Quatation:引用文

 

「創世記」 岩波文庫『旧約聖書 創世記』関根正雄訳

 「創世記」第1章 始めに神が天地を創造された。 地は混沌としていた。 暗黒が原始の海の表面にあり、神の霊風が大水の表面に吹きまくっていたが、神が、 「光あれよ」と言われると、光が出来た。 神は光を見てよしとされた。 神は光と暗黒との混合を分け、神は光を昼と呼び、暗黒を夜と呼ばれた。 こうして夕あり、また朝があった。 以上が最初の一日である。

 そこで神が、「大水の間に一つの大空が出来て、 大水と大水の間を分けよ」と言われると、そのようになった。 神は大空を造り、大空の下の大水と大空の上の大水とを分けられた。

 神は大空を天と呼ばれた。 神はそれを見てよしとされた。 こうして夕あり、また朝があった。 以上が第二日である。

 そこで神が、「天の下の大水は一つの所に集まり、乾いた所が現れよ」と言われると、 そのようになった。 神は乾いた所を地と呼び、水の集まった所を海と呼ばれた。 神はそれを見てよしとされた。 そこで神が、「地は青草と種を生ずる草と、 その中に種があって果を実らす果樹を地上に生ぜよ」と言われると、そのようになった。 地は青草と各種の種を生ずる草と、その中に種を持つ各種の果を実らすと樹とを生じた。 神はそれを見てよしとされた。 こうして夕あり、また朝があった。 以上が第三日である。

 そこで神が、「天の大空には明かりが出来て、昼と夜との間を分けよ。 それらの明かりはしるしとして、季節のため、日のため、年のために役立つであろう。 またそれらは地を照すために、天の大空にある明かりとなるだろう」と言われると、 そのようになった。 神は二つの大きな明かりを造り、より大きい方の明かりに昼を司らせ、 小さい方の明かりに夜を司らせ、また星を造られた。 神はそれらのものを地を照すために天の大空におかれた、昼と夜を支配するため、 光と暗黒をとを分かつために。 神はそれを見てよしとされた。 こうして夕あり、また朝があった。 以上が第四日である。

 そこで神が、「水には生きものが群生し、鳥は地の上に、 天の大空の面を飛べよ」と言われると、そのようになった。 神は大きな海の怪物と水の中に群生するすべての種類の泳ぎまわる生きもの、 さらに翼あるすべての種類の鳥を創造された。 神はそれを見てよしとされた。 そこで神は彼らを祝福して言われた、「ふえかつ増して海の水に満ちよ。 また鳥は地に増せよ」と。 こうして夕あり、また朝があった。 以上が第五日である。

 そこで神が、「地は各種の生きもの、 各種の家畜と這うものと地の獣を生ぜよ」と言われると、そのようになった。 神は各種の地の獣と、各種の家畜と、すべての種類の地に這うものとを造られた。 神はそれを見てよしとされた。

 そこで神が言われた、「われわれは人をわれわれの像(かたち)の通り、 われわれに似るように造ろう。 彼らに海の魚と、天の鳥と、家畜と、すべての地の獣と、 すべての地に這うものとを支配させよう」と。 そこで神は人を御自分の像の通りに創造された。 神の像の通りに彼を創造し、男と女に彼らを想像された。 そこで神は彼らを祝福し、神は彼らに言われた、、「ふえかつ増して地に満ちよ。 また地を従えよ。 海の魚と、天の鳥と、地に動くすべての生物を支配せよ」。 それからさらに神が言われた、「見よ、 わたしは君たちに全地の面にある種を生ずるすべての草と、 種を生ずる木の実を実らすすべての樹を与える。 それを君たちの食料とするがよい。 またすべての地の獣、すべての天の鳥、すべての地の上に這うものなど、 およそ命あるものには、食料としてすべての青草を与える」と。 そこでそのようになった。 神が造られたすべてのものを御覧になると、見よ、非常によかった。 こうして夕あり、また朝があった。 以上が第六日である。

