ポーの話

いしいしんじ/新潮社(2005.06.12)

その昔「アムステルダムの犬」という名著にて、 いしいしんじに出会った。
「ぶらんこ乗り」で再会し、やっぱり好きだと改めて思った。

心を持たないポーだけど、沢山の母親達に命がけで守られ、 そして愛されて来た記憶は刻んでいる。

誰かを傷つけるつもりなんて無い言葉でも、ヒトは簡単にキズつく。 でも、ポーの言葉は別みたい。
余りにも透明な言葉に、虚を衝かれたとしても怒ったりしないみたい。
自分のことを良くみて、恥ずかしがったりちょっぴり反省したり。
そして、ポーのことが刻まれるんだ。

ポーは、見えなくても天気売りみたくいつでも一緒にいて、 そしてポーを思うと少し優しくて謙虚な気持ちになれるんだ。

ファンタジーでリアルで優しくて少し哀しいお話。


切れない糸

坂木司/東京創元社(2005.06.08)

「引きこもり探偵シリーズ」におヨダだらだらではあったものの、 なぜだか読んだよーという人に出会わず二の足を踏んでいた。
とうとう新シリーズが登場したのですかさず購入。
その直後にシリーズ全巻制覇した人と話したのはご愛敬。

商店街で巻き起こる小さな謎。それを解き明かす人。 なんとなぁく、北村薫な雰囲気だけどチト違う。

わたし自身はどうだろう、といつものように思う。 和也と沢田のどちらでもない。
沢田のように飛ぶ力もなく、和也のように地に足もついていない。
なんかこう、手巻きの仕掛けで動くチョロQレベルな感じ。

根っこが欲しいと思う気持ちはとても良くわかる。 でも、求めたからと言って手に入るものではない。 千載一遇のチャンスをちゃんとつかまなければならない。

わたしにもあると思う。1本はある、と信じている。

全体的には現実感のあるおとぎ話だな、と思った。 かなりオススメ。


初対面の教科書

NHK出版(2005.06.07)

いつもは小説やらノンフィクションやらを読み倒しているわたしが、 珍しくも「ビジネス書」なんて読む羽目になったのは、 この本の編集・執筆者が友人であるから。
それ故、普段の感想文とは少し趣向を変えてみよう。
内容はまさしく初対面を上手に乗り切るための教科書。 それ以上でも以下でもない。
さて、以下にわたしがいちいちひっかっかた言葉たちを。

「スマート」という言葉の定義
わたしは、お勉強が出来るのではなく回転が速い、さらに 機転が効き、全体が見渡せる。そして、自らの立ち位置を的確に把握している、 といったような人をスマートと呼んでいる。

「正論を吐く」ことについて
正論を吐くことで他人を傷つける・・・これは痛い。 実際まさしくそのような出来事を経験した身としては、痛かった。 しばらく読むのを中断するほどの痛みだった。
でも、正論以外に無いことだってあるのよ。例えば「飲んだら乗るな」とか 「歩きタバコは死に値する」とか。

「残念な○○」
わたしが常用している言葉のひとつ。FAXが送信できませんでした、と 知らせてくるあの紙。送信者に渡す時には必ず「残念なお知らせです」と言う。 これ、けっこう社内で流行してる。そんなに面白いかなぁ?

「失敗」注釈
驚くほどありきたりなオリジナリティのない失敗で悔やむのは二重の意味で 悔やむ価値無し、とのこと。おっしゃる通り、ではあるが、なかなかそう クールに決められないのがヒトってヤツなのかも。

「アンビバレント」
これもわたしが常用する言葉。こう、どっちにするぅ?どっちにするぅ?な 気持ちはこれ以外にぴったりする言葉がみつからないまま この年になってしまった。

「メモ」をとる
これ、大得意。わかってる顔してしっかりメモっておく。
そんなわたしはテストの成績がよかったものな。先生の言いたい事が まるわかりだった。が、実力テストのように範囲の広いものは苦手だった。
そう、実力なし。

「ボブ」
アメリカとくれば、ボブ。このステキに短絡的な発想が愛おしい。

「また会いたい」
執筆者との初対面の折り、たしか彼が「跪いて足を舐め」ながら 「次に会っていただけるのは、いつですか?」と言ったハズ。 わたしってカリスマ?

「ドラクロアのレプリカ」
結構趣味悪くないか?それ、会議室にあっていいのか?

