映画「薄れゆく記憶の中で」
今まで見た映画の中で一番大切にしたい映画です。
平成28年5月5日更新


 夏休みの誰もいない校庭、プール、自転車置き場、水飲み場、時間の止まった時計、体育館、理科室
渡り廊下、階段の踊り場、そして誰もいない教室



10年前、私はどこか田舎にいけば必ずあるような、ごくありふれた県立高校の3年生でした。今思い出しても、胸がきゅーんと締め付けられるような輝かしき青春時代。1年後に迫った大学入試を目指してしに物狂いで勉学に励み、そのかいあって成績は常にトップクラス、部活動においても副部長として積極的に参加し数々の栄誉ある賞を受賞、ときには勉強の悩みや将来の夢を友と語らい、こころから信頼できる親友のたくさん出来ました。しかしこの年頃の最大の関心はなんと言っても男女交際でしょう。私も恋をしました。高校生としての節度を守ったプラトニックな恋でした。とても燃え上がっていました。
このように記憶とは事実とかけはなれたもののようです。
しかも、それが思い出ともなると時間というベールをかぶって都合よく美しくなって行くのです。
正直なところ、今なそのころどんなことがあったのかほとんど憶えていないのですが、ただ一つ薄れゆく記憶の中で、まぶたに焼き付いて離れない、思い出すたび胸が締め付けられるのが、この橋の上から見た、長良川の流れです。
〜ナレーションより〜


配給 ヘラルド・エース/日本ヘラルド映画 1992年作品
監督 篠田 和幸 
撮影 高間 賢治
音楽 辻 陽 
出演 堀 真樹(鷲見和彦) 菊池 麻衣子(琴澄香織) 
    田中洋子(早乙女由美子) 日比野 暢(小熊一平)  田村 貫(鷲見金造) 

 この映画を始めて見たのは、忘れもしない昔の彼女との初デートの時でした。その彼女のことを考えると、胸が締め付けられます

〜ただ一つ薄れゆく記憶の中で、まぶたに焼き付いて離れない、思い出すたび胸が締め付けられるのがこの橋の上から見た、長良川の流れです〜

そんな気持ちになります。

たしか武蔵のホールだったと思います。映画をみて、彼女も自分も涙がとまりませんでした。彼女は感じのいい女性でしたが長く続きませんでした。いま思うとかなり彼女に悪いことしたとおもいます。その彼女は今どこにいるのかわかりませんが、どこかで、この映画をみて、自分のことを思い出してくればいいと思います。このページは、その彼女に送りたいと思います。




某SNSの日記に書いた文章



今まで見た映画で一本選べと言ったら間違いなくこの映画「薄れゆく記憶の中で…」を選ぶだろう。本当地味な映画で、有名ところの役者は一人もいなく、あえて言うならば、菊池麻衣子のデビュー作で、監督も新人で、特に話題になることもなく単館公開だった。


二十年近く前、都内に住んでいてよく映画館に足を運んだ。月10本近く見ていたと思う。「ぴあ」を見て面白い映画があれば、映画館に足を運んだ。当時は「ぴあ」は映画とかコンサートの情報をまとめた唯一の情報誌だった。

この映画の事は今でも瞼の裏に焼きついてはなれない。

「ぴあ」の紹介記事を見て、この映画が渋谷で公開しているのを知って見に行く予定だったが、いつのまにか見過ごしてしまった。この見過ごしてしまった事が、後になって考えると、見過ごす事が必然的な流れだったのかもしれない。

しばらくして、知人から彼女を紹介してもらった。一つ年上の感じのいい女性だったと思う。その女性の初デートは、新宿の定番のアルタ前で待ち合わせて、食事をして歌舞伎町ボーリングをしたと思う。ボーリングが終わってまだ時間が早かったので、映画でも見ようかとの話になり、歌舞伎町の売店で「ぴあ」を買って面白そうな映画を調べた。偶然にこの映画が中野で二番館上映している事をしり、時間も丁度よく中野に見にいった。

もし渋谷で見て見ていたなら、他の映画を見ていたと思う。この女性とこの映画を見ることが、必然的な事だったと思う。結論から言うと、この女性とは上手くはいかなかった。だから、この映画の内容と記憶が交差して印象に残っているのかもしれない。

今はない中野の武蔵野ホールと言うミニシアターである。

思いもよらず、川島監督の舞台挨拶があった。

初めて見た時の感想は、前半は、なんかつまらない青春映画だなあと感じていたのを覚えている。が、後半一気に話が進んで、最後には、 涙が出てきた。初めてのデートで映画を見て泣くのは恥ずかしいので必死に涙をこらえていたのを覚えている。他の客席もすすり泣くのが感じられた。横にいる彼女も泣いていた。


こうして、今更、当時の記憶を整理したところで、やり直せはしない。古いファイルを整理して上書き保存したところで意味があるとは思わないが、何故かこの時期に記憶と言うファイルを整理したくなった。


