#30 ディスカス>Joy of Discus       可良時寿子
可良時寿子 ID:KBB53931

◆プロローグ

  誰もが一度は自分の水槽に泳がせて見たいと思う美しい魚に、ディスカス(現地
名カラジスコ)が有りますが、このディスカスはエンゼルフィッシュの親戚の癖に、
実際に飼って見ると以外と難しい面が有り、一度は手を染めても二年位で諦めて
しまう方が多い様です。
  これからディスカスを飼育しようと考えている方は、人が飼っているから自分
も、と漠然と飼うので無く、何の為に飼うのかと言う目的をはっきりと決める必
要が有ります。  第一の目的は、繁殖をさせてお金儲けをしようとするものです
が、この場合は、ベアータンクで毎日ジャブジャブと水換えをする、プロの方法
の真以です。この場合はディスカスの美しさを楽しむことは諦めて下さい。
  もう一つの方法は、美しく茂った水草の間をゆったりと泳ぐディスカスの美し
さを楽しみ、繁殖を従に考える飼育法です。この場合でも良い種親のペアさえ有
れば時たま繁殖させることが出来ます。プロの様に大量に繁殖しなければ面白く
無いと言う方がいるかも知れませんが、小はネオンテトラから大はピラルク迄、
繁殖を無視して楽しんでいる魚は沢山有ります。
  ディスカスの飼育を計画している方は、この二つの途の内、どちらを選ぶかを
初めにしっかりと決めておかねばなりません。
  私の場合は、水草も底砂も無い、安売りショップの様な水槽を我が家に持ち込
みたく無い、今更ディスカスを繁殖させてもお金持ちには成れない、余り手間を
かけたく無い、ディスカスの美しさを楽しみたい、等の理由で水草とディスカス
の共存を目指し、プロとは一線を画した飼育をしています。
  かく言う私も、今までに沢山の魚を冥府に送り、水草を枯らし、自分でも呆れ
る位の高額な授業料を払ってきて、今でこそやっと、ディスカスは丈夫で飼い易
い魚だと言える様に成り、ペンネームも『可良時寿子』と名乗り、ディスカスに
狂っています。
  これからディスカスの飼育を始める人が、私と同じ様に高い授業料を払わなく
とも済む様に、鑑賞を主眼としたディスカス飼育のKnowHowを何回かの連
載で公開したいと思います。鑑賞よりも繁殖を主眼に飼育したい方は、プロの方
法を参考にして下さい。


◆水槽の準備

  これからディスカスの飼育を始めようと計画している方は、水槽を2本以上用
意する必要が有ります。
  ディスカスのサイズの4〜10cmを幼魚、10cm上を成魚と仮に分けておき
すが、この幼魚と成魚では飼育温度が全く異なり、これが同じ水槽では、なかな
かうまく行かないからです。
  幼魚には45〜60cmの水槽、成魚には75cm以上の水槽を用意して下さい
  これから初めて幼魚を飼育しようと言う方は60cmの水槽一本でも良いでしょ
う。
  フィルターは外部(上部)フィルターをメインに、底面フィルターをサブに二
立てとし、外部フィルターの濾材はカルチャリングを使いますが、これだけでは
隙き間が多すぎ、水の濁りが取り難いので、フィッシュストーン、或は粗めの大
磯を少し混ぜて下さい。
  パワーフィルターのエーハイムNo.2015クラスで有ればカルチャリング2
5Kgに、フィッシュストーン1Kg位を入れてやります。
  底面フィルターには大磯を4〜5cmの厚みに敷きますが、新しい砂で有れば硝
化バクテリアが発生し、魚が飼える様に成るまでに一週間位かかりますから、既
に魚を飼っている古い水槽から取り出した砂を混ぜておくと、すぐに魚を入れる
事が出来ます。
  いずれの場合もサンゴ砂は混ぜない方が良い様です。
  外部フィルターの濾材は数ケ月に一度洗いますが、この時水道の水で洗うと、
そこに含まれているカルキの為に貴重な硝化バクテリアが死んでしまいますから、
魚を飼っている水をバケツに汲み出し、軽く洗うだけにします。
  底面の大磯は週に一度の水換えの度にサイホンを使って大きなゴミを取り出す
と共に、砂の中の水の循環を図ります。
  フィルターの役割は目に見えるゴミを取ることよりも、魚の排泄物であるアン
モニアを、硝化バクテリアの働きに拠ってアンモニア ⇒ 亜硝酸 ⇒ 硝
することに有ります。この硝酸は最終的に水草に吸収させるか、水換えに拠り、
水槽の外に取り出してやらねばなりません。
  水換えは一週間に1〜2度の割合で定期的に行い、一度に約50%の水を換え
ます。プロの場合はフィルターを使わずに、毎日水換えを行うことに拠り水質を
維持しますが、フィルターを使いながら余りにも頻繁な水換えをすると硝化バク
高


