こんばんは、匿名希望です。

 しつこいようですが、まだ完結してないんでopen〜のほうを続けさせて貰います。
 正直、ますますもって皆さんの共感なり何なりを得られにくくなっているような
 気がしまくってとても心配です。(^^;;;;;;;;;


 では、始めます。
 時は流れ、2020年・初春。

 チルドレン達が、いよいよ大学に行こうとしている時期です‥‥。






 「こっち見たら、絶対イヤよ!」

 「なんで?」

 「なんでって‥そりゃ、は、恥ずかしいからよ!!」

 「そういうものなんだね。何だか、その気持ちって、わかんないな。」

 「もうっ!バカッ!気分の問題よ、気分の!!私、やっぱり嫌よ!!」

 暗闇の中、私とシンジは背中合わせになってパジャマを着ていた。


 目が闇に慣れているおかげで、電気の消えたこの状態でも
 ボタンをとめるのは全然わけのない事ね。

 私もシンジもすっかり慣れちゃってるし。この作業に。
 でも、毎度の事だけど、二人でパジャマを着ているこの瞬間が、
 一番そわそわと落ちつかないのよね。
 付き合い初めて、もう3年ちょっと。
 その間に私達の関係は、良くも悪くも随分と変化していた。



 Episode-20【揺れる二つのココロ】


 [1st part]



 「もういいわよ」

 「うん‥‥」

 後ろを振り向くと、やはりこちらを向いたばかりのパジャマ姿が、
 暗い視野に飛び込んでくる。

 よく目を凝らすと‥‥あ、やっぱり。

 外から漏れてくる淡い光のお陰で、
 シンジの額にうっすらと滲んだ汗が光って見える。

 急いでベッドのわきにある篭から新しいタオルを取り出し、私は
 彼の顔や背中を拭いてあげた。
 シンジの体や顔から感じる、ほのかな男の汗の匂い。
 昔はむしろ不快感を誘ったその感覚も、すっかり慣らされたせいか、
 今では全然気にならない。

 私達、いつからこんな仲になったのだろう。
 ‥‥って、去年のシンジの誕生日、高3の夏からよね、確か。

 もちろん後悔なんてしてない。

 この人が好きだから、抱かれたんだし。


 「ほんっと、相変わらず汗かきね、シンジったら。風邪、ひかないようにしなきゃ」
 「あ、ありがと」

 いつもと同じく、シンジは少しうつむき加減の姿勢で言葉少なに顔や
 背中を拭かれている。

 「あ、もういいよ、ありがとう。それよりもさ、アスカ、もちろん今夜も
  泊まっていくよね?」

 「パジャマ着ちゃったの見ればわかるでしょ?
  明日は日曜なんだから、今夜は泊まってくわ。」

 「そっか‥よかった‥‥」

 私とシンジは新横須賀の高校に入学して以来、別々のワンルームに
 暮らしている。
 お互いの家の距離は、大体2キロくらいかな。
 だからシンジの家に遊びに行って夜が遅くなった時は、私は
 深夜の一人歩きを避けて、そのまま泊まることを習慣としていた。


 「じゃ、もうねよっか?」
 「うん」

 「おやすみ。」
 「おやすみ、アスカ」

 おやすみを告げた後、互いに背中を合わせる格好で狭いベッドの中で丸くなる。
 シンジの家のベッドはごく普通のシングルサイズだから、二人の高校生が
 一緒に寝るにはやっぱり狭すぎる。
 高1の初め頃に、これじゃ二人ともよく眠れないからってことで考えだしたのが
 お互いに背を向けて寝るというこのやり方だった。
 これならお互いを蹴飛ばしたりすることないし、背中ごしに相手の温もりが
 少しは伝わってくるし‥‥だから、いつもこうしてる。

 シンジは本当にこれで平気みたいだけど、広いベッドに慣れて育った私は、
 今でも眠るのが少し苦手かもね。

 実際、寝るのも起きるのも大抵シンジが先の事が殆どだし。


…ほら、今日も彼ったら、もう寝息をたててる。
 幸せそうな寝顔がちょっと羨ましい。

 そういえばこの一年間、私、眠りにくくても毎週
 このベッドで夜を過ごしているわね。

 部活動とか受験勉強でヘトヘトだった頃だって、この家に通い続けていたし。

 私って、やっぱ身体の疲労には耐えられても、心の渇きには
 耐えられない性質‥‥なのかな。
 もうここ半年ほどは、10日ほどシンジと二人っきりじゃない日が続くと、
 募る寂しさのせいで辛くていられなくなる。

