【99年11月11日】

Allstate が ついにテレマーケティング/インターネット販売に参入
(PR-Newswire, Reuter, NYTimes, AP)



米国のパーソナルマーケットでシェア2位(個人自動車保険 12.3%)のオールステート社は Progressive社、GEICO 社等のダイレクトマーケッターに押されて成長力を失い、さらに高経費体質から急速に収益力も失いつつあったが、ついに11月10日、ダイレクトマーケット(コールセンターとインターネットによる販売)に参入することをアナウンスした。
Reuter、AP や NYTimes の記事などからポイントを簡単にまとめると次のとおり。

【1.計画の内容】
a. 売り方
  ・コールセンターとインターネットで販売を開始する。
  ・従来通り、Agent(全米で15200店)経由の販売も行う。
  ・ダイレクトに保険を買った顧客も、その後近隣の Allstate Agent につなぎ、各種サポートを受けられるようにする。その代わり、Allstate は近隣の Agent に対してノミナルな手数料(2-3.5%)を支払う。
  ・また逆に、Agent から買った顧客も、その後コールセンターやインターネットでの対応を受けられる。
b. 従来の代理店契約(Captive Agency Program)を、Exclusive Independent Contractor 形式に変え、会社のベネフィット等から切り離し、コスト削減を図る。
c. 年間600百万ドルの資金を今後のシステム構築等に充当するため、Back Office を中心とする内部要員(代理店以外)の10%に相当する4000人を来年末までに解雇する。
d. 新計画の推進のため、今後2年間に300百万ドルの資本的支出を行う。
e. さらに、同じ時期に以下の目的で約700百万ドルを支出する。
  ・システム開発・導入
  ・全米へのプログラム展開
  ・新プランの広告

【2.スケジュール】
2000年5月から16州程度で開始
2000年12月までに、人口ベースで全米の40%をカバー
最終的に2001年末までに全米をカバー

【3.Chief Executive の Edward Liddy のコメント】
−「ほとんどの顧客は、よりキメ細かな(responsive な)サービスを求めている。」
−「顧客は、より買いやすく、サービスを受けやすい方法、さらには安い価格を求めている。」
−「我々は代理店の力と、ダイレクトマーケティングの成長力を合わせ、さらにインターネットによる販売・サービスの可能性を同時に利用する。」
−「我々は今、戦略にマルチアクセスという次元を加えようとしている。これにより、我々の販売手法・保険料水準設定、さらには代理店や顧客との接し方を根本的に変えることができるようになる。」
−「このビジネスモデルは、大多数の、そして利潤の得られるセグメントの顧客のニーズに合うだろう。良い点は、好きなときに、好きな場所で、好きな方法で保険会社にコンタクトでき、必要とあれば近所の保険のプロに相談できるという安心感があることだ。」
−「我々は顧客により大きな価値、サービス、アプローチのし易さを提供することにより、収益を得ながら成長して行こうとしている。我々の戦略はきわめて明確であり、この新しい方針は最高の選択だと信じている。我々の計画により、顧客は利便性に応じて、代理店、インターネット、コールセンターという各種の手段でアプローチできるようになる。このため、社内組織を官僚的でなくし、一方でマーケットの変化への対応を早くできるようにする。これらにより、我々は、顧客・代理店・株主・従業員に対して、より良い価値を与えることができるものと確信している。」

【4.Analyst 等のコメント】
Brian Sullivan (California の保険業界紙の編集者)
「多くの代理店はこの取り決めをいまいましく思うだろう。」

Ronald Frank (Salomon Smith Barney のアナリスト)
「会社と代理店は、顧客の要求に応えないわけには行かないという、ついに避けられない転換点まで来たということだ。」
「代理店は、好むと好まざるにかかわらず、インターネットと競争していることに気づくべきだ。」

Weston Hicks (JP Morgan のアナリスト)
「ホームオウナーズと自動車保険が、消費者が価格のみに興味を示す『Commodity』に、どこまで近づくのかという根本的な問いには、誰も答えられない。」

Alice Schroeder (Pain Weber のアナリスト)
「オールステートのリストラはずっと遅れて来ていた。既に同社の経費は収入の伸びを上回っている。インターネットとフリーダイヤル(コールセンター)は、ブランドを維持し、高めて行くのに重要だ。オールステートが成長したいと思うのなら、この動きは極めて重要だ。」

note:bf991111.htm, allstate-telephone-internet-selling.txt

−−−コメント−−−

Allstate 社はダイレクトマーケターとの価格競争で、相当競争力を失いつつあったが、本体自体で効率的な販売手法を採ることで、利便性に訴え、さらに代理店手数料負担を抑制することで結果的に価格にも競争力を持たせることをねらっている。

この9月末に、株主からの圧力も有り、「年末までに大きな方針を発表する。」とのアナウンスを行っていたので、「いよいよか」と思っていたが、ついに発表した。
既存の Agency Company が、マーケットの変化に対応して決断した、一つのビジネスモデルと言える。
マルチブランド、マルチチャネルの流れの中での決断であるが、最も大きな戦略転換といえよう。

時代の流れから考えて当然の動きではあるが、決断には相当の覚悟があったものと思われる。
しかしながら、一方で、代理店の反発を恐れたあまり、「進め方が遅すぎる」という批判もあるようだ。
実際、この2日間の Allstate の株価は連続して下落している。

別会社で価格を変えて(安くして)テレマーケティングを行うという選択もあったはずだが、ブランドの大きさを考慮し、本体で同一価格で行うという選択を採った。
(Allstate によれば、「ダイレクトマーケティングと代理店経由の販売を同一価格にするというのは、Allstate が初めて」ということであるが。)
やり方として、販売手法によらず同一価格というのは、既存の Agent との関係から考えて、やむを得ない(すなわち、ダイレクトを安くしてそちらの価格を下げると代理店からの契約の流出が急激に進みすぎる、ということ)選択であったのだろう。

基本的に Allstate が専属代理店主体の会社(6月に買収し、Allstate 傘下で引き続き CNA ブランドを継続する部分は 乗合代理店チャネルであるが)であるからこそできた決断とも言える。保険という商品の複雑さから考えて、代理店への実際の影響はインターネットよりコールセンターの方が(少なくとも当面は)はるかに大きいであろうが、インターネットとコールセンターを並列にしてアナウンスし、少しでも代理店からの反発を弱めようとしているのはうまいアナウンスの仕方と言えるであろう。

また、別の Vehicle を作り、その会社を通じてダイレクトマーケットに参入するという手法を採らなかったのは、近年のアメリカにおける消費者の意識の変化が大きく、本体自身を変革しなければ生き残れないという危機感さえ Allstate 社内部にあったという見方もできる。

従来の販売手法による部分とダイレクトの部分の保険料水準を一本にすることにより、効率的販売(ダイレクト)の恩恵を十分に価格に転嫁できなくなるという大きなデメリットがあるが、このビジネスモデルがうまく行くかどうかは、注目に値する。
(半年や1年では結論は出まいが。)

その他に今後注目すべき点としては、
・今後の他社(特に State Farm や Nationwide社など)の動き
・Allstate の Agent の反応
・Allstate の料率水準(どの程度下がるか)
等であろう。

なお、一説によると、Allianz が Allstate の買収を検討している(いた?)とも言われているようである。


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