「じゅたんのへこみ」
気づかなくていいし、それに気づけば<いつもの自分>って。 マニアではなかろうか。

「目を合わせる」
ひたすら他人の目を見て話す人が、すごい!と思っていた。 わたしには出来ないや、と。なんだ、やらなくていいんじゃん。 やっぱそうまで見られるのは気持ち悪いでいいのよね。うん。

「それを言われたら嫌えないじゃん!」
という言葉を一度ならずとも吐かれたことがある。困るよ、実際。

「スケベ」のお願い
男性のモチベーションの源であることは周知の事実。 その心がなかったら、インターネットは世界に広がらなかったと 断言する知人もいるくらい。肯定する方向で検討可能かどうかは、別。

「若いっていいわよね」
言ったことがない。「若いと面倒な事多いよね」とは言う。 実際若い頃には、いろいろ面倒が降りかかったものだ(懐)。

「究極の3人目」
若い女性が多いというのは、至極当然のこと。なぜなら彼女達は <若い>の他に<女性である>という二重のハンデを背負っているから。 なんだかんだ言っても、社会では女性であることはハンデなのだ。 <お膝に乗る>といった思い切った手段を取らずに認めさせるなら、 自ずと究極の3人目になっている。

「合コン」
このあたり、執筆者の思いが溢れ出ている。涙なくしては読めない。 「持ち帰って揉んで来ます」と言わせてあげて欲しい。

「女性同士の初対面」
わたしは<仲間になれるか?>と思う。男性なのか?

「ユングとフロイト」
かつて初対面で電流が流れまくり、30時間ぶっ通しで話した人とも いまはもう他人。そんなモノなのよね。

「チラリズム」
自社のサイトを作成するためのコピーを考える会議で、 「ここはチラリズムで全部書かないってのは?」と発言したわたしは、 ダメですか?

こんな風にひっかかりひっかかり読み続け、けっこう時間がかかったが 明らかに文章が面白かった。執筆者をリスペクトしとこ。

文章が、と言ったのには訳がある。わたし、途中で気づいてしまった。 <ビジネスでの初対面は怖くない>ってこと。
つい先日の転職期間での面接でも、なぁんにも怖くなかったから。
そんな<わたしがどうして怖くないのか>を理解することができた。
きっちり腑に落としていただいた。ぐらっちぇぐらっちぇ


ラム&コーク

東山彰良/宝島社(2005.03.26)

日本に住む日本人の知らない中国人社会が描かれている。
現在のシステム業界などで華々しく活躍をしている彼らだが、 それだけの教育を受けられなかった一攫千金を夢見た 密航者達についてわたし達は余りにも知らない。
10年以上も日本にいて、日本語をほとんど話せないという。 それほど隔離された社会が日本の中にあるということなのだろう。

そしてギリギリ堅気の父と息子たち。
わがままな子供のような父親に振り回されながらも、 冴と礼の兄弟が助け合っているのがなんともドメスティック。

そしてクリス。兄と弟とはもう一緒に暮らすことは出来なくなった彼は、 今は神と会話をしつつ仕事を請け負っている。
彼の仕事を請け負う金額が妙にリアリティがあって寒気がする。 300〜500万で殺すらしい。なんとなく払い切れそうな金額なのが、ね。


僕のなかの壊れていない部分

白石一文/光文社文庫(2005.03.20)

一人きりになるとものすごく虚しいくせに、 他人とかかわるのがひどく億劫で面倒。 その上、他人や自分の愛情を信じることができない。
生まれてこなければ良かったと思い続けて、 どうして自殺しないんだろうと自問を続ける。
そんな男が暇をつぶすように暮らしている物語。

よく自殺したいと言う人に向かって 「生きたくても生きられない人がいるんだから」と言う。
とても正しい意見だと思う。

ただ、この小説でのセリフに考え込んでしまったのは
「じゃあ、いつまで生きればもういいって思うんだよ? 1年か?10年か?」
そう言われるとどうなんだろう。


もつれ

ピーター・ムーア・スミス/創元推理文庫(2005.03.15)

ここでもわたしの「いい人・完璧な人」を信じない力が爆発。
どうしたって、完璧な医師である兄よりも精神がふらふらしている弟を信じてしまう。 そんな選択をするわたしは現実社会では問題があるな、と思うが性ってヤツなのか。

本当は起こったことを、無かったこととして蓋をしてしまう行為が好きではない。 犯罪なんて大それたことじゃなくても、言った言わないというのが嫌いだ。 「そんなつもりで言ったんじゃない」ならいいけど、 言ったという事実を丸ごと否定するのは卑怯すぎるよなぁ。

それは置いておいて、毎度自分のフルネーム(ミドルネーム付き)を名乗る キャサリン・デクインシー・ジョイという女性。面白いが面倒じゃないのか?


