BLADE 原作:イダタツヒコ
おすすめ度:★★★☆(3.5点) ジャンル:オカルト系?チャンバラマンガ
 タイムスリップしたいにしえの剣豪が、刃を交える伝奇サムライマンガ。
 『美女で野獣』の作者、イダタツヒコの、デビュー当時の作品の復刻版である。人を刀に変える魔性の法・化性応身刀(けしょうおうじんとう)を振るう超人的剣士が、現代の日本に現れる。それには、ある者の陰謀が隠されていた…。
 絵は大友克洋系だが、まだまだ荒削り(ヘタ)。しかし、何だか判らないパワーと、ストーリーのディープさで、ついつい先を読み進めてしまう。この頃から、とにかく勢いがあるのは確かである。また、歴史的な薀蓄を適度に混ぜる事により、荒唐無稽なお話に変な説得力を持たせる事に成功している。
 武器に個性を持たせる(女が刀に変化する)というのは、道具に対する愛着を違った方向から描く、という意味で、何となく共感出来る部分もある。話的には未完であるが、なんとか一段落着くので、さほどのストレスも無く読み終えられる。退屈しのぎにはもってこいの作品。
 うちのカミサンは、『ガッシュ』みたいな設定だ、と言っていた。なるほど、そうかもしれない。
H190603


秘/拳/伝 キラ 原作:碧星タケル/作画:三好雄己
おすすめ度:★★★★(4点) ジャンル:古流空手マンガ
 かなりライト系な古流空手マンガ。しかし、その格闘シーンはかなりエグイ。
 南風手八神流(はおうでいやがんりゅう)という流派を中心に据え、八神雲(キラ)を主人公にお話は進む。
 内容的には、『修羅の門』の空手バージョンであり、物語的には新鮮味を感じない。しかし、琉球空手を題材にした、と言う部分で、私の興味を引いた。
 オキナワには、本部(もとぶ)流御殿手(うどんでい)という、古流空手がある。このマンガは、明らかにそれを参考にしている。琉球古流の特徴は、何よりも先ず、「人体を凶器化する」ことと「とにかく人体を壊す」事をその第一義として、鍛えに鍛え抜く。中国武術の「鉄砂掌」と並び、人体(手)をホンモノの鈍器と化す究極の流派である。
 とりあえず、南風手の技は、鍛えに鍛えぬいた手足で無いと絶対に不可能なモノばかりであり、逆に言えば、鍛えてあれば、必殺の一撃たりうる恐怖の技である。
 まあ、とりあえず、ビジュアル的に迫力があり、勢いだけで読めるので、いっといていいんじゃないでしょうか?
H180918


陸奥圓明流外伝 修羅の刻@ 著者:川原正敏
おすすめ度:★★★★☆(4.5点) ジャンル:夢想古流マンガ
 『修羅の門』の外伝ストーリー。無敗を誇る、陸奥圓明流の過去の歴史にスポットを当てた作品。記念すべき第1巻は、いきなり大上段、「宮本武蔵」編である。
 確かに、本編『修羅の門』で「宮本武蔵に勝った」と、主役の陸奥九十九に歴史を語らせてはいた。要は、その発言に対する<歴史的事実>の紹介である。
 関が原からしばらく経った時代に、陸奥の伝承者・八雲と武蔵が出会う。そんな二人の運命的対決が描かれる。格闘技界永遠の命題である「刀対無手」を、独特のこだわりで魅せる。かなり熱い内容で、読み手の(そして描き手の)入れ込み様が垣間見える、そんあ漫画である。
 初めて読んだ時には、カッコイイとまで思った「無空波」は、今読むと中国武術の「発勁」のアレンジで、しかもリアルにはあり得ない技であり、思わず失笑を禁じえないのであるが、逆に言うと、作者の、古流武術に対する果てし無き「夢、或いは妄想」が全開で炸裂しており、何だか楽しいのである。ま、ファンタジーだと思えば、腹も立たないでしょう(笑)。
 何だかんだ言っても、武術格闘技が好きなら、とにかく楽しめる作品である。難しい事は考えずに、作者の妄想世界をがっつり楽しむのが吉。

