エピソード14
 「待ち合わせ」


坪井君と名鉄の新名古屋駅改札口の前でよく待ち合わせた。
その日もいつものようにそこで待ち合わせていたのだが私が目覚めたのはちょうど約束の時間をまわった頃であった。枕元の時計を見て「しまった!寝過ごしちゃったよ!」と跳び起きた。今ならば携帯電話があるので「遅れるから」と連絡もできるのだけれど当時はそんな便利なものはないからいったん家を出てしまえば連絡不可となる。
このまま大急ぎで着替えて出発しても30分の遅刻と思いながらもその時私がとった行動は「まずはメシを食べよう!」と大急ぎで食事をすませた。そして身支度をすると小走りに中村公園駅に向い焦る気持ちで地下鉄に乗り込んだ。やがて電車は名古屋駅に到着、待ち合わせ場所に急いだがすでに1時間の遅刻である。「きっと怒っているだろうなあ。」てな事を思っているうちに待ち合わせ場所へ到着。
「いやあ〜っ、ゴメンゴメン。寝過ぎちゃって!待った!?」それまで坪井君が怒ったのは見たことがなかったがこの時ばかりは怒っていた。
「待った?じゃないで1時間も待たせといて。それに花木、自分だけメシ食ってきたのか!?」
ドキッ!ひょっとして坪井君は千里眼なのか!?
「何んで知っとるの?」と答える私の口には爪楊枝があった。楊枝をくわえたまま急いで家を出てそのまま捨てることなく待ち合わせ場所まで着いてしまった。1時間も待たされたあげく私がのうのうと楊枝をくわえながらやって来たのを見てよっぽど腹が立ったのだろう。真剣に怒っていた。それにしても楊枝1本でそこまで読みとった坪井君の推理力には恐れ入りました。坪井君、覚えているかどうか分からないけどあの日のことごめんね。