スコットランド旅行・2007記録



グラスゴー近郊、Jun.25,2007

*まえがき

6/23-28に、スコットランドで仕事をしている知り合いのところへ、職場の同僚と顔を出してきました。 地質に関心のある方はご存じと思いますが、スコットランドは近代地質学の父、James Huttonを初めとして、多くの地質学者が活躍し、地球科学の基礎が築かれていった、我々にとっては聖地のようなところです。
今回、ちょっと忙しい時期ではあったのですが、せっかくの機会ですので、火山学の恩師に僕の分まで大学の授業を押しつけて行ってきました。

途切れ途切れになると思いますが、時系列で見たもの、聞いたこと、考えたことを書き留めておこうと思います。

知り合いの方は、現在、Stirling城のタペストリー復元制作に従事しておられ、7枚組の3枚目ができあがったというので、お披露目の会にお邪魔させてもらいました。地質見学はついでといえばついでなのですが、2,3日時間があったので、観光がてら、地質や地形を見て歩くことができました。

第1日 6/23

10:30成田発のKLM(KL0862)で出発、アムステルダムに15:40、そこからエディンバラ行きに乗り換え、KL1289で18:45エディンバラ着。ここで迎えに来てくれていたKさんと久しぶりの再会。Y先生と3人で空港バスでエジンバラ市内へ、市内のHaymarket駅で下車し、エールを一杯やってから鉄道に乗り換え、19:38Haymarket発、20:24Stirling着、予約していたB&Bに行ったのですが、ご主人がでてこないので、とりあえずKさんのご自宅で夕飯をご馳走になり、23:30に宿へ再度戻りました。

この日は時差の関係で1日が32時間、長い一日になりました。KLMのB747-400が満席の上にすごく窮屈な座席で、前の座席に頭がつかえて靴ひもも結べないほどでしたので、宿に入れてもらえたら、へとへとで部屋に倒れ込みました。

図1は、Haymarket駅のすぐ横にある、カレドニアンエールハウスのドアの写真。カレドニア地方というのがスコットランドの古名ですが、カレドニア造山運動(古生代中期の古大西洋=イアペタス海をはさんだ北米とヨーロッパの衝突イベント)でなじみのある名前です。うれしくて撮ってしまいました。

図2はスターリング駅の外観。石造りの小さな駅ですが、エディンバラとグラスゴー、北部のPerth方面への列車が頻繁に出入りしています。駅舎は古生代の砂岩でできていて、建築時期や正確な岩石名は、市内観光バスの音声説明をビデオで聞き直さないと書けません。ただ、薄い赤色の砂漠成砂岩であるところは、さすがです。(カレドニア造山後の旧赤砂岩)水中堆積とは思えないような斜交葉理が見えます。夜8:25頃ですが、太陽はまだ空にあり、充分明るいです。(北緯56度)


第2日 6/24

朝食後、仕事が日曜で休みのKさんの案内でグラスゴーに出ることにする。朝から小雨模様で少し肌寒い。10時過ぎ宿を出発。Y氏が日本円の換金をしようというので地元のスーパーへ行くが、日曜は11時開店なので、駅に行くと、これまた日曜ダイヤで9:38の次は11:38までグラスゴー行きの電車がない。駅前のパンプキンカフェで時間をつぶす。トイレを借りるのに、レジで鍵を借りる必要がある。入ってみると、トイレの水槽がsecurityのテープでぐるぐる巻きにされていて、これまたびっくり。映画みたいに水槽に油紙に包んだ拳銃でも入れて取引することがあるのだろうか。

11:25、駅で切符を買う。切符は時間帯によって値段が変わり、往復でも割安になる。平日のラッシュ時ではグラスゴーQT往復9.30ポンドだが、日曜の昼間は往復6.00ポンドと安い。駅のホームでGPS調整。この前使ったのが地球の反対側なので、衛星自動捕捉にひどく時間がかかる。11:38スターリング発、雨の農村風景を車窓に見ながら走る。グラスゴーに近づくと、いかにも歴史のありそうな煉瓦造りの陸橋やトンネルをくぐるようになる。12:15グラスゴーQueen Street駅到着。

駅前に出ると、石造りの街並みが整然としていて、歴史のある都会だなと感心させられる。駅前にはIEEEののぼりが翻っていて、ちょうど国際学会の会期中らしい。ケルビン卿の顔がマーク。(写真1・2)近くの観光案内所に行き、無料のパンフレットをあさり、明日のIslay行きについて案内の女性にいろいろ聞く。非常に親身になって答えてくれるので恐縮する。

グラスゴーには中心部に3つくらい駅があり、我々の乗ってきた列車はQueen Street駅で行き止まり。Central駅は規模が大きいが、構造上はここも行き止まり。不思議な気がする。Central駅を抜けると道路工事中。見たこともないタイプの工事車両が再舗装をしている。(写真3)