 宮本武蔵ファンには不満かも(笑)。(H180319)


はじめの一歩 著者:森川ジョージ
おすすめ度:★★★★(4点) ジャンル:ドリームボクシングマンガ
 週間少年マガジン連載の、ボクシングマンガ。
 いじめられっ子だった幕の内一歩が、鴨川ジムの鷹村、そしてボクシングに出会い、
 「『強い』ってなんだろう?」
 という問いの答えを求めて、ひたすら高みを目指す、という物語。
 『あしたのジョー』のような、ストイックなボクシングではなく、ジムの仲間と共に、時に楽しく、時に厳しく、かつ真剣に練習を積み重ねる姿を、ギャグ満載で描く。
 とりあえず、読んでいてもの凄く熱くなれる。「こんなボクシングが観たい」という、リアルさよりもノリ重視な内容。とにかく勢いで読める。
 では、ありえないほど荒唐無稽か、といえば、そうでもない。むしろ、良く取材をして、古今のボクシングの様々なパターンを描いていて、なかなかに楽しめる。フィクションと割り切れば、非常に楽しめる作品である。

 私が大学時代に、日本拳法をやっていた時は、コンビニで立ち読みをして、その回に出ていた技を練習で使う、というのが流行っていた。私は、千堂の「スマッシュ」が使いたかったのだが、後輩に先に取られたので、一歩の「ガゼルパンチ」で対抗した。ちなみに、この二種のパンチは、本当にマンガ並みに喧嘩四つでぶつかり合う。はたで見ている分には、お互いの頭がハデに後に弾けるので、さぞ面白かったことだろう。


NARUTO 著者:岸本斉史
おすすめ度:★★★★★(5点) ジャンル:忍者アクションマンガ
 『ジャンプ』に好評連載中の、忍者モノである。
 時代の節目に現れ、災いをなす九尾の狐。木の葉の里をその災厄が襲った際に、四代目火影が命を賭して九尾を封印した。その入れ物となったのが、本編の主人公・うずまきナルトである。
 九尾を封印している事を知る大人たちは、彼を怪物扱いし、忍術の下手な彼を、子供たちは落ちこぼれと言う。しかし、真の理解者、良き師、手強いライバルを得て、徐々に成長して行く。そんな話。
 所謂忍者マンガと違うところは、時代・場所を現実の世界にしなかったところで、白土三平の忍者マンガとは一線を画する。しかし、その設定はかなりしっかりしており、ストーリーも重厚である。この世界の忍術を支える「チャクラ」の概念は、一般的な<気>や<ヨーガ>の知識を上手に咀嚼しており、非常に納得が行く設定に仕上がっている。また呪文や印の用い方も巧みで、「忍者」のイメージを壊すことなく、なおかつ新しい忍者像を見事に成立させている。
 ただ、とにかくナルトがバカで、他のキャラクター達に喰われやすい。要所要所で主役たる所以を垣間見せるのだが、全てのキャラを立たせる見事なストーリー展開のため、逆にナルトの活躍が、別のキャラを引き立ててしまう事がある。ナルト本人の行動よりも、ナルトを取り囲む環境が物語を推し進めて行く。どちらかというと、ナルトは「巻き込まれ型」の主人公のようである。
 へたをすると、ナルトの先生である、はたけカカシの方が主役に見えることもある。<コピー忍者>の異名を持つカカシは、『NARUTO』の世界でもかなりのツワモノである。また、ライバルのうちはサスケ、マイト・ガイとロック・リーの激濃ゆ師弟、化け物的な大蛇丸、エロ仙人自来也様など、主役を喰える手合いがとても多い。
 『ジャンプ』にしては、かなりヘビーな内容を維持しているこの作品。多くを説明するより、まず手にとって貰いたい。

 『ジャンプ』で忍者、というと、『○空』を思い出す。『忍○』の苦い経験から、最初『NARUTO』を読む事に軽いためらいがあった。そのためらいは、結局杞憂に終わった。良かった良かった。


