#29 アロワナ>アジア・アロワナの解剖記録 (2/2)    可良時寿子
可良時寿子  ID:KBB53931

◆病気。

      88年11月3日、三度、電子サーモの故障で、水温が22℃まで低
    下。

      今回は、水温の変動と、体調の変化から、白点病が発生する。
      水温を29℃として、エルバージュを5gr/200リッターの割合で与
    える。

      11月9日になると、鱗に着いたカビのような物は綺麗になったが、目
    が白く濁ってくる。

      熱帯魚ショップで販売している、感染症に効かせる薬は、全く効き目が無
    かった。
      また、ディスカス・エイズに効くと言われる抗生物質を、ショップで分け
    て貰い与えるが、全く効果無し。

      決定的な改善が見られないまま、1カ月が過ぎたが、12月に入ると、突
    然症状が悪化する。

      初めは、サーモの故障による、水温低下で、白点病のような状態であった
    のが、12月になると、今まで体表に着いていた白点は全く無くなった変わ
    り、体表が黒っぽい色になり、目の濁りがきつくなった。

      外見上の症状は、極度に悪化した『ディスカスのエイズ』とそっくりであ
    り、また、当時、世間ではディスカスのエイズが猛威を奮っていたが、わが
    家の場合、この病気は1年以上も前に克服しており、当時は餌金以外の物は
    購入していなかったので、原因が掴めなかった。

      その中、病状は益々酷くなり、体色は真っ黒、目は濁りを通り越し、まる
    で茹卵の白身のように、全く不透明に白くなり、餌を捜す事も出来なくなっ
    た。
      体表が、おかしくなるのであるから、粘膜の中に、質の悪いウィルスが繁
    殖した物と見当を付け、抗生物質を与える事を計画した。

      今までも、ショップで、時々抗生物質を分けて貰っていたが、まるで貴重
    品のように数錠ずつしか貰えないのでは、何時まで立っても効果が上がら
    ず、長引かせている中に、耐性菌を作って仕舞う恐れが有った。

      そこで、人間用の抗生物質を使う事にし、町の薬局へ行った。
      そこで解った事は、わが国の場合、ホルモン剤と、抗生物質は、医師の処
    方箋無しでは、自由に買う事が出来ず、唯一自由に買える抗生物質は、トリ
    コモナス症の為の腟錠で、これは飲み薬でないと言う事で、自由に買えるこ
    との出来た。

      大正製薬の『トリコマイシン腟錠』を入手し、最適使用量は解らないが、
    ショップで、シオノギ製薬のフラジールを使うとき、飼育水100リッター
    当たり1錠を使っている事を参考に、わが家の水槽は200リッター有るか
    ら、一回に2錠与え、抗生物質の寿命は、水中で6時間くらいで分解して仕
    舞う事より、朝と夕に、各一回与える事にした。

      また、夕方、抗生物質を与える前には、水中に漂っているで有ろう、ウィ
    ルスの濃度を下げる為に、50%の水替えをした。

      整理して書くと、

            50%の水替え。
            食塩80gr。
            朝夕、各2錠の抗生物質(トリコマイシン)。
            水温28℃。

    と言う条件で、治療を2週間ほど続けると、目が透き通り、鱗の色も正常に
      なり、背中の一部が少し白っぽく曇っているだけという状態まで、回復し
    た。
      殆ど良くなったが、もし、治療が不完全で、耐性菌が残ると、再発した時
    には、治療が出来ないと思い、その後も2週間、治療を続けて、
    89年12月26日に、治癒したと判断し、治療を打ち切った。

      こうして、治療には成功したが、本当の原因が何であったかは、今でも
    解っていない。

      この時、フィルターの濾過バクテリアを抗生物質で全滅させた訳である
    が、市販の「スーパー・バイオ」とか、その他のバクテリアの素と称する商
    品を色々と使ってみたが、何れも効果がなかった。

      当時、餌は1週間に2回与えていたが、餌を与えた翌日は、水が白く濁
    り、明らかに、フィルターの濾過バクテリアが、正常に機能していない状態
    を示したが、フィルターの機能が回復するまでに、3カ月を要した。


