山村暮鳥「聖三稜玻璃」



  
 午後


          きいろ
さめかけた黄い花かんざしを
 
それでもだいじさうに
 
髪に挿してゐるのは土蔵の屋根の
 
無名草
 
ところどころの腐つた晩春……
                    から
壁ぎはに転がる青い空つぽの甕
 
一つは大きく他は小さい
                                   たく ら
そしてなにか秘密におそろしいことを計画んでゐる
 
その影のさみしい壁の上
 
どんよりした午後のひかりで膝まで浸し
 
瞳の中では微風の繊毛の動揺。