出張ワークショップ
「タッチ・アートin盲学校」群馬県立盲学校へ

 
 


2010年7月21日(水)
場所 群馬県立盲学校

── 阿部こずえ ──

光島さんの作品を鑑賞する子ども達1 その日、この夏最高気温を記録したという、暑い暑い群馬へやってきました。 学校は夏休みに入ったばかりです。校舎に入り玄関で、今回呼んでいただいた 美術の多胡先生を待ちました。
玄関のいろんなトロフィーが陳列されている棚の中に、「ギャラリーTOM賞」を とった陶芸の作品が並んでいました(ギャラリーTOMは渋谷にある触って楽しめる画廊です)。
多胡先生に挨拶をし、校舎に入りました。廊下には、いくつもの平面作品が、 丁寧に飾ってあります。ビューの創作ワークショップでも試したい!と思う 工夫された作品もありました。とても美術に熱心な学校だとわかりました。

今回は、光島さんと一緒に伺いました。小学部の1年生から、中学部、高等部の生徒、 理療科の見えない先生たちと一緒に鑑賞します。
見えない/見えにくい子どもたちと、さわって楽しめる「創作」ではなく、 言葉での「鑑賞」は、ビューとしても初めての試みでした。
今回、先生に用意していただいたレプリカの作品は、ミレー「落ち穂拾い」、 モネ「印象・日の出」、ルノアールの「ピアノを弾く二人の少女」、宮本武蔵の 「古木鳴鵙図」、ゴッホ「ひまわり」の5点です。
多胡先生には「子どもたちにも名画を教えたい」という思いがありました。 今回初めて知ったのですが、盲学校は、美術の教科書がないそうです。 先生は、教科書を作る活動もされています。一般校でも、美術の授業の確保は難しいですが、 教科書がないとは、はなから教えることをあきらめているのだと、改めて考えさせられるものが ありました。
光島さんの作品を鑑賞する子ども達2 光島さんの作品を鑑賞する子ども達3
ワークショップは午前、午後と3つのグループにわけました。最初は、小学校1年生の3人と高学年が2人、中学1年が3人のグループです。保護者の見学もありました。まずは、光島さんの作品を触っての鑑賞。みなさん、熱心に触って、「丸がいっぱい」「四角があるよ」とか「ギターだ」「ギターからコードが出てる」と声をあげていました。

「ピアノを弾く2人の少女」を鑑賞 その後、レプリカ作品の鑑賞です。
まずは私と光島さんが2人で鑑賞し、そのやりとりを聞いてもらいます。光島さんからの質問、私が答えるというのを、繰り返します。
「ピアノを弾く2人の少女」では、2人の女の子がどういう風にピアノに向かっているのか、どんな服装をしているのか、どういう部屋なのかなどのやりとりをしました。途中から保護者のお母さんにも加わってもらいました。 「1人はお姉さんで、えらそうに教えている」「練習をしてこなかったら、怒られている」「遊びながらひいているのではないか」など。
見えない生徒さんたちにも、何か質問ある?と1人1人質問してもらいました。でも、言葉だけで、絵をイメージするのは、初めてのことのようで、難しいようです。ピアノをひける人を聞いたり、何の曲をひけるかを聞いて、できるだけ身近な環境と絵が結びつけてイメージしやすいように問いかけながら話してもらいました。

「落穂拾い」を鑑賞 次のグループでも、同じく光島さんの作品を触って鑑賞した後、2点の作品を鑑賞しました。
1点は、「落穂拾い」です。中学生ばかりのグループだったので、質問をあげてもらうことができました。 「畑は広いですか?」「畑は何を育てていますか?」「服はどんな服を着ていますか?」などです。
質問するということ自体が難しいようですが、「質問して聞く」という簡単な行為で、わからない世界に少し近づけることを知ってもらえたかと思います。絵画鑑賞だけでなく、これからいろんな場面で、質問することで会話が広がり、いろんな人との人間関係を作ってもらえればと思いました。

最後のグループは、高校生と理療科の先生たちでした。ぐっと落ち着いた雰囲気のなか、同じように鑑賞しました。
宮元武蔵の「古木鳴鵙図」という掛け軸の作品を見ました。水辺に生えたすっと伸びる一本の葦か枯れ木に、鳥がとまっているという絵でした。墨で描かれたとてもシンプルな構図です。
しばらく見ていくと、木の途中に一匹のしゃくとり虫がいるのに気づきました。「この虫は、何だろう?」「鳥は、虫を狙っているのか?」と注目しました。ちょうど、校長先生も見にいらして、「子育てを終え、子どもに餌を取らなくてもよくなった親鳥が、子どもを想っているのではないか?」と、言われていました。
鑑賞後、高校生の生徒さんや理療科の先生には、鑑賞がどうだったか聞いてみました。理療科の先生は、絵を見るのはとても難しいと、おっしゃっていました。

「古木鳴鵙図」を鑑賞 他の先生、保護者の方は、こういった鑑賞もあると、びっくりされ楽しかったようですが、初めての鑑賞は、生徒さんや理療科の先生には難しかったかもしれません。でも、こういった鑑賞もありえるのだと知ってもらえ、諦めずまた挑戦してもらえたらうれしいです。
後から聞くと、中学部の一人の生徒さんが終わってからにこにこされていたので、どうしたのか、たずねると、絵の鑑賞がとても楽しかったと答えてくれたようです。多胡先生も、授業で鑑賞を続けていきます、と力強くおっしゃっていました。

ワークショップの進め方としては課題をたくさんもらいました。
子どもたちの年齢にあわせた工夫が必要でした。緊張感があってなかなか声がでにくかったので、なごませる遊びがあってよかったかもしれないし、高校生や専攻科の先生には、タイトルや作家を伝えた上で、作家に思いをはせる鑑賞ができたかもしれません。
それでも、最初に思っていた不安・・・子どもたちは、まだ経験も少なくそもそも言葉でのやりとりができないのではないか・・・という不安は消え、もう少し工夫すれば、鑑賞を楽しめるだろう、と感じました。


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