◆体型の変化。

      88年の末位より、魚の体型が変わってきた。
      長さ方向の成長は完全に止まり、上下(泳いでいる姿での上下、即ち、背
    中から腹までの高さ)が大きくなると共に、横幅も大きくなり、一言で言え
    ば太くなり、貫禄が出てきたのであるが、隣の水槽で飼育している、ゴール
    デン・タイプ依りも太く、かつて、A.L誌等に書かれていた

        『オレンジ・タイプは、体型が細長く、ゴールデンとは別種の可能性が
        ある』

    等と言うのが、幼魚の姿しか知らない評論家の、早トチリで在る事がハッキ
    リしてきた。


◆成熟を待つ。

      今までに、数回、ペアリングを試み、失敗しているが、アフリカン(湖
    産)シクリッドとか、ディスカスでも、普段は相手を殺す様な縄張り意識の
    強さが有っても、雌が体内で卵が成熟し、繁殖のタイミングに近付くと、仲
    良くなると言う例があるので、アロワナも、抱卵すれば、ペアリングをやり
    易かろうと判断し、2匹の中、どちらかの腹が膨れ、抱卵したと解るまで、
    ひたすら待つ事に決めた。


◆強くなった食欲。

      この病気の後、アロワナは、食欲が細くなり、鶏の心臓は殆ど食わず、餌
    金だけを食うようになったが、「小赤」と呼ばれる小さな金魚を2日に1匹
    くらいしか食わなかった。

      サイズは、体長53cmにも成っており、サイズ的な成長が殆ど止まった
    ので、運動量も少なく、必要エネルギが小さくなった物と思われ、特に心配
    もしなかった。

      処が、90年の初頭より、様子が変わってきた。
      極端に、餌を沢山食べる様になったのである。
      また、私はディスカスを繁殖させ、PDFと称して、希望者に無料配布し
    ているが、成長の遅い物、体型が良くない物など、人に配ると私の名前に傷
    が付きそうな物は、淘汰の対象とし、これをアロワナに与えたが、以前の経
    験では信じられない様な大きなサイズの物を飲み込んだ。

      10cm位有るディスカスでも、縦に咥える事が出来れば、飲み込む事が
    出来、90年の春は、殆ど毎日、10cmサイズのターコイス・ディスカス
    を食べていた。


◆喉の構造。

      アロワナの喉は、口の大きさに比べて、比較的細いと言われており、事
    実、余り大きな餌を飲み込むのは苦手な様であるが、アロワナの喉の構造に
    就いて、観察した結果を述べて置く。

      喉の部分は、上と左右は頑丈な骨があり、広がる事が出来ないが、下の腹
    側は固い骨がなく、自由に延びるので、単純に太い餌と言うのは、飲み込む
    事が出来ないのに反し、ディスカスやエンゼルの様に横幅の無い魚で有れ
    ば、横向きに咥えた時、口から左右にはみ出すようなサイズで有っても、上
    手に縦向きに咥え直すと、喉の下の方が伸びて、信じられない位大きな物を
    飲み込む事が出来る。


◆一層の体型変化。

      体型は、更に変化し、上下の高さが見違えるほど高くなり、十分に成熟し
    ていると推定できるが、雌で有れば、抱卵して腹が膨れてくるであろうと期
    待したが、目だった膨らみは無かった。


◆鮮やかな体色。

      それと同時に、体色が一段と鮮やかになり、鱗の縁どりは、オレンジを通
    り越し、赤い色になった。
      また、鱗の根元のダーク・グリーンの部分が白っぽくなったので、一層赤
    味が強く感じられた。

      今思い返してみると、あれが婚姻色の美しさであったのかと、納得でき
    る。


◆突然の変調。

      90年8月の初め、6cmサイズのディスカスが死んでいたので、これ
    も、例に依ってアロワナに与えた。
      死んだディスカスは、既に硬直していたが、何の苦もなく、一飲みで、飲
    み込んだ(何しろ、今までに、この2倍くらいの生きたターコイス・ディス
    カスを度々食わせていた)。

      このころ、アロワナの行動が少し変わった。
      アロワナの水槽には、20cmサイズのトリニダート・プレコが同居して
    おり、これが水槽のガラス面に着くコケを綺麗に掃除してくれており、アロ
    ワナは、これは餌と認識しないのか、全く相手にならなかったのに、最近
    は、プレコの尻尾を咥えて、移動しているような場面を目撃する事が多く
    なった。
      しかし、食べようとしている様子はなかったので、放置して置いた。

