【97年3月1日(土)】

ある社員へのE-Mail


ハードディスクを掃除していたら、昨年5月に、以前、日本で一緒に仕事をした社員に送った E-Mail が出て来た。
宛て先を伏せてそのまま載せてしまおう。
(保険情報でも会計情報でなく、失礼!。内容から言って、Private の ページに掲載できないため。)

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to○○君 from Hiro/NEW YORK Mar 5、 1996

こんにちは、久しぶりです。

最近、New York Times がWWWのサービスを開始し、記事のほぼ全文がオンラインで見られるようになりました。

それも米国居住者は簡単な登録をする(pass wordを決め、連絡のためのEmail Address を登録してsign-upする)だけで全く無料です。きのう試してみましたが、やや画面の反応が遅い(アナログ電話回線最高速度の28.8KBPSモデムを使っていてもこの程度が限界です。これ以上速度を上げるためには、最近日本でも家庭に普及しはじめたデジタル回線を使う必要がありますが、コスト的な問題から、僕はまだ導入していません。)ことを除けば、紙の新聞と違って目次等も充実している上、カラーのため、かえって読みやすいという印象です。

加えて、気になる情報は容易にハードディスクにダウンロードできます。このようなことから、情報における地理的・時間的な格差が世界的規模で、極めて小さなものになって来たことをひしひしと感じます。 New York Timesへは、登録さえすれば、世界中どこからでもアクセスできるはずです。
(http://www.nytimes.com)。

アメリカにいても、情報に対する感度が鈍いと、日本にいる情報感度の高い人に遅れを取ってしまうということが日常茶飯事になることでしょう。
(その逆もあり得ますが。)

New York Timesのみならず、
「IRSのサイトに行けば税法の諸規則までわかる。」
「FASBのサイトに行けば直近のホットな会計処理基準が入手できる。」
「NAICのサイトに行けば昨年のRBCfilingで誤りの多かった部分が公表されている。また今年のFilingに必要なブランクフォームがダウンロードできる。」
等々、この1年で、インターネットが随分仕事に使える(あるいは、「早く使用しなくてはならない」)ものになって来ました。

さて、今回こうしてMAILを送るのは、きのうの朝、電車の中でNew York Timesの特集「Downsizing of America」を読んでいて(こちらは紙ベースの新聞です)、1年程前にそちらから送ってもらった○○部のメモに「当社としては、信念を持って、着々と事業費効率を高めていく揺るぎない姿勢が、何よりも重要。」という記述があったことを思い出したからです(貴君自身の表現か否かはわかりませんが。)

この一文を見たときは、「なるほど、的を得ている。みんなそう思っているが、大きな声で(あるいは会社の経営の発言として)言えていない。実際にそれを進めて行くには様々な障害があり、エネルギーが必要になる。重い言葉だ。しかし当社を含め、日本の金融機関はこれを進めねばならない。ポイントは人事政策に違いない。」と思ったものです。

New York Timesの特集は今週の日曜日から、1週間にわたって毎日3−4ページを割いて組まれているもので、この10年間でアメリカ全体でどのようにDownsizingが進んできたか、という課題を扱っている記事です。毎日のテーマは次のようになっています。

3日 The Price of jobs lost
4月 The company
5火 The community
6水 The family
7木 The college class
8金 Politics
9土 Is there a better way?

電車の中を見回した感じでは、アメリカの人々もかなり興味を持ってこの記事を読んでいるようです。

この中で、月曜日の記事の一部に、今度合併する Chase と Chemical の人事部が、解雇する従業員の直属の上司(Managerクラス)に配った手紙(もちろん現物どおりではないと思いますが。)が示されていて、なかなかシリアスだな、と思いました。この手紙の中には、つぎのような指示・指針(人事部からManagerに対する指示)が書いてあります。

1.職を失うことになった人たちにそのメッセージを伝えるのは、とても難しい ことである。特に相手をよく知っている場合はなおさらである。
2.あなたは、会社の決断を従業員に伝える役目を担っている。
3.面接は、会議室等のニュートラルな場所で、5−10分で行うべし。
4.メッセージは短く、簡潔に、かつ明快に。
5.相手からは、拒否、怒り、悲しみ等の反応が予想されるが、あなたは相手の感情を理解しつつも、相手が、今回の決定が会社としての最終決断であることを理解していることを確認する必要がある。
6.問題が発生しそうな場合には、人事部に連絡を願いたい。