◆温を好むディスカス

  一般に熱帯魚の飼育に適した水温は22〜27℃で有り、我が国の夏には水温
が上がり過ぎて困りますが、ディスカスは他の熱帯魚よりも高温を好み、成魚が
産卵するのに適した水温は28±0.5℃で有り、26℃迄水温が低下すると食
欲が極端に落ち、色も冴えなく成りますから飼育水温は28℃を維持する様にし
ます。
  しかし、これは成魚の場合で有って、10cm以下の未成魚になると30℃位、
4〜5cmの幼魚になると、うまく育てる為には32℃、欲を言えば33℃の高温
で飼育してやる必要が有ります。
  勿論、4〜5cmの幼魚でも28℃の低温で飼育することも不可能では有りませ
んが、餌を食う量が少なく、成長が遅く成るので失敗し易く成ります。
  ディスカスも10cmを超えるサイズに成ると、何をしても死な無い様にタフに
成りますが、問題は4〜5cmの幼魚に有ります。危険な幼魚期を健康に無事に乗
り切るコツは餌を沢山食わせて速く大きくしてしまう事です。
  33℃で飼育されたディスカスは、28℃で飼育されている場合に比べ2〜3
倍の餌を食べ、極めて健康な体色を見せてくれます。ディスカスはよく喧嘩をす
ると言っても、それは同じサイズ同士の話で有って、10cmの魚と5cmの魚では
お互いに相手を無視しますから、混泳させることも出来そうですが、最適温度が
異なると言う理由で、成魚と幼魚は別々の水槽で飼育するのが望ましいと言えま
す。
  これだけの高温を電気ヒーターで維持しょうとすると、冬の間の電気代も馬鹿
に成らないので、節電の為に水槽の下には発泡スチロールの板を敷き、両サイド
と後ろには黒色のフェルト、或はラシャ紙を外から張り付けます。これは、保温
と同時に魚に落ち着きを与える効果が有りますから是非実行して下さい。底に敷
く物は白くても、底砂が入っているので問題有りません。
  ディスプレィを考える時、最も高温に耐える水草はA・ナナの仲間ですが、こ
れとても30℃が成育の限界で有り、幼魚の水槽に植えられる水草は有りません
から、幼魚の水槽のディスプレィは石と流木だけしか使うことが出来ません。石
や流木の下には排泄物が沢山たまりますから水換えの時に石や流木を動かし、サ
イフォンでしっかり掃除をして下さい。


◆水質維持と水換え

  ディスカスを健康に飼育する為には、
        弱酸性の軟水、
        亜硝酸濃度の低い奇麗な水
が必要と言われていますが、硬度に関しては我が国の上水道は全て中性の軟水で
すから、フィルターや底砂にサンゴ砂を使っていない限り、何も気にする必要が
有りません。
  魚を飼って餌をやっていると当然の事として、排泄物のアンモニアが飼育水中
にたまりますが、プロの場合は一日数回の水換えに拠ってアンモニア濃度の低い
水質を維持します。
 しかし、これは一般の学生やサラリーマンにとって、はとても真以の出来る事
では有りません。
  例え、毎日一回の水換えとしても一ケ月もたてば嫌になり、趣味のはずのディ
スカス飼育が苦痛に成り、長続き出来ずに、途中で投げ出す羽目になるのが落ち
です。
  そこで、私達アマチュアは水換えの間隔を伸ばし、出来るだけ少ない水換えで
済ませる様にフィルターのお世話になります。
 フィルターの濾材に住み着いた硝化バクテリア(ニトロソモナスとニトロバク
ター)が、排泄物をアンモニア → 亜硝酸 → 硝酸と分解してくれ、最
は水草に吸収させます。
 これをバランスドアクアリュームの思想と言いますが、ディスカスの様な大メ
シ食いでは排泄物が多すぎて、水草だけでは吸収しきれ無いので何時かは水換え
に拠って、この硝酸を水槽から外に出してやる必要が有ります。
  バクテリアは水換えの頻度に応じて安定して来ますから、この水換えは週に1
〜2回、自分のペースを決めて、それを守って下さい。
  最も良く無いのは、気が向いた時には一週間程毎日水換えをし、次の一週間は
何もしないという気まぐれです。これをやるとバクテリア相のバランスが崩れ、
何時まで経っても水質が安定しない事に成ります。
  水換えはサイホンで大きなゴミを吸い出した後、半分の水を捨て、温度を合わ
せた水を入れます。この時、別の水槽に汲み置き、カルキを抜いた水を使えれば
理想ですが、そこまでする必要は無く、湯沸かし器にホースを繋ぎ、温度を合わ
せ乍ら、直接水槽に注ぎ込んで下さい。
  この時、魚に与えるショックを小さくする為に、新しく注入する水の温度は現
在の飼育水温より1℃だけ高く調整して置くのがコツです。
  このままですと、水道の水に残留しているカルキの為に魚が鼻上げを起こしま
すから、水を注ぎ込みながら適当な量のハイポを水槽に投入してやります。