      8月初旬、5匹与えた餌金が2匹生き残り、泳いでいるのに、食べようと
    もしない事に気がついた。
      それと同時に、最近、時々アロワナに虐められていた、プレコの姿が見え
    ない事にも気がついた。

      プレコと言うのは、体の断面が比較的丸いので、アロワナの横に伸びない
    喉を通り難く、飲み込める筈が無かったが、万一プレコを飲んで、喉に詰
    まって居る恐れがあったので、水槽内を点検したところ、飾りの石の陰で、
    プレコが死んでいた。
      プレコの姿は、原型を止めており、アロワナが食べようとして、齧ったよ
    うな傷は無かった。

      しかし、それ以後、アロワナは全く餌を食わず、興味も示さなかった。
      また、飼い主である私に対する態度が大きく変化した。
      もう1匹のアロワナは、手乗りであり、飼い主に慣れているが、このオレ
    ンジ・アロワナは、手を嫌い、触られると逃げたり、ガラスの外から手を近
    付けただけでも、避けようとしていたのが、全く変わり、水槽の前に立つ
    と、寄ってきて、飼い主の手を避けなくなった。

      変化はそれだけでは無かった。
      時々、口を開け、何かを吐き出そうとしていた。
      これは、従来から何度も経験している事であるが、今度は少し様子が異な
    り、苦しそうに頭を左右に激しく振りながら、吐くような行動を見せ、実際
    には何も出て来なかった。
      激しく頭を振る度に、水槽のガラス面や流木に、『ゴツン、ゴツン』と言
    う音を立てて、ぶつかり、そのショックで、かなり大きな石まで、動いてい
    た。


◆目視検査。

      90年9月24日、苦しむ様子は、頻度を増し、30分に1回位暴れ
    て、あちこちにぶつかっているので、黙ってみているのも限界となり、思い
    きって、喉に何が詰まっているかを調べる事にした。

      調べると言っても、気の利いたレントゲン装置などを持っている訳でな
    く、飽くまでも目視検査である。

      ヒーターを止めるキスゴム等を飲み込む事も考えられない事はないが、喉
    に刺さっていない限り、いずれ上手に吐き出すはずであり、ホネの様な物が
    喉に刺さっている事しか予想できない。

      前に死んだプレコは体が欠けて居なかったので、食べていない事が解って
    おり、もし、喉に詰まっている物が有るとしたら、ディスカスの背鰭の棘が
    予想される。

      検査は、息子に手伝って貰った。

      下手に机の上などに魚を置くと、暴れた時、床に落ちて頭を打つ恐れがあ
    るので、最初から床の上で作業を行う事にした。

      先ず、床に大きなビニルシートを敷き、バスタオルをぬるま湯で濡らし、
    魚の表皮粘膜を傷つけない様な準備をして置き、魚を掬い出した。

      濡れたタオルの上に置かれたアロワナは、腹鰭を左右にピンと張って、横
    に成らず、恰も泳いでいるかの様な姿勢を保ち、横になるのを嫌がった。

      タオルに包み、無理矢理横向けに寝かせたが、心配していた様には、暴れ
    なかった。

      アロワナの口は、大きな歯が無く、咥えた餌が逃げない様に、細かい歯が
    並んでおり、咬まれても怪我をする心配はない。
      それでも素手で口を開けさせると、痛くて、安定した作業が出来ないの
    で、作業用の、皮手袋を左手に着用し、右手には、先が丸く、魚を傷つける
    心配の無いピンセットを持った。

      もし、棘等が刺さっている事を確認できたら、ピンセットで抜いてやろう
    と言う、極めて原始的な方法である。

      懐中電灯で、魚の口の仲を照らし、調べてみたが、喉をきつく締めてお
    り、外から見える範囲には、何の異常も発見できず、余り長時間いじくりま
    わすと魚を衰弱させる恐れが有ったので、残念ながら、何の成果もなく、検
    査を打ち切らざるを得なかった。

      検査の後、体表粘膜を傷つけ、ここから感染症になるのを防ぐために、エ
    ルバージュを5gr溶かして置いた。


◆絶命。

      90年9月26日、会社から帰って水槽を観察すると、水槽の中が荒れて
    居り、水上で6Kgも有るような石(水中なら、浮力の為に、多少軽いと思
    うが)が場所がズレて居り、アロワナは腹を底に付けて、静かに休んでい
    た。

