[4.異性との接触の乏しさを改善]

 前の項で、オタクを含めた異性との交流が刺激になるのではないか、と私は書いた。女性の、言外のニュアンスや表情を用いた独特のコミュニケーションや、オタク趣味を話題にする事に制限を課した状態の会話が、コミュニケーション能力を少しでもマシにするための刺激にならないかと考えての事である。

 その為にも、異性との接触の乏しさを改善するよう提案したいが‥‥。しかしどう改善するというのだろうか。書いてみたが、これは難題だ。何を、どうやって改善させるというのか。単純に同性同趣味だけの環境にいるオタクの場合、何をどうすれば改善させる事が出来るのか‥‥特に男性!女性オタク達とて人間。コミュニケーションの不得手な男と交流を持つよりは、気持ちよく話せる男性を望んでいるわけだし、もちろん彼女たちにも選択する権利はある。特に、男性一般が憧れるような、チャーミングなオタク女性の場合は尚更である。

 女性でやおい等のオタク趣味を満喫している人達の多く(特に人生諦めてない人達)は、コミケの時・入稿前など以外は普通の女性として生活(もしくは擬態)しており、そして、コミケや秋葉原を一歩離れると、コミュニケーションが少しはマシな男性や、友達にしたいような男性がうようよしている。

 しかし!

 まだ手遅れではないと思われる程度のオタク男性が存在するのも事実であり、手遅れでない人達は異性から多くを学ぶことによって沢山のことを獲得するだろう。よしんば、恋愛は出来ないとしても。だから、恋愛しろとは言わない(もちろんしたらしたで大変結構だろう)が、例えば友達を作るだけでも大変メリットがあると考え、接近してみてはどうだろうか。女性は男性と異なる思考体系と、情報交換形態を持っているため、異性に慣れる事は恋愛がどうのこうのだけではなく、非言語的情報のやりとりに晒される、というメリットも期待できる。

 異性とのコンタクトがとりやすいか否かは、その人の趣味・居住地域・年齢・職業によって著しく異なると推測される。しかし、よほどひどい境遇にある例外を除けば、どこかに手がかりはあるだろう。別に恋愛してしかも付き合えるようにならなければならないとは思わない。いきなり全て上手くいくというのは出来過ぎだ。

 最初は、ある程度交流があればそれでいいんではないだろうか?会社のサークルなどでも構わないのだ。ここでは幾らかの失敗は必然。しつこいようだが、失敗を糧としなければならない。失敗そのものが、おそらくは貴重な経験となるはずであり、この繰り返しを重ねる事自体がコミュニケーションスキルを向上させる。贅沢を言えば、失敗しても“そんなに後の生活に悪影響をもたらさない”場を利用できればなお良い。

 失敗に伴うリスクが大きすぎる場合に※1失敗を前提としたトライを行うのはいかにも無謀である。脳味噌使って、どこでどうトライしたら危ないのか、或いはどこでトライしたら失敗してもリスクが少ないのかをよく考えてから行動するのが適当だろう。

 また、この異性という要素ばかりに目が眩んで、異性と付き合う事だけに妄執している状態であれば、行動に無理が生じてくると思われる。この場合は要注意だ。もちろん恋愛は結構なものだし、人を好きになる事で得られるパワーの大きさは大変なものがあるのでそれを生かさない手は無いが、恋愛の心理状態というのは視野が狭窄しがちなので失敗するリスクが高くなる場合がある。恋愛自体は脱キモオタの動機付けとしての牽引パワー最高だが、恋愛を始めると、失敗するのが滅茶苦茶怖くなる場合があったりして、問題点も増加するので注意が必要だ。

 なお、私個人は失恋だとか、女性に騙されたと感じるようなエピソードもそれ自体大変貴重な経験であり、何も恋愛しないよりも遙かに豊かな体験であると考えている。人格に歪みが強い一部の人を除けば(単にコミュニケーションが下手なだけなら大丈夫、という事)、失恋を数度ぐらい繰り返す事は決して悪い事ではないと思う。もし友達増やそうと思っていただけなのに恋愛に突入する事になってしまっても、その時は臆さぬ事。神に感謝するぐらいの気持ちで。フラれるのが嫌だとか言ってさっさと後込みしない事。フラれる事は辛いことには違いないが、恋愛しないよりは遙かに豊饒な経験だ。また、戦訓を学ぶには勝つより負けるほうが学びやすいということも付け加えておく。とりわけ、ふてくされて挑むでなく、全力で正面決戦した場合の経験は極めて豊かだ。

