ぼくは孤独だった。両親はぼくが1歳の時、飛行機事故で死んだと言う。おそらくその時、ベビーシッターがぼくに父母の死を告げていたにちがいないだろうが、ぼくは覚えていない。
その時のベビーシッターがぼくの親代わりとなって育ててくれたというわけである。
ぼくが20歳になった時、彼女は「私の役割はこれで終わったのよ」と言いながら、ぼくを近くの公園に連れて行き、ベンチに座らせると、「はあーい、お目目を瞑(つむ)って」と言った。ぼくは素直に従がった。
しばしの後、目をあけると、彼女の姿は視界から消え去った。
以来、ぼくはこの公園に毎日のように訪れては、何かを期待するようにベンチに座り、しばし瞑想にふけるようになった。
そんなある日、いつものように惰眠(そう、いつのまのか瞑想は惰眠に代わっていた)に耽(ふけ)っていると、「はあーい、お目目を開けて」と女性の声がした。
目の前に若い女性がいた。
「私がわかる?」
「いえ」彼女に見覚えはなかった。
「私よ、わ、た、し。うふふ」彼女は意味深に笑うと、ぼくの背後に回り、「思い出してみて」と言った。
まったく見覚えがなかった。
「すみません。思い出せないのですが」
「あなたが好き」
「えっ?」ぼくは首をひねった。
背後からふたたび前に回り込むと、彼女はぼくを凝視した。
「あなたの育ての親を思い出してみて」と彼女は言った。
「もしかして、きみが、そう?」ぼくは彼女の胸に向かって指さした。
「あなたのために若返ったの」
ぼくは映画なんかで、よくある話だと思った。
「そうですか。あなたがぼくの育ての母かあ」
彼女はうなずいた。
「そして今日からあなたの恋人……」
それから、ぼくは世にも珍しい自分のベビーシッターに恋をする青年となったのである。
しあわせだなあ……? (終わり)