攻殻機動隊 著者:士郎正宗
おすすめ度:★★★★★★★★(8点) ジャンル:サイバーパンクポリスアクション
 『アップルシード』と人気を二分する、士郎正宗の根幹を成すメジャー作品。
 1991年に発表された作品なので、現実のインターネット構築はまだまだ未成熟であった。そんな時代に、「ネット」という存在がここまで重要視される世界観を作り出すとは、士郎正宗、恐るべし。
 「義体」と「生体によるネット」が一般化しつつある近未来における、攻勢の警察機関「公安九課」を舞台にした物語。主人公の草薙素子(脳幹以外完全義体化)の電脳・義体化におけるアイデンティティ模索が主軸(か?)。

 「私時々『自分は/もう死んじゃってて/今の私は義体と/電脳で構成された/模擬人格はんじゃ/ないか?』って/思うことあるわ」
 「(「でもちゃんと/脳ミソとか/ついてるし/人間扱いされ/てるしィ」に答えて)脳ミソ 自分で/見たわけじゃ/ないのに?/周囲の状況で/そうだと/判断してるに/すぎないのに?」
 「ある日突然/メーカーが/来てさ/『不良品の回収/ですぅ』とか言って/分解回収されて/残ったのが脳細胞/2〜3コだったら/どうする?」
    ・・・・・    『攻殻機動隊』P104より

 長い引用だが、この台詞、理系の目から見た「唯識」理論そのものである。どうやら、士郎正宗は、東洋哲学思想を、全て理系的表現に置き換えて理解しようとしているフシがある。
 しかしここで、士郎正宗流の大発明がある。

ゴースト(GHOST)

の存在である。ヒトと、ヒトでないもの(ロボット)を分ける基準、それがゴーストである。<魂>とでも解釈したら良いか。
 しかし、士郎はさらに仕掛けを講じている。それが、「人形使い」の存在である。彼は、
 「私はネットの海から生まれた生命体(ゴースト)である」
と宣言する。
 あとは、とりあえず読んで。損はないよ。ついでに、劇場版アニメ『攻殻機動隊』もいっといたら、理解しやすいかも。
 ただ、アニメは少々問題あり。これは、そっちで言及する。

 とりあえず、読んでもらえば、素子の最後の台詞「ネットは広大だわ・・・・・・」が、きっちりと理解出来るだろう。


ルパン三世 著者:モンキーパンチ
おすすめ度:★★★★★★(6点) ジャンル:クールタッチなマンガ(?)
 ある日、N●Kで再放送分の『プロジ●クトX』にて、「霧の岬 命の診療所」を放映していた。
 昭和28年、北海道の小さな漁村、霧多布に妻と共にやって来た内科医、道下俊一氏のお話。その番組の中で、先生を助けて働くレントゲン撮影助手、加藤一彦がいた。加藤は、マンガを描くのが好きで、いつかマンガ描きになりたいと思っていた。そして、その夢を叶える為、上京する。
 いやー、まさかその加藤が『ルパン三世』の作者、モンキーパンチ氏だとは、夢にも思いませんでしたよ。
 と、いうわけで、『ルパン三世』なのである。
 とりあえず、ルパンはアニメから入った。アニメは、その媒体上の制約から、ある程度表現に規制がかかる。なので、初めて原作を読んだ時には、ちょっと驚いた。特に、高校生くらいの時に読んだので、理解出来ない部分が結構あった。今読み返してみて、なんとパワフルな作品なのだろう、といたく感心した。1970年頃の混沌としたエロ・グロでサイケデリックなパワーが作品全体に漲っていて、今現在の感性で読んでも、充分通用する内容である。
 この作品を端的に表現する言葉が、実はアニメ『ルパン三世(旧)』のパイロットフィルムで語られている。
「クールタッチのゲバルト。天才的アクションに生きる男。そのパワースケールが、世のゴキブリ野郎どもをダメージする。」
 かっこいいー!最近描かれているルパンより、何倍もクールでイケてる。とりあえずいっとこうか?


海竜祭の夜―妖怪ハンター― 著者:諸星大二郎
おすすめ度:★★★★★★(6点) ジャンル:妖怪ミステリー
 掲載される雑誌をことごとく廃刊に追いやる(?)『西遊妖猿伝』の作者・諸星大二郎の得意分野その1=民俗学ミステリーマンガ。氏の作品、中国妖怪モノも非常に好きなのだが、この「妖怪ハンター」シリーズは、現代日本が舞台であることが、その面白さに拍車をかけている、と言っていいだろう。
 表題作の「海竜祭の夜」は平家の怨霊、そして私の一番のお気に入り「黒い探究者」は水蛭子(ヒルコ)―黄泉比良坂―を題材としている。『ムー』的世界観なのだが、主人公・稗田礼二郎の淡々とした雰囲気がいいのだろうか?結構荒唐無稽な内容なのだが、あまり鼻に付かない。事件を検証するために用いる資料の選択がうまい所為か、なんとなく納得してしまうのである。
 民話・伝承の類をお話化するに当たって、そのおおもとになる古文献を引用する事がどれほど難しいか。そこをクリヤーしているからこそ、この作品は面白く、説得力があるのだろう。
 その代わり、筆は遅い。15年の間に描いた妖怪ハンター作品は10本。完成度と執筆速度は反比例する、というこの上ない良い見本である。まあ、その分お話のクオリティはもの凄く高い。読んで損は無い逸品。
 ちなみに『妖怪ハンターヒルコ』というタイトルで、ビデオ映画化されている。主演は沢田研二。彼の稗田役は、ルックスは結構イメージ通りであった。


MASTER キートン 著者:勝鹿北星・浦沢直樹
おすすめ度:★★★★★(5点) ジャンル:アクション?
 こういうマンガは、どういうジャンルに分類すればいいか、よく分からない。しかし、非常にお気に入りの作品ではある。
 以前より『パイナップル アーミー』を読み、浦沢作品は気になっていた。ただ、『YAWARA』は、柔道以外はフツーのラブコメだったので、そんなに気を入れては読んでいなかった。
 『MASTER キートン』は、題材選びが興味深い。ロイズ、ドナウ文明、S.A.S、などに始まり、世界各国の古代文明や、故事説話に秘められた歴史の発掘など、知的な謎解きゲームにはいちいち唸らされる。
 そこに絡めるアクションシーンにも、それほど無理がない。危険に首を突っ込むのも、ロイズの調査員で説明がつく。危険を乗り越えられるのは、元S.A.Sのエリートだった、と言う事で説明がつく。
 都合のいい設定だ、と思えなくもないが、そこはキートンさんのキャラクターのよさが打ち消している。大活躍のキートンさんだが、実は一人前の考古学者になって、自説を証明出来得るだけの発掘をしたい、と常に願っている。そんな彼の姿に、日常に流されつつも、夢を持ち続けていたい、と願う私たち自身の姿を投影しているのかも知れない。
 この本を読むと、なにかと調べ物をしたくなる。お話の中の説が本当かどうか、確かめたくなるのである。その衝動は、とても楽しく、ありがたいと思っている。知的好奇心が刺激されるマンガというのも、珍しい。
 読んでおくべきでしょう。