『鳴声』

1月27日

晩飯を食べながら公主達を眺めていた。昨夜は、止まり木の端々に止まっていた公主達だったが、

 

今夜はべったりとくっ付いて仲がとても良い。まるで恋人同士の様だ。

 

店では白文鳥2羽との共同生活だった為、やっと桜文鳥同士だけのスウィートホームという雰囲気をしている。

 

と、突然、聞き慣れない鳴き声がする。一瞬、飼主は目が点になった。ナンが唄ったのだ。それも甲高い声で。

 

こいつはオスだ。姿形からオスぽっい印象を受けていたがやはりそうだったのだ。

 

姿形から申し分ない桜文鳥だが、我が王朝にオスは必要ない。早速、明日にも小鳥屋へ電話して返品の旨を伝える事にする。

 

ここで、小鳥屋のおばさんに対する信用度がぐっと下がってしまった。

 

飼主の食事が終り、太子達の放鳥タイムになる。環境に慣れて来たようなトンは放鳥する事にしたが、

 

返品しなければならないナンは怪我でもされて、返品が出来なくなると困るので籠の中に入れたままにしておいた。

 

ハクとハツは勢い良く飛び出し、いつものように放鳥タイムを楽しむ。トンは伸びている爪を切る為、籠から取出し爪を切ってあげる。

 

線香を準備していたが、これを使う事無くうまく切る事が出来た。そして、そのまま放鳥する事とした。

 

さすがに手乗りであった為、物怖じする事無く、人間の肩なんかに止まっている。しかし、手に止まるのはまだ無理の様だった。

 

絶倫タイプだと思っているハツが興味を示して近づくかと予想していたが、予想を裏切りハクがトンに寄って行く。

 

一日中、籠越しにトンを見ていて気合十分だったのだろうか、いきなり乗っかろうとする。これじゃ強姦だ。

 

少しは恋の手順を踏めと言いたくなる。そのハクとトンは飼主の肩の上で鬼ごっこをしている。

 

この様子を見て、意外とハクは好色タイプだったのかと感心してしまった。

 

スリムとグラマーの両者だけど、結構良い組合せかもしれないと思い夫婦にするかと思い始めた。

 

ただし、ハツに異存が無ければだが。そのハツはいつもの様に、おやつの青米を食べたり、鏡で遊んだりしている。

 

時々、ハクやトンと同じ様に飼主の所へ来るが、ハクと喧嘩になりその上、トンを威嚇したりする有り様だった。

 

あとは、お気に入りの壷巣に入って遊んでいる。壷巣は防寒用にと用意していたが、まだ籠の中に設置していない。

 

朝方でも室内温度が15℃を下回らないので、ラックにちょこんと置き放しになっている。

 

それをハツは自分の隠れ家と主張し、占有しているのだった。

 

(余談だが、別章で述べた青いブランコの事だが、ハツは気に入らないらしい。黄色程嫌いでは無い様だが、

 

青色は好きでないみたいだった。試しにと、粟穂をブランコの近くに付けて与えたところ、器用にブランコと粟穂を掴んで食べている。

 

ブランコに乗る事は出来るが、リラックスや遊びの為には乗りたくないみたいだ。もう少し様子を見る事にしよう。)

 

ハツがトンに対して然程、興味を示さないので、ハクとトンを夫婦にする事に決めた。

 

こういう事は、さっさと決めた方が良い。元彼のナンは、「ピッピッピッピ」とトンに対して鳴いている様だったが、

 

籠外で自由に遊んでいるトンはまったく気にも懸けていない。当たり前の事だ。

 

返品男相手に慕情を持たれては堪ったもんじゃない。我が王朝の源流となる王后は聖なる存在であり、

 

飼主とその王以外は不可侵でなければならないのだ。放鳥タイムが終了し、御所宮へ戻す事とする。

 

最初に返品男を参番籠から壱番籠に移す。次にハツを弐番籠に戻し、最後にハクとトンを参番籠に戻す。

 

夫婦として決まった以上、トンと返品男が同衾する必要は無い。返品男は寂しそうに鳴いていたが、王朝には無用のものだった。

 

ハクはストーカーみたいに追っかけ廻していたトンと同居できて喜ぶだろうと見ていたが、

 

それよりも歓迎の粟穂がほとんど手付かずに残っているのが嬉しいらしく、王后に言い寄る事より粟穂を食べることを優先している。

 

夫婦に成った事で安心したのかそれとも、まだまだ子供なのかは飼主にも判らないところだ。

 

翌日、小鳥屋へ電話して非乗りがオスだと告げる。

おばさん曰く「文鳥は鳴声ではわからないんですよ。ダンスはしましたか?」

飼主は「ダンスはまだしていないけど。あの鳴声はオスでしょう」と返事した。

おばさんが言うには、文鳥は鳴声だけでは区別出来ない。嘴の形、色、アイリングの色、アイリングの切れ目等が

区別のポイントだと言う。飼主が見るに、そのポイントは殆んどオスを示しているのだ。

「商社の人はメスだと言っていたし、暫らく様子を見て下さい。それでもオスなら商社から取寄せて交換しますよ。」とおばさんは言う。

返品文鳥がオスである事は、ほぼ間違いない。(「文鳥団地」の掲示板に乗せてみんなの意見を聞いてみよう)

間違いは誰にも有るだろうが、そんないい加減な商社の文鳥は御免蒙りたい。

しかし、こちらには他に適格な姫様候補がいないという弱みがある。

また、その交換文鳥が、返品男並みの魅力が有るかどうかはその時にならなければ判らないという問題も有る。

とにかく、飼主は土曜日に返品するつもりだ。(しかし、本当に惜しい容姿なのだが)

これで小鳥屋のおばさんの信用度は益々落ちてしまった。