2003年に読んだ本


奥志摩の海を死体が泳ぐ  奥志摩の海を死体が泳ぐ 辻 真先:徳間文庫:\466:1994年9月15日初刷
 2003年12月15日読了

 ワタシはこの作品の舞台である三重県の奥志摩地方に行ったことがないので地理勘は全くないのであるが、そんな人向けにはちょっとした観光案内まで兼ねてしまうのが著者のトラベルミステリーである。今回の探偵役は『十和田湖畔に死体が踊る』以来のフリーライター夢瀬鬼人。もちろん辻作品のことであるから伊奈川莢という元気のいい恋人がくっついている。鬼人の出身地である奥志摩・浜島町での、かつての鬼人の仲間うちのヒロインだった女性の死を巡る謎解きが、美しい風景をバックに繰り広げられる。さすがトラベルミステリーの第一人者の作品、地理勘のないワタシでもそこに行った気にさせられるような風景描写が見事である。

元寇  元寇 伴野 朗:講談社文庫:\932:1996年9月15日第1刷
 2003年12月1日読了

 「元寇」という出来事は、鎌倉時代の1274年(文永11年)10月と1281年(弘安4年)7月、当時中国大陸にあった「元」という国による二度に渡る日本侵攻のことである。それぞれ『文永の役』『弘安の役』と名付けられ、対馬、壱岐、そして現在の博多から伊万里に至る一帯で壮絶な合戦が繰り広げられた後、2度の役の双方ともいわゆる“神風”と称される暴風雨により海上の元軍が壊滅したことでかろうじて侵略されずに済んだということは、日本史の授業で必ず習う事柄である。しかし、何故侵略されなければならなかったのか、という肝心のことを日本史の授業で習ったかどうか、ワタシは記憶にない。しかしこれは恐らく日本が初めて他の国から仕掛けられた侵略戦争であらう。この2度の戦争に至る経緯は果たしていかなるものだったのか、この戦争は本当に避けられなかったのか、日本史の授業ではそんな突っ込んだ事は決して教えてはくれない。
 そこでこの本、中国を舞台にした小説が得意な著者が“侵略者”元の立場から元寇を描いたのが本書である。もちろん小説であるからエンターテイメント性も十二分に持っていて、大陸を舞台にした虚実入り交じった冒険小説として存分に楽しめる。しかしそれだけではなく、当時の日本を外側から眺めることが出来るので、当時の実力者である執権・北条時宗や取り巻きの国際感覚の欠如ぶりが実に歯がゆく思えるのである。親書の文言に問題がなくはないとはいえ、きちんと正式な使節を立てて交渉を行おうとした元に対する日本の対応は実に幼稚で、あんな扱いを受ければ元の世祖フビライでなくても日本を懲らしめてやりたくなるのは当然と思える。しかしこの感じ、今も続いているような気がしないでもないのは何故なのだらう?(-_-;)

夢の山岳鉄道  夢の山岳鉄道 宮脇 俊三:新潮文庫:\427:1995年10月1日発行
 2003年10月28日読了

 クルマは排気ガスを出す。上り坂ならアクセルを吹かすのでより多くの排気ガスを出す。山道というのは坂道であるので、上るクルマはたくさんの排気ガスを撒き散らしながら走っているわけである。また対面通行が出来ないと不便極まりないので、道幅はどうしても広くなる。一方鉄道、特に電車はどうか。排気ガスは出さない。また駅や信号所ですれ違えるような施設を作ればあとは単線でも運行可能であるため、道路ほど広い路盤は必要としない。そのうえ1編成で1台のクルマ(もちろんバスも含む)よりたくさんの人を運ぶことが出来る。登坂能力はクルマに劣るがこれはラックレールを使うことで補える。
 ということで、言わずと知れた鉄道マニアである著者は、観光用の山岳道路を取り払って跡地に鉄道を敷こう!と訴えるのである。なるほど行き止まりが多い観光道路は日々の生活とは無縁のことが多いので、道路をなくしても沿道の住民が困るということはない。排気ガスが出ないので山の空気はより澄み渡り、渋滞のイライラからも解放された観光客はその地をより楽しむことができるであらう。これは名案だとワタシも思う。
 まぁ現実にはクルマ社会である今となってはほとんど実現不可能であらう。この本が書かれた1992年の時点では実際に地元の役場や企業が実現に向け計画を進めていた路線も収録されてはいるのだが、10年以上たった今でも開通したというニュースは聞かない。でもパーク&ライド方式であってもよいので、どこか1路線くらい出来てくれないかなぁと思う。なにしろ鉄道なら自分が運転しなくてもいいではないか。運転していると沿道の景色を楽しめないのであるよ。(-_-;)

