子供の頃は、こんな日が来る事を夢見たことはありませんでした。
いえ、こんな事が幸せに繋がるなんて、知らなかったんだと思います。

あの頃は、自分がこんな気持ちになれるなんて、
夢にも思ってなかったから‥‥


でも、こんなに綺麗なウェディングドレスを着ることができて、本当に嬉しいです。

私、幸せです。




この人のお陰なんです、すべて。

タキシードがどうしても似合わない、ちょっと頼りない、この人のお陰なんです。


何がきっかけで惹かれあったのかは、今はもう覚えていませんが、
二人で過ごした長い年月‥‥私は幸せの連続だったと思います。


私に愛を、幸せを、生きる意味を、この人は教えてくれました。


だから、辛いことがあっても耐えることができたんだと思います。
つまずくことがあっても、必ず起きあがれたんだと信じています。


壊れやすいものだとは思っています。
でも‥だからこそ、この絆を、これからも大切にしたいと思います。







第三部・終章(Birthday present for Asuka)    

Episode-35 【open my heart】   







「碇 シンジ、汝、この女を妻とし、生涯をかけて愛し、
 いかなる事からも守り抜く事を誓いますか」

「誓います」

「惣流 アスカ、汝、この男を夫とし、一生愛し続け、
 誠心誠意仕える事を誓いますか」

「はい、誓います」




 口づけが終わって、いよいよ一生に一度の式典も終わろうとしている。



 教会って、こんなに綺麗だったのね。

 小さい頃は、鐘の音も、ロウソクもみんな恐かったのに。

 それに、このドレス‥‥。
 自分で言うのもなんだけど、今日の私、めちゃめちゃ綺麗ね‥‥。


 何年か前、青葉さん達が歩いた赤い道を、今、私達は歩く。

 白い手袋ごしに伝わってくるシンジの手の温もりを、私は感じていた。



 ああ、私、こんなに幸せになっていいのかな?


 やがて、絨毯の道も半ばを過ぎ、私達は祝福に来てくれた人達の間に入っていく。


 沢山の顔が、微笑んでいる‥‥

 ヒカリとトウジ。
 ナオミとケンスケ。

 仲人役を引き受けてくれた、青葉夫妻。


 吹奏楽やってた頃の友達。

 もちろんアヤコ達の姿も見える。

 大学時代の、新しい友人達。

 職場で知り合った人達。


 孤児同士の、親のいない結婚式。

 でも、こんなに来てくれる人がいる。
 私達を祝福してくれる。


 「おめでとう、アスカ!!」

 「めでたいなぁ、やっぱり!」

 「シンジ〜アスカ泣かすなよ〜〜」

 「アスカせんぱーい、おめでとうございますー」

 「おめでとさん」

 「おめでとう!!」

 「おめでとう」

 「幸せにな〜〜!」


 あ、ナオミだ。
 紺のスーツなんか着ちゃって‥ちょっと似合わないわね‥

 「アスカ」

 「なに?ナオミ」

 「幸せにね」

 「何いってんのよ、私達、誰よりも幸せになってみせるから。」



 ケンスケもシンジとひそひそ話している。
 もしかして、同じ事?

 それとも、男同士だから、そんな事はないのかな‥‥。
 ま、いいや。

 とりあえず、おんなじだと思っておこう‥‥。


 薔薇の花びらを浴びながら、シンジと私、ゆっくりと教会の出口に向かう。


 沢山の人の声。

 高い教会の天井、ステンドグラス、鐘の音。
 聞こえてくるパイプオルガンは、ヘンデルの優しい調べ。

 隣には‥‥大好きなシンジ。


 幸せ。
 こんなに幸せ。

 ううん、明日も、明後日も、これからはずっとシンジと一緒。
 ここに来てくれた人とも一緒。

 あれ?でも、それって、これまでと同じじゃん。
 そっか、結婚式って、ひとつの区切りの儀式だもんね。

 今まで通り、シンジともみんなとも付き合っていけたとしたら‥‥
 それで充分だわ。




 あ、そんな難しい事、考えるのはよそう。

 花嫁の格好なんて、一生に一回しかできないんだからさ。

 このまま、シンジと一緒に、みんなと一緒に、
 幸せな雰囲気の中に、溶けていこう‥‥。



 「二人とも、こっち向いて〜〜!!」

 「ねえ、もう一回キスしなさいよ、シンジ」

 「おお〜〜やれやれ〜!」




 「ねえ、どうする?シンジ?」

 「じゃあね‥‥‥」

 「うん!」



 タキシードの彼と、ウェディングドレスの私。


 「おお‥‥‥」

 みんなの声が聞こえる。
 きっと、びっくりしてるに違いない。

 私の腰に手を回して、しっかり抱いてくれるシンジ。
 細いシンジの首に手を回す私。

 みんなの前で見せつけるように、思いっきり抱き合って、長い長いキスをした。



 で、それが終わったら‥‥

 「いこっ、シンジ!」
 「うん!」


 驚くみんなを後目に、私とシンジは教会のドアめがけて走っていく。

 追いかけてくるみんなを振り切るために、一生懸命走った。


 たどり着いた、重い教会のドア。
 えいっと開けると、眩しい6月の日差しが差し込んでくる。


 「あ、みんな追いかけてくる」

 「どうしよ?」

 「きっと、さんざん言われるよ、さっきの事。」

 「いいじゃん、私とシンジだもん、だから、待っててあげようよ」

 「車に飛び乗って、アスカをさらっていきたかったのに」

 「また今度にとっといて。そのイベントは。」

 「うん‥‥。」



 「あんた達!!バカ!?」

 一番先にやってきたのは、ヒカリだった。

 「結婚式だからってね、人前であんなに‥‥‥」


 ヒカリもなんだかんだ言って、あんまり変わってないかな、あの頃と。

 でも、このままがずっと続いて欲しい。

 シンジも、私も、ヒカリも‥‥みんな。


 ホント、まるで夢みたいな結婚式だった‥‥。
 一生、今日のことは忘れない‥‥‥。


                      第三部 完   
                   to be continued







→上のページへ戻る