第17弾創作ワークショップ
「食べて、触って、色を感じる」

 
 


年3回のペースで実施してきた「お絵描きワークショップ」も今回で17回目となりました。
当初は、見えない人が絵(平面)を描くというタブーに挑戦するという意味合いで このようなタイトルを付けていたと思います。
しかし、回を重ねるごとにリピーターも増え、参加者のレベルもドンドン上がってきました。
それに伴い、内容もアニメ・布・銅版画と広がりを見せています。
ここらで「お絵描き」という初心者的な名前を改め「創作ワークショップ」という 名前で再スタートを切りたいと思います。
「見えなくてもいろんなアートが楽しめる」というコンセプトで、よりおもしろい 内容を提供していきたいと思っています。
 
2010年6月20日(日)
場所 山科身体障害者福祉会館
参加者 見えない人・見えにくい人 : 5名
見える人 : 9名
ビュースタッフ : 6名

── 光島貴之 ──

「サポート」と「コラボレーション」、いずれも普通に使われるように なった外来語だが、その意味は深いなと今回のワークショップを通して感じた。
ビューで、鑑賞の質を高めるために、創作のワークショップを始めたのは、 2003年からだ。早いもので今回で17回目になる。

もう2、3年ぐらい前から意識し始めていたのだと思うが、見える人を サポーターとして位置づけているのが気になっていた。 確か、アンケートも取ったことがある。

サポーターとして位置づけたのには、それなりの意味があった。
見えない人の自立を考える上で、身辺自立が何よりも大切だという考え方がある。
自分で切ったり、貼ったりすることに価値があるから周りの人はあまり 手を出してはいけないという視覚支援学校や訓練施設での発想だ。
そんなことを前提にしていると美術が楽しめないのではないかという思いから、 「いくらでも手伝ってもらいましょう」
「自分でできないところは、サポーターに遠慮なく手伝ってもらいましょう」
というルールを決めてやり始めたのがビューのワークショップの特徴だった。

しかし、回を重ねる内に、見える人が窮屈な思いをしているのではないか?  見えない人も遠慮しながらサポートしてもらってないかという疑問が出てきた。
「してもらう側、してあげる側」という関係に閉じ込められてしまって、 自由な創発が疎外されてないかということに疑問を感じ始めた。

そんな中で実施したのが、「食べて、触って、色を感じる」だった。
サポーターとして見える人を募集するのではなく、コラボレーションの 一員として参加を募った。だから、見える人同士の組み合わせでもワークショップが 成立するようなプログラムにしたかった。
今までの傾向としても、見えない人が少なく、見える人の申し込みが多いと いうことがあり、結果として、組み合わせ、チーム作りに頭を悩ませることに なっていた。
この参加比率問題も一気に解決できるだろうという望みもあったのだ。

光島さんの説明 当日は、ビューのスタッフも1名参加してもらい、見えない人5名と 見える人10名という参加になり、1対2で3人一組のチーム分けができた。
ビューのメンバーも揃っていたので、アドバイザーというか、ファシリテーター として各チームに寄り添ってもらうことにした。

雰囲気は、参加者の感想を読んでもらうことにして、ここでは、手順などを 書いておくことにする。

今回のポイントは、まず、導入として、アイマスクをして食べてもらい、その味や、 食感について話し合ってもらうというものだ。
後半についても言えるのだが、アイマスクをした状態での会話や、ものの 受け渡しなどけっこう大変かと思っていたが、うまく見えない人がリードして くれたようで、どのグループもうまくいっていたようだ。
このアイマスクをしておしゃべりするという体験が、チームワーク作りや、 スムーズな制作にも、プラス効果を上げていたように思う。

さて、二つめは、各自持ち寄ってもらったものをシャッフルして、自分が 持って来たものが同じチームには配られないようにということだけを取り決めにして モチーフを配った。
アイマスクをして触る1 ここで、触ったものからどんな色を感じるかを話し合ってもらうのだが、 あまり色だけにこだわると難しくなりすぎるかも、という事前の打ち合わせでの 意見があったので、少し緩やかなテーマ作りを心がけた。
色や手触りをヒントにして思い浮かべるイメージを話し合い、作って もらうことにしたわけだ。
アイマスクをして触ってもらったモチーフは、その場で回収してしまったので、 誰もがそのものの視覚的イメージを見ることなく制作にとりかかった。

アイマスクをして触る2 以前のワークショップ参加者からの感想も参考にさせてもらった。
「触っていても、アイマスクを外してしまうと、一瞬の内に触覚イメージは 消え去り、視覚イメージに取って代わられる」というものだった。
結果は、アイマスクを外す前にモチーフを回収したのがよかったと思う。 見える人も見えない人も最後まで見ることなく、同じ条件で表現できたのだろう。

