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三重大学春秋会(退職教官有志の会)会誌「春秋」第23号(H12.11)より

自治会役員を経験して
菊 岡 武 男

1 はじめに                                                                   

 私は、平成12年3月末まで津市八町1丁目第2自治会長を2期(4年間)務めて  
退きました。会長に就く前は5年間自治会事務長(庶務会計担当)を務めました。ま  
た事務長に就くと同時に自治会氏子総代も引受け、これは現在もなお続いております。
なお事務長に就く数年前から、当時の自治会長と親しかったので、自治会の雑務に私  
的に関与しておりましたので、私と自治会の関わりは十数年になります。            

 どなたも同じだと思いますが、社会に出てからは、いわゆる会社人同一筋(私の場  
合は農林省(当時)と大学)に歩んで参り、地域社会とは全く無縁の存在でした。    

 定年退官して過去を振り返り、自分が地域社会に支えられていたことに気付き、近  
所の皆様に少しは恩返しをすべきではないかとの反省が、自治会役員あるいは氏子総  
代を引受ける動機になったのかと思っております。                                

 本年4月自治会長を退いたいま、断片的ではありますが、わが自治会のことを披露  
するとともに、自治会は「自治」の名に値する存在なのかを考えていただくべく筆を  
執りました。                                                                  

2 八町1丁目第2自治会概観                                                  

 この自治会区域は図1の通りで、津市都市マスタープランによると、この区域は商  
業複合地帯が大部分で、一部は一般住宅地帯になっている昔の八町通りを含む一帯で  
あります。所帯数は約110で、年配の人が多く、若者は郊外へ移って行き、本年8  
月現在、70歳以上の人数は63名(男性21名、女性42名)、小学生は隣接の第  
1自治会と合わせても僅か8名(本年度の入学者ゼロ)という年齢構成です。長年住  
んでいる人が多く、3軒の小規模マンションの住人以外は転出入は少なく、この自治  
会へ転入して25年になる私達夫婦も新参の仲間です。                            

 往時、この八町通りは殷賑を極めた商店街であったようですが、今は昔の面影はな  
く、やや寂れた町並みが続いているところです。                                  

 しかし、図1(a)の通り、この区域は近鉄津新町駅に近く、小・中・高校も近く  
にあり、図には示されていませんが、郵便局、病院、銀行、マーケット、日用雑貨店  
も揃っており、またしばしの憩いを楽しむ古河公園もあり、車を持たぬ私達老人には  
案外暮らしやすい所だと思っています。                                          

図1a 八町1丁目第2自治会位置略図                                           

図1b 八町1丁目第2自治会区域図                                             

 さて、このような区域を占める八町1丁目第2自治会は11斑に分かれ役員は常任  
役員と班長で構成されており、班長は毎年3月に各班で選ばれます。常任役員は会長  
・副会長(2名)、事務長、監事(2名)でその任期は2年で新旧班長会議で運ばれ  
ることになっています。                                                        

 このほかに、国魂神社(図1a参照)の氏子総代という役職が昔から存在し、冒頭  
で述べた通り約10年前から今なお私が務めております。                          

 会計は自治会費(現在、月300円で、半期ごとに班長が集金)と、後述するよう  
に県・市からの補助金・委託料で賄い、収支予算は年間約70余万円です。          

3 自治会とは                                                                

 自治会はれっきとした法規法令に基づくものと思っていましたが、そうではなくて、
津市から頂いた資料によると、住民自ら自発的に活動する任意団体であることがわか  
りました。                                                                    

 しかし現実には地方自治体の下部組織であるような業務を負わされていますが、い  
かなる根拠があるのか明瞭ではなく、曖昧模糊とした存在のように思います。        

 また津市の資料によると、自治会とは「同じ地域に住む者が自助協力して豊かで住  
みよい地域社会を創っていくために、地域住民の総意によって結成した任意団体」と  
位置づけております。さらに自治会の目的を具体的につぎのように述べています。    

 (1)地域住民の親睦と連帯の場として:                                       
 例えば町内運動会や祭の行事で、私たちが対話し、心のふれ合う場とし、あるいは  
協力し合って様々な活動に参加し、地域に住む楽しさやお互いの絆を強くする場とし  
ます。                                                                        

 (2)地域の課題の発見と解決の場として:                                     
 私達はゴミ処理、交通安全、防犯、防火、青少年の非行防止、老人のいきがい、道  
路・公園などの環境整備などの諸問題をかかえています。これらの問題は個人だけで  
解決するのは難しく、私たちみんなが要望や意見を出し合い、利害を調整し、地域全  
体の課題としてまとめ、ひとつひとつ解決していく場であります。しかしその解決の  
過程で行政と深い関わりをもつことがあり、一方、行政も地域にとって何が必要かを  
考えるなかで、自治会との有機的な連帯が必要となりますから、行政側と自治会がそ  
れぞれの役割を認識し、協力し合うことが真の自治の姿であろうと考えます。        

