこもった一撃をもらって、トウジは沈黙した。


 「で、何、アスカ?私も知らないなぁ」

 「私の誕生日なのよ、もうすぐ」

 「ええ〜っ!知らなかったわ!アスカ、本当?」

 「本当よ、12月4日。」

  誕生日だというのになぜか浮かない顔のアスカを見て、
 トウジとヒカリは不思議そうに顔を見合わせる。
 シンジは‥‥その場に立ち止まる恋人の手をぎゅっと握り、
 青い瞳を心配そうに見つめていた。


 アスカが暗い顔をするのも無理はない。
 本当に幸せな誕生日は15年分の彼女の記憶の中には、
 ひとつも存在しないのだから。
 そしてアスカの脳裏を、去年の誕生日の事がよぎる。
 あの惨めな誕生日。


 「気にしないでよ、そんな大したことないって」
 そう口に出してみても、沈んだ声では何の説得力もない。

 「そっか‥今年はお祝いしようね、みんなで。私、ペンペンも連れてくからさ」
 「そうだよ。僕、料理一生懸命作るから、ケンスケ達も呼んでやろうよ」

 アスカを慕う、二人の声がする。

 「‥‥うん」

 答えるアスカの目がちょっと潤んでいた。



 「何や、しみったれた顔して。
  そんなん、らしくない、らしくない」

 トウジがアスカの肩をポンと叩き――


 「アスカ‥‥」

 ――シンジは繋いだ手に力をこめる。



 「ありがとう、みんな」

 自然と出てくる感謝の言葉。


 「そんな‥アスカ、元気だしてよ」

 切ない表情のアスカをじっと見ているヒカリ。



 仲間達と過ごす、そんなアスカ。

 今日も彼女は、幸せだった。

                           to be continued



 とりあえず、17話に続きます。
 よろしければどうか続きも読んでやって下さい。m(__)m

 この回、自分にしては珍しく、情景描写に力点が置かれているけど‥‥
 ネットの世界の達人達に比べると‥‥ダメだ。

 この分野は要修行って感じですかね。ま、いっか。アスカを
 書くだけ書いたら、SS書くのはもうやめちゃうからね‥‥

 2004年注:スカを書くだけ書いたら同人SSは書かないという約束は、
 今も果たされていますし、既に私(と、私の中にあったアスカ的成分)は
 同人SSやエヴァという揺りかごを離脱して、次のステージへと移行して
 います。今回、情景描写を少し書き換えたものの、所詮はSSに特化した
 技術進化してるわけではなく、まだまだ甘いと思ったものです。
 まあ、あたしゃ論説文を書く能力さえあれば今はいいんですけどね。





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