(1)遺伝子と地球の行方 (日本の教育改革を進める会 広報部論説担当 林 誠人) 平成15年5月22日 噴火する火口から流れ出る熔けた岩石、あれが熔岩、マグマ
(Magma)である。46億年という遠い遠い昔、でき立ての太陽から切り離されて、それを廻るマグマの塊となった地球、それから数億年 はマグマの海、「マグマ・オーシャン」であったと推定されている。 そのマグマもやがて冷えはじめ、 6億年くらい経った頃には、 さざ波の打ち寄せる浜辺も現れたに違いない。、そこには強烈な宇 宙線や紫外線などが降り注いでいた。それらのエネルギーを受けて アミノ酸の他多種多様な、生物の元になる物質が浅い海辺でできた ようである。この期間を化学進化という。 それらの有機分子を使って、原始の海の中で命の元が芽生えたと いうが、もしこれが事実なら、今でもどこかで命が生まれているのだ ろうか。どうもそうではなさそうだ。最近は、生命の深海発生説もで てきたが、一万メータの深海のことはよくは分からない。 その他 天体から運ばれて来たという説もあるが、その天体ではどうして生ま れたか、となるとそれには答えられない。原始有機の海だけで生まれ たというのだろうか。 依然として深い謎に包まれたままである。 しかしどこかで生まれたことは間違いあるまい。今ここに何千万種 という生き物がいるのだから。 最初の生命が、どんなに小さいものであったか、細菌よりもっともっと 小さな簡単な袋であったと思われる。 その小さい生命が気が遠くなるような、長い長い時間、コピーをつくり 続け、やがてもう少し複雑な細胞となって、それを子孫に伝えて40億年 と思うと、限りない神秘の世界に誘われる。 細胞自身もはじめはただ袋だけという「原核細胞」、それでも遺伝子 だけはもっていたに違いない、でなければ子孫が残せない。 それはもっと複雑で高機能な「真核細胞」へと進化したが、そこまでくる のに20億年近くもかかっている。それは更に多細胞生物になって魚を 通り恐竜のような爬虫類を通って、哺乳類までくれば人間ももう直ぐ、 といっても爾来30数億年が過ぎていて、人間は今し方出てきたばかり なのである。 この間、生きものが一貫して繰り返してきたことは二つある。 一つは、自分と同じものを次々と伝えること(生殖)、もう一つは、生きる ために有利な形質に変身すること(進化)である。そうして数限りない失敗 を繰り返しながら、少しずつ変わってきたのが今日の姿であろう。 この目的のため、「自然」は人智などの遙か及ばない巧妙な手段を見 つけている。それは「タンパク質」である。 それが与える、高次構造の中に、計り知れない生命の機能が詰まって いるのだから、神秘の一言に尽きる。。 もしもタンパク質がなかったとしたら、生物は現れていないはず、 少なくとも地球上には。 地球は他の惑星と同様、砂嵐と豪雨の荒れ狂う地獄の世界であった に違いない。 そう考えると、 現在の地球の素晴らしさに改めて感動を覚える。 渺々たる海、美しい山々、何千万種という多彩な生物にいろどら れた神秘の世界を、人は粗末にし過ぎたと思う。 「自然を征服する」という思想は東洋にはなかった。しかし近年は 次のような人たちが増えて、科学技術の悪しき側面がむき出しにな ったように思う。 *水も空気もない火星を地球のように作り変えたいという宇宙技術者 *何十億年の成果である遺伝子を、変造しようとする遺伝子技術者 *エネルギー不足を加速して、無駄使いを進める、原子核破壊論者 *経済成長を金科玉条として、浪費を美化するエゴイスト政治家 *アメリカン・ドリーム推戴者と、それに追随するポピュリスト政治家 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 遺伝子の二重ラセン構造が、ワトソンとクリックによって明らかにされ たのは1953年である(両者はこれでノーベル賞)。 その遺伝子自身は絶えず複製され、生殖を通して次世代に引き渡 されることが今は分かっている。遺伝子は自己複製するので、同じタ ンパク質をいくらでもつくることができる。 しかし時には複製を間違える。これが「突然変異」、しかしその突然 変異が進化に繋がるというのだから、もうつべこべ理屈をいうのはやめ て自然に任せた方が賢明ではないだろうか。 しかし変身が、いつでも成功するとは限らない。生きるのに邪魔になる 変身もある。むしろその方多いのだ。そのときはその種は絶滅して化石だ けを残す。それで進化学者が喜ぶという仕組み。 生命の歴史の中では、大絶滅だけでも、5回もおこったという。 最近の大絶滅は、よく知られた6500万年前の恐竜の絶滅である。