第22弾創作ワークショップ「からだで遊ぶ・からだで描く」
 
 


2012年2月19日(日)
場所 京都市北いきいき市民活動センター
参加者 見えない人・見えにくい人 : 5名
見える人 : 6名
ビュースタッフ : 4名
オブザーバー : 1名
講師 : 里見まり子     講師アシスタント : 2名 

── 阿部こずえ ──

始まりの挨拶など  講師の里見まり子さんは、最初に出会った時から、見えない人たちとのダンスに 強く関心を持っておられ、とても確信に満ちた言葉と態度で、ワークショップをしたいと アプローチされてきました。
ビューの「創作ワークショップ」は、美術館での作品鑑賞をさらに理解することを目的に、 体験的に「つくる」「表現する」ことをしています。 ダンスは、美術鑑賞につながらないのではないか、と悩みましたが、里見さんの確信に 半ば押されつつも、身体を使って表現することは、鑑賞や創作の参考になると思い 挑戦することにしました。

 里見さんのダンスは、社交ダンスや舞踊、エアロビクスのように、決まった型があるのはなく、 その空間、人との関係、全体の流れに身体をまかせる「即興ダンス」をされています。 「ダンス」と聞いて、恥ずかしいとか、難しいというイメージもあり、抵抗感も あったと思いますが、それにも負けず好奇心旺盛な参加者が集まってきました。

親指相撲  さて、どんなダンスが始まるのだろう!とドキドキしていましたが、なんと最初は、 「親指相撲」から。見える人と見えない人がペアになり、見える人は目を閉じることにしました。 お互い立ち上がっての親指相撲は、身体をうねらせくりひろげられました。そのあとは、 会場探検、背中合わせの立ち上がりっこ、などをして、徐々に心と身体の緊張をほぐしていきました。

 次は、全員でぎゅうぎゅうと小さな輪になり座りました。里見さんが中央で「何か」を、 素足の上にばらまきます。ここでも、見える人や見えにくい人は、目を閉じました。
最初は、小さなものがたくさんある!とか、匂いがする?とか、冷たい?とか、慎重に触っていました。 手ではなく、足で何かを感じるのは、普段、触る世界にいる見えない人にも、 新鮮だったようです。
途中で誰かが「おはじき」だと気が付きました。とにかく触って感じて下さい、と足だけなく、 手でも触わることも許され、そして1人1つ、気に入ったものを見つけました。 立ち上がり、しばらくは、おはじきを足の下で感じました。
里見さんが、「これは不思議なおはじきで、足でひきずると絵の具が出て線が描けます。 おはじきで会場の床に絵を描きましょう」と言われました。もちろんイメージが創り出す絵の具の線です。
その呼びかけで、みんながとても自然に動きだした時、「あ、ダンスが始まった」と思いました。 それぞれに、何かを想像しながら、人の動きや部屋の壁などにも慎重に意識を向けながら、 「自分の動き」が始まったのでした。

 次は、おはじきなしで、自由に動き回ります。でもルールが1つあり 「他の人と離れないで動く」ことでした。常に誰かに触れているということです。
身体と身体をひっつけたり、手で誰かの身体に触っていたり、足や頭をひっつけて動いたり、 いろんな動きが生まれていました。
一気に全員でうごめく集団のダンスへと変わりました。面白いことに身体が触れている相手と、 会話が生まれているのが見えました。こんにちは、とか、ちょっとおじゃまします、とか・・、 いやもっと親密で濃厚な会話が一瞬一瞬で生まれていた気もします。身体と身体の美しい やりとりでした。
ダンス1 ダンス2 ダンス3
ダンス4 ダンス5 ダンス6
 その他にも、オノマトペを動きで伝えたり、背骨に水を入れたり! 相手の身体で 「はりがねアート」を作ったり!など、普段使わない筋肉を使い、これまでの人生で 一度もしたことのないポーズをして・・そして笑いながらワークショップを終えました。
参加者も、ビューのスタッフも、とてもすっきりした表情になっていたのが印象的でした。

 終ってから、見えにくい人から、「触ることに敏感になった」という意見が聞かれました。 「触る」には、伝えるとか理解するという意味と、抵抗する反発するという意味が あることに気付いたとおっしゃっていました。
里見さんは、見えない人、見えにくい人の首や背骨など身体全体が堅くてびっくりしたと 言われていました。音や空間にとても敏感だけれど、一方で身体の緊張もきついのかもしれません。
私も、ダンスを通して、美術館での「対話」による鑑賞は、いつもより目や声や耳を たっぷり使うので、身体が緊張していたことに気が付きました。
身体だけの対話があるという発見は面白かったです。そしていつもの美術鑑賞や 日常の会話の中でも、身体全体でまわりや相手を注意深く感じると、より深く通じることが あるのだろうと、一回り感覚が広がったように思いました。


 里見さんは、見えない人とのダンスを続けたいと計画されています。
またダンスワークショップを企画される時は、お知らせします!

講師プロフィール
里見 まり子(さとみ まりこ)
東京教育大学卒業。1980〜1985年まで、ドイツケルン体育大学に留学。
『演技・音楽・ダンス』を専攻氏、身体表現やダンスの指導法を学ぶ。
1986年より宮城教育大学にて教員養成に携わる。即興舞踊家として公演活動を 続けながら市民を対象とする講座、ワークショップ等にも力を入れている。
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