戦え!梁山泊 史上最強の弟子 著者:松江名俊
おすすめ度:★★★★(4点) ジャンル:武道修行マンガ(?)
 これがデビュー作らしい、松江名俊の武道モノ。
 イジメられっ子の白浜兼一が、一念発起して強くなろうと志す。しかし、たまたま見学に寄った、家から一番近い道場が、実は「その道を極めてしまった者」や「スポーツ化した武道に溶け込めない」豪傑たちが、共同生活をしている、その名も「梁山泊」という道場だった、というお話。
 現在『少年サンデー』誌上で連載されている「史上最強の弟子 ケンイチ」の元となった(「史上最強の弟子 ケンイチ」はこの作品の焼き直しマンガである)作品である。おちゃらけた色物格闘マンガのようであるが、作品の七割は修行シーンで、主人公、兼一が「強くなっていく」過程に納得がいきやすく、けっこう素直に読めてしまう。柔術・空手・ムエタイ・中国武術と、全て押さえているところは「いかにも」という感じだが、全5巻、という短さもあって、中だるみのない、隠れた良品に仕上がっている、と思う。某『マガジン』に連載されていた『破●王ノ●●カ』も似たようなものだったが、これは修行内容そのものに納得がいかなすぎて、はっきり言って早い時期に飽きた。
 作品のほんの初っ端で柔術の達人・岬越寺先生が「当たり前だ。何だかんだ言っても、まず”力”だからな」というセリフに、この作者の真面目さが垣間見られる。興味本位で買って見たが、こちらの予想を上回る読み応えで、私的にはかなりオススメの一品。


セイバーキャッツ 著者:山本貴嗣
おすすめ度:★★★★★(5点) ジャンル:SF武術アクション
 少年漫画界の異才、山本貴嗣が送る、正統派武術マンガ。「正統派」という所がミソである。
 21世紀後半、多発する凶悪犯罪に手を焼く地球連邦政府が「賞金稼ぎ」を合法化した、そんな時代。凄腕ハントレス「山猫のチカ」と惑星ウ・タン(武壇?)からやって来た宿称(スクネ)光の物語。
 近未来を設定しておきながら、武術とは「何故だ?」と思えるが、むしろ近未来だからこそ、「武術」あるいは「体術」の凄みが際立つ、という二律背反性の表現方法を採用している。
 「武術」を<お宝>と表現する作者の考え方は、ある意味共感できる。作中で、宿称光は、チカを突きの一撃で眠らせ、他の賞金稼ぎをも、素手で手玉に取る賞金首「Dの901号」に向かって、彼の体術を古流柔術、及びシュワイジャオだと喝破し、こう言う。
 「人類(ヒト)が――肉体(じぶん)の使い方(マニュアル)を失くして幾百年/きっともう、製造元(かみさま)だって持っちゃいない…」
 さらに、宿称光の体術を目の当たりにして、「それは何だ?」と詰め寄るチカに対しては、
 「地球人の『忘れもの』…さ」
と言い放つ。
 これはある意味、現代人の我々にも当てはまるのではないだろうか?
 ちなみに、宿称光の体術は、「祁氏五行通背拳」。かの常松勝氏の得意技である。
 この作品の中で、「武術のお宝」として、八卦掌が出て来る。物語のキモともなるキーワードである。これに対して、<武術研究家>の青木氏が難色を示しておられたが、高度で複雑な身体運用を必要とする八卦掌が、いわゆる「高級武術」と表現されるのは、むしろ当たり前の事だと思う。
 『セイバーキャッツ』のなかで、「今までの武術をアナログとすれば、八卦掌はデジタルだ」という表現が出て来る。武術家としては、人間の身体運用など、限界は限られているので、八卦掌と言えども所詮体術の一流派だ、という意見も分からないでもない。だが、マンガはクリエイターの仕事である。その彼にとって、他の直接的な武術と、八卦掌とが決定的に違うように見えたとしても、何の不思議があろうか。
 肉体を、日常生活とは違うレベルで用いる「武術」。これは、達人レベルの動きを見る限りでは、まさに「魔法」の領域である。
 武術、アクション系に興味のあるヒトは、まさにいっとくべき作品である。