次 に有名なものは、〜5億年前のカンブリア生物群の大絶滅であろう。 カンブリア期には、多種多様な生物が爆発的に発生したが、ほとんど が怪物みたいなものばかり、中には目玉が5つもあったり、何となく試 作品のように見える。それかあらぬか、この時の生物で今に残るもの はほとんどいない、ことごとく絶滅した。つまり進化としては失敗だった のかも知れない。 こんな試行錯誤を繰り返しながら、40億年をかけて積み上げられた 進化のピラミッドは、今日ほとんど完成したかに見える。 その頂点に立つ人類、その人類が今度は、こともあろうに、 「生命の設計図」の改竄(かいざん)をはじめた。 それが遺伝子工学 の中心課題、名にし負う「遺伝子の組み替え」 である(脚注参照)。 進化のピラミッドは、目先の利益のために、遺伝子工学を使って取り 壊されようとしている。 改竄された遺伝子の指令でできたタンパク質が将来どんなものになる のか、正確な予測は誰にもできない。 しかし一旦できてしまえば、遺伝子は複製されて子孫に伝わり、生態系 に拡散する。あとで不都合なことが分かっても、それが自然淘汰を受けて 元に戻る迄には、何千万年かかるか分からない。 そのときは多分人間はいないだろうけれど。 上に記したカンブリア期の生物群の絶滅のような、大きな失敗を乗り越え て何千万年、何億年という長い年月をかけてできたのが今日の生態系で あることを忘れている。 人間が農耕を始めて1万年、後1万年今の世界が続くと思っている人は いないのではないか。 1万年どころか、500年だって危ないと思っているのではないだろうか。 松井孝典氏(地球物理学者、東大教授)によれば、地球が養うことの できる人間は、10億人が限界であるという。 現在世界には、62億の人が住み、毎年1億人以上が増え続けている。 このことを考えて背筋の寒くならない人はいないのではないだろうか。 500年どころか今世紀一杯もたないのでは、と思う人多いと思う。 今すぐ取りかからなければ、手遅れになるだろう。 一部の人間の好奇心のために、地球を捨てるわけにはいくまい。 しかし、遺伝子操作が面白くてしょうがない、とそれをやりたい人は意外 に多いのではないか。今後のベンチャー企業の目玉だそうだから。 大衆の無知を利用して、やれ老化を防ぐ、癌を予防する、難病治療に 貢献、寿命を延ばす、などと甘言で籠絡しようとする。 人の命は延びすぎたのではないか。 厳しい法規制を求めたい。 支那大陸の一角に、突如として現れた奇病、重傷急性呼吸器症候群 (新型肺炎、SARS)。 なりふり構わず、経済成長に狂奔する独裁国の、設備の悪い遺伝子 産業から漏れ出したヴィールスではないかという疑念を払拭できない。 ヴィールスは、組み替え遺伝子を細胞へ運ぶ「運びや」なのである。 SARSはひとまず沈静化したが、原因のヴィールスには何の解明もなさ れないまま、政治決着がつけられた。 目先の欲望だけで、展望のない政治、一方では怒濤のような人口増、 21世紀の将来は暗雲に覆われている。 日本の政治家で、世界の人口増を口にしたものはいない。 自国の小子化だけで頭が一杯、世界がつぶれても自国だけ栄えるつも りだろうか。 これで教育を誤れば、破局は間違いなくやってくるだろう。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 現在も、太陽は、時々刻々膨張していて、やがて地球は太陽に呑み込ま れる運命にある(脚注参照)。 今生態系が壊れたら、もう一度進化をやり直す時間はないのである。 もう一度進化をやり直す時間は、地球には残されていない。 SARSは、奢れる人類に対する自然からの警鐘かも知れない。
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(脚注)
昆虫に有毒な物質を生産する「遺伝子組み替えトウモロコシ」、 「腐らないトマト」、「品種改良家畜」、「ホルモン製造用タンパク 質」など、遺伝子組み替え産業は今やドル箱。 生態系が将来どうなるか、正確には誰も知らない。 天文学の教えるところでは、太陽は次第に膨張して、やがて水 星から瞑王星にいたる全惑星を呑み込み、「超新星爆発」です べてが宇宙に返る。それは50億年後であるという。 松井孝典氏(上記)は、5億年後に地球上の生物は一掃される という(高温のため)。 因みに太陽に近い側の隣り星、金星は現在〜480℃である。 地球が生物の楽園であるのは今だけなのである。 (参考書) 鷲谷いづみ 「生態系を蘇らせる」(NHK出版協会) 岡田正彦 「暴走する遺伝子」 (平凡社新書) |