我が家の食卓

家庭料理と呼ばれる味があります。同じ料理でも、家庭ごとに違った味付けがあり、親から子へと受け継がれていきます。当然ながら、以前は我が家にも伝統の味がありました。しかし、ある男の出現によって、この伝統は破られました。

親父です。

親父が料理を作るようになった時から、我が家の食卓は戦場と化しました。

つい最近も、狂牛病問題が出てから家の食卓から牛肉が完全に消えましたが、安全宣言がでた直後に、ずっと冷凍庫で眠っていた牛肉が調理されてでてきました。

常識を凌駕した我が家の味付けは、スパゲティに集約されます。

ミートソースだと言っては、パスタの上に焼く前のハンバーグを乗せて僕の前に出してきます。

とろみを付ける方法を思いつかないからミンチになるんだそうです。

「いくらとろみを付けたいからって、かたくり粉なんて使ったりせんといてや」
「さっき入れようとしてたで」
「………」

とまあこんな具合に、釘を刺さないと何がでてくるかわからない、ハラハラドキドキする食事を毎日摂っています。

そして極めつけはイタリアンスパゲティです。ナポリタンだろうとツッコミを入れられましたが、ウチでは昔からイタリアンと呼んでいます。

あの赤っぽい色をした、日本で発明された和食なのにイタリアンと呼ばれる謎の料理です。しかし我が家のイタリアンスパゲティは何故か黒い。

それもそのはず、なんと焼きそばソースで味付けされているのです。茹でた焼きそばのような摩訶不思議な味がします。初めて親父の作ったイタリアンを見たときは、気が遠くなりました。

僕が、何度、イタリアンスパゲティにはトマトソースを使うんだ、と言っても聞き入れません。どこで得た知識なのか知りませんが、親父は頑なに「ソース味」を守り通していました。

僕が文句を言ったとき、親父が決まって言い返す言葉が「プロの店ではこんな味」です。僕は親父が外食している姿を見たことがありませし、レストランでイタリアンスパゲティを頼んだら茹でた焼きそばが出てきたなんてことは一度もありません。

中国編を読んだ方ならおわかりでしょうが、親父はかなりの味覚音痴ではないかと思います。どなたか、親父に「本物の味」を理解させる方法を教えてください。