1

 
   加奈へ

  こないだは、ホントにありがとう。
 正直、もう会ってくれないかもしれないと思っていたので、
 ああ言ってもらって、少しだけ肩の荷が下りました。
 それと、思ったよりも元気そうで、安心しました。
 
  でも、あの日僕が加奈の首を絞めてしまったという事実は消えません。
 たとえ病気の妄想のせいだとしても、僕は自分の手でいちばん大事な人を
 危うく殺めるところでした。

  ごめんじゃ済まないけど、ごめん加奈。
 僕は、僕なりに償いをしたいと思う。
 元々、僕は加奈に世話になってばかりだし。
 病気になる前の事も含めて、これからなにか、恩返しが出来たらと思います。


  昨日、木村先生に病名を告知されました。
 インターネットで調べた通りの病名でした。
 昔の呼び名でいう精神分裂病――統合失調症なんだそうです。
 もうどこも具合の悪くない(と思う)僕だけど、不摂生や
 薬の中断が重なれば、また色んな症状が出てくるかもしれません。
 「治ったんだから、また今まで通りでいいよ」って加奈は言うけど、
 絶対に加奈に迷惑をかけないという自信はありません。
  けれど、もし僕のことが重荷に感じるような時が来るなら、
 その時は、加奈は自分のことを大事にして下さい。
 もう、これ以上自分の病気で加奈に怖い思いをさせたり、迷惑を
 かけたりはしたくないです。


  ゼミノートを貸してもらって、助かりました。
 よくまとまってて、随分参考になりました。
 宗教学のゼミの救済レポートは、“宗教学から見た四国遍路の機能”
 というタイトルでやってみました。
 頭の回転も元に戻ったみたいで、文献を読むのもそんなに辛くないです。
 これなら、わりと早く大学に戻れそうな気がします。


  高知のほうも、いよいよ冷えてきました。
 近所の土佐K分寺は、庭木がすっかり色づいて今が見頃です。
 一人で自宅療養も退屈なので、体力づくり半分、お地蔵様への
 恩返し半分で、境内の掃除なんかをさせてもらってます。
 お遍路さんの御接待をしたり、たまには住職のありがたい話を
 聴かせてもらったり、有意義な時間を見つけようと心がけてます。

  そちらも寒さに気を付けて、体調を崩さないようにがんばって
 ください。確か、そっちの学科は来月から後期試験?
 ちゃんと寝ないで僕みたいになる(加奈は大丈夫だろうけど)と
 いけないから、夜更かしは程々にしてください。
 美容にも悪いし。

  それでは、また。
  クリスマスには、松山に行きます。


                        ('02 11月24日) 西田 護




2



   まもるへ

  お手紙、ありがとう。

  こっちは試験試験でもう大変!
 先輩や菅原先生からキツいって噂は聞いてたけど、こんなに
 ひどいとは思ってませんでした。今はてんやわんやです。
 こうして手紙を書くのは、とてもいい気晴らしになっています。

  松山はもう、コートが無いと朝夕は厳しいです。
 キャンパスのイチョウ並木も散りました。
 去年、護に買ってもらったマフラーを、使いまくってます。
 風邪をひかないように、お互い気をつけましょう。

  年が明けて春休みになったら、仏像研究会と菅原ゼミの
 合同で、京都に行こうっていう計画があがってます。
 菅原先生はじめゼミ一同、護も来るだろうって思いこんでます。
 もちろん私も、その一人です。
 護も体調さえ良ければ、一緒に行くよね?
 でも、旅先で睡眠をきちんと取るって約束してください。
 約束しないなら、研究室の電話番をさせると菅原先生が言ってました。
 そのつもりで、心身を大事にしてください。


  やっぱり統合失調症だったんだね。
 調べた通りだったから、あんまり驚いてないです。
  入院中の出来事についても、そんなにこだわってません。
 今は病気も治まったんだし、同じように再発したとしても、
 二度も三度もおとなしく首を絞められるほど、私もマヌケじゃないです。
 再発した時の対処法も、木村先生から聞いてるでしょ?

  再発する可能性がゼロじゃないって事も、分かっています。
 だけど、再発したとしても、護が護でいてくれる限り、私はそばにいたいと
 思ってます。

  今だから書くけど、護が寝ている時に、ちょっとだけ日記を見ちゃった。
 ゴメン。
 でも私、日記を見て感動したよ。
 脳をやられて文章が滅茶苦茶の時も、私達のこと心配して謝ってばっかり!

 “ああ、護はどんな時もやっぱり護なんだね”って。


  護はまじめな性格だから、全部自分のせいにして責任をしょいこむ
 けど、きまじめさに押し潰されちゃダメです。
 謝ったり恩返しばっかり考えたりしなくていいって♪
 でも、そういう所に私は惹かれたんだし、今もこだわってるんだろうなぁ。
 みんなも、不器用だけど純真な護だから、きっと好きなんだよ。

  周りの人に感謝しながら生きていくことをよく知っていて、
 いつも一生懸命な護を、私、病気ぐらいじゃあきらめないよ。
 護が、思いやりのある優しさや、感謝の気持ちをなくさないなら、
 私は護の傍にいたいです。


 だから、これからもよろしく。


 クリスマスに来てくれるんだよね?
 用事空けて待ってるね。

 では、おからだに気をつけて。


                         12月 3日 神山 加奈





 「SCHIZOPHRENIA」――以上(2002.11/10)

 →トップページにもどる