 「創世記」第2章 こうして天と地と、その万象が出来上がった。 神はその創作の業を七日目に完了し、七日目にすべての創作の技を休まれた。 神は第七日の日を祝し、それを聖しとされた。 何故なら、その日に神は創造のすべての業を終わって休まれたからである。 以上が天と地が創造された時の、天地の成立の由来である。

 ヤハウェ神が地と天とを造られた日――地にはまだ一本の野の潅木もなく、 野の一草も生えていなかった。 というのはヤハウェ神が地に雨を降らせず、土地を耕す人もいなかったからである。 ただ地下水が地の下からわきあがって、 土地の全面を潤していた――その日ヤハウェ神は地の土くれから人を造り、 彼の鼻に生命の息を吹きこまれた。 そこで人は生きた者となった。

 ヤハウェ神は東の方のエデンに一つの園を設け、彼の造った人をそこにおかれた。 ヤハウェ神は見て美わしく、食べるによいすべての樹、 さらに園の中央には生命の樹と善悪の智慧の樹を地から生えさせた。

 一つの河がエデンから発し、園を潤し、そこから分かれて四つの源流となる。 第一の名はピションで、それはハビラの全地をめぐるもの。 ハビラの地には金が流出する。 その地の金はよい。 そこにまたブドラクの樹脂と紅玉髄が出る。 第二の河の名はギホンで、それはクシの全地をめぐるもの。 第三の河の名はヒデケルで、それはアッシリヤの東を流れるもの。 第四の河、それはユーフラテスである。

 ヤハウェ神はその人を取って、エデンの園におき、これを耕させ、これを守らせた。 ヤハウェ神は人に命じて言われた、 「君は園のどの樹からでも好きなように食べてよろしい。 しかし善悪の智慧の樹からは食べてはならない。 その樹から食べるときは、君は死なねばならないのだ」。

 さてヤハウェ神が言われるのに、「人が独りでいるのはよくない、 わたしは彼のために彼に適(ふさ)わしい助け手を造ろう」。 そこでヤハウェ神は土からすべての野の獣とすべての天の鳥を造り、 人の所へ連れてきて、人がそれにどんな名前をつけるかを見ようとされた。 すべて人がそれ(すなわち生きもの)に名づける名はそのまま名前になった。 こうして人はすべての家畜、すべての天の鳥、すべての野の獣にそれぞれ名前をつけた。 しかし人に適わしい助け手は見つからなかった。 そこでヤハウェ神は深い眠りをその人に下した。 彼が眠りに落ちた時、ヤハウェ神はその肋骨(あばらぼね)の一つを取って、 その場所を肉でふさいだ。 ヤハウェ神は人から取った肋骨を一人の女に造り上げ、 彼女をその人の所へ連れてこられた。 その時、人は叫んだ、
「ついにこれこそわが骨から取られた骨、
わが肉から取られた肉だ。
これに女という名をつけよう、
このものは男から取られたのだから」。

 それゆえ男はその父母を離れて、妻に結びつき、一つの肉となるのである。 人とその妻とは二人とも裸で、互いに羞じなかった。

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「堕罪」 岩波文庫『旧約聖書 創世記』関根正雄訳

 「創世記」第3章 さてヤハウェ神がお造りになった野の獣の中で蛇が一番狡猾であった。 蛇が女に向かって言った、 「神様が君たちは園のどんな樹からも食べてはいけないと言われたというが本当かね」。 そこで女は蛇に答えた、 「園の樹の実は食べてもよろしいのです。 ただ園の中央にある樹の実について神様は、それをお前たち食べてはいけない、それに触れてもいけない。 お前たちが死に至らないためだ、とおっしゃいました」。 すると蛇が女に言うには、 「君たちが死ぬことは絶対にないよ。 神様は君たちがそれを食べるときは、君たちの眼が開け、神のようになり、 善でも悪でも一切が分かるようになるのを御存知なだけのことさ」。 そこで女はその樹を見ると、なるほどそれは食べるのによさそうで、見る眼を誘い、 智慧を増すために如何にも好ましいので、とうとうその実を取って食べた。 そして一緒にいた夫にも与えたので、彼も食べた。 するとたちまち二人の眼が開かれて、自分たちが裸であることが分かり、無花果樹の葉を綴り合わせて、 前垂れを作ったのである。

