『左朝』

 

中雀王朝左朝の初代王となる白文鳥のハクは、買ってきた当初から細身だったが、今現在でも体重は25g位で、

我が家の文鳥たちの中で一番のやせっぽちだ。しかし、ほっぺたはふっくらとしていて、文鳥の中では一番見栄えのするほっぺたを持っている。

羽の色は白文鳥なので真っ白だが背中の風切羽に覆われたところに、大きな黒いまだらが隠れている。

純白の白文鳥になるのは当分先の事になりそうだ。

ハクの性格は、弱気で甘えん坊タイプ、人間のタイプで言うとそこそこ良いところのお坊ちゃんといった感じの文鳥だ。

そのハクの嫁になる左朝の初代王后トンは、擦った揉んだした小鳥屋から輿入れして来た、名古屋地方の半農養育家出身の文鳥で、

店のおばさんによって手乗りとして育てられたらしい。

その為、輿入れ当初から人間を恐れる事が無く平気で肩や腕に止まる事が出来た。

このトンの容姿はというと、風切羽の中に何枚かの白い羽を持ってるが、桜文鳥としてはほぼ完璧に近い羽色をしている。

しかし、胸のぼかしは自然な美しいぼかしとは言い難く、何やら三角形のよだれ掛けみたいな、ちょっと浮き上がったぼかしとなっている。

他には、雛の頃にでも怪我したのか、それとも産まれつきなのかわからないが右足の外側の小指が少し曲がっていて、

あまり機能していない様に見える。見た目には何にも障害がなさそうに見えるが、平な処で立っている時は、指が真っ直ぐ伸びずに曲がっている。

それでも普段の生活にはまったく影響が無いようなので軽視しているが、交尾に影響が有るかどうかだけを、やや心配している。

トンの性格は、おとなしい性格をしているが何を考えているのか、良くわからないタイプみたいだ。

人間のタイプで言うとプライドだけは高い落ちぶれた旧家のお嬢様といった感じがする。

このトンを一番最初に太子達と一緒に放鳥した時、ハツはトンに対し敵意を示したがハクは好意を示したので夫婦にする事にした。

ところが春になる迄、この夫婦はある意味では奇妙な夫婦だった。

簡単に言うと仮面夫婦だった。夫婦仲が悪い様には見えない。と言って、仲睦まじいとも言えない。

トンがハクに対してそこそこ距離を取っているような関係に見えた。

つまり単なる同居人、ルームメイトといった感じだった。普段は籠の中でも外でも1羽で過ごしていて、

気が向けばハクと寄添う事もあったが、基本的には他の文鳥と交わる事が嫌いな様に見えた。

つまり、文鳥より人間の方が大好きな様だった。

そしてこの時期、このトンは不思議な事にブランコに乗らなかった。

そんな一般庶民の喜ぶおもちゃになんか私は興味なんかありません。と、いった感じで。

今思うと、ブランコが遊具だとわからなかったのじゃないかという気がする。余程、頭が悪かったのかも知れない。

ハクはトンが輿入れして来てから、トンといつもべったり連るんでいたい様子だったが、

肝心のトンがハクの事を同居人位にしか見ていなかったみたいで、相手にしてもらえず、

仕方が無く1羽で気儘に寂しく暮らしてると言った感じにこの時期は見えた。

放鳥している時のトンのお気に入りの場所は、人間の体以外はラックの最上部だった。これは今でも変わらない。

ラックの最上部で遊んでいるトンにハクは寄添うとしても1羽が良い、人間の方が良いとの態度を取るトンに相手にしてもらえず、

仕方なく1羽で遊んでいた。それでも交尾しようとトンの背中に乗ろうとしていたが、その気の無いトンに振られ続けられた。

おまけに武闘派夫婦のハツ・ナンにも邪険にされ、トンの近くをうろつくだけの不憫な王だった。

飼主としては何とかこの状態を打開してあげたいが、トンを説得してハクを好きにさせる事は出来ないので、

秋の繁殖シーズン迄に解消してくれたらと期待するだけだった。

そんなつらい時期を送った為か、ハクは、街角で歌っているストリートミュージシャンの様に、歌う事が大好きになってしまった。

トンに対して求愛のラブソングを歌うのではなく、単に歌いたいから歌いそして自己満足する。

それが習慣になってしまったようで一日中歌っている。このカップルが無事、秋の産卵シーズンに入って産卵できるかどうかが、

心配になってきたこの春、トンがやっとブランコに乗るようになった。

我が家へ来て環境がすごく快適になり、血の巡りが良くなって、他の文鳥たち同様の理解力が育ったのかも知れない。

珍しい事だなと思っていた頃から、二羽の中が改善されてきた。

今までハクがトンに「羽繕いして」と甘えてもソッポを向いていたのに、根負けしたのか、甲斐甲斐しく羽繕いしてあげている。

ハクもお返し羽繕いしてあげている。実に微笑ましい光景だ。春になって、冬眠していたトンの頭が目を覚ましたのかも知れない。

そして一緒にラックの最上部で遊んだり、陰に隠れて見えないところで何やらごそごそやっている。

しかし、この夫婦は、右朝のハツとナンの夫婦に比べると鈍臭い。

トンは青米BARで青米を未だに食べれず、飼主の手のひらでしか食べれない。これはこれで可愛いのだけど・・・。

箱巣を籠の中に置いても、巣の中に入るのに1週間掛かった。特にトンはそういった傾向が強い。

のんびりとした呑気者の夫婦の子供はどんな子なのか、これからの楽しみだ。