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なんちゃって・ざっはー 追補


前稿は、「なんちゃって・ざっはー」の標題が示すとおり、ザッハホテルさん秘伝レシピとは著しくかけ離れております。いや、ザッハホテルさんの秘伝がよくわからない以上、かけ離れているかどうかの検証はされていませんが。しかし世に溢れるザッハレシピをつらつら参照するに、我が「なんちゃって・ざっはー」がいかにいい加減でメインストリームからはぐれ果てた田舎料理であるかは明らかです。
ものの本によれば、卵黄は別立てとすべきで、のちメレンゲと合わせるのである、チョコは湯煎ではなく、削ったままの粉末を生地に加えるのである、また、もののブログにおいては、生地に加えるのはガナッシュ化したチョコでなければならぬ、バターは黄金色に溶かした上澄みを生地に混ぜ込むのである、チョコがけする前にあんずジャムを塗るのは鉄板である、風味付けはラム酒で等々等、手間・ヒマ・コストと洗い物の労力を微塵も惜しまぬ心がけが、いずれも私には眩しくてしかたがない。

わたくしとて、神ケーキの複製を試みるに初っ端からド田舎アレンジを施しにかかったのではく、まず指南書を熟読し、上質の素材収集に努め、その内容を忠実、厳密に実行していたのです。しかしながら回数を重ねるごと、面倒くさい手順をつまんだレシピでも、それなりの風情に仕上がることが判明し、その後のなりゆきは、まさに「水は低きに流れる」が如くでありました。
もし、前稿の次第にさらなる省力化を試みんとする同好の士がおられるならば、手順の初期段階において、ガラスのぼぅるにバターとチョコを固まりのまま放り込み、レンジの解凍モードでゆるめる荒技を用いてください。洗うべきぼぅるが一個減ります。

思い出話を語ります。
むかし、観光旅行でウィーンに立ち寄ったとき、今こそ千載一遇とザッハホテルに赴き、この著名な神ケーキを買い求めたことがあります。「消費期限は2日だよ」と販売員(これが男前だったんだよ)に念押しされ、ゆえに神を郷土に持ち帰り土産に配って自慢しまくるという目論見は断念せざるをえず、宿に戻って友人と晩ご飯代わりに分け合ったのでした。控えめに切り分けたつもりのポーションが、緻密で悩殺的でディープインパクトで、一度には食べきれなかった。
その翌日であったか、ケーキ処のウィーンにおいて一度はお茶などしてみんと、とある街角の開放型喫茶店で一服したのですが、その際、一杯の珈琲とともに供出されたケーキに添えられていた生クリームが、想像していたものといささか異なり、ホイップ加減がゆるゆるで、甘みはごくごく控えめ、全体にしゃぶしゃぶしながら舌触りの中に脂肪の粒が感じられたのが未知の感触でありました。これが美味であったかどうかの判断はもはや忘却の彼方にありますが、本場にてウィーンっ子の作法でケーキを食した満足感は貴重な思い出となり、ザッハトルテのボディーブローとともに今も記憶の引き出しに大切に納められているのです。

ケーキは、作っても、食べても、訪ねても楽しいな(というまとめで許してください。)。

 

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