レッドテイル・ホークを奪還せよ(下) レッドテイル・ホークを奪還せよ(上)  レッドテイル・ホークを奪還せよ(上)(下) デイル・ブラウン/訳・伏見 威蕃:ハヤカワ文庫:\800(上・下とも):1998年8月15日発行(上・下とも)
 2003年10月18日読了

 『ロシアの核』以来、実に3年振りにデイル・ブラウン作品を読む。本書はデビュー作『オールド・ドッグ出撃せよ』(ハヤカワ文庫)の続編という位置づけで、『オールド〜』のラストで敵地(=ソ連)に取り残されて死んだハズの乗員が、ソ連解体後のリトアニアで生きていたという情報を得たことから始まる救出劇に、ベラルーシによるリトアニア侵攻を絡めた物語である。本書ではオールド・ドッグすなわちEB-52メガフォートレスは脇役で、クライマックスにようやく出てくるだけである。また全般的に航空機がブンブン飛び回るというより、敵地に潜入する海兵隊特殊部隊の活動がメインで描かれていて、元航空機搭乗員が書いた作品にしてはちょっと異色である。なので航空機がブンブン飛び回る物語を期待している向き(ワタシ含む(^◇^;))にはちょっと肩すかしを喰らった感じではあるが、それでもさすがは元軍人、地上を這い回る特殊部隊の描写も真に迫っている。恐らく著者は空軍時代もしくは取材で実際にそのような訓練を受けたのであらう。戦火のリトアニア上空でのクライマックスにもうちょっと分量を割いて欲しかった気もするが、“してやったり”なラストがけっこう痛快なのでまぁ良しとす的。ちなみに巻末の「解説」は航空小説でお馴染みの鳴海章氏である。

行くぞ!冷麺探検隊  行くぞ!冷麺探検隊 東海林 さだお:文春文庫:\448:1999年1月10日第1刷
 2003年9月22日読了

 自分で驚いたのであるがこれが今年最初のショージ君である。今回はいつものエッセイとはちょっと題材が違って、旅行記がメインである。しかもハワイだアフリカだと海外にまで出てしまうのである。しかしどこに行こうと著者の鋭い観察眼は健在である。そして“食”に関しての関心もいつものように高く鋭い。著者初のアフリカでさえも、ライオンの食事について鋭い考察を加えている。しかしワタシ的には『小樽の夜』がお気に入り。フツーの感覚の人なら“できれば遠慮したい”という寿司屋のハシゴをし、その後フツーの感覚の男ならあまり行かないであらうバーに行って慰めてもらおう、というのが楽しい。自分はやりたくないけれど(笑)。

海軍航空隊、発進  海軍航空隊、発進 源田 實:文春文庫:\476:1997年8月10日第1刷
 2003年9月16日読了

 やはり今年の夏はへんてこりんな気候で、東京地方では9月になってから8月の気候になった(笑)。“暑い夏”に読むと決めている戦争物は先にフィクションを読んだのだが、やはりノンフィクションも必要だろうと読んだのが本書。著者はワタシのような趣味でこの人の名を知らない人はモグリだと言われるくらい(と今ワタシが勝手に決めた(爆))有名な人物。旧日本海軍の航空参謀として真珠湾攻撃などに参加、かの有名な松山の紫電改部隊、第343航空隊の司令として海軍大佐で敗戦を迎え(将官になっていなかったのはちょっと意外だったり(^◇^;))、戦後は発足したばかりの航空自衛隊に入隊して空将となり(ここで将官になったのね(^◇^;))航空幕僚長を歴任、さらには参議院議員に転身したのち1989年に享年84歳でお亡くなりになったわけである。なんだか著者略歴が長くなってしまったが(爆)、要するに日本の旧海軍から航空自衛隊に至る航空畑を一筋に歩んで来られた方なのである。
 本書は、本書より先に文春文庫で刊行された『海軍航空隊始末記』(原題は『海軍航空隊始末記 戦闘篇』で1962年に文藝春秋新社から刊行)の前編にあたるもので、文庫の刊行順が逆になったのでこちらから先に読み始めたものである。ちなみに本書の原題は『海軍航空隊始末記 発進篇』で1961年に刊行されたものである。海軍航空の揺籃期から零戦登場前夜までの海軍航空隊の発達とその奮闘振りを、共に育ったと言ってもいい著者の目で綴った本書は、零戦登場後のあまた語られる戦記には決して登場しないような飛行機がわらわらと出てきてなかなか興味深い。また巻末の「解説」では航空評論家の秋本實氏が本書に登場する主な飛行機を解説しているが、この部分だけで海軍航空隊が創設期から装備してきた飛行機の要覧としても読めるくらいのボリュームで、この時代の飛行機に疎いワタシには有り難かった。旧日本海軍の航空に関心のある方は必読であらう。(^o^)

