光に彩られた煙突・窯屋
 デジタル掛軸の世界
2006.12.23

 デジタルアーティスト長谷川章氏の光と映像の芸術 D-K LIVE デジタル掛軸がレンガ煙突と窯屋が並ぶ町・常滑やきもの散歩道で開催された。
 石川県小松市在住で今や世界的な光のアーティストである長谷川氏の作品は、この秋から冬にかけて、法隆寺を包み、金沢駅を照らし、京都嵐山を飾り、横浜ベイクォーターを彩ってきた。その京都から横浜へ移動する途中で、常滑に立ち寄り、1日だけのデジタル掛軸の幽玄な世界を出現させた。

 今年度、常滑市では国の助成金を得て、都市観光による地域づくりをめざし、観光まちづくり推進協議会を組織して、観光相談員の設置や情報誌の発行、アンケート調査の実施等を行っている。その一環として、煙突のライトアップができないかという相談があり、メンバーで検討の結果、長谷川章氏のイベントを実施したらどうか、という意見が出たのが8月30日。その時は、光のイベントは住民からの苦情が懸念されることから、住民限定イベントで実施したらどうか、会場も住民生活を妨げない場所が必要だなどの意見が出たが、一度長谷川氏の意見も聞こうと常滑にお招きしたのが10月9日。その結果、長谷川氏の理解もいただき、会場も散歩道の中では周囲に住宅の少ない場所を確保して、実施を決定した。しかし、外から大勢の人が詰めかける事態を避けるため、広報は最小限にして、静かに開催をした。それでも地域の方や口コミで大勢の方が集まり、4時にライトアップ。幻想的な光のアートを楽しんだ。

 100万枚もの抽象的なデザイン画が、強力なプロジェクターで煙突のある黒塀の窯屋の壁面に照射される。2棟並んだ壁面は、お互い微妙に角度がずれているため、壁面に写し出される映像は微妙に遠近感を作りゆがむ。そこに映像が少しずつ変化を始め、気が付くとさっきとは全く違った映像に変わっている。2度と同じ映像はなく、しかも果てしなく変化していくため、飽きることがない。映像は一方向だけではなく、同時に三方に照射されており、それぞれ映し出される壁面が異なるため、それぞれ味わいのある映像変化が繰り広げられる。煙突自体が光っているようにも見え、来場された誰もがしばし言葉を忘れ見続けていた。
 会場の一画では、ぜんざいが振る舞われ、アンケートも実施された。総勢約600名の方が来場し、このうち常滑市民が約7割、地域住民が45%だったとのこと。その素晴らしさは筆舌に尽くしがたい。きっと多くの人が次回も実施して欲しいと答えたに違いない。それでも、次回、どう実施するかは検討が必要だろう。今回のイベントを体験できた人は本当に幸運かもしれない。こんなに静かに心ゆくまで楽しめるのは、最初で最後の体験になるかもしれないから。
AKIRA HASEGAWA
INVITATION