スカウト運動における基本原則



       スカウト運動における基本原則


1.はじめに
「基本原則」とは、目的・原理・方法という基本的な要素のことを示している。スカウティングは、社会のニーズに合わせて多様的な活動をすることができるが、「基本原則」という共通の基準に則って展開されなければならない。

  「基本原則」は、「世界スカウト機構」憲章の第1章で述べられている。この文言は、1977年にモントリオールで開催された「第26回世界スカウト会議」で採択されたものである。

  
「基本原則」は、「スカウティングの定義」「スカウティングの目的」「スカウティングの原理」「スカウト教育法」の4点である。


2.スカウティングの定義
 スカウティングの定義とは、「スカウト運動は、創始者によって考案された目的、原理、方法に従って出生、人種、信条の区別なく、全てに開かれている青少年のための自発的で、非政治的な教育運動である」と示している。


1)運動
 運動とは、「1つの目標に向かうために努力して進める一連の組織化された活動」のことである。運動は、「達成されるべき目標」「目標を達成するための組織」の両方の意味を含んでいる。


 2)自発的
 
スカウティングは、基本原則に則って、青少年および成人の加盟員自らの自由意思によって行う自発的な行為」である。

 3)非政治的
 
教育運動として、スカウティングは非政治的である。それは、政治の主たるテーマと政党というシステムがもたらす権力闘争に関わるものではないからである。しかし、政治から完全に分離しているという意味ではない。何故なら、

  ◆
スカウティングは、責任を持った市民性を育てることをねらいとした運動であり、市民としての教育は国内の政治を認識しなければならないからである。
  ◆
スカウティングは、加盟員の政治的な選択を規定する基本的な規則と信念といういくつかの原理に基づいた運動であるということである。

4)教育
 スカウティングは教育運動である。教育とは、「人間の資質の総合的な発達を目指すプロセスである」と言われている。具体的には、「知ることを学ぶ」という知的能力の発達、「生きることを学ぶ」という姿勢を伸ばすことである。従って、

  ◆純粋にレクリエーション的な運動とは区別されるものであり、これらは、目的を達成する一つの手段として考えなければならない。
  ◆特定の知識あるいは技能を修得するプロセスと区別されるものであり、これらは、目的を達成するための手段として考えなければならない。

  ようするに、目的は教育することである。それは創始者自身の言葉から考えることができる。B−Pは、「それから、ボーイスカウトの訓練には最も重要なねらいがある。それは教育することである。教え込むのではなく、いいかな、教育することなのだ。すなわち、少年が自らの望むことを一人で学ぶように引き出すことである。それが彼の中に性格を作り上げるものである」と示している。

5)教育の位置付け
 ユネスコの定義によると、3つの教育に分かれ、スカウティングは、ノン・フォーマル教育に属している。ちなみに、国際的5大ノン・フォーマル教育組織とは、「世界YMCA同盟」「世界YWCA」「世界スカウト機構」「ガールガイド・ガールスカウト世界連盟」「国際赤十字 赤新月社連盟」があり、世界で一億人以上の青少年と成人指導者・支援者が活動している。

  ◆フォーマル教育
  年代別に等級づけされた小学校から大学に至る教育制度である。
  ◆イン・フォーマル教育

  自らの生活環境の中で、日々の経験や教育的影響、人的物的資源から姿勢、価値観、技能、知識を身につけるための生涯に及ぶプロセスのことである。一般的には、家庭における教育を指している。

  ◆ノン・フォーマル教育

  公式の確立された制度以外の組織化された教育活動のことであり、教育目的をもった組織された機関で、特定の受益者に向けられるものである。

 
6青少年を対象にしたもの
 スカウティングは、青少年を対象にしたものである。成人の役割は、スカウティングの目標達成のために、青少年を援助することである。
 そして、定義にあるように「出生、人種、階級あるいは信条」の区別なく全てに開かれ、「目的、原理、方法」を自発的に守ることが条件である。



3.スカウト運動の目的
 スカウト運動の目的は、「青少年が個人として、責任ある市民として、地域、国、国際社会の一員として、身体的、知的、社会的、精神的な潜在的能力を十分に達成するよう彼らの発達に貢献することである」