 夕方の風が吹く頃、彼らは園の中を散歩して居られるヤハウェ神の足音を聞いた。 そこで人とその妻とはヤハウェ神の顔を避けて園の樹の間に隠れたのであった。 ヤハウェ神はその人に呼びかけて言われた、 「君は何処にいるのだ。」 彼は答えた、 「貴神(あなた)の足音を園の中で聞いて恐ろしくなりました。 わたしは裸だからです。 それで身を隠したのです」。 ヤハウェ神が言われるのに、 「誰が一体君が裸だということを君に知らせたのだ。 わたしがそれを食べてはいけないと命じておいた樹から君は食べたのか」。 人は答えた、 「あなたがわたしの側にお与えになったあの女が樹から取ってくれたのでわたしは食べたのです」。 そこでヤハウェ神は女に言われる、 「君は一体何ということをしたのだ」。 女は、 「蛇がわたしをだましたのです。 それでわたしは食べたのです」 と答える。 ヤハウェ神は蛇に向かって言われた、
 「お前はこんなことをしたからには、
 他のすべての家畜や野の獣よりも呪われる。
 お前は一生の間腹ばいになって歩き、
 塵を食わねばならない。
 わたしはお前と女の間、
 お前の子孫と女の子孫の間に敵対関係をおく。
 彼はお前の頭(かしら)を踏み砕き、
 お前は彼の踵に食い下る」。
 さらに女に言われた、
 「わたしは君の苦痛と欲求を大いに増し加える。
 君は子を産むとき苦しまねばならない。
 そして君は夫を渇望し、
 しかも彼は君の支配者だ」。
 さらにその人に言われた、
 「君が妻の言う声に聞き従い、
 わたしが食べてはいけないと命じておいた樹から取って食べたから、
 君のために土地は呪われる。
 そこから君は一生の間労しつつ食を得ねばならない。
 土地は君のために荊(いばら)と棘(おどろ)を生じ、
 君は野の草を食せねばならない。
 君は顔に汗してパンを食い、
 ついに土に帰るであろう。
 君はそこから取られたのだから。
 君は塵だから塵に帰るのだ」。 

 さてその人は彼の妻の名をエバと名づけた。 というのは彼女はすべての生けるものの母となったからである。 ヤハウェ神は人とその妻のために皮衣を造って彼らに着せて下さった。

 さてヤハウェ神が言われるのに、 「御覧、人はわれわれの一人と同じように善も悪も知るようになった。 今度は手を伸ばして生命の樹から取って食べて、永久に生きるようになるかもしれない」。

 ヤハウェ神は彼をエデンの園から追い出した。 こうして人は自分が取られたその土を耕すようになったのである。 神は人を追い払い、エデンの園の東にケルビムと自転する剣の炎とをおき、 生命の樹への道を見守らせることになった。

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「バプテスマのヨハネの質問とイエスの証言」 日本聖書刊行会『新約聖書 新改版』

 「マタイの福音書」第11章 さて、獄中でキリストのみわざについて聞いたヨハネは、 その弟子たちに託して、イエスにこう言い送った。 「おいでになるはずの方は、あなたですか。 それとも、私たちは別の方を待つべきでしょうか。」 イエスは答えて、彼らに言われた。 「あなたがたは行って、自分たちの聞いたり見たりしていることをヨハネに報告しなさい。 盲人が見、足なえが歩き、らい病人がきよめられ、つんぼの人が聞こえ、死人が生き返り、 貧しい者には福音が宣べ伝えられているのです。 だれでも、わたしにつまづかない者は幸いです。」