北極海へ  北極海へ 野田 知佑:文春文庫:\437:1995年11月10日第1刷
 2003年8月30日読了

 今年の夏はなんだかへんてこりんな気候で、日本気象協会によれば10年振りの冷夏だったそうな。それでも8月も21日からあとはかなり暑かったので、そんな時に野田氏の本はまさに涼しさを運んでくれるのである。本書の舞台はカナダ北部のグレートスレーブ湖に端を発し北極海に注ぐ全長1,700kmのマッケンジー川。漕いでいると腹立たしくなってくるという日本の川と違い(去年の夏に読んだ『川からの眺め』をご参照あれ)、ここでは自らの存在は唯一絶対であり、幸福も不幸も自分が決めるのである。そうして3ヶ月以上もかかる漕行の間、所々の集落で出会うインディアンやイヌイットたちと交流をしつつ、自分の持てる力を大いに奮って全身全霊を挙げて“生きる”のである。なんとはなしに、日々“生かされている”と感じることすらある、都会で生きるワタシとは正反対の生き方を、ワタシは心底ウラヤマシイと思ってしまうのであった。

イベリアの雷鳴  イベリアの雷鳴 逢坂 剛:講談社文庫:\952:2002年6月15日第1刷発行
 2003年8月24日読了

 毎年8月には戦争物を読むことにしているのだが、今年は目先を変えてフィクションにした。ワタシ的には、直木賞、日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会賞をトリプル受賞した『カディスの赤い星』(講談社文庫)以来の逢坂剛作品である。タイトルで判る通り本書は『カディス〜』と同じく著者が得意とするスペインが舞台。時代は内戦の末にフランコ総統が政権を取った第二次大戦開戦前後。不安定な政情の元、第二次大戦の帰趨を握るジブラルタルを巡る日英独の諜報戦が熾烈を極めるマドリードに現れた主人公、ペルー国籍の日本人宝石商・北都昭平が歴史の大波に翻弄されていく姿を、フランコ総統暗殺を企てる一派の活動も絡めて描いている。
 ワタシはこの時代のスペインについてはまったく無知だったので(フランコの名前くらいは知っていたが)、登場人物によって交わされるスペインの立場から見た第二次大戦の趨勢や、描かれるマドリードのたたずまいが実に新鮮だった。ちょっと曖昧な感じのエンディングは続編を期待させるので、早く読みたいものである(まだ出てないと思う(^◇^;))。
 ところで、この手のヨーロッパを舞台にした物語は米欧の作家によって書かれたものが多く、そういう作品は当然翻訳で読むことになるのだが、やはり違う言語を日本語に直すとどうしても直感で判りにくい部分があるのは仕方のないところである。ところが、同じカタカナの名前が多数出てくる作品でも日本人作家によって書かれた本書はやはり読みやすかった。

あやしい探検隊 アフリカ乱入  あやしい探検隊 アフリカ乱入 椎名 誠:角川文庫:\505:1996年7月25日初版発行
 2003年7月26日読了

 『わしらは怪しい探検隊』(角川文庫)に始まる「あやしい探検隊」シリーズも5冊目にしてついに海外進出である。ケニアに上陸したシーナを初めとする一行はナイロビ近郊のサバンナで動物たちを眺め、決死の覚悟でマサイを隠し撮り、宴会をしつつキリマンジャロに向かい山頂で紅茶を飲みつつ一服しふたたび宴会をしつつ戻り、パスポートを盗られた仲間をナイロビに置き去りにしてモンパサの海岸でパシャパシャ波と戯れるのである。ワタシが最初に読んだ椎名誠の本がその『わしらは怪しい探検隊』だったので、なんか原点に返ったみたいな感じがしたものだった。(^o^)

