第6弾お絵描きワークショップ
「イギリスの作家、サリー・ブースさんを迎えて」




2005年8月21日(日)
場所 たんぽぽの家、アートセンターHANA(奈良)
講師 サリー・ブース
参加者数 見えない人/見えにくい人 9名
サポーター 11名

─ 阿部こずえ報告 ─

サリーさん 今回は、イギリスからサリー・ブースさんが来日されることを伺い、ビューでもワークショップをしていただきました。
サリー・ブースさんは、弱視の障害を持つアーティストで、彼女独特の見え方で風景を巻紙に連ねていくものや、ライトボックスを使い、幻想的に光で表現するという作品があります。

さて、始まる前は、不安いっぱいのワークショップでした。言語や文化の違いや、直前のロンドンの地下鉄テロの影響もあり、サリーさんとのコミュニケーションがあまりとれておらず、一体どんな内容になるのだろう?と、よくわからないまま当日を迎えました。
しかし、サリーさんにお会いして、とても明るくチャーミングで好奇心の強い方だと、すぐにわかりました。

ワークショップのはじまりは、自己紹介とともに、ロンドン名物のキーホルダーのプレゼントがありました。二階建てバスや兵隊さん、電話ボックスなどをいただき、一気に場がなごみました。

最初は、サリーさんが持ってこられた、「ジャーマンペーパー」を使って絵を描きました。
日本でいうところの盲学校などで使われるレーズライターで、やわらいゴムのマットを下敷きにし、半透明で厚めのペーパーにとがったものでひっかくと、ひっかいた部分が白く盛り上がるというものです。そしてサリーさんからの提案で、ひっかいて描いたものの上にさらに水彩絵の具で色をつけていきました。

サリーさんからテーマを出してもらいましたが、通訳さんを交えての進行、そして、目の前にあるたくさんの画材に、参加者のみなさんは、話を聞く前に、それぞれ好きなものを好きなように描きだしました。
今日は描くぞーという気合いを入れて来てくださっているのがよくわかりました。そしてその欲求に火がつき、あっと言う間の盛り上がり・・・。
サリーさんも柔軟に、それぞれの質問に答えたり、アドバイスをしたりと、各テーブルをくるくるまわってくれていました。

ジャーマンペーパーにもそれぞれ工夫をこらして、持っている点筆(点字を書く道具)で描く人もいて、サリーさんもびっくりされていたようでした。それから、いつものようにマンツーマンになっているサポーターさんと、絵の具で色を相談しながら、彩色していきました。
制作風景1 制作風景2 制作風景3
次は、いろいろな画材を使って描くことに挑戦しました。
大きな画用紙、ファックスロール紙、和紙などに、水彩絵の具やオイルパステル、モデリングペースト、墨汁などを使い描いていきます。テーマはそれぞれで思いついたものを描き、画材もサポーターさんと相談しながら選びます。
見えていた時から絵を描くのが好きというある弱視の女性は、筆にも慣れたもので、明るい場所を確保し、ただひたすら、自分の好きな風景を1枚の紙に描き込んでいました。
また、生まれた時から目が見えなかったという男性は、ひたすらいろんな画材にチャレンジです。自分が知っている「木」や「鳥」などを、とても器用に描いていました。
またある人は、ファックスロール紙を使い、自分がアルプスをのぼった経験をもとに、アルプスの山、そこに吹く風、雪、春の色など、イメージをどんどん連ねて、絵巻物のようなパノラマ世界を作り出していました。
また、ある人は、同じくファックスロール紙で、朝起きてから寝るまでのストーリーを絵本のように描いていく人もいました。

思い思いに描いた絵を全部並べて、発表会を行いました。お互いの絵を触って確かめることはできませんが、言葉で見る鑑賞ツアーと同じように、みんなの感想から、それぞれの絵を想像していきました。
サリーさんは、1人1人の作品に丁寧なコメントをされたので、とても満足のいくワークショップとなりました。

発表会の様子

今回のワークショップでの大きな発見は、「視覚障害のある人は、触って確認できる画材でないと描けない」ということが思いこみにすぎなかったということです。
先天的な視覚障害の人であっても、中途失明の方であっても、筆を使うのは難しくないようでした。見えるサポーターさんとのやりとり一つで、どんどん描かれるのがわかりました。
さまざまな画材の可能性を教えていただいたことと、また、アートは楽しく自由なものだということに改めて気づかせてもらったと思います。

また日本に来られる機会があれば、ぜひ遊びにきていただきたいです。


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