 津市は自治会存在の目的を上述のように述べていますが、自治会運営に携わってみ  
ると、次項に述べるように、本自治会の実体とはかなり乖離しているところがありま  
す。                                                                          

4 わが自治会の業務                                                          

 自治会規約では、自治会区域を住みよくして、自治会員の福祉増進および親睦を図  
ることを目的として、県・市等からの連絡事項の周知、防犯灯の管理、県・市その他  
の団体行事への参加等を行うことにしています。                                  

 現実には、毎月2回の県・市政だより及び議会だよりをはじめ警察署・消防署等か  
らの広報類の各戸配付または斑回覧の業務が大きなウェイトを占めています。これら  
の業務に対しては県・市から補助金・委託料を頂戴しています。平成12年度は合計  
160,017円でありました。                                                       

 国魂神社からは毎年氏子費及び大祭費として、1世帯当たり、それぞれ200円及び 
ぴ300円奉納の要請があり、本年度は5万円奉納しました。この経費は自治会の支  
出予算に計上し、一括して支払っていますが、自治会によっては信教の自由を冒涜す  
るものとして、各世帯の意志に任せているケースもあり、予算に一括計上をめぐり裁  
判ざたになったニュースを読んだことがありました。                              

 また、毎年のことながら、日赤募金・共同募金額の各自給会目標額が市から示され  
ます。当自治会では支出予算に前年度の額から推定した金額を一括計上して支出して  
おりますが、市はいかなる権限から半強制的に指示してくるのか、今なお疑問を抱い  
ております。ちなみに当自治会では本年度は合計89,000円を計上しております。      

 本自治会の自主的事業として、本年度は消火器2基、掲示板1基を新設しました。  
これに対しては市から補助金として前者は1基あたり1万円、後者は1万2千円交付  
を受けました。なお、以前から「自治会だより」ニュースを毎月1回発行しています。

 さらに本自治会は、老人クラブをはじめ新町地区体育振興会等に対し助成金を交付  
し、春と軟に古河公園の清掃を近隣自治会と協力して実施しています。また会員に対  
し慶弔の祝金・見舞金・弔慰金を差し上げております。                            

 このほかに、自治会員の絆を強くし、なるべく対話の機会を多くするよう心がけ.  
夏休み中の子供のラジオ体操会に協賛して、自治会で舞台を造り、マジシャンを招い  
て、大人にも子供にも喜んでもらいました。                                      

 また、古河公園清掃奉仕の際、落ち葉焼きを利用して焼き芋大会を行い好評を博し  
たこともあり、また昨秋には志摩方面への観光・昼食団欒の日帰りバス・ツアーを試  
み、これも参加者から喜んでいただきました。                                    

 しかしこのような自治会の営為は、自治会の「自治活動」に値するのか、住民の自  
治とは何かに疑念を抱きつつ、十数年にわたる自治会役員から解放されて現在でも疑  
念は晴れません。                                                              

5 結びに代えて                                                               

 自治省出身の三重県副知事さんは「地方自治には住民自治と団体自治という2つの  
面があり、このことは地方自治の勉強をするとき最初に学ぶことだ」と述べておられ  
ます(註)。                                                                  

 さらに加えて「住民自治というのは、一定の地域に生活を共にしている住民共通の  
諸案件をみんなで寄り合って決めていくというものであり、団体自治というのは、わ  
カり難いが、国家またはその他の行政主体に対して独立して存在し活動するものであ  
る。県も市町村も国と全く無関係ではあり得ないから、いろいろな接点とか交渉はあ  
るが、基本的には法律で縛られない限り、自らの意志を決定し、上位機関に対して独  
立を保つということである。この2つの面を地方自治の要素として理解する必要があ  
る」さらに続いて「今回の分権改革は住民自治の観点からは極めて低調であり、地方  
自治を本当に具現するには、住民自治が確立するような環境にならなければならない」
とも述べておられます。                                                        

 長年の自治会役員を退いたいま、この自治会が上述の「住民自治」の主体となるよ  
うな時代が1日も早く到来することを願いつつ、それを具現するような諸施策につい  
て諸賢の御指導御鞭榎をお願いし擱筆します。                                    

 (註)三重県副知事上田紘士「これからの地方自治」:都市環境ゼミナール(会長   
       伊藤達雄名古屋産業大学長。三重大学名誉教授)例会講演(平成12年4月15日)

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