えらーい人達
六人目       ウィルヘルム・バックハウス ( BACKHAUS, Wilhelm )
                     (1884〜1969 ドイツ)
1884年3月ドイツのライプツィヒ生。10才でライプツィヒ音楽院入学。卒業後14才でプロの卵となった後、翌年にはフランクフルトに赴き、当時最も人気を博していたピアニスト、ダルベールに入門する。16才時から本格的演奏活動に入りだし、17才時にはニキシュ指揮のゲヴァントハウス管弦楽団にデビューした。21才の1905年に彼はA・ルビンシュテイン記念のコンクールに出場。後の大作曲家ハバルトークを2位に抑え優勝している。1969年ライプツィヒにて没。バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームスと言ったレパートリーがその中核。”ドイツ流”の神様的存在。

バックハウスはあらゆる音楽家の中で、その演奏のみで尊敬するに至った唯一人の人です。バックハウスの演奏を言い表すと「何もしない」の一言に尽きます。その理由は彼の演奏は聴いてもらえば解ります。バックハウスが演奏でやっていることは全て楽譜に書かれていることのみです。往年の名ピアニストリリー・クラウスがこんなことを言っています。「バックハウスの演奏は何も変わった事をしません。普通そのような演奏は退屈に感じてしまうのですが、不思議なことに彼にはそのようなことが無いのです」 一般的に彼のことを精神主義演奏の権化のように扱われる事が多いようですが、彼は曲本来の良さを信じ楽譜に書かれていることの最上の再現のみに注力したのだと私は思います。従って彼の演奏では曲が良ければ良いほど演奏も良い様に思います。

普通、演奏家の端くれともなれば自分の解釈を前面に出したいはずです。又、それが個性とも言われ、そうするのが自然でもあると思います。しかしバックハウスと言う人はそんな点を完全に制御します。曲の純粋な再現のみに全精力を注いでいるようです。言うのは簡単ですが実際に行うのはそう簡単な話ではありません。人間が本能的に持ち合わせているはずの欲求(この場合芸術上の)を完全に抑え、作品への奉仕のみに捧げきった演奏をするというのは凄いと思うし、そんな音楽を私は他に知りません。私が唯一その演奏のみで尊敬するに至った所以です。

そんなわけでバックハウスの演奏では聴いてる曲の素晴らしさが純粋に響いてきます。ホロヴィッツを聴くときのような演奏家のパフォーマンスを楽しみに聴くとき時とは明らかに異なります。(私はホロヴィッツも好きですが)
決してよく言われるような精神主義的重々しさが聴くときに構えさせてしまうものではありません。

それともう一つ、評論家の方々が殆ど触れてくれない点ですが、バックハウスの音色の美しさをあげておきます。これは他のどのピアニストと比べても決してひけをとらない美しさと言っておきます。彼の十八番ブラームスの第2ピアノ協奏曲の終楽章を聴いてみて下さい。冒頭の主題の提示部分を聴くと、その美しさはまるで清水の中で泳ぐ元気な小魚を見るような軽さと綺麗さが一度聴いた耳を放しません。
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集(全32曲)
これらの曲のバイブルとも言われている名盤中の名盤です。どの曲も作品の持つ重厚さや美しさを過不足無く音にしています。他にも重要な録音はありますが、まずはバックハウスのものを聴くところからSTARTすべきと思います。とりわけ作品57の「アパッショナート」と作品106「ハンマークラヴィーア」はさすがとしか言えません。
DECCA POCL4731〜8(8CD) ¥12,800
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲全集(全5曲)
これも超定番的名演奏です。全ての面で堂々たる風格のピアノをシュミット=イッセルシュテットが名器ウイーン・フィルを駆使しこれまた堂々たるサポートぶりを聴かせてくれています。ソナタ集同様この協奏曲でもひたすらベートーヴェンの素晴らしさのみが堪能できます。第5番「皇帝」のみならばクレメンス・クラウスやハンス・クナッパーツブッシュと共演した録音も残っていますが、まず最初に聴くべきはこの盤でしょう。指揮:ハンス・シュミット=イッセルシュテット&ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
DECCA
 POCL4692〜4(3CD) ¥5,097円 (ディアベリ変奏曲が併録されています)
ブラームス:ピアノ協奏曲第2番
曲、ピアノ、指揮、オーケストラこれらの4拍子が全て揃いきったお宝ものの演奏で、協奏曲を聴く楽しみの究極の名演奏でしょう。ブラームスを聴くのにもうこれ以上は望みようが無いBEST CASTです。聴くためについ手を伸ばす機会が最も多いCDがこれです。何度聴いても飽きないどころか、聴けば聴くほど惚れ込んでいける名演です。最も是非聴いていただきたい演奏です。カール・ベーム指揮&ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
DECCA POCL6610 ¥2,000
*これまた名演のモーツァルトの第27ピアノ協奏曲が併録されているお得ものです。絶対”買い”です!

バックハウスの演奏を聴いていてよく思うのですが、彼の演奏は”歌う”とか”弾く”という感触をあまり感じません。それより語りかけると言った感じをいつも受けます。現在ではこの”語りかける”と言うことの出来る演奏家がめっきりいなくなってしまった気がすします。未聴の方は是非一度聴いてみて欲しい人です。
   

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