トム・クランシーの戦闘航空団解剖  トム・クランシーの戦闘航空団解剖 トム・クランシー/訳・平賀 秀明:新潮文庫:\781:1997年9月1日発行
 2003年7月7日読了

 『トム・クランシーの原潜解剖』(新潮文庫)に続く「がんばれ!アメリカ軍」シリーズ第2弾。今度は空軍なのでワタシの得意分野である。第一次湾岸戦争後の1990年代初頭に行われた、アメリカ空軍のドラスティックな改革の末誕生した混成航空団、アイダホ州マウンテンホーム空軍基地をベースとする第366航空団(366th WING)を題材に、世界の警察官たらんとするアメリカの力を世界の紛争地域でいかに誇示するか、を判りやすく解説してくれる。と書くのはあまりに皮相的か(笑)。本書のための取材は1994年に行われているので、その後の9年間で大きく変わってしまった部分もあるが、366th WINGは現在も機能しておりその有用性は変化していない。今日のアメリカ空軍の最前線の一面を知る上で恰好の本である。興味のない方にはまったく役に立たない本ではあるが。(^◇^;)

クスリ通  クスリ通 唐沢 俊一:幻冬舎文庫:\495:2003年2月15日初版発行
 2003年4月30日読了

 近年の著者は「と学会」のほうで有名であるが、本書はその方面とは関係ない。本書は生家が薬局であるが故、クスリに囲まれて育った著者が古今東西クスリのあれこれを語ったエッセイ集である。徳間書店から1990年に出た著者の初単行本『ようこそ、カラサワ薬局へ』(ハヤカワ文庫からは『薬局通』のタイトルで出ている)の続編といった位置づけで、某薬問屋の広報誌に連載されていたため著者独特の“毒”は薄いが、その分わかりやすい内容になっている(笑)。
 クスリに関するエッセイなんてそうそうないので、『薬局通』に続いて実に興味深く読むことができた。もっとも役に立つか、といえばそうとも言えないようなところが著者らしくていい。肩の凝らないクスリの本、という感じであらうか。ちなみに漫画家の唐沢なをき氏は著者の弟である。

マン・マシンの昭和伝説(下) マン・マシンの昭和伝説(上)  マン・マシンの昭和伝説 (上)(下)航空機から自動車へ 前間 孝則:講談社文庫:\874(上・下とも):1996年2月15日第1刷発行(上・下とも)
 2003年4月14日読了

 読み終えるのに2ヶ月半もかかってしまった。なんたって上下巻とも700ページを越える大作である。しかし読み終えてみれば、これだけの内容をよくぞこの分量で納めたものだと感心してしまうくらい、濃い内容であった。
 先の大戦前から大戦中にかけて、おおよそ機械モノはほとんど全てアメリカに立ち後れていた日本において、唯一アメリカに対抗し得た航空機産業。敗戦後に翼をもがれた技術者たちの落ち着いた先は自動車産業であった。現在世界をリードする自動車生産国となった日本であるが、もし戦争に勝っていたらどうなっていただらう、と思わないでもないくらい、戦後の自動車産業は元航空技術者たちが引っ張ってきたのだった。
 また、本書は戦前からある、あるいは戦後になって設立された自動車会社の栄枯盛衰も物語っている。さらに敗戦により航空機の生産を禁じられた航空機メーカー、特に軍用機の生産に特化していた中島飛行機が戦後どのように解体され、その血筋はどこにどうやって受け継がれていったか、ということも時系列で追うことができるのは飛行機マニア的には興味深いところであった。飛行機と自動車と、どちらにも興味のあるワタシ的には、この長編中どこにも退屈するところのない、実に楽しい作品であった。
 余談だが、今や伝説の人となっている本田宗一郎が、晩年はどうしようもない頑固ジジイで周囲を困らせていたというのは意外でもあり、さもありなんとも思った次第であった。(^◇^;)

TOKYO死街戦  TOKYO死街戦 辻 真先:ケイブンシャ文庫:\505:1994年6月15日第1刷
 2003年2月1日読了

 主人公別にシリーズが出来ている著者の作品群であるが、本書はマンガ家大日向陽が主人公のものである。前作『「亡霊荘」の殺陣』でようやく恋人が出来た陽であったが、その恋人がとあるテーマパークで失踪してしまったので助けに行くわけである。行った先は時代がごちゃごちゃならいる人間も実在架空入り乱れているという、わけのわからない“もうひとつの東京”。ということで本書はミステリーではなく冒険活劇である。ご都合主義てんこ盛りの大冒険を楽しもうというわけなのだ(笑)。やはり内容が重い本のあとはこういうのでなくちゃ。(^o^)