 1教育的効果を補完すること
  人間の発達プロセスは、さまざまな要素が統合されたものであり、身体的、知的、社会的、精神的な側面は、それぞれが無関係では発達させることはできないと言われている。従って、スカウティングは、青少年の発達に役立つ、いくつかの要因の一つに過ぎない。
  従って、スカウティングは、家庭、学校、宗教、その他の社会的な機関の教育的効果を補完するものである。


 2責任ある市民を目指す
  責任ある市民という概念は、何よりも個人である。個人は自分の住む地域社会の中に組み込まれている。そして、地域社会は市町村の一部であり、市町村は都道府県の一部であり、都道府県は国の一部となり、同時に国際社会の一員である。責任ある市民は、自らが所属するさまざまな社会における、自らの権利と義務を知る必要がある。



4.スカウト運動の原理
 原理とは、目的を達成する際に守らなければならない基本的な規則と信念のことである。

  スカウト運動の原理は、「スカウト運動の全ての加盟員を特徴づける行動規範」を表している。その原理は、次の3つに基礎が置かれている。

 ◆
神へのつとめ …人生の精神的価値と人との繋がり(精神的側面)
 ◆他へのつとめ …社会と人の繋がり(社会的側面)
 ◆自分へのつとめ…自分自身に対しての人の義務(個人的側面)


 1)神へのつとめ
  「信仰上の原則の堅持、それらを表明する宗教への忠誠、およびそこから生じる義務の受け入れ」と定義されている。この中には、「神」という言葉がないが、それは一神教あるいは仏教のような人格神を認めていない宗教にも及ぶものであることを明確にするためである。
  B−Pは「宗教はそもそも入ってくるものではなく、スカウティングとガイディングの根底にある根本的な要素としてすでにあるのだ」と答えており、人を超える力の概念がスカウティングの基礎であることを示している。
  スカウト運動における教育上の取り組みは、青少年が物質的な世界を超えて、精神的価値を探し求めることを助けることである。

 
 2)他へのつとめ
   他へのつとめは、社会に対する人間の責任の全てを指しており、基本的な行動や考え方の指針が次のように定義されている。


     ◆地域、国、国際間の平和と理解と協力の促進と調和した自らの国に対する忠誠
   ◆同胞の尊厳や自然界の保全を認め、尊重する社会の発展への参画


    @地域、国、国際間の平和と理解と協力の促進と調和した自らの国に対する忠誠
     スカウト運動における基本概念は、「自らの国に対する忠誠心」と「世界的な友情と理解」である。この意味は、地域、国、国際等、全てのレベルで平和、理解、協力の促進に調和したものでなければならないということである。

   この取り組みは、創始者の言葉から捉えることができる。
 
   「少年少女たちに愛国心を教え込む際、それは、大抵は自分自身の国のことのみを考える偏差な感情(その結果、他の国々と対処するのに嫉妬心と敵意をもたらす)を必ず超えた愛国心であるようにしなければならない。我々の愛国心は、他の国々の主張に正義と妥協性を認める幅広く、より崇高なものであるべきである。そして、それが我々の国が世界の他の国々との友好関係に繋がるのである。この究極の目的に向けての第一歩は、それぞれの国において平和と善意を育てることである。それは男女の青少年を訓練し、そのことが彼らの生活習慣になるように練習することによって行うのである。そうするならば、町、階級、宗派間の嫉妬心は、もはや無くなるであろう。そして、我々の限界を越え、我々の隣人に向けて、この善意の感情が広がっていく」

    A同胞の尊厳や自然界の保全を認め、尊重する社会の発展への参画
    包括した表現で、「他への奉仕」という基本原理を述べたものである。奉仕というのは、社会の発展に対する貢献と考えられ、社会の発展は、人間の尊厳と「本来の姿のまま自然を尊重する」ことを基礎に行われねばならない。

    本来の姿のまま自然を尊重するという概念は、スカウティングの基本であり、自然保護の考え方を示している。この概念は、達成目標を追及する中で、人間は自然界のバランスと調和を傷つけるようなやり方で自然資源を開発してはならないことを強調している。