合併に伴い解雇される人を、「新会社に選ばれなかった人々」という言い方をしているのが秀逸だとおもいました。この記事を読んで、アメリカではこのようなスリム化が大胆に行われ、結果として産業全体の活力の維持が図られているということを再確認させられました。この記事の中では、別途様々なアンケート結果が示されていますが、その中の、「職を失うぐらいなら長時間働く方が良い。」という大多数の意見を見るまでもなく、個々人にとってきわめて厳しい状況であるのは想像に難くありませんが。当方でも近年では、かなり大胆なことをやって来ていますが、アメリカの一般企業の厳しさにまでにはまだ到っていないのが実状です。

日本に目を転じた場合、、当社も含めて、このようなことは、まだまだ行いにくいのでしょうが。。。。

○○君が最近どんな仕事をしているのかは知りませんが、以上、多少興味ある話題ではないかと思い、久しぶりの挨拶をかねてちょっとMailを出してみました。
しかし、やはり、文章(文字の情報)は1から作ると時間がかかりますね。これだけタイプするにも2時間ほどかかってしまいました。情報を発信するのにも、多少エネルギーが必要なのは事実です。

それともう一つ、アメリカのRe-Engineering 関係の情報として、一つ目に止まったのが、CIGNAのリエンジニアリングに関する論文(www.cox.smu.edu/mis/misq/archivist/sim94)です。筆者はハーバードビジネススクールの助教授で、この論文はシステム関係の団体の懸賞論文として94年度のAward をとったようです。

なお、
1.筆者には、CIGNAの役員も名を連ねていること
2.この論文以降のCIGNAの動きは、未だ不透明なものがあり(注)、「CIGNAのリエンジニアリングが成功した」という本論文の内容には異論も有り得ること。
などを考えると、論文の内容を鵜呑みにするのは禁物ですが、「大組織におけるリエンジニアリング」を考える上で、示唆に富んだ内容を持っているのは事実と思います。

僕も、ざっと目を通してみただけで、よく読んだわけではないのですが、ちょっとヒマなときにでものぞいてみるとおもしろいかもしれません。
(○○部にはインターネットのWWWにアクセスできるパソコンがあるものと思います。あるいは○○君も個人的にNifty Manager あるいは別のプロバイダーを使って環境を作っているのかもしれませんが。万一、まだだったら、ぜひ早く開設することをおすすめします。)

(注)アメリカではEnvironmental Claims に関連して、昨年後半以来、CIGNAを初めとする分社化(このような一連の動きは、 "Good Bank/Bad Bank"とたとえて呼ばれています。)が話題になっており、直近の "Best's Review"(96年3月号)でも、10ページほどの簡単な特集が組まれています。

参考までに前述の論文の冒頭部分をwww.cox.smu.edu/mis/misq/archivist/sim94より以下に抜粋しておきます。

Business Reengineering at CIGNA Corporation:
Experiences and Lessons Learned From the First Five Years

This paper won first prize in the Society for Information Management's
1994 annual Paper Awards Competition.
J. Raymond Caron
Senior Vice President
CIGNA Corporation
One Liberty Place
1650 Market Street
P.O. Box 7716
Philadelphia, Pennsylvania 19192-1520
USA
215-761-6006

Originally Appeared in Management Information Systems Quarterly,
Vol 18(3), September, 1994
[Note: the copyright for this document is owned by the Management Information Systems Quarterly. The article may not be printed out or sold through any service without permission of the Management Information Systems Quarterly.] Considerable uncertainty and confusion exists about what business reengineering is and when it succeeds. This paper provides a longitudinal view of CIGNA Corporation's experiences in business reengineering since 1989. CIGNA is a leading provider of insurance and related financial services throughout the United States and the world. Between 1989 and 1993, CIGNA completed over 20 reengineering initiatives, saving more than $100 million. Each $1 invested in reengineering has ultimately brought $2-3 in returned benefits. This article describes projects with major payoffs: operating expenses reduced by 42%, cycle times improved by 100%, customer satisfaction up by 50%, quality improvements of 75%. It also highlights how CIGNA's reengineering started small and how learning was used to escalate from this quick hit to reengineering larger and more complex parts of the organization. CIGNA's reengineering successes have also required a willingness to allow failure and learn from failures. Only about 50% of the reengineering efforts bring the type of benefits expected initially. Repeated trials are often necessary. CIGNA's lessons can help other firms anticipate what they will experience as they ascend the learning curve of business reengineering.

Keywords:

Business reengineering
Business process redesign
Radical change
Longitudinal case study
Insurance industry
Strategic alignment
Organizational learning
Knowledge transfer

以下、極めて長文なので省略します。

ではまた。お元気で。

Hiro from : New York


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