カッティングシートを選ぶ 画材は、ぼくがいつも使っているラインテープとカッティングシートだ。 最初の頃は、この画材にとてもこだわりがあったのだが、何度かやっているうちに 意識過剰になることはなくなって、ぼくも普通に鑑賞出来るようになった。
同じような素材を使っていると、同じような絵になってしまわないかという危惧が あるのだが、それぞれの作品を触らせてもらってそのような不安は吹っ飛んだ。

制作の様子1 制作の様子2
制作の様子3 制作の様子4 制作の様子5
おしゃべり効果もあってか、描き始めで悩んでしまうチームもなく、ドンドン 進んでいる様子だった。
見えない人がドンドン引っぱっていくチーム。
相談しながら進めるチーム。
それぞれが感じている形を貼っていくチーム。
チームごとにいろんなスタイルで描き始めていた。
見えない人・見えにくい人の初参加も2名あったのだが、心配していた コラボレーションもうまくいっていたようだ。
結果は、作品写真でご覧ください。

≪作品写真≫    作品の説明 : 阿部こずえ
 
完成作品1 食べたもの:クッキー

触ったもの:スチール定規・メガネふきのようなやわらかい布・野球のボール
「布」を追求されたシンプルな構図の作品です。画面の中央に赤い一本のラインがぐるりと描かれています。このラインは途中で一度交差しています。布がひっくり返っているところだそうです。画面の中央は、布にそうように、大きな丸いボールが描かれています。白のボールですが、中はオレンジ色で、堅そうです。赤い布のまわりにところどころ何重か並んだ短い黄色いテープが貼ってあります。これは布の柔らかさを表現されているのでしょうか? 画面の左上から右下にむかって、青くて太いシートが貼ってあります。ソファーのような心地良さそうな形をしています。
完成作品2 食べたもの:魚肉ソーセージ

触ったもの:帽子(キャップ)・木の人形・薬局でもらう薬のパッケージ(飲み残した薬入り)
画面の下3分の2ほどは、エアークッションで覆われています。その内側(画用紙)と、外側(エアークション)に、ランダムに赤、黄色、青、緑でいろんな形に切られたカッティングシートと、いくつかの丸が、ちりばめられています。また、画面を縦横無尽に同じく赤、青、黄色、緑、黒のラインテープが走っています。エアークッションは薬を表現されているそうですが、薬のもつイメージを払拭したかったとのこと。カラフルで遊び心のある作品です。
完成作品3 食べたもの:綿パチ

触ったもの:きんちゃく袋入りハーモニーボール・壁掛け時計の針とネジ・ドーナツ型のやわらかいプラスチック製のコードケース
右上の赤い巾着袋から、いろんなものが飛び出しています。左下には、黄色で描かれた丸いドーナツ。ドーナツ上にはぐるぐる巻のラインが描かれています。右下には、魚の骨が2つ。魚の骨はなぜか楽しそうに笑っているように見えます。その他、小さな三角や丸が直線やくるくるまわるラインと一緒に飛び出してきました。まるでクラッカーがはじけたようで、いろんな音聞こえてきそうです。
完成作品4 食べたもの:ドリンクヨーグルト

触ったもの:黒いビーズのがまぐち型のパース・赤唐辛子・ハーモニーボール
海と光の絵です。縦の下3分の2は、濃淡の違う青い波がうねるように描かれています。水面には、いくつかのしぶきも波形で描かれています。上の部分は、左右を横切る黄色と赤の光が、描かれています。光のラインの周りには、赤やオレンジの光の粒がいくつも描かれています。海の青が濃い分、対照的に光がとてもまぶしく見えます。
完成作品5 食べたもの:抹茶八つ橋(栗餡)

触ったもの:木の葉・小さなリスのぬいぐるみ・ハーモニーボール
森の中を抜けて行く地図のような、不思議な絵です。縦長の上半分は、ベージュの太くて短いテープが画面を覆うほどいくつも貼ってあります。中央の左側には、白の大きな花、左側には小さな花が立体的に咲いています。画面の左下には、オレンジ色のピーナツ形のものがあり、そこから、赤と青の5本のテープが画面のあちこちの方向にのびています。その他、いがぐりのようなぎざぎざなもの、お城のような建物、尖った山、金色に輝く星・・。たくさん描かれていますが密度あるところとないところがあり、全体的に落ち着いた印象の絵です。
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