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三重大学春秋会(退職教官有志の会)会誌「春秋」第16号(H05.10)より



ハウステンポス観光
----- 環境創造の都市は根付くか -----

菊岡武男


1.はじめに                                                                  

 三重大学人文学部・伊藤達雄教授主宰の「都市環境ゼミナール」平成5年6月例会は 
長崎空港とハウステンボスの学習・視察であり、筆者は参加者39名中の1人であった。
長崎空港は、地方空港ながら世界で初めての海上空港であり、日本で最もきれいな空 
港といわれている。その見学は、中部新国際空港に関心のある一行にとって参考にな 
った。またハウステンポスは「自然のいきづかいが肌で感じられる新しい住空間の創 
造」いわばエコハビタ(Ecohabitat、生態的人間居住を意味する創造的な概念 1))を 
開発のコンセプトとした壮大なリゾー卜開発に挑戦し始めたところであり、新知識が 
得られた。ここではハウステンポスについて少しふれてみたい。                   


2.ハウステンボスに挑む神近義邦等                                           

 ハウステンボスは長崎県大村湾口にある狭い早岐瀬戸と針尾瀬戸に挟まれた針尾島
(佐世保市内)の東南端にあり、面積約152haである(図ー1)。                  





 この土地は、長崎県が県北地域経済の活性化を狙って、高度経済最盛期に造成した
臨海工業団地であったが、そのあとの第1次オイルショックで企業誘致は頓挫し、遊
休地のまま放置され、金利だけが膨らんでいた。                                

 この土地に照準を定めたのが、長崎県西彼杵町出身、昭和17年生まれの神近義邦で
あった。彼は、観光事業は単なるテーマパークと祢する従来の方式では長期存立は困
難であり、単なる通過型の施設から脱却して、滞在型と定住型を融合させたエコロジ
ーとエコノミーを共存させた施設づくりこそ将来のリゾート都市との信念に燃えてい
た。針尾遊休工業団地こそその夢を実現させる土地と狙いをっけた神近と、造成団地
放棄を勇断した高田長崎県知事の出合いは、ハウステンボス開発への転換のスタート
でもあった。                                                                

 神近の描いた夢のプロジェクトを設計図に具象化したのは、日本設計株式会社・池
田武郎社長であり、彼は神近の精神的支柱となった。また金融面では、その壮大な長
期展望に立脚したプロジェクトに注目した日本興行銀行、日本開発銀行がバックアッ
プした。長崎県、佐世保市をはじめとし、JR九州、九州電力その他日本有数の企業三
十数社も参画するようになった。ハウステンボスは「長崎オランダ村株式会社」とい
う第3セクター方式で建設され、平成4年3月にオープンした。                     


3.ハウステンポスのグランドデザイン                                         

 ハウステンボス(HUIS TEN BOSCH)とはオランダ語で「森の家」の意である。オラ
ンダ・ベアトリックス女王が住んでおられるハーグ市郊外のパレス・ハウステンポス
を模して、王室の許可を得て、工業団地跡に建設する環境創造の都市にこれを再現す
ることから、この名称がつけられたということである。                          

 ハウステンボス計画の原動力となったのは、国土の3割を干拓にっよって創り出し、
自然との共生を願いながら、4百年にわたり営々として、まちづくりをしてきたオラ 
ンダに着目し、オランダに蓄積されたノウハウを探り出したことであった。         

 その結論としては、人びとが住み暮らしていく街の最も肝要な要素の一つは、豊か
な自然環境であること、そしてハウステンボスの建設には、澄んだ空気、豊かな緑の
木々や草花、万物の生命の源ともいうべき海などの自然美の尊重を基本として、オラ
ンダの街をこの土地に再現することに集約された。                              

 このため、落葉樹を主体とした40万本の植樹と30万本の草花の植裁を行い、6kmの運
河を巡らせ、その護岸は石積みとし、水際に接する部分には石はもちろん土や木材を 
使用し、水際の生態系の保全に留意し、運河の水は干満差と樋門操作の相乗効果及び 
ポンプによる強制循環により水質を保全するように考えた。また汚水・排水は特殊な 
高度の下水処理工法により、トイレ洗浄や植物潅水用の「中水」として再利用し、さ 
らに余剰水は活性炭素等を通したあと、土壇濾過を行い、運河に流出させ、大村湾の 
水質保全に万全を期す設計とした。そのほか、光・音・土壌・廃棄物に対しても、環 
境保全に配慮した設計をとり入れた 2)。                                       

 こうしてハウステンボス全域をエコロジー、エコノミー、テクノロジーそれに加え
てコスモロジーの視点から、ここを訪れる人、長・短期滞在する人、そしてここに住
む人が快適に過ごせる総合的なまちづくりのため、ショッピング、レストランなどの
店舗施設、文化・スポーツ関連施設、交通システムなどを整備し、バランスのとれた
未来都市の建設を目指し、さらに将来はハウステンボスを核に周辺地域を含め15万人
定住の環境創造の都市のグランドデザインが行われた。                          