 3)自分へのつとめ
  「自分自身の発達に対する責任」と定義されている。「神へのつとめ」「他へのつとめ」の原理に基礎を置くだけではなく、自分自身の資質を伸ばすことに対して、責任を負うのである。スカウト運動のねらいは、青少年の潜在的能力の発達(個性の開花と呼ばれるプロセス)を援助することである。この点では「ちかい」と「おきて」の役割が基本的なものとなる。


 4)ちかいとおきての堅持
   精神的(神へのつとめ)、社会的(他へのつとめ)、個人的(自分へのつとめ)側面に関する原理を基礎に、青少年の成長のために、最大限の機会を提供しなければならない。そのために、3つの原理を明確に表現したのが「ちかい」と「おきて」である。
   創始者によって最初に考え出されたちかいとおきては、インスピレーションをかきたてるものとして役立つものである。それは、本運動の基本を具体的な形で示しているからである。

   各国連盟は、この基本を忠実に保ちながら、ちかいとおきてを固有の文化と文明にあった現代的な言葉で記述されねばならない。

   スカウト運動の単一性とその基本を忠実に守ることに影響を及ぼさないようにするため、各国連盟のちかいとおきては、初めて起草する時や修正を行う場合は、世界機構の承認を受けることになっている。



5.スカウト教育法
 方法とは、「目標を達成する際に用いられる手段、あるいは取られる処置」として定義されている。方法には、常に一連の原理を持っており、スカウティングの場合は、これらの原理に基づいていなければならない。

 スカウト教育法は、次の方法を用いて行われる。

  ◆ちかいとおきて
  ◆行うことによって学ぶ
  ◆小集団の一員
  ◆個人の進歩
  ◆自然と野外での生活
  ◆成人の支援
  ◆象徴的枠組み

  我々は、これら全ての要素が統合された教育システムに結び付けられた場合にのみ「スカウト教育法」と呼んでいる。このシステムは、「段階的自己教育」という考え方に基礎を置いている。

 1)ちかいとおきて
 青少年は、ちかいとおきてを通して、自らの自由意思に基づいて決められた行動・規律に対して、個人的な約束をし、仲間たちの前で守るという責任を負う。これらの道徳的価値を伴い、永続する一体感と自らの能力に最善を尽くすという理想に、相応しい生き方ができるよう、たゆまぬ努力を行う。これは青少年の発達の点において、最も強力な手段である。

 2)行うことによって学ぶ
 これは現代学習の基礎となっている。この概念は、創始者の著作の至るところに見られる。B−Pは、「少年はじっくり考えるよりはむしろ、常にすぐに行うものだ」と順序立てて力説している。

 行うことによって学ぶという概念に基礎を置かないプログラムは、スカウトプログラムとみなすことはできない。


 3)チームシステム小集団の一員)
  青少年が社会生活の中に融け込むことを推進するものとして、小集団という長所は、社会科学によって以前から認められてきた。


   少人数制は、人間関係が長く続くという特徴があり、さらに目標を持った集団全員の一体感、知識、お互いの評価、自由な感覚、自発性、日常的に行われる社会的なコントロール等々、これら全ては、青少年にとって成人に至るまでのプロセスを経験できる理想的な環境である。

   小集団活動は、青少年にとって段階的に新しいものを見出し、責任という考え方を受け入れ、自己管理に向けて自分たちの訓練を行う機会を提供するものである。これは、青少年の性格の発達を促進し、適性、自助努力、信頼性、協力と指導の資質修得を可能にする。


 (4)個人の進歩


 スカウト教育法の3つの要素(ちかいとおきて、行うことによって学ぶ、チームシステム)は、スカウトプログラムの中で具体的に述べられている。スカウトプログラムとは、スカウティングで青少年が実践する活動の総体のことである。このプログラムは種々雑多なものや関連性のない活動を寄せ集めたものとして考えられるべきではない。このプログラムの基本的な特徴は、スカウト教育法の4番目の要素となる。


   @段階的なもの
    スカウトプログラムは、青少年の漸進的かつ調和のとれた発達のために、段階的な方法で表現されねばならない。この段階を達成するものとして、考査とバッジシステムを採用している。


