◆ 鯉の効用

 

 

 鯉は、古来から薬用魚と呼ばれ食用に適していることから、多くの国で養殖されてきました。

中国では、紀元前12世紀の殷の時代に始まり、前5世紀にはそのための書 『養魚経』 が著

されています。そのほか、日本、ドイツ、チェコスロバキア、オーストリアなどでも古くから養殖

が盛んでした。

 食用鯉として世界的に有名な品種はドイツ鯉で、オーストリアで作出され、日本には1904年

(明治37)ドイツから移入されました。しかし、食用よりも、むしろ錦鯉の新品種の作出に利用

されたようです。(詳細は後述)


 日本での食用ゴイは真鯉(ヤマトゴイ:注)が主体で、福島、長野、群馬の諸県をはじめ日本

全国で養殖されています。ビタミンB1を多く含み、タンパク質、脂質、カルシウム、鉄に富む

滋養食品です。昔から、鯉は心臓や呼吸器の病気の特効薬とされたほか、産後の肥立ちの栄

養食として、母乳の出ない人などへ鯉を贈る習慣がありました。

 江戸時代以前は、鯛よりも鯉のほうが上位とされ、かならず祝宴に用いられていました。しか

し、鯉の腹びれは、俗に「子留(ことどめ)のひれ」というため、「子を産み出さずにとどめる不吉

なもの」として、婚礼にだけは用いられませんでした。

 

 注)ヤマトゴイ:池や川に生息している野鯉(ノゴイ)と、その養殖品種である大和鯉(ヤマトゴイ)を総称して、

          真鯉(マゴイ)と呼んでいます。

 

 鎌倉時代に吉田兼好が著した随筆 『徒然草』 に、一風変わった鯉の話が出てきますので、

簡単にご紹介しておきます。

 

 

第百十八段

 鯉の羹食ひたる日は、鬢そゝけずとなん。膠にも作るものなれば、粘りたるものにこそ。鯉      

ばかりこそ、御前にても切らるゝものなれば、やんごとなき魚なり。鳥には雉、さうなきものな

り。雉・松茸などは、御湯殿の上に懸りたるも苦しからず。その外は、心うき事なり。中宮の

御方の御湯殿の上の黒み棚に雁の見えつるを、北山入道殿の御覧じて、帰らせ給ひて、や

がて、御文にて、「かやうのもの、さながら、その姿にて御棚にゐて候ひし事、見慣はず、さま

あしき事なり。はかばかしき人のさふらはぬ故にこそ」など申されたりけり。

 

(現代語訳)

 

 鯉の吸い物を食べた日は、耳際の髪が乱れないという。(鯉の骨などを煮詰めた液は)接着剤にもなるので、ねばねばしている。鯉だけは、天皇の御前でも調理されるものだから、格別な魚である。鳥では雉、並びなきものだ。雉や松茸は、厨房に下げられていても見苦しくない。それ以外は見苦しい。中宮(注1)の厨房にある煤で黒くなった棚に雁があったのを、北山入道(注2)がご覧になって、お帰りになった後、すぐに、手紙で「あんなものが、そのまま、その姿で棚の上にのせてあるのは、見たこともない。見苦しいことだ。頼もしいお付きの人が仕えていないからだ。」と言われたということだ。

(注1 後深草院の中宮、東二條院、 注2 中宮の父、 西園寺實氏)

 

 

 

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