◆Ph(ペーハー)の話

  水質を論ずる時に、硬度の他、Ph(ペーハー)という言葉がよく使われます
Phは水の化学的な性質のひとつの指標で有り、Ph7が中性、7以上がアルカ
リ性、7以下が酸性であることを示しています。
  ディスカスの飼育に適した弱酸性の水と言うのは、排泄物が分解された結果で
ある亜硝酸、硝酸が少ししか含まれていないと言うことであり、アンモニアはア
ルカリ性ですが、硝酸は酸性ですからPhを測定することに依り水質の目安を付
ける事が出来、最近はアマチュアでも手軽に使えるディジタル式のPhメータが
各社より販売されており、誰でも手軽にPh測定が出来る様に成りましたが、こ
の為に過ったPh信仰さえも生じているようです。
  水の汚れと共にPhが下がるのは、硝化バクテリアが正しく働いて、排泄物の
アンモニアを硝酸迄分解してくれた時の話であって、硝化バクテリアの発生が不
十分な水槽では幾らアンモニアが蓄積してもPhが下がらないので、Phだけに
頼っていると水質の悪化を見逃す失敗をします。
  また、Phは水中の水素イオンH+の濃度の対数を示していることに注意をし
てください。詰まりPhが1下がる毎に水中に溶け込んでいる酸性物質は10倍
になりますから、Ph5の水はPh7(中性)に比べて100倍の酸性物質が溶け
込んでいることに成ります。
  Phを上げる手近な物質としてはアンモニア(魚の排泄物)、サンゴ砂の他、
換えの時に使うハイポ(Na2S2O3・H2O)が有りますから、
言っても、必ずしも硝酸濃度の低い綺麗な水という保証にはなりません。
  詰まり、硝化バクテリアが正しく働き、排泄物が順調に硝酸まで分解されてい
ても、濾材にサンゴ砂を混入していたり、水換えの時に過剰のハイポを投入して
いると、硝酸が蓄積し、水質が悪化しているにもかかわらずPhが7に近いと言
う現象が避けられません。
  それにしても、アクア業界のPhメータの値段の高いこと。理化学機器店で化
学技術者向けのディジタルPhメータを買えば¥15000も出せば良いのに、
それと全く同じ製品がSAMOAと言うブランドを印刷しただけで1万円以上も
高く成るんですからね。
  アクアリストは世間知らずの好い『カモ』だと思われている様です。
  『全国のアクアリストよ、もっと賢くなろう!!』


