山村暮鳥
「風は草木にささやいた」



  
 人間の勝利


 
人間はみな苦んでゐる
 
何がそんなに君達をくるしめるのか
 
しつかりしろ
 
人間の強さにあれ
 
人間の強さに生きろ
 
くるしいか
 
くるしめ
 
それがわれわれを立派にする
                こ ぼく
みろ山頂の松の古木を
 
その梢が烈風を切つてゐるところを
 
その音の痛痛しさ
 
その音が人間を力づける
                         ね
人間の肉に喰ひいるその音のいみじさ
 
何が君達をくるしめるのか
 
自分も斯うしてくるしんでゐるのだ
 
くるしみを喜べ
 
人間の強さに立て
 は ぢ
耻辱を知れ
 
そして倒れる時がきたらば
 
ほほゑんでたほれろ
 
人間の強さをみせて倒れろ
                         み つ
一切をありのままにぢつと凝視めて
たいぼく
大木のやうに倒れろ
 
これでもか
 
これでもかと
 
重いくるしみ
 
重いのが何であるか
 
息絶えるとも否と言へ
 
頑固であれ
 
それでこそ人間だ