出張ワークショップ
「見えない人が見える人のメガネになる!?」
「アートピクニック-美術をたのしむ」展 

 
 


2011年9月11日(日)
場所 芦屋市立美術博物館
参加者 見えない人・見えにくい人 : 7名
見える人 : 13名 ・ 見学1名
ビュースタッフ : 3名
講師 : 山川秀樹

── 山川秀樹報告 ──

今回のワークショップは、開催中の展覧会アートピクニックの関連イベントの一つとして企画されました。 展示されていたのは、関西在住の障害を持つ作家の作品でした。アバンギャルド(前衛的)な美術作品の 展覧会として楽しめるようなものとなっていたように思われます。
 以下、当日の様子を振り返りつつ、思いつくことを記すことで、報告に代えさせていただきます。

説明と自己紹介  まずは、簡単な説明の後、どんな方がいらしているのか自己紹介。見えない・見えにくい参加者の方には、 ことばによる鑑賞は初めてという方や、これまであまり美術には親しんでこなかったという方が 多かったようですが、人と話すのはお好きな方がほとんどだったようで、その後の鑑賞時のメンバー同士の 対話はほぼうまくいったようです。
ぼく以外はほとんどが中途失明や弱視の方だったようです。ですから、かつて絵を見た経験がある方が ほとんどだったのですが、見えなくなっても、対話を通して美術を楽しめることを体感していただけた ようでした。

 続いて、講師の山川から美術との出会いや、作品を前にしての対話の魅力、「見えない人のことばが 見える人のメガネになるということの意味」などについて、自らの経験を中心に簡単に話しました。 そして、グループ分けの後、2階の展示会場に移って、鑑賞会へと進んでいったのでした。

 まず、ぼく山川とビュースタッフの阿部で、見えない人とのことばによる鑑賞のデモンストレーションを 試みました。1枚の作品の前にみなさんにお集まりいただき、いつもやっているように対話し始めます。
詳細で正確な説明というより、作品を前にしてのありのままの印象や感情がたくさんつまった、そんな ことばに耳を傾けつつ、尋ねたいことを質問したり、そのことばを聴いて感じたり思いついたりしたことを 伝えたりしていきます。すると、美しく凛とした、おそらく欧米人と思しき、ロングヘアーの素敵な女性が 描かれた作品だということが分かってきます。
デモンストレーション1 デモンストレーション2
 そのうち会場から笑い声も聞こえ始めて、雰囲気が和んできたのが分かります。そこで、参加者の 見える方にも作品の印象や見て感じたことを語っていただきました。するとやがて、見えない・ 見えにくい方からも質問が出始め。鑑賞を始めてから10数分後には、その場に集ったみんなで 1枚の作品を鑑賞しているような状況が生まれたのです。この時点で、参加者のみなさんには、 「作品を前に気軽に感じたり思ったりしたことをおしゃべりすればいいんだ。」ということがかなり 伝わったように見受けられました。

 小休憩をはさんで、約1時間程度、各グループで、思い思いに展示作品の鑑賞を楽しみました。
 見えるメンバーのみなさんは、作品を理解しようということより、見て感じたり想像したりしたことを ことばにすることを大切におしゃべりを楽しんでいらっしゃるようでした。ぼくもみなさんのことばに 反応して質問したりしつつ、話の内容を広げていったように思います。とはいえ、様々なことを鑑賞者に 想像させたり、様々な話題に話を及ばせたりするのは、やはり作品そのものの持つ力、鑑賞者相互の 対話の力と感性の豊かさによるところが大なのでしょうね。
鑑賞風景1 鑑賞風景2
鑑賞風景3 鑑賞風景4

 その後、1階の部屋に戻り、各グループから見えない方、見える方1名ずつに 感想を述べていただきました。初めての方もほとんどが気軽に楽しんでいただい たようでした。
 見えない方からは、こういう前衛的なものより、いわゆる正当な美術作品が 好みだとか、もっと絵の構図や何がどう描かれているかを正確に知りたいといった 感想も聞かれました。無論、好みや、鑑賞の上で何を重視するかは個々それぞれ なのですが、参加者が自らの思いや感じたことなどを率直に語り、その思いや感じたことを 参加者みんなで共有できたことは、大きな収穫でした。見えない・見えにくい人も、 自分の好みの作品やその展覧会を、気軽に一人でも見にいける、そんなアートの 世界の風土や美術館の環境を、少しずつでも育んでいきたいものです。

 ご参加の学芸員のみなさんにも、今回の鑑賞体験は大いに刺激になったようです。 「わたしがいれば、ご案内しますので、一人でもお気軽に、ご連絡いただいて、 美術館にお越しください。」という旨のことばもいただくことができました。
弱視の方で、デジカメのズーム機能を拡大鏡代わりに使って、鑑賞されている方が いらしたのですが、学芸員さんいわく、受付で撮影許可用の腕章を渡すなどすることで、 そうした鑑賞方法も可能だろうとのことでした。

 まだまだぼくらがやっているような鑑賞のスタイルや方法は、美術館や美術関係者の間で 広く知られているわけではありません。けれども、対話による美術鑑賞や、障害者など 多様な背景を持つ人たちとの鑑賞への関心が、少しずつではあるにせよ、確実に 高まっているのも確かなようです。そんなことを実感・確信できた、今回のワークショップでも あったように思います。

 多くの人たちと手を携えて、障害者をはじめ多様な背景を持つ人たちを含めて、 様々な人たちが、様々な方法やスタイルで共に対話しながら美術を鑑賞する、 そんな営みを「文化」として根付かせていきたい、そんな思いを強くさせられています。

 まずは、今回お会いした学芸員さんのいらっしゃる美術館、そして、まだ知り合いの いない初めての美術館に一人で出かけてみる、そんなささやかなことから始めてみる ことにしましょうか。


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