帯をギュッとね! 著者:河合克敏
おすすめ度:★★★★★★(6点) ジャンル:学園スポ根モノ
 最近の少年マンガで、ここまで人気の出た「柔道マンガ」はないのではないか?
 それぞれの中学で柔道をしていた粉川・杉、斉藤、宮崎・三溝の五人が、浜名湖高校で同じクラスで再会をする。五人揃って柔道をしようと思ったが、この浜高には柔道部がなかった。そこで彼らは、自分達で柔道部を作ることにした―――。
 こんな始まり方をするこのマンガ、これまでの禁欲的スポ根モノとは一線を画して、主役の粉川には、イキナリ彼女がいる。硬派が売りのスポ根ぽくない、むしろ軟派な作品に見える。しかし、自身も柔道経験者であり、父親が町道場主であった作者は、意外にもストイックなまでに競技として、また武道として柔道を捉えていた。だから、作品のテイストは、明るい学園モノのノリなのだが、こと柔道の表現は、基礎練習から、実際の試合場面に至るまで、かなりリアルに描かれている。
 なによりもこの作品が優れている点は、「辛い練習も楽しくこなす」事が、強さと柔軟性をより引き出せる、と定義して、主人公達にそれを実践させているところだろう。作中にある「『これだけやったから』といって良い結果を期待するのは、勝手な甘えだ」という言葉は、かなり重い。
 そして、主役クラスが次々と新しい技を覚えて”いかない”という点も、優れた作品たるゆえんだと思う。浜高コーチの倉田典善は、主人公達に「ひとつの技を磨け」と諭す。どんな技でもホイホイと使いこなすのは、スーパーマンみたいなインチキくさい主人公ぐらいである。彼らは地道に努力をして、得意な技を決めるために、技を磨き抜いていく。
 とまあ、かなり硬い紹介をしてみたが、実際はギャグ7割の学園ラブコメ(?)である。たとえ柔道を知らなくても、十二分に楽しめる。これを読まない手はない。胤舜のバイブル的存在である。まあ、読んで損はさせない。とにかく行っとけ。


拳児 著者:藤原芳秀・松田隆智
おすすめ度:★★★★★★★(7点) ジャンル:武術・格闘
 良くも悪くも日本の中国武術界の流れを決定付けた、エポックメーキング的作品。松田隆智の『謎の拳法を求めて』の漫画化だと思えばよい。この本に取り上げられた武術は、いまだに人気が高い。
  八極拳、形意拳、陳式太極拳、八卦掌、心意六合拳、
  翻子拳、少林拳(心意把)、秘宗拳、蟷螂拳、劈掛拳、
  洪家拳、大東流合気柔術、…

 それまで出ていた武術・格闘技ものの漫画などにはあまりなかった、伝統武術の紹介(歴史・練習法・用法・過去の達人のエピソードなど)は、私を含む大勢の興味を誘った。
 今でこそ、様々な情報が氾濫しているが、昔は『拳児』こそが情報発信元だったと言ってもよいと思う。
 あらためて読み直してみると、原作者・松田隆智の情報の偏りによる内容の偏り(八極拳の拳児が、あからさまな翻子拳の構え・李書文サイコー・宗家―孟村呉氏が登場しない・台湾系の武術家からの情報中心の考え方・南拳が悪役など)があるが、それはある意味仕方ないか。密度の濃い内容だったのは、紛れもない事実。中国武術版『空手バカ一代』といった存在か。
 『拳児』の主人公、剛拳児くんの最大の欠点は、「習った事をすぐ忘れる」ということだった。他の事はけっこうすぐ身に着くのに、「化勁」だけは何回教わっても、まるで初めて教わったかのような反応をしていた。拳児、早く覚えろ!(笑)。
 興味を持ったなら、ぜひ。