お絵かきワークショップ第三弾
あんな素材、こんな素材──廃材からひゃっきんまで
「触覚絵本」に挑戦




2004年2月29日(日)
場所 山科身体障害者福祉会館
参加者数
視覚障害者4名
晴眼者(サポーター・世話係など)7名
講師 光島貴之氏

---光島貴之報告---
ぼくの担当するワークショップも3回目となった。
過去2回は、立体コピー・ラインテープ・カッティングシートなど、いつもぼくが使 っている画材を参加者に試してもらった。
今回は、いつもぼくが見える人を対象にやってきた「触覚絵本づくり」を、視覚障害の人に試してもらうことにした。
材料写真 厚手のケント紙で作ったA4、10ページの台紙(蛇腹状に折りたたんだもの)を使って、いろんな手触りの紙や布・毛糸を貼り合わせて1冊の触ってわかる絵本を作ろうという試みだった。
さらにひとひねりして、「ひゃっきん」に売られているもので、画材として使えそうなものを、アクセス・ビューのメンバーに買い求めてもらった。
なんといろんなものが、百円で売られていることか。それらを触っているだけでも楽 しくなった。

■まずは、表紙作り。
ラインテープで手を描いてもらうことにした。
いつも手にしているものを、持ち物から選んでもらい、それを持っている手の形を描いてもらった。ただし、持っているものは描かず、手の形だけを写生してもらうという難解な課題だ。
サポーターの人は、その手のかたちをまねて、保持してもらう。
それをモデルにして、その手を触りながら描いた。
今回は参加者も少なかったので、ぼくも講師をやりながら、制作にも取り組んだ。
作り出して、気分が乗ってくると、あっという間に時間が過ぎて、時間切れになってしまうのが実感できた。
光島氏制作風景写真
■表紙ができたら、次はストーリーだ。
表紙に描いた手を出発点にして、いろんな材料を触りながら構想をねってもらった。
連続講座をやっていくうえでの基本方針は、見えなくてできないところは、遠慮なくサポーターに手伝ってもらう。
なにがなんでも、自力でやろうとすると、その困難さが立ちはだかって自分が作りたいと思うものと、実際に作れるものとのギャップがありすぎて、消極的な展開になってしまう。結果として、「ああ、見えないとできないなあ」という挫折感を残してしまう。

で、発想を転換して、「こんなものを作りたい」 「こんなふうに貼り付けたい」という構想を思いついたら、それをサポーターの人に伝えながら、うまく手伝ってもらってひと つの作品を完成させていく。
サポーターと共に制作風景写真1 サポーターと共に制作風景写真2 サポーターと共に制作風景写真3
■対話しながら共動制作
ぼくが個展などをしていて、見に来てくれた人からよく聞かれることは、「どなたが手伝っておられるのですか?」という質問だ。
ぼくは、「自立とは、なんでも自分でできるようになることだ」と盲学校でも、社会的にも教えられてきた。
だから、作品を発表するにあたっても、自分で、始めから最後までやっていることに意味があった。そして、そのことが観客の関心事でもあるようだ。

「全部自分でやっておられるんですよ」と誰かが説明してくれる。
すると、質問したひとは、「こんな細いテープがよく貼れますねえ!」と、びっくりしてくれる。そうした驚きは、ぼくには快感なのだ。
しかし、と同時になにか違和感も感じるのだった。
器用にテープが貼れたり、シートが切れたりすることに感動してほしいのではない。ぼくの描いたものに感動してほしいのだ!!

この頃、ぼくは先にも書いたように、できないところは手伝ってもらえばいいのだということを感じるようになっている。
実際に、作品を作るところまでは、自力でできたとしても、それをどう見せるか、どう展示するかは、見える人の意見を聞きながらやってもらうことになる。
その部分を任せるというのがじつに回りくどい作業だと感じて、いらいらすることも度々だった。
でも、最近はそういう作業も、手伝ってくれる人の感性を引き出しながら、ぼくの思いをうまく伝えることでかなり納得できる展示ができるようになってきたように思う。

■作る喜び
そんなことを思いながら、サポーターとの共動制作という大胆な手法をワークショップに思い切って取り入れてみたつもりだ。
自分の頭に描いているものが、実際にできあがるというのは楽しいものだ。
そんな喜びを感じてもらいながら、「見えないと絵は描けない」というようなコンプレックスを多少なりとも抹消していってもらえれば、また新たな制作意欲がわき上がってくるのではないだろうか。
サポーターと共に制作風景写真4 サポーターと共に制作風景写真5
参加者の中には、サポーター1人では足りずに2人も3人も使っておもしろい作品を作った人もいる。
ぼくは、まだそこまでひらきなおって自分の作品を制作することはできないので、うらやましく思う。
プロの作家になればなるほど、自分で作るというより、アシスタントをうまく使って制作する人もいるわけで、そんなことがいとも簡単にできてしまう彼のパワーに感心した。
■出来上がった皆さんの作品■
光島さん完成作品 光島さんの作品
タイトルなし:
参加者が少なく、時間があったので作っておられました。
渋谷さん完成作品 渋谷さん完成作品
渋谷靖子さんの作品 「私のお仕事」:
作品づくりをしたのは、久しぶりでした。 素直な気持ちにもどって、楽しかったです。
宮沢さん完成作品 宮沢隆男さんの作品
「エネルギー」:
いきあたりばったり、材料からイメージが広がった。
これほど頭を使ったことがないです。楽しかったです。
島田さん完成作品島田喜代子さんの作品
「心をつかむ」:
うれしい時、悲しい時、いつも高台から見ていた夕陽が心に残っていました。
最近のニュースと日常を重ねて、卵とにわとりを描きました。
ひよこは、平和を、にわとりは暗いイメージです。
最後に平和を願い、いつも見ていた夕陽を描きました。

山川さん完成作品山川秀樹さんの作品
「CROSS OVER」:
今日は、8月の14日です。とっても暑いです。空も音もビールも最高です。 (作品のイメージです)
※あまりに色々付いているので移動ができず、作業台の上での撮影。


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