山村暮鳥
「風は草木にささやいた」



  
 強者の詩


 
人問の此上もなきかなしみは
 
此のくるしみの世界に生みいだされたことだと云ふか
 
否!
 
これこそ人間のよろこびではないか
 
此のうつくしさが解らないのか
 
何といふうつくしさであらう
 
此のくるしみの世界は
 
此のくるしみに生くることは
 
みよ
 
ひろぴろとした此の秋の田畠を
 
重い穂首をたれた穀物
 
いさましいその刈り手
 
その穀束をはこび行く馬
 
ゆたかな天日の光をあびつつ
 
其処にも此処にも
 
落穂をひらふ貧しい農婦等
 ヽ ヽ ヽ
からすや雀も一しよであるのか
 
此のむつましさを知れ
 
此のうつくしさはどうだ
 
此の大きなうつくしさはどうだ
 
此のうつくしさを知るものは強い
 
此のくるしみの世界にのみ
 
人間の生きのよろこびまある
 
人間の生きのよろこびよ
 
強きものにのみ此の世界はうつくしいのだ
 
かくして峻厳な一日ははじまり
 
かくして人間の一日は終る
 
強くあれ