◆購入時の選別

  ショップに行くと沢山のディスカスが優雅に泳いで居り、目移りがしてどれを
買ったら良いのか選択に困りますが、一目で分かる奇形が有るのは論外としても、
買って一週間や二週間で殺してしまわない様に、病気を持っていない、健康な個
体を選別しましょう。
        頭に穴が開いている、
        鰭が欠けたり溶けたりしている、
        鰭を畳んでいる、
        呼吸が速く苦しそう、
        体色が異状に鮮やか、
        体色が黒ずんでいる、
        腹が異状に膨れている、
        痩せている、
等の欠陥がある個体は、幾ら色が美しくとも購入してはいけません。
  ディスカスは元々平べったい体付きをして居るので、痩せているかどうかが見
分けにくいのですが、頭(目の上)の部分がフックラと厚みのある個体を選んで下
さい。
  また、外見上問題が無くても、一尾だけポツンと群れから離れている個体も、
内臓、或は鰓に何等かの病気を持って居り、死ぬのは時間の問題ですから、兎に
角、先を争って餌を良く食べる、健康な個体を選んで下さい。
  餌を良く食べるかどうかは、ショップのおやじさんに頼み、目の前で餌をやっ
て貰い、先を争って食べに来るかどうかを観察する必要が有ります。
  こんな事を頼むと、不良個体を売り付けることが出来ないので嫌がるショップ
もたまには有る様ですが、こんなショップでは、購入するのを止めましょう。
  次にターコイスディスカスの色に就いて少し述べて見ましょう。ショップを覗
いて見ると、実に様々な名前のターコイスディスカスが売られて居ますが、どれ
も薬品(雄性ホルモン)を使ってベタ青に色揚げされ、業者によって、好き勝っ手
に売れそうな名前を付けるものですから、名前に依って将来の色が決まると思っ
ているとひどい目に会わされます。
  ターコイスと言っても名前ばかりで、将来の仕上がりがRRB以下の物も有り
ますが、こんなのは論外として、大きく分ければストライプと、ベタ青に成るフ
ルボディが有り、最近は特にフルボディに人気が集まっている様です。見分け方
としては、
        頭、尻鰭にストライプ模様の出ているもの、
        鰓蓋のブルーが不完全なもの、
        腹鰭のブル-ラインが細いもの、
は将来ストライプ模様に成り、ベタ青には成りません。
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 と言っても、これらの見分け方が通用するのは、ブラウンの地肌の色が残るよ
うに、節度を持って色揚げされている場合で、最近のホンコン産に見られる様に
全身を青いペンキの中に漬けた様に、強力な色揚げをされると何も解りません。
 また、この様な過度のホルモン投与は、その後全く成長しないと言う、強烈な
副作用がありますから、こんな個体は買わないようにして下さい。
(89年6月に補足)
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◆主食は手造りハンバーグ

  ペットに餌をやる時が飼い主にとって最も楽しいひと時ですが、皆さんはディ
スカスにどんな餌を食わせていますか。
 ディスカスと言う魚は凡そ何でも食べる、雑食性の強い魚ですが、やはり、健
康に育てる為には餌にも気を配ってやりたいものです。
  糸ミミズは動くので、ディスカスが興味を示し良く食べてくれますが、これは
とても不潔な餌であり、ヒル、プラナリア、ヒドラ、ミズミミズ等を水槽内に持
ち込む元凶であり、続けてやっていると半年もしない内に魚が病気になって、下
手をすれば大切なディスカスが死んでしまいます。
  清潔で、ディスカスが良く成長する餌と言えば何と言っても”ディスカスハン
バーグ”が最高です。これを冷凍した物がショップに売っていますが、値段が高
いので、ここは可愛い愛魚の為に手造りして見ませんか。
  ショップで売っているハンバーグは牛の心臓(ハツ)を主成分にしたものです
ハツで作ると水の中でバラケ易いので鶏の心臓を使うことにします。
  材料は
        鶏の心臓500g、
        鶏のレバー100g、
        クリル10g、
        食塩2gです。
  鶏の心臓500gは筋と脂肪を取ると400g以下に成ってしまいます。クリ
ル10gは指で擦り潰し粉にします。食塩を入れることに依ってハンバーグに粘
りを与えます。
  全ての材料をクッキングカッターに3〜4分掛けてドロドロのペースト状にし、
これを適当な大きさに分けて、アルミホイルに包み冷凍します。これを凍結した
まま一回分の大きさに切り分けておき、使う分だけを、その都度解凍して与えて
下さい。
  餌をやる量ですが、一般に良く言われている、5分位で食べ切る量と言うのは
ディスカスに関しては全く少な過ぎ、こんな言い伝えを守っていると、全てのディ
スカスはガリガリに痩せてしまいますから、少なくとも30分位で食べ終わる量
を、一日に3回位やって下さい。
  幼魚の間はあまり植物性の餌をやっても食いませんが、成魚になると植物性の
餌を良く食うので、体調を維持する為にも、植物性のフレークフードや、柔らか
い水草の葉をやるのが良いと思います。
 水草は、アポノゲトン・ウルバケウスの葉などをやると特に喜ぶ様です。
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 その後、水草が無くとも植物性の繊維質が欠乏しない様に、米糠や、ビタミン
剤等を配合した、新しいハンバーグの作り方が、この図書室に書き込まれていま
すから、ハンバーグを作る方はそちらの記事を参考にして下さい。
(89年6月に補足)
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◆喧嘩と拒食症