ヤミ金融の手口  ヤミ金融の手口 別冊宝島編集部・編:宝島社文庫:\600:2003年1月7日第1刷発行
 2003年1月24日読了

 このところ、夕方のニュース番組の特集などでよく取り上げられている『ヤミ金融(ヤミ金)』。今日(1月25日)も某暴力団系のヤミ金が警察に摘発されていた。長引く不況で増える「多重債務者問題」をテーマに、ヤミ金を巡るあれこれを「貸す側」と「貸された側(=被害者)」双方から明らかにしたのが本書である。本来貸すべきトコロ(=銀行などの金融機関)がきちんとその役割を果たしていない、というのが一番の問題であり、また借金の利息について規定している法律には『利息制限法』(年率15.0%まで、違反しても罰則無し)と『出資法』(年率30.0%まで、違反すると刑事罰あり)の二つがある、というのが次に大きな問題である、ということがよくわかってくる。そしてこういったヤミ金で困らないようにするには、ただひたすら安易な借金(昨今の『キャッシング』などという言葉がまたよくないのだ)をしないこと、もし借金で二進も三進もいかなくなったら、悪あがきはせず余力のあるウチに弁護士や司法書士に相談して自己破産するなりしてしまうこと、それしかないようである。おおくわばらくわばら。{{(>_<)}}ブルブル

アトランティスを発見せよ(下) アトランティスを発見せよ(上)  アトランティスを発見せよ(上)(下) クライブ・カッスラー/訳・中山 善之:新潮文庫:\705(上・下とも):2001年11月1日発行(上・下とも)
 2003年1月21日読了

 しかしまぁ、もはやこのダーク・ピットとアル・ジョルディーノのコンビを止めるヤツはこの地球上に存在しないのであらうか。とも思えるほど今回の二人の暴れ様は凄まじいものである。ついにアメリカ陸軍、海軍、海兵隊が誇る特殊部隊をも上回る活躍振りを見せつけたのだから。ダーク・ピットシリーズも早15作目、今回の相手はナチの子孫であるというアルゼンチンの大富豪。しかし毎回毎回敵役のやることがいちいち地球を破滅させそうなスケールのでかいことばかりで、この構想を考える作者もさぞや大変なのでは?などと考えるのは余計なお世話だらう。なぜなら今回も作者自らが作中にチラリと登場したりして楽しんでいるのだから。なので読者もまた、ピットとジョルディーノと共に真っ白な南極の氷原に立って冒険を楽しむのが一番なのである。(^o^)

古代史を彩った人々  古代史を彩った人々 豊田 有恒:講談社文庫:\408:1993年3月15日第1刷発行
 2003年1月4日読了

 本書はSF作家にして日本古代史に精通している著者が1979年から1989年に『歴史と旅』『歴史の群像』といった歴史雑誌に執筆した、日本の古代史に名を残した人々の人物評伝である。取り上げられているのは、神武天皇、蘇我入鹿、坂上田村麻呂、空海といった割とポピュラーな人物だけでなく、穴穂部王子、金痩信【キムユシン】(真ん中の文字はホントは「やまいだれ」ではなく「まだれ」)、高岳親王といった初めて名前を聞くような人物も取り上げられている。「学者の数だけ学説がある」と言われるくらい、日本古代史というのはよくわからない世界なのだが、SF作家ならではの平易な文章で判りやすく解説してくれる本書は日本古代史入門としては恰好の書であらう。例えば、坂上田村麻呂など学校の授業では単に『蝦夷地を平定した』くらいしか教わらないが、その武人としての生い立ちや、ヒーローとしての田村麻呂に対するライバルである蝦夷の大酋長アテルイとの戦い、そして田村麻呂の容貌が「蒼鷹の眼の色をして金色の髭をたくわえる」すなわちブラウンの眼にブロンドの髪と文献に書かれていることなど、学校では決して教えてはくれない。もっとも、こういうのは言ってしまえば授業中に先生が脱線して話すような話ではあるが(爆)、えてしてそういうのがけっこう面白いのである。日本古代史にちょっとでも興味がある方にはお薦め。