‘何がどう’かは判らないけど、とにかく彼と一緒にいると、
 大抵はいい気分でいられるのに、一人が苦手になってきたのよね。


 ‥‥依存しきっているって人は言うかもね、こんな私の事。

 だって、最近思うもん。

 この、素敵な彼がいなくなったら、私、おしまいだって。
 私、シンジ無しじゃもう何も出来ないし、幸せなんてきっと感じられないって。

 絶対に嫌われないように、私、がんばらなきゃいけないって。

 好きな人に一緒にいて貰うこと・守って貰うこと・愛して貰うことを
 望んでいたけど手が届かなかった、あの幼い頃には戻りたくない。
 それが叶わないと諦めて、強くて有能な自分を演じていた、
 セカンドチルドレンだった頃も絶対にイヤ。

 シンジに何度も助けられ、心を開き、やっと幸せの味を知ったんだから。
 沢山の思い出に彩られた時間を、彼と共にできたんだから。
 ずっと寂しかった本当の気持ちも、彼には打ち明けられたし。

 ‥‥だから。

 だから、他の人にどう思われようが、私はシンジに捨てられないように
 努力するしかないわよね。

 もう、寂しかった頃の自分に引き返すなんて、絶対にできないんだから。





[2nd part]


 朝だ。

 枕元の時計を見ると、9時45分。
 寝過ぎかな。

 うん、やっぱり寝過ぎだ。


 振り返ってみる。

 ああ。
 やっぱり寝てる。


 アスカは夢でも見ているのか、口や目を時折ピクピクと動かしながら
 気持ちよさそうに眠っていた。

 乱れた栗色の髪。無防備な寝顔。規則正しく上下する胸‥‥。
 どれをとっても、この娘が僕なんかの恋人だとは思えないくらい、
 すごくかわいらしい姿だ。

 枕元に並んでいる赤いヘッドセットが、今日も僕をなんだか嬉しくさせる。


 アスカ‥‥僕の恋人なんだよね。

 思えばアスカと過ごしたこの3年間は、本当に大事な、そして楽しい3年間だった。

 人を好きになると‥誰かを好きになると、
 幸せなことと辛いことでいっぱいだって事を、はじめて経験したんだ。


 まず辛いことと言えば。

 アスカの気持ちが全然判らないとか、アスカが僕の事を全然判ってくれない時に
 僕は一番悲しくて、一番辛いと感じるんだ。

 最近は、そういうのが増えてきてるような気がしてちょっと心配だ。

 そんな時は、ほんとに嫌な感じになる。

 『ごめん』と謝ってみたところで、あの頃とは違うんだ。
 心が通じ合わなかった哀しさは、決してなくならないどころか、
 むしろ心がもっと痛むだけって感じだし。

 で、アスカの方も、そんな僕を見ると決まって『いいの。我侭言って、ごめんね』
 と言って、前にもまして明るく振る舞い…それが、僕をますます苦しめる。

 そういうとき、アスカの気持ちも、なんとなくだけど判るような気がする。

 好きな人と自分が解りあえない時とか、自分のせいでその人を傷つけたり、
 悲しませたりしてしまったら、単に自分が何かに傷ついた時よりも心が
 痛むって事‥‥‥。
 ‥アスカとの付き合いの中で、僕はそれを文字どおり痛感している。

 昔、僕もアスカも、これを恐れて心を閉ざしていたんだよね。
 辛さを避けるという意味では、とても賢い選択だったと思う。
 でも、あんな馬鹿な処世術もなかったと思う。

 心を通わせようとがんばることは、辛いことだけじゃないんだから。
 喜ぶアスカの顔を見るたびに、うれし涙を流すアスカを見るたびに、
 心の中のそんな辛さや哀しさは吹き飛ぶんだ。

 とびっきりの喜び、とびっきりの幸福感は、恋人と一緒にいる時‥‥
 それも、些細な事でもいいから何かを二人で達成したときに、
 二人が同じ気持ちになった瞬間にだけ、ワッと得られるんだ。

 ただ揺らぎのない世界を求めて、表面だけ人に合わせていた、そんな
 昔の僕が感じることのなかった、不思議な幸福感を今の僕は知っているんだ‥‥。
 これって、僕がアスカを好きだからだよね。
 この娘の笑顔ほど、見ていて嬉しいものはないからだよね。