この人たちが行ってしまうと、イエスは、ヨハネについて群衆に話し出された。 「あなたがたは、何を見に荒野に出て行ったのですか。 風に揺れる葦ですか。 でなかったら、何を見に行ったのですか。 柔らかい着物を着た人ですか。 柔らかい着物を着た人なら王の宮殿にいます。 でなかったら、なぜ行ったのですか。 預言者を見るためですか。 そのとおり。 だが、わたしが言いましょう。 預言者よりもすぐれた者をです。 この人こそ、
 『見よ、私は使いをあなたの前に遣わし、
 あなたの道を、あなたの前に備えさせよう。』
と書かれているその人です。 まことに、あなたがたに告げます。 女から生まれた者の中で、バプテスマのヨハネよりすぐれた人は出ませんでした。 しかも、天の御国の一番小さい者でも、彼より偉大です。 バプテスマのヨハネの日以来今日まで、天の御国は激しく攻められています。 そして、激しく攻める者たちがそれを奪い取っています。 ヨハネに至るまで、すべての預言者たちと律法とが予言をしたのです。 あなたがたが進んで受け入れるなら、実はこの人こそ、きたるべきエリヤなのです。 耳のある者は聞きなさい。 この時代は何にたとえたらよいでしょう。 市場にすわっている子どもたちのようです。 彼らは、ほかの子どもたちに呼びかけて、こう言うのです。
 『笛を吹いてやっても、君たちは踊らなかった。
 弔いの歌を歌ってやっても、悲しまなかった。』

 ヨハネが来て、食べも飲みもしないと、人々は『あれは悪霊につかれているのだ。』 と言い、人の子が来て食べたり飲んだりしていると、『あれみよ。 食いしんぼうの大酒飲み、取税人や罪人の仲間だ。』 と言います。 でも、知恵の正しいことは、その行ないが証明します。」

 「ルカの福音書」第6章 さて、ヨハネの弟子たちは、これらのことをすべてヨハネに報告した。 すると、ヨハネは、弟子の中からふたりを呼び寄せて、主のもとに送り、「おいでになるはずの方は、あなたですか。 それとも、私たちはほかの方を待つべきでしょうか。」 と言わせた。

 ふたりはみもとに来て言った。 「バプテスマのヨハネから遣わされてまいりました。 『おいでになるはずの方は、あなたですか。 それとも私たちはなおほかの方を待つべきでしょうか。』 とヨハネが申しております。」 ちょうどそのころ、イエスは、多くの人人を病気と苦しみと悪霊からいやし、また多くの盲人を見えるようにされた。 そして、答えてこう言われた。 「あなたがたは行って、自分たちの見たり聞いたりしたことをヨハネに報告しなさい。 盲人が見えるようになり、足なえが歩き、らい病人がきよめられ、つんぼの人が聞こえ、死人が生き返り、 貧しい者に福音が宣べ伝えられています。 だれでも、わたしにつまづかない者は幸いです。」

 ヨハネの使いが帰ってから、イエスは群集に、ヨハネについて話し出された。 「あなたがたは、何を見に荒野に出て行ったのですか。 風に揺れる葦ですか。 でなかったら、何を見に行ったのですか。 柔らかい着物を着た人ですか。 きらびやかな着物を着て、ぜいたくに暮らしている人たちなら宮殿にいます。 でなかったら、何を見に行ったのですか。 予言者ですか。 そのとおり。 だが、わたしが言いましょう。 預言者よりもすぐれた者をです。

その人こそ、
 「見よ、わたしは使いをあなたの前に遣わし、
 あなたの道を、あなたの前に備えさせよう。」
と書かれてるその人です。 あなたがたに言いますが、女から生まれた者の中で、ヨハネよりもすぐれた人は、ひとりもいません。 しかし、神の国で一番小さい者でも、彼よりすぐれています。