何故この時期の、この映画のことを思い出したのか、チラシを見てわかった。しかしよくチラシが保存してあったと思う。

この映画が中野武蔵野ホールで公開されたのが、10月3日(土)で、多分彼女との初デートが日曜だったので、監督の舞台挨拶があったことを考えて4日の日曜日だったと思う。上映時間は、多分15時からの上映だったと思う。映画館を出たときは、あたりはまだ外はあかるかった。ちょうど今の時期に見ていたので、そのことが、記憶のどこかに残っていて、それが、この時期になると、無意識に記憶という芽が出てくるのだと思う。

そう考えると記憶とは不思議なものだと思う。

ついでに当時の手帳を探してみた。多分1992年の10月3日が土曜日なので、1992年に間違いはない。今から18年前のことであるが、鮮明に記憶に残っている。


その彼女とは数回デートしただけで長続きはしませんでした。
18年たって振り返って見ると、彼女のやさしさに甘えていました。もっと彼女の気持ちを大切にして大事にしてあげるべきだったと思います。いまさらどうなる事でもありませんし、もう街であってもわからないかもしれません。だけど彼女の事は「忘れられない大切な思い出」です。

今は、彼女はどこかで、幸せに暮らしていると思います。この映画を思い出したなら、一緒に見たやつの事をついでに思い出してくれたなら「思い出」を共有できるかもしれません。

この映画の中で花言葉が印象的に使われていて、和彦とのデートで香織は、野山で摘んだ薄雪草を、小高い丘の頂上の木の根元にタイムカプセルの目印として植えた。タイムカプセルを和彦は10年後掘りに一人で思い出を探りながらでかける。タイムカプセルを植えた丘は、あたり一面薄雪草が咲いてた。

このシーンの辺りから目には涙が浮かんできます。掘り出したタイムカプセルの手紙を読む和彦、手紙が画面一杯に映し出されると、涙があふれてとまりません。

「・・・もしかしたら、カズくん(ホントはずーっとこう呼んでみたかった)と結婚してるかな?
キャー、ハズカシイ
だけど、初恋は、たいていうまくいかないっていうし・・・
あっ!ちなみに薄雪草の花言葉は

〈忘れられない大切な思い出・・・〉」


和彦にとって、香織は大切な思い出…。

思い出を引きずりながら、和彦は、10年後あの花火大会の時、香織が何かを言いかけた橋の上で黙って川を見ていた。その時…

「カズくん…」

香織の声に振り向く和彦。そこには、香織が笑顔でたっていた。このシーンで涙がまた溢れてきます。

しかし香織は和彦の事を呼んだのではなく、自分の子供の名前を呼んだのだった。香織はあの事件以来、選択性記憶喪失になっていて和彦の事は忘れて、しっかり幸せに暮らしていた。和彦の目には涙が…あの時と同じように夜空に花火は大輪の花をさかせていた。

10年前、香織が丘に登りながら、鈴蘭の花言葉を和彦に話していた。


鈴蘭の花言葉

「戻ってきた幸せ…」


この映画の良さは、20代ではわからないと思う。30代になって初めて「忘れられない大切な思い出」の意味がわかってくる。年をとればとるほど「忘れられない大切な思い出」を大事に胸にしまって生きていかなければいけないと思う。


某ブログに書いた文章。

この映画は初めて劇場で見て以来、ビデオで何十回と見ました。見るたびに新しい発見があります。
《あの時に言ひ残したる大切の言葉は今も胸に残れど》
この言葉は、胸にしみます。和彦が十年後に香織との初デートのコースをたどり、駅につき、その駅の石碑に彫られていた言葉です。あの時、云っとけばよかった。誰にでもあるとおもいます。
そして、ラストの香織の10年後の手紙。
・・・もしかしたら、カズくん(ホントはずーっとこう呼んでみたかった)と結婚してるかな?
キャー、ハズカシイ
だけど、初恋は、たいていうまくいかないっていうし・・・
あっ!ちなみに薄雪草の花言葉は忘れられない
大切な思い出・・・
涙がでます。

すずらんの花言葉 「〜戻ってきた幸せ〜」
薄雪草の花言葉 「〜忘れられない大切な思い出〜」
この二つの花言葉がこの映画テーマでないか?。
忠節橋のラストシーン偶然にも花火大会の日に香織出会うのだが、香織が「〜戻ってきた幸せ〜」、和彦が「〜忘れられない大切な思い出〜」。
和彦のことを忘れて幸せな家庭を持つ香織、昔の《〜ただ一つ薄れゆく記憶の中で、まぶたに焼き付いて離れない、思い出すたび胸が締め付けられるのが〜》傷ついた思い出を引きずる和彦、和彦の気持ち痛いほどわかる。

じつによく考えられた映画だと思う。細かいとこまで神経がゆきとどいていて、ゆれうごく繊細な初恋の感情、あのころの甘い、ほのかに苦い思い出をおもいだしてしまった。

好きなシーンは夏休みの補習が終わってみんな帰った教室で、香織が、思いを寄せている和彦の机にすわりしずかに机に手を当て、窓の外を見るシーンなんか、実に最高。このあたりなんかも、繊細な感情を描いていると思う。