マンションはいらない

「私、ライオンズマンションの○○と申しますが」
「いえ、結構です」
「まだ何も言ってないじゃないですか」

のっけから漫才のような会話で始まってしまいましたが、久々に自宅の電話が鳴ったと思ったら、これです。知人はみな携帯に電話をかけてくるので、部屋に常設してある電話が鳴るのは、謎の中出さん宛の間違い電話か勧誘しかありません。

「マンションをご購入するご予定はありませんか?」

ほら。

「ないですねぇ。話を聞くつもりもないですねえ」
「実はこのたび新しいローン制度が完成しましてね」

ない、と言ってるのに何を口走ってるんですかこの人は。

「月々5万円のローンでマンションが買えますので、アパートの家賃と変わりませんよ」
「うちはアパートのオーナーやってるんで、家賃は払ってませんし」

営業さんは、大家なら家賃を払わなくていいだろうとか、儲かるだろうとか、散々褒めちぎってきます。確かに家賃は払いませんが、その代わり一室分の収入が減るので、結局は家賃を払っているのと変わりません。

つまり、おだてになっていません。

「最近のマンション見たことあります? アパートとは全然違いますよ」

そりゃ違うでしょう。同じなら呼び分ける必要もありません。

「アパートってせいぜい2、3階建て程度でしょ? マンションはもっと階数が多いんですよ」

貴方は僕をバカにしてるんですか。

「アパート経営の参考にもなるんじゃないですか。とにかく一度見に来てくださいよ」
「アパートとマンションって全く違うんでしょー? そんなの見て何を参考にしろって言うんですか」

違うから参考にならないとは思いませんが、断る口実として相手の言葉を引用しました。自分の言葉を引用して言い返されるというのは、あまり気分のいいものではありません。別の言葉で揚げ足とも言います。

「いえいえ、そんなことはありませんよ。よく似てます」
「さっき、マンションとアパートは全く違うって言うてませんでしたっけ?」
「いやですねぇ。全くなんて、そんなこと一言も言ってませんよ~」

確かに言いました。ツッコミどころを確認しながら応対してるんだから、聞き違えるはずがありません。

「基盤作りで杭の数とか違うかも知れませんが、室内は…アパートと…うん、よく似てるんじゃ…ないでしょうかねぇ」

これ以上揚げ足をとられない為でしょうか、言葉の端々に間が増えてきました。もの凄く警戒しながら喋ってるようです。僕はそろそろ潮時かなと思ったので、電話を切ろうとしました。

「言うてることがさっきと違いますね。信用の出来ない営業さんの話なんて聞く気ありませんので」
「ちょっと待ってください。信用出来ないなんて言われたの、私は初めてですよ! 心外ですね!」

なんだかよくわからないけど怒ってます。僕は耳から離しかけていた受話器を、再び持ち直しました。

「そやかて、言うてることが違うんじゃ信用出来ないでしょ」
「じゃあ営業の仕方を教えてくださいよ。私バカなんでわからないんですよ」
素人に教えを請わなアカンほど、営業の知識がないんですか?」

営業さんは話題を自分の分野に持っていって優位に立とうとしたようですが、無駄に終わりました。あまりにも無惨です。しばらく口論が続いた後、営業さんは捨て台詞を残して一方的に電話を切ってしまいました。

電話での勧誘ではよくあることなんですが、相手の顔が見えない分、気が大きくなるヒトが多い様に思います。僕は最初から「いらない」とハッキリ意思表示しているのに、しつこく食い下がった挙げ句に逆ギレされても困ってしまいます。

それから数ヶ月後、同じマンションからまた勧誘の電話がかかってきました。わざわざ「以前にもお電話させていただいているようなんですが…」と切り出すあたり、ちょっとした要注意人物扱いになってるのかもしれません。