  ディスカスが餌を食う所をじっくりと観察してみると、小型カラシンの様に、
す早く餌の所に飛んできていきなり「パクッ」と口に入れる様な食べ方をせず、
先ず、ゆっくりと目で『楽しんで・・?』から、おもむろに口に入れます。
  3〜4尾のディスカスを飼っていると、餌を眺めている時に横から頭をつつか
れて、餌を食べられ無い個体が必ず出てきます。いじめる方も餌を横取りしたい
訳では無く、ただ、『イケズ』(京都の言葉で意地悪のこと)だけをしている様に
見えます。
  イケズをしている様に見えるので、相性が悪いのだろうと考え、仕切りをした
り、組み合わせを変えて見ても根本的な解決には成りません。
  ショップで餌を良く食っていた個体でも、こういう状態が一週間も続くと水槽
の隅の方にいじけてしまって、しまいには餌をやっても近寄ってこなくなり、無
理やり口の前に餌を持って行っても全く受け付けず、最後には骨と皮だけに痩せ
て飢え死にしてしまいます。
  これは、ノイローゼから来る拒食症ですが、ショップで何とも無かった健康な
個体が、自分の家の水槽で拒食症に成るのは、水槽の中のディスカスの数が少な
過ぎるからです。
 要するに、ショップの水槽の様に、多数の個体をぎっしりと詰め込んで、過密
に飼育すれば、縄張り争いが出来なくなるので、拒食症は簡単に防げますし、ま
た、其れ以外に拒食症を予防する、簡単でかつ有効な手段は有りません。
  60cm水槽で体長7cm以下のディスカスを飼育するとすれば、喧嘩に拠る拒
症を予防する為には、少なくとも同サイズのディスカスを7尾以上、もっと欲を
言えば10尾以上入れてやる必要が有る様です。
 また、ディスカスは他の個体が餌を食べているのを見ると、我も々と先を争っ
て餌に飛び付く癖が有る為に、7尾以上の詰め込み飼育をしてやると、一尾だけ
で大切に飼育するよりも遥かに良く餌を食い、全ての個体を速く、健康に成長さ
せることが出来ます
  そうは言っても、貧乏アクアリストが値段の高いターコイスディスカスを七尾
以上もまとめて買うのは大変ですから、値段の安いブラウンで数を合わせて下さ
い。
 この時、ターコイスよりも、ブラウンのサイズを少しだけ小さくしておくのが
ターコイスをうまく育てるコツです。
  ブラウンディスカスも買えないと言う方は、同じ南米シクリッド科のエンゼル
フィッシュで誤魔化すことが出来ます。
 しかし、この場合はエンゼル二尾を、ディスカス一尾に換算して下さい。


◆病気の治療

  ディスカスというのは意外と丈夫な魚で、日頃の世話さえしっかりと出来てい
れば滅多な事では病気にはなりませんが、ショップに居る時から既に病原菌を持っ
ている個体も稀れには有ります。
  熱帯魚を飼育する時の最もポピュラーな病気で有る白点病は、高温に弱く、2
8℃以上になると菌が死滅してしまうので、ディスカスの場合は28℃以上の高
温で飼育されて居ると言うのが普通ですから、この温度が守られている限り、決
して罹かりませんが、其の他にも、魚の命取りに成る様な病気もいくつか有るの
で、罹かり易い病気と其の対策を陳べておきます。

  1、ヒレグサレ。これは各鰭の先が白くなり、そのうちに先から溶けて来るも
        のですが、フィルターの汚れを点検し、水換えをし、メチレンブルーを
        投入してやります。大体こんな病気が出るのはアクアリストの恥です。
        日頃の手入れが出来ていないことを反省し、懺悔して下さい。

  2、エラ病。鰓に寄生虫が付き呼吸障害を起こしますから、呼吸が速くなって、
        そのうち、水面近くを漂うようになります。対策としてはバケツ一杯の
        水(10リットル)にホルマリン1ccを溶かして、温度が下がらな
        注意しながら1時間の薬浴をさせます。
         ホルマリンの購入には印鑑が必要です。飼育水槽中に直接ホルマリン
        を投入するとフィルターの硝化バクテリアが死滅し、最悪の事態を招き
        ますから、必ず別の容器を用意して下さい。