4.ハウステンボスの主な施設                                                 

 ゾーン内の施設は図−2の番号で示した。各ゾーンの主な施設名はつぎの通りであ 
る。                                                                        





@ブルーケレン                                                              
 入・出国ゲー卜、オランダ商館、ナイアンローデ城などがある。城外にはバスター
 ミナル、カナルステーションがあり、ここから運河めぐりができる。            

Aキンデルダイク                                                            
 花と風車の田園ゾーンで、チーズ農家などがある。                            

Bニュースタッド                                                            
 宇宙帆船館、ノアの劇場等のアミューズメント施設がある。                    

Cミュジアムスタッド                                                        
 クリスタルドリーム、カロヨンシンフォニカ、オルゴールファンタジア、シーボル
  ト出島商館等の劇場や博物館がある。                                        

Dビネンスタッド                                                            
 警察、消防、銀行、郵便局等ハウステンボスの町の機能を果たす公共施設やワール
  ドバザール等のショッピング街、ギヤマンミュージアム、オランダの古いまちなみ
  を再現したホテルアムステルダム等がある。                                  

Eユトレヒト                                                                
 シンボルタワーのドムトールン(高さ105m)、レストラン街、ユトレヒトプラザ、
  迎賓館、ホテルヨーロッパ等がある。                                        

Fスパーケンブルグ                                                          
 マリンターミナルであり、海の幸を満喫できるシーフードマーケット、大航海体験
  館、帆船博物館、ホテルデンハーグ等がある。                                

Gフォレストパーク                                                          
 大きな島を囲む湖があり、湖岸に百余戸の別荘が並ぶ森のゾーン。温水プール、サ
 ウナ等南国気分にひたりながら体力づくりを楽しむウェルネスセンターがある。  

Hパレスハウステンポス                                                      
 フランスバロック式庭園のあるオランダ王室宮殿を再現している。内部は、有名な
 美術品が鑑賞できる美術館になっている。またオランダの大学分校もある。      

Rハウステンボスマリーナ                                                    
 ヨットやクルーザー173隻が係留でき、後述のワッセナーのプライベイトハーバー 
 と合わせると、西日本最大のマリーナである。                                

Jハウステンボスハーバー                                                    
 長崎空港及び博多からの快速艇やディナークルーザーが発着する。              

Kワッセナー                                                                
 オランダの伝統的住宅をモデルにした長期滞在者用の住宅ゾーンである。運河に面
 した庭とプライベイトハーバーを持つ家もあり、庭先からヨットやクルーザーで大
 村湾また外洋への巡航を楽しむことができる。                                

L駐車場 RJRハウステンボス駅(施設外) N物流センター R上水供給プラント
P下水処理および排水再利用施設 Lエネルギープラント R従業員用住宅ゾーン  
(予定)                                                                    


5.環境創造の都市は根付くか                                                 

 ハウステンポスはエコロジーとエコノミーを両立させ、長崎県北部地域の活性化を
狙い、芸術、スポーツ、レクリエーション、観光などを組み込んだ先端リゾートを目
指す総合産業であり、3,500人の雇用を生み出し、年間400万人吸収の目論見であり、
新しい都市に成長しようとしている。                                          

 ところで、二十余年前の大阪万博の理念は「人類の進歩と調和」であった。当時は
「進歩」という人類の夢を地球の「自然」を消さずに実現できると誰もが考えていた。
しかしその楽観主義を打ち破ったのは、せいぜいここ二十余年のめまぐるしい変化で
あった。この間に世界は20億人も増加した。都市住民人口は30億人に達しようとして
いる。それが消費する資源、排出する廃棄物はともに予想をはるかに超えた。      
今や人類の存在そのものが地球の自然を破壊し、人類の存在自体が否定され始めたと
も言われるようになった。                                                    

 自然と都市の共生とか、エコシティーあるいはエコポリスという概念では、もはや
都市を語ることはできなくなってきたようである。                              

 今までの発想を転換し、識者は環境を創造していく都市像を求めるべきであるとし
て、それにはエコロジー、テクノロジー及びコスモロジーの三つの視点からの環境創
造力が必要であると説いている。(たとえば文献1)                             

 ハウステンボスはこのような新しい観点に立脚してグランドデザインがおこなわれ
たのでなかろうかと筆者は考えている。この壮大な夢が果して根付き、日本中にトー
タルな環境を創造した街がつぎつぎと誕生するのであろうか。(文中敬称略)      


引用文献

1)吉村元男:エコハビタ環境創造の都市、学芸出版社(1993)                   
2)ハウステンボスの環境・設備計画概要、長崎オランダ村株式会社(1992)       
3) HUIS TEN BOSH BAY RESORT INFORMATION、ハウステンボス社(1992)             





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