火の粉

雫井脩介/幻冬舎文庫(2005.03.12)

「自分の居場所が見つからない」そんな風にいつも思っているが、 生活のために職場に属しているのだから最低限そこに居場所らしきものはある。
「らしき」ものであって、そこに愛はないけど。

そんな風に自分の居場所を探しても見つからないから、 居心地のよさそうな他人の場所に強引に割り込むことにしたのだろう。
そして無い物ねだりはエスカレートして、多少の揺るぎも一切許さないのだ。 状況によって人は変わるというのに。

わたしは「いい人」を信じないし、興味がない。 自分が「いい人」ではないと知っているからなのか。
演じられた「いい人」はわたしを疲れさせる。

こんなわたしは、きっと一番最初にあっさり排除されるのだろうな。


逃亡作法

東山彰良/宝島社文庫(2005.02.18)

少し過去のどこかの時点て違った選択をした結果の日本の現代における 刑務所とその周辺が舞台。

刑務所の外の世界は現在の姿とほぼ同じ。
つまり、犯罪は多発し凶悪化し低年齢化している。 そして国際色も豊かだ。そんなところに豊かさを出すなよ。

以上のような状況を鑑みるに、刑罰を重くしたところで犯罪は減らない?と 思ってしまう。「見つからなければいい」となるだけなのかも。

根本的なことを大人がきちんと見せてあげないことには、 これからの世界に未来など無い気がする。

「ダメなものはダメ」なんだ。ただそれだけのことを 「うちの子だけいい」とか「見つからなければいい」とか 「お金があるからしょうがない」とか言い訳せずに詳らかに きっちり見せてあげる必要がある。

自分が生き抜く以外、どうでもいいと思っているツバメ達と 娘を異常者に殺された復讐者たち。

不思議に絡み合う彼らの物語。おすすめ。


世界は密室でできている

舞城王太郎/講談社ノベルズ(2005.02.07)

ルンババは嫌な奴なのかと思っていた。
なるほど彼は名探偵になったんだ。名乗っても仕方ないね。
涼ちゃんの自由な心は誰にも止められなかったんだなぁ。

もういない兄や姉の年齢を通り過ぎる時、 彼らはもう一度兄や姉を失い直すのだと思う。
自分が先に行ってしまうことで改めて「もう居ないんだ」と 突き付けられるんだろう。

友人はありがたいものだね。自分が親に言えないことも あらゆるチャンスを逃さない男、西村友紀夫に任せておけば大丈夫。
子供はおもちゃやお人形ではないのだよ、そう言ってくれる。


煙か土か食い物

舞城王太郎/講談社文庫(2005.02.06)

最近知り合った人に「好みだと思うよ」と紹介され、 実際ものごっつ好み。分かり易いんだな、わたし。

そこら中に暴力がぶちまけられている。親から子へ、そのまた子へ。
壮絶な暴力に曝され続けた4人の兄弟は誰一人子供がいない。
主人公である四郎は自分の暴力性を恐れている。 歯止めが効かなくなるかも知れないことを恐れている。

会話が改行されていないところが新鮮。 たたみかけるような会話がそのまま表現されている。

四郎くらいクレバーであっても、これから先の人生を生き抜くために 丸雄の「言い間違え」が必要なんだ。

なんて弱いんだ、ヒトって。たくましくなりたいね。


未確認家族

戸梶圭太/新潮社(2005.01.30)

ずっと気になっていた戸梶をようやく読了。 気に入ったよ。

救いなんてどこにもなぁい、そのくせありふれた人物が どしどし登場する。ものすごく血の通った感じ。
本当にこんな社会になってるのか?いま?
生き延びられる気がしないよ。生き延びたいか、は別問題。

とにかく誰も謝らないのが悪いんだ。
ヒトは誰でも間違えたりうっかりする。その程度の生き物だ。
ただしそれに気付いたらちゃんと認めて謝ろう。 悪い事だと解っているのに隠すな。「ごめんなさい」と言おう。
親も間違えるんだ、子供に謝ろうな。

常に正しい人なんていない。いないのにいる振りをするから歪むんだ。 間違えるってことをお互いに認めあえれば、許し易くなるだろう?