  3、内臓疾患。症状としては餌を食わなくなり、暫くすると白いフワフワとし
        た糞をし、そのうち体色が黒くなり、虐められても居ないのに全く餌を
        食わずに、痩せて死んでしまいます。
          ディスカスを飼育している者にとって最も恐ろしい病気です。見掛け
        は単なる消化不良の様ですが、腸にヘキサミタと言う寄生虫が発生した
        為に起こる病気ですから、殺虫剤が必要です。対策としては『リフィッ
        シュ』を水槽の水100リットルに対して0.5g投入し、24時間後
        に50%の水換えを行い、更に其の後一週間、水温を35℃迄上げてや
        ります。
         水温を上げておくと餌を食う様に成るので、回復を確認すればゆっく
        りと時間をかけて元の水温迄下げて下さい。

  これ等の病気は、新しく購入した個体に依って持ち込まれることがよく有りま
す。いずれの治療も薬の量を間違えると魚を殺すことに成ります。
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 最近、わが国のディスカス愛好家に最もひどい被害を発生させた病気は、ホン
コンから持ち込まれた、「ディスカスのエイズ」と呼ばれる、強力な伝染性の、
致死率が極めて高い病気ですが、この記事を連載しているときには、この病気は
未だ知られて居ませんでした。
 「ディスカスのエイズ」の治療法に就いては、別の記事を参照して下さい。
(89年6月に補足)
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◆グリーン・ディスプレィ

  ディスカスも10cm以上のサイズに成長すると、水温を28℃迄下げることが
出来ますから、水草との共存が可能と成ります。実際、美しく茂った水草の間を
縫って悠然と泳ぐディスカスは、一段と体色が冴え、『泳ぐ宝石』と言う名に相
応わしいものです。
  しかし、28℃と言うのは水草にとっては成育の限界に近い高温で有り、植え
られる水草の種類は極めて限られたものとなりますから、ディスカスの原産地で
有るアマゾン産の草だけにこだわることは出来ません。

1、石、流木に付着する水草。
        アヌビアス・ナナ、
        バルテリー・バー・バルテリー、
        ミクロソリゥム、
        ウィローモス、
        等が使えます。
          このうち、ナナ、バルテリーは最も高温に強く、30℃位迄耐えられ
        成長を続けることが可能です。

2、底砂に植える水草。
        ラッフルソードプラント、
        アポノゲトン・ウルバケウス、
        タイガーロータス、
        タイガーロータス・レッド、
        バークレア、
        ウオータースプライト
        等が使えます。
         このうち、タイガーロータス・レッドは28℃のディスカス水槽に植
        えられる唯一の『赤い水草』です。

  水上葉だけを見るとラッフルソードにそっくりなアマゾンソードは、高温でい
じけてしまって、大きな葉を出させることは出来ません。アポノゲトンは葉が柔
らかいので、ディスカスの成魚は好んで良く食べますから、まとめて植えておか
ないとアッと言う間に丸坊主にされてしまいます。
  ウオータースプライトが元気に次々と新葉を展開してくれる様で有れば、Ph
はほぼ弱酸性ですから、Phメータの代用にも成ります。
  底砂が厚過ぎると、砂の中の水が腐敗し易くなるので、大磯の厚みは水草が固
定出来る最小限度、3〜4cmに止どめて下さい。
  ディスプレイ上の注意点としては、ディスカスの泳ぐスペースを狭めない様に、
水槽の側壁と水草の間をディスカスが泳げる様に空間を空け、側壁から少し離し
た中央寄りにまとめて植えて下さい。


