【97年1月23日(木)】

New Jersey の自動車保険 (Auto Choice)
New York Times (97.1.23)


自動車保険料が全米で最も高い州のひとつである New Jersey において、Governor の Christine Todd Whitman(Republican) が提案している自動車保険料引き下げ策 が先週から話題となっている。

New Jersey の保険料が高い原因としては
・産業が古くから発達し、人口密度が高く、自動車交通が密な割りに道路の整備が遅れていること。
がもっともらしくあげられることが多いが、実際には、
・法廷(court)で賠償責任額を決定するのに巨額がかかること。
も無視し得ない(むしろ問題はこちらである)。

原告(plaintiff)のlawyerは、得た賠償額(compensation)の3分の1から2分の1を報酬として得る。
さらに、被害者の医療費用(medical bill)や逸失賃金(lost wages)をはるかに上回る額を請求できることにより詐欺(fraud)を誘発している。
FBIによれば、詐欺は平均的な家計の保険料に、年間$200影響していると試算されている。

これに対処し、巨大な無駄(colossal waste=訴訟費用のこと)を封じ込めるために期待されているのがNo-Fault制度だ。
No-Fault制度とは、
・契約者の過失の有無にかかわらず、契約者自身の経済的損失をカバーする。
・そして傷害の程度が重いときのみ加害者に対する訴訟を認める。
制度である。

すべての自動車保険をNo-Faultとすれば、全米で $40Billion(自動車1台当たり $220)の save が可能という試算さえある。
一方、No-Fault 制度は、すべての国民が訴訟できるという権利に反するものだと主張する向きもある。

New Jersey では、No-Fault 制度に選択権(契約者に選択を認める)を入れて(Auto Choiceと呼ばれる)4つの種類を認めようとしている。
Auto Choice は92年に Bush大統領により、また、96年にBob-Doleにより力を得て、徐々に広がりつつある。
(これに対し、訴訟で飯を食っている弁護士達は当然、反対している。)

New Jersey の Planによる4つの保険料引き下げオプションは次のとおりだ。

  1. 今までの形態(法廷へのaccessに制限なし=Full Coverage)
  2. 被保険者自身の pain and suffering に対する訴訟について、制限的にカバーを買う。
    (保険料は8%程度安くなる。($2000の保険料であれば$1800強となる。))
  3. 訴訟について厳しい制限を設ける。
  4. $250,000 の True-No-Fault Protection。
    (20-25%保険料が安くなる。($1500-1600となる。))


−−−コメント−−−

NJは、New Yorkの発展に付随して、近郊農業で発展した(これが"Garden State"と呼ばれる由縁だ)。

マンハッタンに近い(マンハッタンの西にあたる)州北部は、地理的には南北に走る丘によって東西に2分されている。
東半分は New York と一体的に考えられるが、西部はのどかな田園地帯である。もっとも、電車も通っているので、マンハッタンへのビジネスマンも多く住んでいる。

Manhattanに近い Newark(国際空港となっている)では犯罪率が極めて高く治安は悪い。

米国では保険法が州法であり、Governor が保険を政治に利用することが多い。
自動車保険は Home Owners(住宅総合保険)とならんで、大衆には最も一般的であり、利用しやすい。
さらに、事故頻度が高いことを考えると、自動車保険料の引き下げは州の住民の大きな関心事であることは想像に難くない。

大した成果を挙げていないと言われている彼女(Govenor)にとっては絶好の材料だ。

NJは自動車保険料について必要水準への引き上げをなかなか認めぬ州であり、保険会社としては営業したくないところだ。
現在のところ、保険会社は Auto Chice については基本的に silent だが、保険料が下がれば収益も減るという面もあるからなのだろう。

訴訟コスト削減が保険会社にメリットなのは事実だが、その分の保険料を先取りして大きく下げさせられたらたまらないという読みもある。

なお、今回の話題とは直接の関係はないが、労災・自動車保険における保険詐欺は米国の社会問題だ。しばらく前にも、Long Island の自動車修理工場で、従業員が巨大なハンマーで車を壊している内部告発のビデオが放映されていた。
(壊してから写真を撮って保険会社への証明とし、それからおもむろに修理するという、言わばマッチポンプだ。)

Fraud は保険料を高くする大きな原因になっている。


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