 ヨハネの教えを聞いたすべての民は、取税人たちでさえ、ヨハネのバプテスマを受けて、神の正しいことを認めたのです。 これに反して、パリサイ人、律法の専門家たちは、彼からバプテスマを受けないで、 神の自分たちに対するみこころを拒みました。 では、この時代の人々は、何にたとえたらよいでしょう。 何に似ているでしょう。 市場にすわって、互いに呼びかけながら、こう言っている子どもたちに似ています。
 『笛を吹いてやっても、君たちは踊らなかった。
 弔いの歌を歌ってやっても、泣かなかった。』
というわけは、バプテスマのヨハネが来て、パンも食べず、ぶどう酒も飲まずにいると、『あれは悪霊につかれている。』 とあなたがたは言うし、人の子が来て、食べもし、飲みもすると、『あれ見よ。 食いしんぼうの大酒飲み、取税人や罪人の仲間だ。』 と言うのです。 だが、知恵の正しいことは、そのすべての子どもたちが証明します。」

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「ヘロデの恐れとバプテスマのヨハネの死の事情」 日本聖書刊行会『新約聖書 新改版』

 「マタイの福音書」第14章 そのころ、国王ヘロデは、イエスのうわさを聞いて、侍従たちに言った。 「あれはバプテスマのヨハネだ。 ヨハネが死人の中からよみがえったのだ。 だから、あんな力が彼のうちに働いているのだ。」 実は、このヘロデは、自分の兄弟ピリポの妻ヘロデヤのことで、ヨハネを捕えて縛り、牢に入れたのであった。 それは、ヨハネが彼に、 「あなたが彼女をめとるのは不法です。」 と言い張ったからである。 ヘロデはヨハネを殺したかったが、群集を恐れた。 というのは、彼らはヨハネを預言者と認めていたからである。 たまたまヘロデの誕生祝があって、ヘロデヤの娘がみなの前で踊りを踊ってヘロデを喜ばせた。 それで、彼は、その娘に、願う物は何でも必ず上げると、誓って堅い約束をした。 ところが、娘は母親にそそのかされて、こう言った。 「今ここに、バプテスマのヨハネの首を盆に載せて私に下さい。」 王は心を痛めたが、自分の誓いもあり、また列席の人々の手前もあって、与えるように命令した。 彼は、人をやって、牢の中でヨハネの首をはねさせた。 そして、その首は盆に載せて運ばれ、少女に与えられたので、少女はそれを母親のところに持って行った。 それから、ヨハネの弟子たちがやって来て、死体を引き取って葬った。 そして、イエスのところに行って報告した。

