【97年10月22日】

KINZAI Seminar 「銀行の支店に対する外部監査」
(96年6月:銀行に関するMOF通達関連)


本日、Kinzai 主催の掲記セミナ−に参加した。
(対象は、専ら銀行の New York 駐在員。講師は Ernst & Young の Partner 2名)

セミナーは銀行向けのものであったが、隣接金融機関として、興味深いものであった。

セミナー内容
(1)蔵銀901号の内容(別紙1参照)
(昨年に発生した大和銀行NY支店等が背景になっている。)
a.96年6月通達改正「普通銀行の業務運営に関する基本事項等について」
通達実施時期は今年度(平成8年度)より。
b.海外支店(注1)について、外部の専門家(注2)による業務監査を最低、年1回受けるこ とが要請されている。
c.外部監査の内容は、銀行自らが行う内部検査・監査の検証を基本とし、デリバティブ取引 等、市場関連業務の監査に重点を置く。
d.業務の状況に照らし必要があると認めるときは、別途日本の監督当局(MOF)の指示に よる。

(注1)駐在員事務所は除外されるが、支店であれば、人数を問わずに適用される。

(注2)外部の専門家は、銀行業務や会計制度等の専門知識を有していることを最低条件として、一般的 には公認会計士や監査法人に相当する業務を行う者をいう。
(日本からの派遣も認められ、実際にその方向で考えている銀行もあるとのこと。)

(2)MOFは、銀行の海外支店の内部統制の状況について外部監査人が評価することを期待して いる。監査結果報告書については、通達上は明確化されていないが、Ernst & Young によれ ば、「MOFは報告書の作成を期待している。」とのこと。MOFへの定期的な提出義務は ない。
(ただし、常識的に考えて、何の報告書もない監査など有り得ないと思われ、実施するから には何等かの報告書は銀行が入手するはず。)

(3)監査の実施方法や報告書の形式について特に規定はなく、銀行と監査人が協議して決めるこ とになる。報告書は当局が宛て先にはならず、銀行が宛て先となる。

(4)実際に米国でこれに沿った業務監査を行うとなると以下の手順となる(別紙2参照)。
(Ernst & Young の米国の銀行に対して行っている手法に沿った整理)
具体的には、AICPA(米国公認会計士協会)および COSO(注3)(米国会計金融協会)の監 査基準に準拠することになる。

@ アテステーション業務 (Attestation Engagement)
・銀行の支店が、自ら統制環境の評価・統制手続きのテストを行い、声明(Assertion)を作成する。
・外部の専門家は、支店が作成した内部統制に関する記述書をレビューし、統制手続 きをテストした上で、声明(Assertion)の妥当性を評価する

A 財務諸表監査 (Financial Statement Audit)
財務諸表監査の中で、その前提となっている内部統制を評価し、財務報告に関する内 部統制についての報告書を(通常の財務諸表監査報告書とは)別に作成する。

(注3)Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission の略称

別紙1 通達関連部分(資料1より抜粋(P.3))
別紙2 外部監査の具体的な内容(資料1より抜粋(P.11,12))

資料1 「海外支店業務監査」(荒井憲一郎パートナー 資料)
資料2 "Methodology for Evaluating Internal Controls" (Kevin Nixon 氏 資料)

note:J-KINZAI


−−−コメント−−−

(1)MOF自らが検査を行おうとしても要員に限界があり、また個別に異なる海外の業務内容の 把握という面でも無理があるため、外部の専門家の業務監査を年1回義務付け、行政責任の 履行(?)の一環とするという考え方。

(2)行政のやりかた(姿勢)としては容易に考え付く手段。銀行にとってこのコストが無視でき ぬものであることも、中小銀行の New York からの撤退に拍車をかけているものと思われる。 一方、残った銀行に対しては、各監査法人がここぞとばかり売り込み攻勢をかけている模様。

(3)外部専門家が業務監査を行う際にも、まず最初に銀行の支店に声明文(Assertion letter) を作らせるなど、「いったい誰が監査を行うのか?」ということを問いたくなる気もする。 ただし、内部に問題があったときには、MOFの責任でも外部専門家の責任でもないだろう が。

(4)監査法人としては、対価を得て監査業務を行う事は大きな業務拡大であり、歓迎しているが、 一方で、先の大和銀行事件で監査法人の責任が問われるなど、法人としての賠償責任には敏 感になっている昨今である。
(保険カバーとしては Professional Liability の分野)

(5)日本の損保の海外営業比率は銀行に比べて相当小さなものであり、同様の通達が直ちに損保にも発出されるとは考えにくいが、このような動きが出てくる事は考えられる。


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