 なお、女性オタクの場合は、コミュニケーション下手な男と付き合ってもあまりいいことがないので、オタク趣味の有無は問わないから少しでもいい男を捜す事を推奨する。コミュニケーション下手のオタクはあなたが本気で攻略すれば多分簡単に落ちるが、あまりにダメ男だと多分色々と困ると思う。どうせ見る目の無い男性の場合は(特に女性との接触が少ないオタクとか)、女性のファッションとか身のこなしとか化粧で、簡単にダマせるのだ。だから、女性のオタクの方の場合、男性よりはえり好みが効く余地があると推定される。

 あ、一つだけ付け足しておくが、男性オタク沢山の中に女性が少数だけいる状況では、多くのオタク達が必然的にあなたを狙うので、自分がいい女であると勘違いしやすくなる。男女比が極端な状況では、少ない方の性別がチヤホヤされるのが当たり前なので、注意する事。オタク世界でモテても、世間で通じるとは限らないのだ。今までオタク社会で逆ハーレム状態だった婦女子のみなさまで、もしオタク趣味を持たない男性と今度は付き合ってみたいと思う人は、自分を高く売りすぎないように注意深く検討するのが適当かもしれない。


 [5.異性に対する認識の、欠陥を改善]

 これは、一部の、ほんの一部の“侮蔑される事のあるオタク”にのみ合致する事と信じたい‥‥。一部、女性に対する観念や認識が現実の女性のそれと大幅にズレているオタクが存在しているようである。そこまでいかなくても、男性一般が描く「女性斯くあるべし」は現実の女性と幾らかズレている事は確かだが。どちらにせよ、異性に対する認識があまりにズレていると、総人口の半数とのコミュニケーションにおいて重大な損失を覚悟しなければならなくなる。

 一部のオタクの女性に対する認識がおかしくなっているのは、恋愛をしていない為に時代遅れの恋愛観(女性観)を引きずっている・純粋な経験不足・さらには最近のゲーム/アニメの影響などが関係していると推測する。アニメ絵美少女達の影響は、ほんの一握りの「二次元コンプレックス」と呼ばれる特異な性癖者を生み出すだけではない。ほとんどの恋愛下手の男を、密かにいっそう恋愛下手にするような、微弱で広範な影響力も有している。オタクメディアにおけるアニメ美少女ワールドは、御都合主義の権化とも言うべき展開が常であり、その御都合主義の度合いは年とともに次第に高まり、今や喜劇的※2なまでとなっている。

 「これはアニメ(マンガ/ゲーム)だから」

 そう割り切っておっしゃる方もいる事だろうし、事実その通りの人が過半数なわけだが、実際の恋愛を全く行わずにこのような空想世界に遊ぶ事だけを繰り返していれば、幾らかの割合の人がそれに飲み込まれる事だろう。ただし、「お兄ちゃんって呼んでくれる妹が欲しい」等の白昼夢をいつも妄想しているような大々的な染まり方をするのはむしろ少数で、女性観・女性に期待するものの微細な変化といった、深刻だが目立たない変化を呈する場合のほうが多数であると推測する。

 ではこれをどうやって治すのか。そういうゲームやメディアを全否定するわけではないが、それらばかりをやっていては、女性観が歪むのは避けられないと思う‥‥余程節制のある聡明な人物でない限りは。やはり御都合主義に毒されていない、現実の女性を見るしかないだろう。それも、二次コンになりそうなオタクでも何とか惹きつけられるような、それなりに魅力的な女性に見たり会ったり話したりするほかないだろう。これが処方である。結局、失敗しつつ実地を積む事(こればっかりで恐縮だが)と、ゲーム等のメディアに完全には漬かりきらない事の二つに尽きるといえる。

 実地を避けて本を読んだり人の意見を聞いたりしても良いと言う方もいるかもしれない。しかし、当世の著者は読者にとって嬉しい事を書いて媚びる事で売り上げを伸ばし、人気を博しておまんまを食べているので、よくよく注意して本を選ばなければならない※3。また、人の意見を聞くというのは先の項でも触れたように水先案内人として有用である事が多いとは思うが、相手や訊き方を間違えると大きな損失を招く可能性がある。相手に弱みを見せる事になったり、場合によっては軽んじられるなどなどの問題点を忘れぬように。

 ただし、この項目は女性と話をしたり友達になったりする事を綺麗さっぱりと放棄するならば、とりたてて気にする事でもないし、そもそもが美少女アニメ系のメディアに関わっていないのならば心配する事はない。現実の女性よりもアニメの世界のなかのキャラクターのほうがずっと魅力的だという人もたくさんいるだろうから、現実の異性との接触を切り捨てる覚悟がある人は無視して良いだろう。