 「マルコの福音書」第6章 イエスの名が知れ渡ったので、ヘロデ王の耳にもはいった。 人々は、 「バプテスマのヨハネが死人の中からよみがえったのだ。 だから、あんな力が、彼のうちに働いているのだ。」 と言っていた。 別の人々は、 「彼はエリヤだ。」 と言い、さらに別の人々は、 「昔の預言者の中のひとりのような預言者だ。」 と、言っていた。 しかし、ヘロデはうわさを聞いて、 「私が首をはねたあのヨハネが生き返ったのだ。」 と、言っていた。 実は、このヘロデが、自分の兄弟ピリポの妻ヘロデヤのことで、人をやってヨハネを捕え、 牢につないだのであった。 これは、ヨハネがヘロデに、 「あなたが兄弟の妻を自分のものとしていることは不法です。」 と言い張った、からである。 ところが、ヘロデヤはヨハネを恨み、彼を殺したいと思いながら、果たせないでいた。 それはヘロデが、ヨハネを正しい聖なる人と知って、彼を恐れ、保護を加えていたからである。 また、ヘロデはヨハネの教えを聞くとき、非常に当惑しながらも、喜んで耳を傾けていた。 ところが、良い機会が訪れた。 ヘロデがその誕生日に、重臣や、千人隊長や、ガリラヤのおもだった人などを招いて、祝宴を設けたとき、 ヘロデヤの娘がはいって来て、踊りを踊ったので、ヘロデも列席の人々も喜んだ。 そこで王は、この少女に、 「何でもほしい物を言いなさい。 与えよう。」 と、言った。 また、「おまえの望む物なら、私の国の半分でも、与えよう。」 と言って、誓った。 そこで少女は出て行って、「何を願いましょうか。」 とその母親に言った。 すると母親は、「バプテスマのヨハネの首。」 と言った。 そこで少女はすぐに、大急ぎで王の前に行き、こう言って頼んだ。 「今すぐに、バプテスマのヨハネの首を盆に載せていただきとうございます。」 王は非常に心を痛めたが、自分の誓いもあり、列席の人々の手前もあって、少女の願いを退けることを好まなかった。 そこで王は、すぐに護衛兵をやって、ヨハネの首を持って来るように命令した。 護衛兵は行って、牢の中でヨハネの首をはね、その首を盆に載せて持って来て、少女に渡した。 少女は、それを母親に渡した。 ヨハネの弟子たちは、このことを聞いたので、やって来て、遺体を引き取り、墓に納めたのであった。

 「ルカの福音書」第9章 さて、国王ヘロデは、このすべての出来事を聞いて、ひどく当惑していた。 それは、ある人々が、 「ヨハネが死人の中からよみがえったのだ。」 と言い、ほかの人々は、 「エリヤが現れたのだ。」 と言い、さらに別の人々は、 「昔の預言者のひとりがよみがえったのだ。」 と言っていたからである。 ヘロデは言った。 「ヨハネなら、私が首をはねたのだ。 そうしたことがうわさされているこの人は、いったいだれなのだろう。」 ヘロデはイエスに会ってみようとした。

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「誓い」 岩波文庫『ヒポクラテス 古い医術について 他八篇』小川政恭訳

 医師アポローン、アスクレーピオス、ヒュギエィア、パナケィアをはじめ、すべての男神・女神にかけて、 またこれらの神々を証人として、誓いを立てます。 そしてわたしの能力と判断力の限りをつくしてこの誓いとこの約定を守ります。 この術をわたしに授けた人を両親同様に思い、生計をともにし、 この人に金銭が必要になった場合にはわたしの金銭を分けて提供し、この人の子弟をわたし自身の兄弟同様とみなします。 そしてもし彼らがこの術を学習したいと要求するならば、報酬も誓約書も取らずにこれを教えます。 わたしの息子たち、わたしの師の息子たち、医師の掟による誓約を行って契約書をしたためた生徒たちには、 医師の心得と講義その他すべての学習を受けさせます。 しかしその他の者には誰にもこれを許しません。

 わたしの能力と判断力の限りをつくして食餌療法を施します。 これは患者の福祉のためにするのであり、加害と不正のためにはしないようにつつしみます。 致死薬は、誰に頼まれても、けっして投与しません。 またそのような助言を行いません。 同様に、婦人に堕胎用器具を与えません。 純潔に敬虔にわたしの生涯を送りわたしの術を施します。 膀胱結石患者に截石術をすることはせず、これを業とする人にまかせます。

 どの家に入ろうとも、それは患者の福祉のためであり、あらゆる故意の不正と加害を避け、とくに男女を問わず、 自由であるとを問わず、情交を結ぶようなことはしません。 治療の機会に見聞きしたことや、治療と関係なくても他人の私生活についての洩らすべきでないことは、 他言してはならないとの信念をもって、沈黙を守ります。

 もしわたしがこの誓いを固く守って破ることがありませんでしたら、永久にすべての人々からよい評判を博して、 生涯と術とを楽しむことをおゆるし下さい。 もしこれを破り誓いにそむくようなことがありましたならば、これとは逆の報いをして下さい。

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