雨が強くなってきたので、傘を買うために書店に寄る。ここでスコットランドの地質の本はないかと店員の若いお兄さんに尋ねるが、観光ガイドのところに連れて行かれ(使える本はなし)、あとは専門書のコーナーを探せと言われる。Y先生は明日の飛行機を予約して来るというのでKさんについていってもらい、僕だけ書店の専門書コーナーに放し飼いにされる。Scienceのコーナーは小さい割にはけっこう充実していて、もちろんGeologyの解説書はもちろん、大学の教科書くらいの本がけっこう並んでいる。自分の講義や実験の参考のために、何冊か買う。お目当てのスコットランドの地質関係は次の3冊。

Land of Mountain and Flood -The Geoloy and Landforms of Scotland, A. McKirdy, J. Gordon, R. Crofts(2007) Birlinn Limited. ISBN13: 978 1 84158 357 0 ISBN10: 1 84158 357 X

Geology and landscapes of Scotland, Con Gillen(2003) Terra Publishing. ISBN: 1-903544-09-2 ISBN-13: 978-1-903544-09-9

The Geology of Britain -An Introduction, Peter Toghill(2000) Airlife Publishing. ISBN 1 84037 404 7

1冊目は新刊でどーんと展示されていた。カラーで写真も美しいが、ハードカバーで重くてちょっと高い(33ポンド)が機会は逃すわけにはいかない。買ってみて正解。時代順に、現場写真や図を多用しながら、スコットランドの地質の生い立ちを解説してあり、氷期・後氷期の地形形成や現在の地形改変についても詳しいほか、地質・地形の名所のガイドがついているのもすばらしい。この出版はScottish Arts Councilの助成を受けているそうだ。ペーパーバックがそのうち出るらしいので、興味のある方は要チェックでしょう。

2冊目はモノクロだが、文章量が多く読み応えがあり、滞在中、地質のチェックのために持ち歩き、つまみ読みしていた本。

3冊目はイギリス全域の地質の解説で、一般的な教科書的内容。ガイドとしては不向き。

*その他にみつけたもの

歴史的著作

Principles of Geology, Charles Lyell(1830-33) James A. Secord(ed.)(1997) Penguin Books, ISBN-10: 0-14-043528-X ISBN-13: 978-0-14-043528-3

あのチャールズ・ダーウィンが愛読したという、ライエル「地質学原理」の復刻版。原著を再編集したものらしい。

近代地質学の父・ハットン先生の伝記。

James Hutton -The founder of Modern Geology, D.B.McIntyre & A. McKirdy(2001) National Museums of Scotland Limited. ISBN 1-901663-69-8

カラーで薄くて読みやすい。とりあえず一通りの話を紹介するには充分な分量。この本も持ち歩いていました。

Central駅近くの本屋で同僚のY先生とKさんを待つ。本の山を抱えて身動きできないので、科学書コーナーではなく階段前のソファで休息。本屋の中には壁際にソファが点々とあって、のんびり本を読んでいる人が多い。ただ、トイレが近くにないのはちょっと困る。

待ちくたびれた頃にKさんが現れ、Y先生が近所のネットカフェで悪戦苦闘しているというので、1階に下り、レジで会計を済ませて外に出る。なんでも、旅行代理店で明日の国内線の予約を取ろうとしたら、手数料が70ポンドも取られるのだそうで、それなら自分でインターネット予約しよう、ということになったらしい。Kさんの案内でネットカフェに。入り口はがらんとした喫茶店風だが、奥の階段から地下に下りる。ちょっと不安になる。下りるとブースになった十数台のパソコンが並んでいる。客はY先生の他には2人。クレジットカードの暗証番号入力がうまくいかず、予約手続きが止まってしまうというので、僕が自分のクレジットカードで処理する。なるほど、日本語のメッセージが読めない。しかし何度か手続きしたことがあるので、適当に当たりをつけて入力すると、処理完了。明日のIslay島往復2名様346.40ポンド也。これで70ポンド取られたらたまらないなあ。(1ポンド=245円くらい)

遅い昼食にしよう、というので、支払いを済ませてネットカフェを出て、パブに入る。1パイントずつエールを買い、スナックの袋菓子を買って、それをつまみにして昼食終了。タクシーを捕まえるため、外の通りに出る。(図1)

グラスゴー市街

グラスゴーのタクシーは、ワゴン車風というか、乗合馬車がそのまま進化したようなタクシーだ。側面の両側にドアがあり、室内はバスのような空間で、運転手との間は壁があって、料金をやりとりする窓があるだけ。座席は後ろに3人分くらいあるが、前方の運転者とのしきりの壁に、畳まれた座席が三つくらいあって、それを下ろすと対面式に座るかたちになる。写真を撮らなかったのが残念。

