【書物03】 侏儒の言葉 (岩波文庫、芥川龍之介) 315円
こちらは文豪・芥川龍之介の残した格言集である。芥川龍之介先生は、
美しい文体で鋭すぎるほどの人間描写や情景描写をやってくれていて、
ファンの私は大絶賛するほかに能が無いわけだが、この侏儒の言葉は
芥川龍之介格言集ともいうべきもので、シニカルで、冗談なのかとてつも
ない深淵を突いているのか判別しがたい(凡人だから判別しがたいのだと
信じたい!)言葉を沢山収録してある。文学作品としてどういう出来だかは
懼れ多くて私には判らないとしか言えないが、ともかくもひとつひとつの
格言に込められた意味や意図は底なし井戸の如きで、いくら覗いても
覗き足りるという印象を受けない。文学としての芥川作品としてはたぶん
例外的存在なのだろうし、実際、『羅生門』とか『芋粥』とかとは長所や
特徴がかなり違うように感じられるわけだが、だからといってこの格言集が
凡作だという事は不可能のように思える。
ちなみに、この作品を書いた頃の芥川大先生は既に統合失調症に
冒されていたというのが、病跡学における一般的な見解となっている。
同時期には『歯車』『或る阿呆の一生』なども創作されており、発病前の
作品群とは一線を画した迫力と分かり難さと面白さを持っている。
この本もまた発病した時期の作品だったりするわけで、統合失調症に
よってモノの考え方や捉え方が変化しつつあった芥川先生の視点を
眺めるのにも好適かもしれない。統合失調症という病は、厭世的な考えや
不気味な不安、神懸かり的な直感、敏感すぎる精神などを一層際だたせる
事があるといわれている。この『侏儒の言葉』だけでなく、晩年の作品には
底なし沼のような魅力と不可解さが感じられるが、これは精神科医でなくても
十分に感じられる戦慄なんじゃないかと思う。(多くの感想でもそういう事が
書いてあるが、まったく同感である)
一般的な格言集としては、ゲーテ格言集やラ・ロシュフコー箴言集に
比べると、繰り返し読むような魅力は少なめかもしれない。が、それに
したって不思議な魅力を放つ格言集である事は否定できない。なお、
多くの人が“芥川作品を読む際に最初に選択するのはまずい”と言って
いるが、私もそう思う。芥川先生の作品はどれも神秘的な宝石のようだが、
この本は他の宝石達とちょっと趣を異にしているように思える。これらの
事情から、一番目に読む芥川先生作品としても、一番目に選ぶ格言集と
してもあまりお勧めできない。とはいうものの、三番目ぐらいに選択する
分には滅茶苦茶お勧め出来る。病を得てしまって益々常軌を逸した天才の、
戦慄・繊細・美的センスを、たった315円と僅かの時間で垣間見ることが
できるのだから。
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