◆ペアリング,繁殖

  ディスカスの成魚を5〜6尾以上まとめて飼育していると、2尾がペアを組ん
で他の個体を攻撃し、水槽の一角に縄張りを主張する様に成ると、待望のペアの
形成です。
  なお、たとえ雌雄が居ても10尾以上の過密水槽の中ではペアの形成が難しい
様で、ペアを形成させるので有れば、5〜6尾で飼っている方が良い様です。
  ペアが出来上がった様であっても、慌てて隔離せず2〜3回は雑居水槽のフィ
ルターパイプ等に卵を産み捨てにさせ、其の後、60〜75cmの繁殖専用水槽を
用意してやります。
 と言っても、これは余程運が良い時の話で有って、購入する時に、
        大きい、
        餌を良く食う、
        色が綺麗な、
個体ばかりを選別していると、こういう個体は大体雄が多い様で、下手をすると
雌が一尾もいないと言う不幸なことも、稀れに起こります。
  ショップに入荷したばかりの群れの中から一番素晴らしい個体を一尾選べば、
まず、其の個体は雄と考えても間違い無いでしょう。
 逆に、同時に入荷した中から半分以上売れてしまった残りの個体の中から選ぶ
と、雌の確率が極めて高いので、購入しょうとしている個体は、何尾仕入れた中
の残りで有るかショップの人に尋ねてみる必要があるでしょう。
  なお、ディスカスとエンゼルフィッシュは昔からペアの絆(ペアボンディング)
が強く、余程気に入った相手でないと繁殖しないとか、気に入らない相手は殺し
てしまうとか、誠しやかな伝説が言伝えられている様ですが、これは、素人を感
心させるためか、繁殖が難しいぞと思わせて、勿体を付けるためにデッチ上げら
れた伝説で、実際のペアボンディングは世間で言われている程強く無く、適当に
雄、雌、を各一尾選び専用の水槽に隔離してやると、余程気に入らない相手で無
い限り、一緒に産卵する様です。
  尤も、産卵するということが、即仔魚の繁殖を意味するので無い所がディスカ
スの難しい所で、卵や仔魚を食べる癖のある親が多いので、成功する迄アレコレ
とペアの組み替えを試してみる必要が有ります。
  卵や仔魚を食べる癖の有る親の為に、産卵筒にかぶせる金網等も販売されて居
る様ですが、私の経験に拠れば親魚が卵等を食べようとする時は、金網をかぶせ
て有っても頭突きをかませて金網を動かしてしまいますから、殆ど実用の役には
立たない様でした。
  こんな場合、プロで有れば卵を取り出して人工繁殖をするのですが、我々アマ
チュアの場合は二週間もの間、一日中付きっ切りという訳にも行かないので、良
い種親に巡り遭わなければどうにもならない様です。
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 ディスカスの繁殖に関しては、『ディスカス繁殖記』をお読み下さい。
(89年6月補足)
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◆エピローグ

  この連載も今回でちょうど一年に成り、お別れの時が来ましたが、今頃は会員
の皆様の水槽にも沢山のディスカスがその美しさを精いっぱいディスプレィして
いる事と思います。
  熱帯魚は一般的に原種が貴ばれる中で、エンゼル、グッピー、ディスカスは、
人工的に改良された、原種には無い美しい物が飼育されています。
  この中でもディスカスだけが、雄性ホルモン、その他で人工的に色揚げされた
ものが当然の様な顔をして販売されるという、非常に特異な商習慣が罷り通って
います。
  更に、ターコイス系に著しい事ですが、実に様々な名前を輸入業者や卸業者が
勝手に付けて、名前と魚の特徴が全く結び付かないと言う混乱ぶりは、ディスカ
ス以外には見る事の出来ない嘆かわしい悪習といわねばなりません。
  しかし、こういう悪習を業界に定着させてしまったのも、元はと言えばホルモ
ンで色揚げをし、新しい名前さえ付ければ良く売れるという実態が有るためであ
り、こういう物にお金を払うアクアリストがいる限り、業者は悪習を改めるとは
思えません。
  特に残念でならない想いをしたのは、金沢に在る、全国的にも名の通ったディ
スカス繁殖業者の所へ見学に行った時、ここの魚が仔魚から中サイズ迄、全ての
個体がホルモンに依って強烈な色揚げがなされていたことです。そのくせ、同時
に展示されていた親サイズの個体はいずれもRRB(レッド・ロイヤル・ブルー)
か、それに少し毛の生えた程度の物ばかりでしたから、ギラギラと色揚げされた
仔魚達の将来も、大体の見当を付けることが出来ました。
  もう少しディスカスの固定化が進み、全ての仔魚がターコイスの名前に相応し
く、美しく成長しますという自信の有る品種が固定出来れば、業者も色揚げをし
ない個体を自信を持って販売する様になると思いますが、それ迄は私達自身がディ
スカスを見る目を養い、悪い物は買わないという自衛をするしか無いと思います。
  最後に勝手なことを言わせて貰いましたが、長い間の御愛読有り難う御座居い
ました。
                                      (Joy of Discus )
                                       1987年01月       可良時寿子

                  動物&植物の国 ライブラリーより転載