勝手がわからない僕らの代わりに、Kさんが運転手に行き先を指示する。料金はメーター式。行き先はケルビングローブ美術ギャラリー&博物館(Kelvin Globe Art gallery and Museum)。実はヴィクトリア公園内にあるフォッシルグローブのリンボクの根株化石なんぞを見に行きたかったのだが、日曜で休みということが観光案内所でわかったので、次の機会のお楽しみにする。タクシーは道路をぎゅんぎゅんまがって、西側へ進み、たぶんアーガイル・ストリートを直進して、博物館前で下りる。

赤茶色の砂岩で作られた立派な建物が目に入る。僕はまったく予備知識なしで来たのだが、市民博物館だということらしい。いろいろな年齢層の人々が出入りしている。こども連れの客が多い。入り口の垂れ幕には、Scotland's Must-See Museumと堂々と書いてある。見なきゃいかんのか、と素直に納得する。入場無料なのがいい。

ケルビングローブ美術ギャラリー&博物館

日曜の午後だからか、アンティーク・フェアをやっているそうで、入ってすぐのホールは、人がごった返している。ホール正面にはパイプオルガンがあり、年配のおじさんがなにやら演奏している。残念ながら曲目はわからない。正面から入って左側が博物館、右側が美術ギャラリーのようだ。まずは左側の博物館の展示を見学。1階と2階があって、1階は自然史関係、郷土関係の展示が中心のようだ。2階は歴史と民俗。

アンティークフェアをやっている広間。正面上部にはパイプオルガンがあり、生演奏中。

正面口入ってすぐのホールから左の展示室に入る。入り口の右は郷土関係の展示がまとまっているようだが、左側の科学関係の展示が気になり、まずそちらへ。展示物の最初は、ホテルの部屋によくある電気湯沸かしポット。何の展示だろう?と思う。

電気ポット

その後ろには誰かの肖像画。

で、説明板を見てやっと納得。蒸気機関の話らしい。ジェームス・ワットのコーナーだったわけだ。ジェームス・ワットは1736年、スコットランドのグリーノック(グラスゴーの西)で生まれ、14歳でロンドンに出るがギルドのため開業できず、1757年にアダム・スミスの協力によりグラスゴー大学構内で科学実験器具の製造修理店を開く。ここで物理学教授のブラックと出会い、蒸気機関の改良に取り組み、効率の良い蒸気機関の製作に成功、特許を取得し、1775年にボールトン・ワット商会を設立しワット式蒸気機関の製造を開始したとのこと。1819年没。グラスゴー大学からは法律博士号を授与されており、縁の深さがわかる。

実物と肖像画や道具をうまく配置して、わかりやすく目を引く展示に感心させられる。自然史関係は、世界の絶滅危惧動物の剥製が並んでいるかと思うと、地元の動植物の展示があったり、海洋生物の剥製が並んでいたり、このあたりの地盤を構成している石炭紀の地層から出てきた化石が並んでいたりする。 この地域の石炭紀の石灰岩から出てくる化石は、僕が中学生の頃、日立の山で採集して同定していた、Lithostrotion属や大正時代に報告のあるLonsdaleia属などの四射(四放)サンゴの化石が並んでいて、とても懐かしい気がする。石炭紀の北上・阿武隈・飛騨外縁・黒瀬川帯の化石は、ヨーロッパで出るものとかなり共通なので不思議はないはずだが、地球の反対側で同じ属の化石に出会うとは。ちょっと感動。(ちなみに、秩父など美濃帯で出てくる海山の石灰岩にも同時代のものがあるが、化石の種類は全然異なる。古生物地理区の問題らしい。)

グラスゴー大学。1451年創建(たぶん)の時計台。


第3日 6/25

Glasgow Queen Street駅の敷石。白亜紀の石灰岩。おそらくイタリア産。

  Bowmoreの街並み。

  ポストの回収時間は終バスと同じ時間のような気がする。

  Bowmoreの海岸の岩石。時代未詳、おそらく先カンブリア代末期の砂漠成の石英砂岩。

Bruichladich蒸留所前の海岸。対岸の街はBowmore。その間は内湾のLoch Indaal。

Bruichladich蒸留所前の海岸にて。Lewisian gneiss。飛騨片麻岩に少し似た、変形岩の特徴がみられる。


第4日 6/26

Stirling市内

  Stirling城。はんれい岩シルが硬いために氷河に削り残されて突出した丘の上に建てられている。

 

 

 

 

 

 


第5日 6/27

  Stirling駅の時刻表示。

  Edinburgh空港。


第6日 6/28


H.Hagiya 2007.7.7-