逆風の街

今野敏/徳田書店(2005.01.21)

諸橋と城島、すばらしく素敵なコンビ。
お互いを補うという見本のような二人だ。 どちらかと言うと城島抜きの諸橋が成り立たない、か。

警察の腐敗についてはもうイヤになる程聞かされている。 逆風の街でもそんな風が吹いているが、 ヤクザ社会での腐敗もあるらしい。
義理も人情もあったもんじゃないらしい。 面子の為の手打ちなんてのも無い。ほぼギャングと化している。

生きて行くのにパートナーはいた方が良い。 痛みを分け合い喜びを分かち合えるから。
同じように「これ」と決めた仕事ならやり続けるべきだし パートナーがいた方がいい。乗り越え易いから。


赤・黒

石田衣良/徳間文庫(2005.01.18)

世の中に「うまいハナシ」はないんだ、と、 何度言って聞かせても判らない人達のお話し。

ギャンブルで失敗し、取り返そうと現金強盗の仲間になり、 見事裏切られてついでに命も狙われる。
スキ間無しびっちりの自業自得。

そんな自業自得君の相方として早々にサルが登場。 わたしのお好み。
何をしてもいいけど、自分で収集つけられる程度を 考えて行動して欲しいものだね。


無頼の掟

ジェイムス・カルロス・ブレイク/文春文庫(2005.01.14)

ストーリーはきっと面白いんだと思う。
今回はわたしと訳者のリズム感が合わなかったようだ。 なんというか文章そのものに魅力がなく 「情報です。伝えましたから」みたいな感じ。

もう既に何度も聞いたおハナシだけど、禁酒法の時代なため、 現代よりも血生臭さが薄くて救いになっている。
自分たちの決めた掟を守る、それが男達のプライド。 決して諦めない双子の叔父たち。それもルールだからね。
自分の命が叔父に狙われてようやく疑問を持つソニーだが、 もう遅い。すでに掟に取り込まれてしまっていた。

ムダなプライドとか見栄がない女が最強。


もう切るわ

井上荒野/光文社文庫(2005.01.11)

ものすごく納得いかない。
死んじゃう人には優しくする? なのか?
誰だって「死んじゃう人」だぜ。
期限が見えているか見えていないか、の違いはある。 しかし、まだまだ!と思っていて何の準備も無いまま 「ブチッ」と電源が切れるように消えるとなると 気になることがありすぎるだろ、実際。

妻と夫と愛人。妻は夫をどう思っているのか。 たぶん、愛人を憎むのでもない彼女は夫に呆れ果てている。 そして彼に呆れることに飽きていて、更にその状況に慣れている。
登場人物の誰の気持ちも分からない、疎外感を感じるストーリーだった。

夫の愛人が、彼に出会う前の自分が何を楽しんでいたのか 思い出せないというところだけ、唯一理解可能だった。


少年計数機

石田衣良/文春文庫(2005.01.10)

別に悪い事ではないと思うし、映像化イメージが かけ離れていないので気にならないが、 どうしてもどうしてもテレビ番組のキャストを思い浮かべつつ 読んでしまう。いや、別にいいのだけど。

壊れた家族と金銭感覚が少年を苦しめている。
だからお金ってヤツは、ね。
生きるに足りるだけって、本当はどれくらいなのだろうと思う。
たくさんものを持っていても心はひとつも持っていない。 それでいいの?
幸せって本当に難しい。

くさったガキは更生しないんだよ、更に確信を深めた。


BG、あるいは死せるカイニス

石持浅海/東京創元社(2005.01.08)

取り急ぎ2回読んでみたが、どう扱っていいのか悩ましい。

どこかに存在しているのも知れないパラレルワールドが舞台だが、 「あ、あるかも。ありそう」感が持てないまま終わってしまった。
設定としてこうなのね、というような作り物めいた作り物の中で ストーリーが展開していく。人物に感情移入ができない。
決してつまらなくは無いのだけれど、「こんな設定で書きたい」 という作者の思いだけが走ってしまった感じがしてしまう。

人物の深みも感じられない。
あぁ、こんなにも留保をつけるほどわたしは偉くないのだけれど、 どうしても。



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