   A刺激的なもの
      プログラムは、取り組む側にアピールするために刺激的なものでなければならない。そのためには、プログラムは参加者の興味に基づいた多様な活動がバランスよく組み合わされる必要がある。これがプログラム作成の際に守られれば、成功を保証する最高のものとなる。

  Bゲーム、役に立つ技能、地域社会への奉仕
  多様な活動をバランスよく組み合わせるためには、ゲーム、役立つ技能、地域社会への奉仕が主要な分野となり、プログラム作成の際に考慮されるべきものである。これら3つの分野を含んだ活動が調和のとれたものとなれば、教育目標が確実に到達される最も良い方法となる。


 5)自然と野外での生活

  スカウティングが誕生して以来、自然と野外での生活は、スカウト活動にとって理想的な枠組みとして考えられてきた。創始者は、「スカウティング・フォア・ボーイズ」に、「ウッドクラフトを通して良き市民性を教え込むためのハンドブック」という副題を付けており、ウッドクラフトのことを「動物と自然に関する知識」と定義している。

  B−Pが自然を重視したことは、青少年の身体的な発達のために野外生活がもたらす利点だけを考えていたわけではない。


   B−Pは、知的な発達の観点からも考えられていた。何故なら、都会(文明社会による発達した都市における整えられた生活)では、決して与えられることのない要素を、自然が与える影響によって、青少年の創造的な資質を刺激し、自然から与えられるたくさんの要素の組み合わせによって、彼らがさまざまな問題に対して、解決に至れるようにしてくれるからである。

 さらに、社会的発展の観点からも考えられていた。何故なら、自然が与える影響によって、危険とやりがいある課題を仲間と共に分かち合い、ニーズに対する満足感のために奮闘し、メンバー間に強力な結びつきを生み出すことができるからである。


  これは、青少年が社会における人生の意味と重要性を十分に理解できるようにするものである。

 6)成人の支援
   チームシステムのプロセスの中で、成人の役割としては手引きをすることである。それは青少年が社会生活の中で責任を引き受ける潜在的な能力を見出すよう援助することであり、管理することではない。何故なら、青少年は自分たちの個性が尊重され、正しく評価される状況の中で十分に発達できるからである。青少年と成人との間で、協力関係が正しく適用されれば、対話のための場と世代間の協力をもたらされるので、現代社会の基本的なニーズを満足することができる。

 7)象徴的枠組み
   象徴的なものの活用のことである。「スカウト」とは20世紀初頭の森林生活者、探検家、猟師、船乗り、飛行家、開拓者、辺境移住者などを指す。この運動はこれらの人々の野外技術、未知の世界を冒険する技術を実践する方法をモチーフに少年たちに道徳心を芽生えさせるための活動を提案してきた。より豊かでより充実した人生を送るために、想像力を豊かにする、刺激することがねらいである。また、ユニフォームもこれにあたり、青少年が「私はスカウティングに参加している」と最も強く感じるのはこれを着用して活動している時である。


6.自然の重要性
 創始者は、「最も不思議なことは、いかに多くの先生たちが、この(自然研究のこと)簡単で確かな教育手段を無視して、じっとすることのない元気いっぱいの少年たちをより高尚なことを考えるようにするための最初の一歩として聖書を詰め込むことを押し付けようと奮闘していることである」と、批判をしている。


  そして、本来あるべき姿としてB−Pは、「無神論者は、人によって書かれた本から学ばねばならない宗教は本物ではないと主張する。しかし、彼らは印刷された本以外は読むとは思えない。神は我々に1つの手本として自然という偉大な本を読むよう与えてくれた。そして、無神論者たちは自然の中に真実でないものがあるとは言えないのである。事実は彼らの目の前にある。私は礼拝の一形式として、あるいは宗教の代わりとして、自然研究を提案するのではなく、ある場合に宗教をもたらす1つの手段として、自然を理解することを薦めるのである」と示し、自然は青少年の精神的発達の役割を果たしていることを説いている。
 ならば、スカウト活動は、いつでも自然と接する野外の環境で行うべきである。それは調和と統一のとれた青少年の発達をもたらすことのできる理想的な環境を提供してくれるからである。