岡山県立美術館、鑑賞のためのワークショップ
 
 


2007年7月9日
場所 岡山県立美術館
参加者 美術館ボランティア32名、美術館スタッフ約5名
ビューより、光島貴之、すずきともこ

岡山県立美術館より、視覚に障害をお持ちの方と一緒に美術鑑賞ができる体制づくりをすすめていきたい、というメールをいただきました。
岡山県立美術館は、昨年「mite!おかやま」という対話型鑑賞のための企画展をしたり、今年から、毎週末にギャラリートークをボランティア体制でおこなっていたりと、鑑賞者の立場に立った、いろいろな試みをされています。
今回、ビューがどんな鑑賞をしているか、ボランティアとスタッフ約40名を対象に鑑賞のためのワークショップをしてきました。

以下、その報告です。

── 光島貴之報告 ──

■言葉による作品鑑賞──視覚障害者の場合何が必要?

「京阪天満橋」に触れて街歩き体験 13時: 導入
アイマスクを使って『京阪天満橋』(立体コピーの触る教材)で、街歩き体験。
この頃慣れてきたぼくは、アイマスクをとったときの「おー」という驚きの声を期待してし待ってます。今回も期待通りでした。
午前中のアイマスク歩行が効いていたのか、反応がよかったです。

13時30分:
 ビューの活動紹介(パワーポイント)

プロジェクターの使える部屋に移動して、鈴木さんがゆったりとハキハキしゃべってくれました。
締めくくりとして、「しない4つの原則」でしたか? あれはなかなか笑いも取れていいですね。

14時:
 鈴木・光島+会場から2名で「言葉による鑑賞」のデモンストレーション

館所蔵の作品を、プロジェクターに写しながら、水墨画・風景画・抽象画を3点体験。
「できるだけ、言葉での鑑賞が難しそうな絵を選んでおいて下さい」と、 事前に連絡してありました。鈴木さんは、まったく初対面の絵ではなかったかな。
逆に参加者の人は、普段見慣れている絵らしく、映し出されると会場からは、 「えーっ」とか「あー」とかいう「これ、どんな風に説明するんやろう?」という興味津々な声が聞こえてきました。
そういう声も含めて、反応がストレートな参加者だったというのも、ぼくにはやりやすい環境でした。
プロジェクターで絵の鑑賞 絵には、タイトルも作者も印字されていません。
鈴木さんが先頭を切ってしゃべり始めます。続いて会場からの参加者にマイクが回されます。
見慣れている絵ということもあるのでしょう。言葉はスルスル出てきます。
ぼくも間延びしないように間の手を入れます。
特に2枚目のドイツの村の牧歌的な風景画では、 最初、なかなか絵の構図が頭に入ってきませんでした。
思い立って絵の中に入りました。門があって道が続いているというので、ぼくがその道を歩いていくことにしたのです。
そうすると、何と全体がわかってきました。以前から、絵の中に入ってみてはとヒントはもらっていたのですが、 いい大人が、そんなの無理だよって思ってたんですが、すんなり絵の中に入りました。
ぼくにとっても新たな発見でした!! 緊張感のある場所での鑑賞は、ぼくにはなかなか刺激的でいいようです。
ドイツの村の絵
『風景』/原田直次郎
岡山県立美術館蔵
おしゃべりというのがそんなに好きな方ではないので、普段はあまり無駄口を叩かないようにしています。
でもみんなの前だと、とりあえずつっこみを入れないとダメだと思って、なんとか反応を返そうとします。でもそういう無理な反応でも、それに答えてもらうと新たな展開が待っているようです。
心配していたような、作者についてとか、作風がどうとか、そういう学的な話しが出なかったので、よかったと思っています。

休憩を挟んで、 14時45分:
 4人一組のグループに分かれて、光島の作品を言葉で鑑賞
グループに分かれて鑑賞1 グループに分かれて鑑賞2
アイマスクをした人1名。記録(鑑賞の進み具合を横から客観的に観察する人)1名。見える人2名。
8グループに分かれて、部屋やホールのベンチで30分かけて、それぞれ2枚の絵を鑑賞。
前半は、「蛍のように見える毛むくじゃらの手」と「滑り落ちる」を、 後半は、抽象的な「小鳥ちゃんのソファ」と「パキッと折れる椎間板ヘルニア」を鑑賞してもらいました。
蛍のように見える毛むくじゃらの手
蛍のように見える毛むくじゃらの手
滑り落ちる
滑り落ちる
小鳥ちゃんのソファ
小鳥ちゃんのソファ
パキッと折れる椎間板ヘルニア
パキッと折れる椎間板ヘルニア
15時20分:
 記録した人と、アイマスクで鑑賞した人を中心に感想を発表。

時間がなかったので、それぞれ4枚の作品について1グループずつの発表にとどめたのが、少し残念。
アイマスクを外したときのギャップでオロオロしてしまうとか、 言葉の限界を感じたなどという感想はあまりなくて、けっこうみなさん楽しんでやってくれたような印象でした。

終了後、担当学芸員と、その上司の学芸課長とで少し歓談。
「mite!おかやま」での実践が、生かされていたようで、特に違和感なく鑑賞に入れたようだ。
「mite!おかやま」のサイトへ

こちらで気になっていた「何か視覚障害者に対する特別な対応、方法があると思われても困るなぁ」というのは、取り越し苦労だった。
「mite!おかやま」の応用でやって行けそうだと感じてもらえたのが収穫かな。
今後、視覚障害者をいつでも受け入れて鑑賞してもらえるような体制を作りたい。
ビューのツアーにも、遠足感覚で美術ボランティアと一緒に参加してみたい。
などとも言っておられた。

※参考《 鑑賞の「しない」ルール 》
1 静かに鑑賞しない。
  (おしゃべりしながらの作品鑑賞を楽しみましょう。)
2 見える人は一方的な説明をしない。
  (自分の声や相手の声、作品の声を「聞く」ことも忘れずに)
3 目の見えない人/見えにくい人は、聞き役に専念しない。
  (どんどん困らせる質問をしましょう)
4 全て分かり合おうとはしない。
  (人間、全てを分り合うのは不可能です。それより気軽に鑑賞しましょう)


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