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 【※1失敗に伴うリスクが大きすぎる場合】

 ここで問題として取り上げているリスクとは、「あなたが職場にいられなくなる」「あなたが社会的な危機に立たされる」「あなたが家族から見捨てられる」等の、具体的直接的にあなたの今後の行動に脅威を与え、しかも永続的に悪影響を与えかねないリスクを指す。あなたの内面にぐさりと刺さるとか、一時的に辛い思いをするなどの、あなたの心情に与えるリスクや挽回の利くリスクは全く考慮しておらず、あくまで即物的かつ永続的なリスクを念頭に置いている。

 傷つくのが怖いならとか、トラウマになるからと主張し、それをもってリスクと主張するなら、異性との交流など絶望的である。生身の女性よりもむしろディスプレイの向こうの仮想女性達との交流を奨めざるを得ない。目の大きなアニメ絵の女の子達は、あなたの恋愛観や女性観をますます歪ませるという副作用を有してはいるが、あなたに本気で怒鳴ったりあなたをなじったりはしない。したとしても、大抵後で許してくれるかあなたを愛してさえくれる。またあなたがどんな暴君として振る舞ったとしても、あなたの生命を奪ったりあなたを刑務所に入れたりはしない。

 私個人としては、傷つく事や憎しみさえ生み出すという事も含めて恋愛の面白さ楽しさ切なさだと思うのだが、恋愛をしないオタク達や恋愛を出来ないオタク達は、この辺りの複雑さ加減をどう考えているのだろうか?また、自分自身と異性との間に認識面においても行動面においても幾つもの大きな違いがある事をどこまで直視することが出来るのだろうか?





 【※2今や喜劇的】

 この分野の先鋭化が進みまくった結果、縁のない人から見れば驚愕モノのメディアが出現している。Airやラブひななどにとどまらず、シスタープリンセス或いはエイケンといった凄まじい奇形児達を見ると、進化の終末に現れた面白い形のアンモナイトの化石を私に想像させてやまない。洗練の度合いを通り越して退廃に至ったと言いたくなる。

 しかも、世の中にはそれらの奇形的異性メディアでなければ「萌えない」ようになってしまった人々がいるのだ。現実の異性を天然食物に例えるならば、彼らは天然食材を受け付けずに人工的に作られたビタミン剤や完全合成栄養ドリンクだけしか摂取できなくなったいびつの人に例えられる。果たして彼らはどこまで嗜好を歪めていくのだろうか。

 これからも目が離せない。

 ※2006年補足:奇形的進化は一応止まったっぽいですが、「二次元じゃないと抜けない」人は殆ど減少していないように思えます。




【※3よくよく注意して本を選ばなければならない】

 本屋の本は利潤をあげる為の道具でもある。心地よい嘘を書いてでも沢山売るほうが、厳しい事実を書いて少ししか売れないよりも出版社や作者が喜ぶ。全部の本がそうとは言えないが、ベストセラーと言われるものも玉石混淆である事は、あなたならきっと分かってますよね。

 この手の注意深さを持たずに本屋の本を鵜呑みに何でも読むのは、大変危険な事である。そういう人にとって、本屋やインターネットは知恵の百貨店というよりむしろ迷信の洞窟である。こういう事を心得ていない人が意外と多く、それどころか怪しい本(脳内革命など)にさえ権威性を期待している人も沢山いる。あなたが本、ことに論説文やコラムなどを常に疑いながら読む事が出来るだけの能力や習慣を身につけていないのなら、書物をコミュニケーションの先生とする事はかなり危ないと思われる。

 (こういう文章を読むと、大抵の人は自分にはその能力や習慣がある、と考えるはずだ。しかしその事は誰もが引き起こす反動形成に過ぎない。あなたがそう思ったという出来事は、あなたがそう出来るという事実の証明にはならない事に注意を喚起する)

 当然、このサイトの文章も上記のような懐疑的精神を持ちながら読んで頂く必要がある。安易に信じて貰っては困るのだ。十分な検討を重ねた上で、採用するか無視するかを判断して頂きたい。




【※4包みたくなるのが人情である】

 しかしそのようなオブラートの使用こそ人間らしさなのだろう。たいへんみっともなく、見る人が見れば丸見えなのに心に恥じらいのカーテンを降ろそうとするリアルな人間像。私は人間の滑稽さと荘厳さを感じずにはいられない。