【書物02】 運と気まぐれに支配される人たち−ラ・ロシュフコー箴言集
(角川文庫、ラ・ロシュフコー、吉川浩訳) 630円
ラ・ロシュフコーはほとんどこの箴言集一冊だけで後世に名を残した人で、
他には有名な著作はみられない。だからといってこの本は舐められない。
そう、全く舐められない。辛辣で強烈、しかしぞっとするほど的を射た
珠玉の格言がズラリ並んでいる。芥川龍之介やトルストイなど、この箴言集を
愛読していた文豪も数多いし、それはきっと当然のことなのだろう。
ゲーテ格言集に比べると、即物的で世俗的なところがあり、果てしのない
ロマンスなどは感じにくいかもしれないが、比較的理解しやすく、即座に
生活に反映出来る汎用性の高い(そして娑婆の浅薄な有様を見事に描写
した)格言が多い。そして、即物的で世俗的な箴言の向こう側に、この
フランス貴族さまなりの、美学やスノビズムが見え隠れしているような気がする。
人間の心に仕組まれた浅ましさ、卑しさ、ずるさに関して、この本から
得るものは多い。夢をみたい時にはゲーテ格言集を、シニカルな気持ちに
なりたい時にはこちらを読むのも良し、シニカルなウィットを想像する源泉に
するも良し、630円という価格と破格のとっつき易さにしてはとんでもない
ほど様々な視点を提供してくれる本だ。難しい本や古い本に慣れていない
人でも気軽に手にとる事が出来るし、寝る前のちょっとした時間にページを
めくるのにも向いている。尤も、寝る前に読み始めるとそのまま就寝時間が
だらだら遅れてしまうリスクもあるのだが。
なお、角川文庫版(運と気まぐれに支配される人たち)と岩波文庫版
(ラ・ロシュフコー箴言集)でかなり訳の感じが違っている。角川版の
ほうが読みやすく、岩波版のほうが格好良いので、好みのほうを
選ぶといいだろう。
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