 だから、さ。

 今は、僕が守ってあげなきゃ。

 いつも傲慢で我侭に見えたアスカ。
 虐められながらも、僕を守ろうとしてくれたアスカ。
 子供のように素直で、すごく甘えん坊な姿を僕に晒すアスカ。
 二人の時はすっかり弱虫のアスカ。

 だけど、だからこそ僕が大事にしてあげなきゃ。
 辛そうなアスカを、もっと辛くないようにしてあげなきゃ。


 そう思いながら、改めてアスカの方を見てみた。
 無防備で愛らしいその姿を。


 ‥‥‥エッチいなぁ、今日の寝姿も。

 でも、この気持ちも悩みの種なんだよね。
 アスカが好きっていうのに僕ったら。
 これも今の僕を悩ませる事のひとつ。

 男だから仕方がない?
 いや、そうじゃないと思う。
 そうじゃないと思いたい。

 あの時、保健室で抱き合った時の事を忘れさせる、安っぽい気持ち。

 初めての夜に誓った、『どんな事があってもずっと大事にしてあげるね』って
 約束を裏切るような、いやらしい気持ち。

 別に、昨日の夜のこととかがいけないとは思わない、けど‥‥。

 こんなのも僕なんだと思うと、無邪気に僕を信じ、全てを許してくれている
 アスカが可哀想でならないし、自分に嫌悪を覚える。

 本当に今のアスカが、すっかり弱い女の子になってしまった今のアスカが、
 たまらなく好きなのか……。
 今、僕が好きなのは、アスカそのものじゃなくて、アスカの‥‥。
 ‥‥‥。

 こんなの、ダメだよね、人を本当に好きになるって、こんな感じじゃないよね?
 あの頃は違ったよね?

 クラスの友達とかにこんな悩み事を言ったら、きっとバカにされると思う。
 けど、僕を特別に大事にしてくれる、好いてくれるたった一人の女の子なんだ。
 だから、もっとアスカを好きになりたいんだ。


 アスカ、ごめんね、アスカ。
 僕、まだアスカに全部心の中を話せない。

 僕、汚い所もあるんだ。
 もっともっと好きになるように努力するから。
 もっともっと大事に思うようにするから。
 がんばるから‥‥‥。



 ん?
 ‥‥何だか熱いな。


 我に返って、少し薄暗い自分の部屋を見渡してみた。

 カーテンの隙間から漏れる、暖かい陽光が目に留まる。
 耳を澄ますと、元気のいい子供達のはしゃぎ声がその向こうから聞こえてきた。

 時計を見てみると‥‥うっ。
 もう10時をまわってる。

 そっか、15分も考え事してたって事か‥‥。


 改めてアスカのほうを見てみると‥案の定、うっすらと汗をかいた彼女が
 布団を少し蹴飛ばして眠っている。

 “まったく、アスカったら‥‥”

 かけっぱなしになっていたエアコンのスイッチを切り、
 タオルで彼女の額の汗を拭きとってあげる。
 ベッドからずり落ちかけている冬布団も、ちゃんと掛けなおしてあげた。
 アスカは時折まぶたを僅かに動かしながら、僕に気づくこともなく
 気持ち良さそうに眠り続けていた。


「おやすみ、アスカ」

 声はかけるけど、起きないように小さな声で。
 返事かわりに聞こえてくる『すー、すー』という寝息が、僕の心を
 潤してくれるから。

 寝顔を見ていると、自然と“これでいい、僕はこれでいいんだ”と
 思えてくるんだから不思議だ。



“さてと、おいしいものつくらなきゃ”

 いつの間にか、心が弾んでいる。
 僕は、ブランチをつくるためにキッチンのほうへと向かった。


to be continued



 ここまで読んで下さった方、どうもありがとうございました。

 第二部後半のスタートです。

 上手くもない心理描写ばかり続けてすいません。
 (第三部はもっともっとひどいけど)


 後半のシンジ君は‥‥ダメな男としてよりも、優しい男をそれとなく
 表現しようと思って書いたつもりだけど、はてさてどんな風に見えるやら。(^^;

 えっ?綺麗すぎる?
 ごめんなさいね、純なシンジ君にしすぎちゃって。(爆)

 このSS、なんだかんだ言ってヒロインの(爆)成長物語なんで、
 アスカ以外はちょっと綺麗すぎかも?

 ここから先、出来の善し悪しは自分でもよく分かりません。
 つまんなかったり、誰かの気持ちを裏切っていたら、本当に申し訳ないです。

 2004年注:itatatata...





 →上のページへ戻る