伊東静雄「反響」
わがひとに與ふる哀歌


    四月の風


 
 私は窓のところに坐つて
  そと
 外に四月の風の吹いてゐるのを見る
 
 私は思ひ出す いろんな地方の町々で
       し
 私が識つた多くの弧兒の中學生のことを
 
 眞實彼らは弧兒ではないのだつたが
 
 弧兒! と自分にわざと信じこんで
 
 この上なく自由にされた氣になつて
            ふ    ざ
 おもひ切り巫山戲け 惡徳をし
 
 ひねくれた誹謗と歡び!
 
 また急に悲しくなり
 
 おもひつきの善行でうつとりした
 
 四月の風は吹いてゐる ちやうどそれ等の
 
 昔の中學生の調子で
 
 それは大きな惠みで氣づかずに
 
 自分の途中に安心し
 
 到る處の道の上で惡戲をしてゐる
 
 帶ほどな輝く瀬になつて
       うしろ
 逆に 後に殘して來た冬の方に
 
 一散に走る部分は
 
 老いすぎた私をからかふ
 
 曾て私を締めつけた
             きづな
 多くの家族の絆はどこに行つたのか
 
 又ある部分は
 
 見せかけだと私にはひがまれる
        ぎやう
 甘いサ行の音で
 
 そんな誘ひをかけ
 
 あるものには未だ若かすぎる
 
 私をこんなに意地張らすがよい
 
 それで も一つの絆を
 
 そのうち私に探し出させて呉れるのならば



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