      呼吸は極めて弱く、もはや泳ぐ力も無かった。
      良く観察すると、目が数mm引っ込み、所謂『目が落ち窪む』と言われる
    状態であった。

      この状態には、見覚えがある。
      即ち、アロワナが、頭を強打するなどの事故で、脳震盪を起こした時に現
    れる症状で、こう成った物は、絶対に助からず、数時間後には確実に死ぬ事
    を、他のアロワナで経験済みである。

      21時位より、何とか泳ごうとして動きだしたが、体の平衡が取れず、
    時々腹を上にしたり、更に、鼻先が底に着いている状態で、尻尾を水面まで
    上げて、逆立ちする様な姿勢になり出した。
      呼吸が弱々しいので、少しでも楽になるようにと、エアレーションを強
    め、魚の腹の下に手を入れて、フィルターの吐き出し口の近くに口が向く
    ように支えていたが、23時30分、完全に呼吸が止まり、絶命した。

      以前より、このオレンジ・アロワナは、死んだら剥製にして残したいと
    思い、専門業者に尋ねたところ、

        『鳥や獣と違い、魚はキズが隠せないので、腹を開かず、口から、長い
        ナイフを使って、内臓や肉を取り出す必要があり、経費は30万円くら
        い掛かる』

    と、聞いていたので、剥製にすべく、取り出した。

      水槽から取り出した死体を、新聞紙を広げた上に寝かせ、前から気になっ
    ていた喉を観察した。
      今度は、暴れる心配もなければ、喉を傷つける事を恐れる事もないので、
    最大限に口を開かせて、箸を使って、喉の部分を広げて見たが、何の異常も
    観察出来なかった。


◆解剖。

      しかし、死因を確かめない事には、納得できず、アロワナの死も無駄にな
    ると思ったので、剥製にするのは諦め、解剖する事にした。

      先ず、内臓の状態を確認する必要があるので、内臓を傷つけない様に腹を
    開く必要があり、右の胸鰭のすぐ後ろの部分を脊椎の近くまで、切り込み、
    喉の後ろから、肛門の処まで、腹の中正線に沿って、良く研いだ刺身包丁
    で、切り放した。

      切り開いたところを、手で左右に広げると、内臓が見える筈であるが、そ
    こに見えた物は、内臓ではなく、鮮やかなオレンジ色のブツブツの塊であっ
    た。

      一瞬、自分の目を疑ったが、それは、一目で、成熟した卵である事が理解
    出来た。

      この卵は、腹腔の空間全体を埋め尽くして居り、腹を開いた状態では、卵
    の他には、肝臓の一部が見えただけで、他の内臓は全く見えなかった。
      卵を取り出すと、胃、食道を観察する事が出来たが、空っぽの胃は、喉の
    部分に押し付けられていた。
      胃と食道を切り開き、内部を観察したが、全く無傷で、何の異常も無かっ
    た。

      結論としては、体内で、卵が発達し過ぎた為に、餌を食えなくなったと言
    う判断を下した。
      最近、1年ほどは、2匹飼育しているアロワナの中、どちらかが抱卵し、
    腹が膨れてきたら、ペアリングの実験をしようと計画し、ひたすら、抱卵の
    時を待ち続けたにも関わらず、その様な兆候が見られず、死んだ後解剖して
    初めて、抱卵していた事を確認できた事は、皮肉としか言い様が無い。

      魚の種類に依っては、体内の卵が発達すると、例え雄が居なくとも、水中
    に卵をバラ撒く魚もいるが(例えば、金魚など)、雌を単独で飼育していた
    為に、産卵出来ずに死なせたと言う事故は、今までに、

      84年  6月13日    メティニス
      85年  1月  9日    パール・グーラミィ
      89年  4月  3日    プッシー・マウス

    と、3度も経験している。

      このうち、死ぬ前から、卵が原因で寿命を縮めたと解っているのは、腹が
    柔らかく、明らかに卵で膨れてきたと解った、グーラミィだけであり、他の
    種類は、何れも、死後、解剖してから確認できた物である。
      今回のアロワナも、解剖しながら気がついたが、腹腔を構成する肋骨と、
    その外の肉が固く、柔らかい卵が発達したくらいでは、決して外見上判断出
    来るような腹の膨らみは、起こり得ない事が解った(何しろ、大きな餌を食
    べても、腹が膨れるのは、2才位迄で、それ以後は、腹の膨らみは殆ど観察
    できない)。


◆記録。

    和名        アジア・アロワナ(オレンジ・タイプ)
    死亡時年齢  推定7才(1983年秋生まれと推定)
          体重  1.97Kg
          体長  53cm
    性別        ♀
    縦列鱗数    22

    体内卵の記録は次の通り。

        a、個々の卵の大きさは、種無し葡萄依りも、少し大きい位。
        b、色は、良く熟したネーブルの皮と同じ、オレンジ色。
        c、卵は弾力に富んだ、薄い皮に包まれており、手で掴み出したくらい
            では潰れないが、非常に柔らかく、皿の上に取り出すと、高さは半
            分くらいの楕円球に成った。
        d、卵の数は、約60個。
        e、これが紐状の卵巣に葡萄の房のような形で、つながっていた。
        f、全ての卵のサイズは、揃っており、未熟卵は無かった。

      処で、アロワナは、マウスブルーダで有る事が知られているが、口腔の空
    間容積と、取り出した卵の体積を観察すると、これだけの卵が一度に産卵さ
    れた場合、1匹で全ての卵を咥えるのは少し無理であると思える。
      口に収まる卵の数は、おそらく40粒位では無かろうかと、観察された。

      取り出した卵は、2個程が潰れたが、残りは、35%のホルマリン液を、
    生理食塩水で10倍に薄めた保存液に漬けて、保存処置を採った。


◆鱗と体色の関係。

      アジア・アロワナの、体色と鱗の関係は、金魚などとは少し異なる様であ
    る。
      金魚の「ジキン」の場合、『六色調鱗』と言って、余計なところに赤い色
    が出た時、ピンセット等で、赤い鱗を抜くと、その後に赤い色が出ない、白
    い鱗が再生する事を利用して、独特の色の配置の個体を作り上げているが、
    アロワナの場合、喧嘩や事故で鱗が落ちても、三カ月ほどで、全く元通りの
    色の鱗が再生する。

      この場合、水槽の中から、落ちた鱗を拾い上げてみると、スリガラスの様
    な、透明度の低い無色の鱗で、鱗には色が着いていないのが普通である。
      しからば、鮮やかな体色は、鱗の落ちた後の体表に残っているかと言う
    と、こちらの方は、鱗のある部分とは似ても似付かない、ダーク・ブラウン
    の地味な色をしており、鱗の表面に見られる様な、周辺部を取り巻くよう
    な、模様も無い。

      このアロワナの体色は、鱗と表皮の間の界面で、光が複雑に反射したり、
    屈折する事による、効果かなと、長年、疑問に思っていたので、解剖の時、
    体表中央部の鱗をはぎ取り、観察した。

      その結果解った事は、アロワナの色彩は、鱗の表面の側に、薄い発色層が
    あり、その上を透明な粘膜が保護していると言う事であった。
      腐敗を防ぐために、粘膜を洗い流すと、発色層も簡単に取れて仕舞い、白
    いスリガラスの様な鱗だけが残った。


◆終わりに。

      最近、二年ほど、アロワナが成熟し、抱卵する日を夢見て、ひたすら待っ
    ていたのであるが、目の前の魚が抱卵していると判断できず、死なせて仕
    舞ったのは、痛恨の極みとしか言い様がない。

      今思い返してみると、まるで、自分の目の前の青い鳥が見えず、遠くを捜
    していたのと、同じ様な事をして仕舞った。

      しかし、アジア・アロワナは、およそ6〜7才で成熟し、抱卵する事が確
    認出来た。

      現在、私の手元には、アジア・アロワナは、今回死んだ者と同じ年齢の者
    が一匹残っているだけであり、繁殖計画の根本的な再構築を迫られる訳であ
    るが、この記録が、現在、繁殖を計画している方の参考になればと思って、
    ここに公開する事にした。
      読者の皆さんの、役に立つ事が出来れば、幸いである。

                                    (アジア・アロワナの解剖記録 終わり)
                                            1990年09月      可良時寿子

                        動物&植物の国 ライブラリー より転載